黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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10章

人騒がせ

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 初夏の夕暮れ時はまだ明るく、ルーファスが双子の息子とグリムレインに乗って帰って来た時、グリムレイン自体は氷の様な体で光を反射するために目視が厳しいが、グリムレインよりも体の大きいニクストローブの姿が遠目でもわかる為に「旦那様が帰って来た!」と従業員達が騒ぎ出す。

「ニクストローブ、先に肉を『女将亭』の方へ持って行ってくれ。スピナとグリムレインも先に戻っていて良いぞ。旅館と料亭で今日の仕事の話が終わったら帰るから先に食べてて良いからな」
「わかった。先に帰っておるぞ」
「はいー。先に帰ってるねー」
「我は嫁の所に早く帰る」
 3匹のドラゴンは巨大な肉の塊を持って港から空へ飛び立つと『女将亭』のある森へ消えていく。

「父上、大きいのが狩れて良かったですね」
「母上よろこんでくれるかな?」
「リューとシューが頑張ったんだから大喜びするだろうさ」
 ワシワシとリュエールとシュトラールの頭を撫でながらルーファスが港から歩き出すと【刻狼亭】の紋の入った着物を着た従業員が走り込んで来る。

「お疲れさん。何かあったのか?」
「お疲れさまです」
「お疲れさま~」
 ルーファス達の前で従業員が立ち止まると、少し息を整えて着物の襟を正して口を開く。
「旦那様!赤ちゃんが産み落とされてて、女将がどこにも居ないんです!」
 穏やかな表情をしていたルーファスの表情が固まり、双子が目を丸くする。

「どういう事だ!詳しく話せ!」
「それが、旅館の露天風呂の着替え籠にへその緒の付いた赤ん坊が居て、女将の姿は無いしで・・・探していたんですが、昼から今まで誰も女将の姿を見てないんですよ!」
 ルーファスが目を閉じて眉間に指を置くと、朱里の存在が近くにある事が番同士の繋がりで感じ取れる。
「近くに居るな・・・。アカリに連絡してみる」

 ルーファスが腕輪に魔力を流し込むと直ぐ朱里が通信に出る。

『はーい。もう帰って来たのかな?』
「アカリ、無事か!?」
『どうしたの?何かあった?』
 朱里のキョトンとした声にルーファスが従業員を怪訝な目で見る。

「赤ん坊が産み落とされていたと従業員が言っていたんだが、アカリ、腹の子は大丈夫か?」
『うちの子達はまだお腹の中ですよ。その赤ちゃん大丈夫なんですか?』
「ハァー・・・アカリが無事なら良い。アカリは何処にいるんだ?」
『あ、私はボビー先生の所です。具合の悪そうな方が居たので連れて来たんです。って、こんな時間!早く帰らなきゃ!』
「今、港だから診療所に迎えに行くから一緒に帰ろう」
『はーい。では待ってますね』

 通信を終わらせると、通信から漏れた話を聞いて耳をピーンと立てていたリュエールとシュトラールが従業員の足を両側から軽く蹴る。

「母上じゃないじゃないか!」
「人さわがせにもほどがある!」
「まったくだ。しかし、うちの旅館で起きた事なら問題か。アカリを迎えに診療所へ行くから、泊り客に妊婦が居なかったか調べておけ」
「はい!直ぐに!」
 従業員が慌ただしく走って行くと、ルーファスもリュエールとシュトラールの手を引いて朱里の待つ診療所へと急いで歩き出す。
とにかく朱里に何事もなくて安堵したのもあるが、やはり朱里を1人にするのは心配があると反省をして耳を下げると、リュエールとシュトラールが「早く早く」とルーファスを急かして小走りをし始める。
仕方が無いと、ルーファスが2人を両手に抱えると走り出す。

「うわぁー!父上早い~!」
「父上、早すぎ~っ!」

 ものの数分で診療所に着くと診療所の待合室のソファで朱里が「よっこいせ」と掛け声をあげながら重そうなお腹に手を当てて立ち上がる。

「お迎えありがとう。待合室にいたら、つい、ウトウトしちゃって・・・えへへ」
「母上、ただいまー」
「母上、お腹大丈夫?」
「うん。おかえりなさい。赤ちゃん達は元気だよー」
 朱里のお腹に左右からリュエールとシュトラールが声を掛ける。
「兄上だぞ。ただいまー」
「兄上が帰って来たぞー」
 2人に朱里とルーファスが微笑ましそうに笑い、ルーファスが朱里に帰ろうと促すと、朱里の足が止まる。

「あ、ちょっと待って。お手洗い行ってくる」
 朱里が診療所のお手洗いに消えると待合室にボビー医師とテルトワイトが出てくる。

「おや、旦那じゃないですか。女将のお迎えですか?」
「こんばんは」
「ああ、アカリの迎えに来た。待合室で寝ていた様で、すまなかったな」
「いえいえ、患者さんが今日は2人しか居なかったから暇なもんさ」
「暇なのは良い事ですよ」
 ボビー医師とテルトワイトがニコニコとしながら双子の頭を撫でて軽い雑談をしていると、朱里が壁に手をつきながら戻ってくる。

「・・・ルーファス。破水しちゃった・・・お腹、痛い」
「アカリ!直ぐに産院に連れて行く!」
「待って!今、痛い波が来てるから、触らないで!」
 涙目で朱里が触らないでと騒ぎ、亀の歩みでノロノロと歩く。
その後ろを双子がオロオロしながらついて歩き、ルーファスは痛みの波が引いた瞬間に抱き上げて産院に連れて行こうと、こちらもオロオロと手をさ迷わせながらついて歩く。
「落ち着いて。まだ破水したばかりなら時間の感覚は長いから産院まで行けるから」
「頑張って下さいね」
 ボビー医師とテルトワイトがクスリと笑いながらそんな4人を見送る。

「はぅー・・・ルーファス!今!痛いのが治まったから急いでぇ!」
 朱里が「抱っこ」というように両手をルーファスに上げると、ルーファスが抱き上げて急いで走り出す。

「お前達はアカリの着替えが寝室に用意してあるから産院に持ってこい。頼んだぞ!」
「はい!父上直ぐに持って行きます!」
「わっ!リュー早っ!」
 ルーファスの指示にリュエールが即座に走り出し、シュトラールが慌てて追っていった。 
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