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10章
消えた女将
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初夏、温泉大陸の温泉街にある高級旅館【刻狼亭】で赤ん坊の声が響き渡る。
気付いたのは露天風呂の女性脱衣所の籠の中を忘れ物が無いかチェックしていた女性従業員だった。
へその緒が付いたままの赤ん坊に生まれたばかりだと分かる。
黒い髪に小さな耳と尻尾。
「まさか・・・女将の赤ちゃん?」
丁度、【刻狼亭】の女将の朱里も初夏に出産予定でそろそろのはずだった。
これはえらい事だと、女性従業員は他の従業員を大声で呼ぶ。
直ぐさま他の従業員が駆け付け、産医を呼びに走り、赤ん坊の処置をしてもらい産院に預かってもらうと朱里を探しに従業員が走り回る。
「女将居た?」
「居ない。何処に行っちゃったんだろうね?」
「参ったな。旦那様は?」
「旦那は坊ちゃん達連れて狩り中だよ。女将に栄養のある肉獲ってくるって」
「女将の匂いわかる奴居ないの?」
「女将の匂いって旦那の匂いが強いから混じってわかんねぇんだよな」
「あー・・・」
出産間近の朱里を心配して毎日近くに居たせいでルーファスとの匂いが混じりすぎて判らないのである。
しかも肝心な時に狩りに行く辺りタイミングが悪いとしか言いようがない。
従業員達がルーファスが帰ってくるまでは自分達で朱里を探そうと客室にもそれとなく探りを入れる様にして回る事になった。
「シュテンさーん!女将の匂いたどれますかー?」
「何故アカリの匂いを私がたどらなきゃいけないんだ?」
【刻狼亭】の料亭のフロントロビーで狐獣人のシュテンに旅館の従業員が駆け込み訪ねてくる。
シュテンが眉根を寄せて従業員に「仕事はどうした?」と目で睨みを聞かせ、従業員が両手を前に出して「まぁまぁ」と困った顔で落ち着いてとジェスチャーする。
「女将を探してるんですけど、居ないんですよ」
「アカリなら『女将亭』の方じゃないのか?」
「あー、それも考えられますよね・・・ちょっと行ってきます!」
「あ、おい!仕事をしろ!ったく!」
シュテンの静止を聞かず、従業員はサッサッと走り出して行ってしまう。
シュテンの後ろから双子のタマホメとメビナがひょこと左右から出て首をかしげる。
「あれ、なんだったんだろうね?」
「あれ、なにかあったのかなぁ?」
「さぁな。アカリを探しているらしいがサッパリだ」
シュテンが肩をすくませるとタマホメとメビナが料亭の中を指さす。
「アカリなら食事に来てたよ」
「アカリなら奥で食べてたよ」
「私が居ない間に来ていた様だな」
「うん。シュテンが事務所に顔出してる時に来たよ」
「うん。シュテンが戻ってまた席外した時帰ったよ」
「結局は何処へ行ったかは不明という事か」
何処をフラフラ歩き回っているやら?と、思いつつも探されている理由がサッパリ判らないシュテン達は「まぁいいか」でそのまま仕事を続ける。
朱里の店【刻狼亭】の支店の1つ『女将亭』。
森に囲まれた場所にある為にお客が道に迷いやすいと言われているが、『女将亭』は朱里を守る為の隠れ家的な物として建てられた為に元々探しにくい場所に建てたのもある。
従業員達が迷わずたどり着けるのは森を把握しているのと、美味しそうな匂いが店はどこにあるかを教えているからだった。
『女将亭』に辿り着くと、白い大きな木の上からドラゴン達4匹が従業員に首をかしげてみせる。
光竜アルビーと赤竜ローランドと金竜エデンに木竜ケルチャが従業員に「女将を探している」と聞いて「料亭に行ったよね?」と言い、従業員が「すれ違いかー」と大慌てで戻る。
「何だったんだ今の?」
店の大窯の前からハガネが『竜の癒し木』の場所まで来てドラゴン達に聞けばドラゴン達は「アカリ探してるんだって」と、答える。
「アカリなら料亭の後で旅館行くって言ってたけどな」
「教えに行くー?」
「ほっとけばいいんじゃない?」
「ほっときゅー!」
「ほっとけほっとけ」
ドラゴン達は意外と不親切である。
「んで、お前等は何してるんだ?」
「え?それ聞く?」
「置いてけぼりだよ!言わせんなよ!」
「おるしゅばん!」
「狩りに行けると思ったら、グリムレインとニクストローブとスピナだけ連れて先に行っちゃったわ」
ルーファスの従者になった土竜ニクストローブと風竜スピナだけでも十分だったらしいが、離れ小島に移動するのに丁度いいドラゴンのサイズがグリムレインという事もあり、グリムレインも一緒に連れていかれた。
他のドラゴンは朱里のお守りをする様に置いて行かれたのだが、木の上でまどろんでいるうちに、朱里にも置いて行かれたのである。
「まぁ、旦那達が帰ってきたら美味い肉が食えるんだから、バーベキューの用意でもしてようぜ?」
「用意って何するのさ?」
「火なら任せとけ!」
「おにくぅー!」
「枝ならアタシに任せときなさいよ」
ハガネが白い歯を見せて笑いながら「んじゃ、山に魚とキノコ採りに行くか!」とドラゴン達に声を掛け、暇なドラゴン達が子供の様にはしゃぎながらハガネの後について飛ぶ。
