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9章
王と不義の子
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王宮地下から奴隷を解放し保護すると、グリムレインの腕輪へ魔法通信で吹雪と氷を引き上げさせる。
グリムレインは一旦、空に雲隠れすると人型になりルーファス達の帰りを『刻狼丸』の船のマストの上で凍らせた果物を食べながら待っている。
王宮からはぞろぞろと奴隷達が引き上げられ、港で【風雷商】の従業員に何所の誰で誘拐か売られたか、今後の行き先など事細かに聞かれ、その後【刻狼亭】の製薬部隊に体の状態を調べられ治療を受けている。
その後は【風雷商】の船の荷物から食料と衣服を渡されていく。
グリムレインはその様子をマストの上から眺めて欠伸を漏らす。
王宮から連れ出された奴隷達を見る国民の目は驚きと戸惑いに満ちて、今も何事なのかと遠巻きに見ている。
事情を知らない憲兵が話を聞きに来たが「王家が他国の奴隷を買い漁っていた」と告げられ、王家と言われては一介の憲兵にはどうすることも出来ずに引き下がっていった。
「我はもう飽きたぞ。早く嫁の所に帰りたい」
グリムレインのぼやきは欠伸と共に潮騒にかき消されていった。
__ミシリマーフ王宮、大広間。
普段ならば煌びやかで白と金を基調とした大広間にこだまするのは美しい笑い声のはずが、今は兵士達の呻き声と王と捕らえた女のいがみ合う声が響き渡っている。
ミシリマーフの王、ジャルド・ニール・クフス・ミシリマーフは人の形を辛うじて保っているような巨体な男で、男手があっても4人で支えてようやく体を起こせるかどうかの体型の男である。
「お前さえ事を荒立てなければこの様な事にはならなんだ!忌々しい不義の子が!」
「黙れ!妾とてお前が大人しくしておれば事を急がなんだわ!この不能王!」
その王に噛みつく様に声を荒げているのが王宮の地下祭壇で捕らえた女、ミディリアである。
ミディリアはジャルドの種違いの妹。
前王妃の不義の子であるがゆえに王族としての地位は無く王家に名を連ねていない。
ルーファスが知らないのも無理はない。
ジャルドに妻は無く、子も居ない。
何故ならジャルドは大人の女では反応しない性癖の持ち主だったから。
しかしミシリマーフの女性の婚姻や性交に関しては14歳からなので14歳以下に手を出せば犯罪者として処罰される。しかもジャルドが好きなのは10歳以下の未完成な子供なので完全にお手上げ状態。
故に彼は39歳の今も女性との経験が無い。
せめて自分の周りの世話を女児にさせて侍らせたいと願うが、ミシリマーフ国の法でも14歳以下の子供が働くことは禁止されている。例外は親の店の手伝いや身寄りのない子供には働ける場所の提供がされており、王宮の様な場所は除外されている。
ミシリマーフ国の法律はジャルドには厳しく、子供に優しい物である。
この法を維持し守る様言っていたのがドラゴン信仰のイルマール達ジス家、神官の教えである。
ジャルドがドラゴン信仰を憎んだのはそんな歪んだ性癖故の暴走と言って良い。
ドラゴン信仰を地に叩き落したいジャルドが目を付けたのが、元々冬を連れて来ては作物を駄目にする氷竜グリムレインの存在だった。
グリムレインを暴走させドラゴン信仰を無くし、法を変える。
そんな馬鹿な事を考え動こうとしたが・・・彼には問題があった。
それは巨体ゆえに自由に動き回る事が出来ないという自業自得ともいえる体型問題。
そこで手を組んだのが種違いの妹ミディリアだった。
王宮の奥で『姫』と呼ばれ育ったミディリアは高慢な子供のまま大人になった。
子の居ない兄は体型の事もあり、長い事は生きられないのは確実でミディリアは王座はまだかまだかと手ぐすねを引いて待っていた。
しかし、今まで王宮の奥で隠れるように暮らしていたミディリアに自由はそれ程多くは無く、兄が協力するならと渡してきた宝飾やドレスに王宮を我が物顔で歩ける解放感。
