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10章
苦悩する名付け
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白い半紙の前で筆を持ったまま時を止めている父親のルーファスを見上げているのは息子のリュエールとシュトラールの双子で、先程から何度目かの催促に来ている。
「父上、名前まだ決まらないんですか?」
「父上、名前のていしゅつきげんは今日までですよ?」
リュエールとシュトラールに急かされルーファスが眉と耳を下げる。
今日までに生まれた娘たちの名前を決めないといけないのだが、候補がありすぎて絞れていない。
朱里と相談したらトンデモない名前が出てきたので即座に朱里に相談は駄目だとルーファスも判断する。
しかし、早く決めなければ仮名の朱里が付けたトンデモない名前が採用されてしまうので、それもそれで焦っている原因でもある。
「クリストファーロビネールちゃんにされたくなきゃ早くして父上」
「アマデウスアリーちゃんにされたくなきゃ早くして父上」
グッ・・・と、ルーファスの口から嫌な声が漏れる。
朱里の付けたトンデモない名前を双子が口に出すものだからルーファスも腹をくくるしかない。
しかし、可愛い愛娘達に贈る名前は可愛らしさも求めたいのもある。
「それならお前達は何か妹につけたい名前はあるか?」
ルーファスの言葉にリュエールとシュトラールはにっこり笑う。
「アカリ2世!」
「アカリ3世!」
リュエールとシュトラールが「母上に似てるから!」と満面の笑顔で口にする。
本人たちは本気で良い名前だと思っているらしい・・・。
ちなみに名前を呼ぶときは「ニコ」「サン」と呼ぶらしい。
「・・・お前達も名前のセンスはアカリ譲りなのか・・・」
双子を残念そうな顔でルーファスが見つめると、リュエールとシュトラールが「母上じゃあるまいし」と笑っているが、十分過ぎるほどに母親にネーミングセンスが似通っていると言わざるを得ない。
朱里によく似た娘達。
どことなく朱里に見せてもらった携帯に入っていた朱里の妹にも似ているとルーファスが思い、少し考えてから白い半紙の上に筆を走らせる。
『ミルア・トリニア』
『ナルア・トリニア』
筆を置くと半紙をリュエールとシュトラールに渡す。
2人は「ふぅーん?」と少しお互いの頭を横にコツンと当てながら半紙を一緒に見つめる。
「何か意味があるの?」
「普通の名前だね」
「アカリの亡くなった妹さんの名前を貰って付けてみた。ミナミというらしくてな。『ル』は狼族は付ける一文字だからな。あとはアカリの『ア』を入れた」
もう1枚の半紙にも筆を走らせる。
『ミール・トリニア』
「これであの子も我が家の子供だ」
【刻狼亭】で産み落とされ、結局母親が発見されないまま名付けの期限が迫っていたのと、朱里がリリスの時同様、「2人育てるも3人育てるのも一緒!」と産み捨てられた子供を手放さなかったのもあり、ルーファスが名前を付ける事になった。
名付けをしてしまった時点であの赤ん坊の身元預かりはルーファスになる。
母親が現れるまでは我が子同然で育てるしかないかという感じである。
ミールは男の子でこの温泉大陸ではトリニア家しか黒狼族は居ないのだが、ミールは黒狼族の子供。
おそらくは朱里の様に母親は違う種族の人間で父親が黒狼族なのだと思われた。
黒狼族の女性が温泉大陸に出入りしていない事と、男性に関しても黒狼族は入国していない為だ。
「ミナミがそろったね」
「父上、早く正式しょるいに書いて出しちゃおうよ」
「わかった。お前達も異論はないか?」
「「ない!」」
元気に答えるリュエールとシュトラールに笑顔を向けてから、名前の登録の紙にペンを走らせ3人の子供の名前を記載し、最後に魔法で書類の登録完了をすると、紙は机の上から消えて数分後に登録完了と子供3人の証明書が現れる。
「よし、完了だ。アカリを迎えに行くか」
「はーい!ミルアとナルアとミールを迎えに行こう!」
「ようやく母上と妹たちとくらせるね!」
リュエールとシュトラールが元気にリビングから出ていくとルーファスも3人の子供の証明書を持って双子の後を追ってリビングを出る。
『女将亭』を出るとハガネとリロノスが「いってらっしゃい」と笑って見送り「退院の祝いの準備しとくからなー」と声を出し、ルーファスが頷くと木の上に居たドラゴン達が「宴会だ!」と騒いでいた。
朱里の入院中の一週間は産院に出入りするドラゴンに【刻狼亭】の関係者にと騒がしく、産院から怒られたりもした。
それでも懲りないのがドラゴン達でもあるのだが、朱里に雷を落とされたので渋々ながら大人しく『女将亭』で朱里の帰りを待っていたのである。
産院に着くとありすがスマートフォンと朱里の携帯を持って「記念写真撮るっしょ!」と、待ち構えていた。
ようやくアシュレイがプリンターもどきの開発に漕ぎ着けたのもあり、写真家としてありすは今や引っ張りだこになっているが『温泉大陸へ来た記念に一枚!』というフレーズで稼いで商魂たくましい奥様になっている。
産院の前で朱里を中心にリュエールがミルアを抱き、シュトラールがナルアを抱き、ミールをルーファスが抱いて家族写真を撮った。
朱里の携帯でも同じものを撮り、ありすと一緒に『女将亭』へ帰り、そこでもドラゴンやハガネにリロノスも一緒に記念写真を撮り、朱里の退院祝いのパーティーでその日は盛り上がった。