料亭に戻った旅館の従業員は「女将ならとっくの昔に出ていった」と言われ、途方に暮れる。
「女将、本当に何処に行っちゃったんですかぁ~!!!」
気付いたのは露天風呂の女性脱衣所の籠の中を忘れ物が無いかチェックしていた女性従業員だった。
へその緒が付いたままの赤ん坊に生まれたばかりだと分かる。
黒い髪に小さな耳と尻尾。
「まさか・・・女将の赤ちゃん?」
丁度、【刻狼亭】の女将の朱里も初夏に出産予定でそろそろのはずだった。
これはえらい事だと、女性従業員は他の従業員を大声で呼ぶ。
直ぐさま他の従業員が駆け付け、産医を呼びに走り、赤ん坊の処置をしてもらい産院に預かってもらうと朱里を探しに従業員が走り回る。
「女将居た?」
「居ない。何処に行っちゃったんだろうね?」
「参ったな。旦那様は?」
「旦那は坊ちゃん達連れて狩り中だよ。女将に栄養のある肉獲ってくるって」
「女将の匂いわかる奴居ないの?」
「女将の匂いって旦那の匂いが強いから混じってわかんねぇんだよな」
「あー・・・」
出産間近の朱里を心配して毎日近くに居たせいでルーファスとの匂いが混じりすぎて判らないのである。
しかも肝心な時に狩りに行く辺りタイミングが悪いとしか言いようがない。
従業員達がルーファスが帰ってくるまでは自分達で朱里を探そうと客室にもそれとなく探りを入れる様にして回る事になった。
「シュテンさーん!女将の匂いたどれますかー?」
「何故アカリの匂いを私がたどらなきゃいけないんだ?」
【刻狼亭】の料亭のフロントロビーで狐獣人のシュテンに旅館の従業員が駆け込み訪ねてくる。
シュテンが眉根を寄せて従業員に「仕事はどうした?」と目で睨みを聞かせ、従業員が両手を前に出して「まぁまぁ」と困った顔で落ち着いてとジェスチャーする。
「女将を探してるんですけど、居ないんですよ」
「アカリなら『女将亭』の方じゃないのか?」
「あー、それも考えられますよね・・・ちょっと行ってきます!」
「あ、おい!仕事をしろ!ったく!」
シュテンの静止を聞かず、従業員はサッサッと走り出して行ってしまう。
シュテンの後ろから双子のタマホメとメビナがひょこと左右から出て首をかしげる。
「あれ、なんだったんだろうね?」
「あれ、なにかあったのかなぁ?」
「さぁな。アカリを探しているらしいがサッパリだ」
シュテンが肩をすくませるとタマホメとメビナが料亭の中を指さす。
「アカリなら食事に来てたよ」
「アカリなら奥で食べてたよ」
「私が居ない間に来ていた様だな」
「うん。シュテンが事務所に顔出してる時に来たよ」
「うん。シュテンが戻ってまた席外した時帰ったよ」
「結局は何処へ行ったかは不明という事か」
何処をフラフラ歩き回っているやら?と、思いつつも探されている理由がサッパリ判らないシュテン達は「まぁいいか」でそのまま仕事を続ける。
朱里の店【刻狼亭】の支店の1つ『女将亭』。
森に囲まれた場所にある為にお客が道に迷いやすいと言われているが、『女将亭』は朱里を守る為の隠れ家的な物として建てられた為に元々探しにくい場所に建てたのもある。
従業員達が迷わずたどり着けるのは森を把握しているのと、美味しそうな匂いが店はどこにあるかを教えているからだった。
『女将亭』に辿り着くと、白い大きな木の上からドラゴン達4匹が従業員に首をかしげてみせる。
光竜アルビーと赤竜ローランドと金竜エデンに木竜ケルチャが従業員に「女将を探している」と聞いて「料亭に行ったよね?」と言い、従業員が「すれ違いかー」と大慌てで戻る。
「何だったんだ今の?」
店の大窯の前からハガネが『竜の癒し木』の場所まで来てドラゴン達に聞けばドラゴン達は「アカリ探してるんだって」と、答える。
「アカリなら料亭の後で旅館行くって言ってたけどな」
「教えに行くー?」
「ほっとけばいいんじゃない?」
「ほっときゅー!」
「ほっとけほっとけ」
ドラゴン達は意外と不親切である。
「んで、お前等は何してるんだ?」
「え?それ聞く?」
「置いてけぼりだよ!言わせんなよ!」
「おるしゅばん!」
「狩りに行けると思ったら、グリムレインとニクストローブとスピナだけ連れて先に行っちゃったわ」
ルーファスの従者になった土竜ニクストローブと風竜スピナだけでも十分だったらしいが、離れ小島に移動するのに丁度いいドラゴンのサイズがグリムレインという事もあり、グリムレインも一緒に連れていかれた。
他のドラゴンは朱里のお守りをする様に置いて行かれたのだが、木の上でまどろんでいるうちに、朱里にも置いて行かれたのである。
「まぁ、旦那達が帰ってきたら美味い肉が食えるんだから、バーベキューの用意でもしてようぜ?」
「用意って何するのさ?」
「火なら任せとけ!」
「おにくぅー!」
「枝ならアタシに任せときなさいよ」
ハガネが白い歯を見せて笑いながら「んじゃ、山に魚とキノコ採りに行くか!」とドラゴン達に声を掛け、暇なドラゴン達が子供の様にはしゃぎながらハガネの後について飛ぶ。
料亭に戻った旅館の従業員は「女将ならとっくの昔に出ていった」と言われ、途方に暮れる。
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