兄はどうせ直ぐに死ぬのだから協力してあげようと、ニンマリ微笑み、協力した。
王家の書庫から役に立ちそうな書物を持ってミディリアが戻ると、その書物にジャルドは心が躍った。
ミシリマーフ王家に伝わる禁呪の書いてある魔術書でドラゴンをも殺す呪いの存在をジャルドはグリムレインに試し、グリムレインが死ねば「これはドラゴンはもう要らないという事だ」と言い、暴走してグリムレインがミシリマーフ国を荒らしていけば「ドラゴンは害獣だ!ドラゴン信仰は邪教だ!」と騒げばいいだけと案を練っていた。
しかも、気に入らない人間や他国の者もこの禁呪を使えば思うままだと。
儀式の祭壇のある地下にいくと、金色のドラゴンが赤い石に貫かれたまま黒い液体の中で死んでいた。
数百年前から呪詛に漬け込まれた金のドラゴンは強力なドラゴンを呪う呪詛になり、ジャルドは直ぐに王家直下の魔術師団を作り上げ、ミディリアと共に作戦を実行したのである。
グリムレインに関しては成功したが、相変わらずドラゴン信仰は根付いていた為に、ジス家の者達を襲わせ神殿を取り壊した。
そして新たに『太陽信仰』というモノを作り上げ、法を変える為に下準備を始め、ようやくあと少しで法が変えられると思った矢先に、王家には隠された王族が居る事を知った。
ジス家は王族の分家であり、今までミシリマーフ国で女王が支配したことは無い男だけが王として君臨してきた。
このままではミディリアは女王にはなれない。
ジス家の生き残りを殺す事にミディリアは動き出し、ジャルドの言う事を聞かなくなった。
そして、呪詛の金のドラゴンの死体が無くなった事で呪詛が作り出せず、新たな方法を模索し始める。
行きついたのが人間を媒介とした呪詛を作る事。
奴隷を買い漁り、呪詛を何度も失敗しながらもあと少しという所まできていた。
なのに、新しい呪詛は破壊され、自分達は拘束されている。
罵り合う王と女を前に一人の男が従者を連れて現れる。
「ジャルド・ニール・クフス・ミシリマーフは今日を持って王を廃す。新たな王としてジス家の私が後は引き受けよう」
神経質そうな顔をしたジャガール・リンデルの姿があった。
グリムレインは一旦、空に雲隠れすると人型になりルーファス達の帰りを『刻狼丸』の船のマストの上で凍らせた果物を食べながら待っている。
王宮からはぞろぞろと奴隷達が引き上げられ、港で【風雷商】の従業員に何所の誰で誘拐か売られたか、今後の行き先など事細かに聞かれ、その後【刻狼亭】の製薬部隊に体の状態を調べられ治療を受けている。
その後は【風雷商】の船の荷物から食料と衣服を渡されていく。
グリムレインはその様子をマストの上から眺めて欠伸を漏らす。
王宮から連れ出された奴隷達を見る国民の目は驚きと戸惑いに満ちて、今も何事なのかと遠巻きに見ている。
事情を知らない憲兵が話を聞きに来たが「王家が他国の奴隷を買い漁っていた」と告げられ、王家と言われては一介の憲兵にはどうすることも出来ずに引き下がっていった。
「我はもう飽きたぞ。早く嫁の所に帰りたい」
グリムレインのぼやきは欠伸と共に潮騒にかき消されていった。
__ミシリマーフ王宮、大広間。
普段ならば煌びやかで白と金を基調とした大広間にこだまするのは美しい笑い声のはずが、今は兵士達の呻き声と王と捕らえた女のいがみ合う声が響き渡っている。
ミシリマーフの王、ジャルド・ニール・クフス・ミシリマーフは人の形を辛うじて保っているような巨体な男で、男手があっても4人で支えてようやく体を起こせるかどうかの体型の男である。
「お前さえ事を荒立てなければこの様な事にはならなんだ!忌々しい不義の子が!」
「黙れ!妾とてお前が大人しくしておれば事を急がなんだわ!この不能王!」
その王に噛みつく様に声を荒げているのが王宮の地下祭壇で捕らえた女、ミディリアである。
ミディリアはジャルドの種違いの妹。