空き部屋にしていた子供部屋の隣りが赤ん坊達の新しい部屋になり、また賑やかな家族が増えたのだった。
「父上、名前まだ決まらないんですか?」
「父上、名前のていしゅつきげんは今日までですよ?」
リュエールとシュトラールに急かされルーファスが眉と耳を下げる。
今日までに生まれた娘たちの名前を決めないといけないのだが、候補がありすぎて絞れていない。
朱里と相談したらトンデモない名前が出てきたので即座に朱里に相談は駄目だとルーファスも判断する。
しかし、早く決めなければ仮名の朱里が付けたトンデモない名前が採用されてしまうので、それもそれで焦っている原因でもある。
「クリストファーロビネールちゃんにされたくなきゃ早くして父上」
「アマデウスアリーちゃんにされたくなきゃ早くして父上」
グッ・・・と、ルーファスの口から嫌な声が漏れる。
朱里の付けたトンデモない名前を双子が口に出すものだからルーファスも腹をくくるしかない。
しかし、可愛い愛娘達に贈る名前は可愛らしさも求めたいのもある。
「それならお前達は何か妹につけたい名前はあるか?」
ルーファスの言葉にリュエールとシュトラールはにっこり笑う。
「アカリ2世!」
「アカリ3世!」
リュエールとシュトラールが「母上に似てるから!」と満面の笑顔で口にする。
本人たちは本気で良い名前だと思っているらしい・・・。
ちなみに名前を呼ぶときは「ニコ」「サン」と呼ぶらしい。
「・・・お前達も名前のセンスはアカリ譲りなのか・・・」
双子を残念そうな顔でルーファスが見つめると、リュエールとシュトラールが「母上じゃあるまいし」と笑っているが、十分過ぎるほどに母親にネーミングセンスが似通っていると言わざるを得ない。
朱里によく似た娘達。
どことなく朱里に見せてもらった携帯に入っていた朱里の妹にも似ているとルーファスが思い、少し考えてから白い半紙の上に筆を走らせる。
『ミルア・トリニア』
『ナルア・トリニア』
筆を置くと半紙をリュエールとシュトラールに渡す。
2人は「ふぅーん?」と少しお互いの頭を横にコツンと当てながら半紙を一緒に見つめる。
「何か意味があるの?」
「普通の名前だね」
「アカリの亡くなった妹さんの名前を貰って付けてみた。ミナミというらしくてな。『ル』は狼族は付ける一文字だからな。あとはアカリの『ア』を入れた」
もう1枚の半紙にも筆を走らせる。
『ミール・トリニア』
「これであの子も我が家の子供だ」
【刻狼亭】で産み落とされ、結局母親が発見されないまま名付けの期限が迫っていたのと、朱里がリリスの時同様、「2人育てるも3人育てるのも一緒!」と産み捨てられた子供を手放さなかったのもあり、ルーファスが名前を付ける事になった。
名付けをしてしまった時点であの赤ん坊の身元預かりはルーファスになる。
母親が現れるまでは我が子同然で育てるしかないかという感じである。
ミールは男の子でこの温泉大陸ではトリニア家しか黒狼族は居ないのだが、ミールは黒狼族の子供。
おそらくは朱里の様に母親は違う種族の人間で父親が黒狼族なのだと思われた。
黒狼族の女性が温泉大陸に出入りしていない事と、男性に関しても黒狼族は入国していない為だ。
「ミナミがそろったね」
「父上、早く正式しょるいに書いて出しちゃおうよ」
「わかった。お前達も異論はないか?」
「「ない!」」
元気に答えるリュエールとシュトラールに笑顔を向けてから、名前の登録の紙にペンを走らせ3人の子供の名前を記載し、最後に魔法で書類の登録完了をすると、紙は机の上から消えて数分後に登録完了と子供3人の証明書が現れる。
「よし、完了だ。アカリを迎えに行くか」
「はーい!ミルアとナルアとミールを迎えに行こう!」
「ようやく母上と妹たちとくらせるね!」
リュエールとシュトラールが元気にリビングから出ていくとルーファスも3人の子供の証明書を持って双子の後を追ってリビングを出る。
『女将亭』を出るとハガネとリロノスが「いってらっしゃい」と笑って見送り「退院の祝いの準備しとくからなー」と声を出し、ルーファスが頷くと木の上に居たドラゴン達が「宴会だ!」と騒いでいた。
朱里の入院中の一週間は産院に出入りするドラゴンに【刻狼亭】の関係者にと騒がしく、産院から怒られたりもした。
それでも懲りないのがドラゴン達でもあるのだが、朱里に雷を落とされたので渋々ながら大人しく『女将亭』で朱里の帰りを待っていたのである。
産院に着くとありすがスマートフォンと朱里の携帯を持って「記念写真撮るっしょ!」と、待ち構えていた。
ようやくアシュレイがプリンターもどきの開発に漕ぎ着けたのもあり、写真家としてありすは今や引っ張りだこになっているが『温泉大陸へ来た記念に一枚!』というフレーズで稼いで商魂たくましい奥様になっている。
産院の前で朱里を中心にリュエールがミルアを抱き、シュトラールがナルアを抱き、ミールをルーファスが抱いて家族写真を撮った。
朱里の携帯でも同じものを撮り、ありすと一緒に『女将亭』へ帰り、そこでもドラゴンやハガネにリロノスも一緒に記念写真を撮り、朱里の退院祝いのパーティーでその日は盛り上がった。
空き部屋にしていた子供部屋の隣りが赤ん坊達の新しい部屋になり、また賑やかな家族が増えたのだった。
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