前王妃の不義の子であるがゆえに王族としての地位は無く王家に名を連ねていない。
ルーファスが知らないのも無理はない。
ジャルドに妻は無く、子も居ない。
何故ならジャルドは大人の女では反応しない性癖の持ち主だったから。
しかしミシリマーフの女性の婚姻や性交に関しては14歳からなので14歳以下に手を出せば犯罪者として処罰される。しかもジャルドが好きなのは10歳以下の未完成な子供なので完全にお手上げ状態。
故に彼は39歳の今も女性との経験が無い。
せめて自分の周りの世話を女児にさせて侍らせたいと願うが、ミシリマーフ国の法でも14歳以下の子供が働くことは禁止されている。例外は親の店の手伝いや身寄りのない子供には働ける場所の提供がされており、王宮の様な場所は除外されている。
ミシリマーフ国の法律はジャルドには厳しく、子供に優しい物である。
この法を維持し守る様言っていたのがドラゴン信仰のイルマール達ジス家、神官の教えである。
ジャルドがドラゴン信仰を憎んだのはそんな歪んだ性癖故の暴走と言って良い。
ドラゴン信仰を地に叩き落したいジャルドが目を付けたのが、元々冬を連れて来ては作物を駄目にする氷竜グリムレインの存在だった。
グリムレインを暴走させドラゴン信仰を無くし、法を変える。
そんな馬鹿な事を考え動こうとしたが・・・彼には問題があった。
それは巨体ゆえに自由に動き回る事が出来ないという自業自得ともいえる体型問題。
そこで手を組んだのが種違いの妹ミディリアだった。
王宮の奥で『姫』と呼ばれ育ったミディリアは高慢な子供のまま大人になった。
子の居ない兄は体型の事もあり、長い事は生きられないのは確実でミディリアは王座はまだかまだかと手ぐすねを引いて待っていた。
しかし、今まで王宮の奥で隠れるように暮らしていたミディリアに自由はそれ程多くは無く、兄が協力するならと渡してきた宝飾やドレスに王宮を我が物顔で歩ける解放感。
兄はどうせ直ぐに死ぬのだから協力してあげようと、ニンマリ微笑み、協力した。
王家の書庫から役に立ちそうな書物を持ってミディリアが戻ると、その書物にジャルドは心が躍った。
ミシリマーフ王家に伝わる禁呪の書いてある魔術書でドラゴンをも殺す呪いの存在をジャルドはグリムレインに試し、グリムレインが死ねば「これはドラゴンはもう要らないという事だ」と言い、暴走してグリムレインがミシリマーフ国を荒らしていけば「ドラゴンは害獣だ!ドラゴン信仰は邪教だ!」と騒げばいいだけと案を練っていた。
しかも、気に入らない人間や他国の者もこの禁呪を使えば思うままだと。
儀式の祭壇のある地下にいくと、金色のドラゴンが赤い石に貫かれたまま黒い液体の中で死んでいた。
数百年前から呪詛に漬け込まれた金のドラゴンは強力なドラゴンを呪う呪詛になり、ジャルドは直ぐに王家直下の魔術師団を作り上げ、ミディリアと共に作戦を実行したのである。
グリムレインに関しては成功したが、相変わらずドラゴン信仰は根付いていた為に、ジス家の者達を襲わせ神殿を取り壊した。
そして新たに『太陽信仰』というモノを作り上げ、法を変える為に下準備を始め、ようやくあと少しで法が変えられると思った矢先に、王家には隠された王族が居る事を知った。
ジス家は王族の分家であり、今までミシリマーフ国で女王が支配したことは無い男だけが王として君臨してきた。
このままではミディリアは女王にはなれない。
ジス家の生き残りを殺す事にミディリアは動き出し、ジャルドの言う事を聞かなくなった。
そして、呪詛の金のドラゴンの死体が無くなった事で呪詛が作り出せず、新たな方法を模索し始める。
行きついたのが人間を媒介とした呪詛を作る事。
奴隷を買い漁り、呪詛を何度も失敗しながらもあと少しという所まできていた。
なのに、新しい呪詛は破壊され、自分達は拘束されている。
罵り合う王と女を前に一人の男が従者を連れて現れる。
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