黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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9章

薬草採取 ※微々R18

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 凍えるような寒さに気を遠くしながらも製薬部隊のロタルスとウェイトが目的の薬草を見付けると声を上げる。
「あったああああ!!!!」
「これで帰れるぅううう!!」
久々に上げた声に2人は直ぐに口を閉じる。
喋るだけで息が上がって肺まで凍り付きそうになるからだ。
 
 ノース大陸のアルクリード山脈。
竜人の土地にある小高い雪山に自生している薬草『キュリア草』を採取に来たのである。
呪詛を解呪する材料のもう1つがようやく解ったのは、かつて朱里が竜人の国へ連れ去られ、朱里を世話していたエルフの老婆ティルカ・トルティーが薬草学の本を過去に書いていたこともあり、試しに【女帝】ビビアットに連絡を取ったところティルカが快く教えてくれたからだった。

「薬草といえば製薬部隊のオレ達の出番だ!」
「行きます!行きます!薬草採取なら任しとけ!」
 製薬部隊の5人のジャンケン大会で見事に採取の役を2人は勝ち取り、意気揚々と採取に乗り出したわけである。

 まぁ、2人もまさか雪山とは思って居なかったが・・・グリムレインが吹雪を止めてくれて雪をほいほいとどかしてくれては居るが、グリムレインの雑な雪のどけ方に「そんなんじゃ薬草も痛むから止めて」と2人に言われ、2人の体に縄を巻き付けるとグリムレインは「我はもう知らん」と空で雪山涼みを始めてしまい、2人は歯をガチガチいわせて薬草を探し回る事になったのである。

 持って来た袋に薬草を丁寧に土ごと入れながら集めると自分達に巻きついた縄を引っ張りグリムレインに合図を送る。
 しかし、グリムレインが気付いてくれないので、結局、救難信号ののろしを上げて気付いてもらい、グリムレインに乗って温泉大陸へ帰って来た。

 【刻狼亭】へ戻ると「おかえりなさい」の前に「薬草は?!」と自分達の上司マグノリアとテッチと同僚のピルマーに袋を奪われたのは言うまでもない。
 製薬部隊に薬草をチラつかせたら自分達を含めて大人しくするわけが無いのはよく知っているので、2人は【刻狼亭】の店主ルーファスに労ってもらおうと報告をしに執務室へ向かう。

「あっ、んっ・・・やぁっ」

 執務室から漏れ聞こえる婀娜あだっぽい声に2人がそぉっと執務室のドアを覗けば、ルーファスとその番の朱里が事に及んでいた。
「ゆっくり、んっ、あ・・・んっ」
「わかってる。優しくしてやるから、そんなに煽るな」
ルーファスの腰の上に朱里がまたがりキスを交わしながらゆっくりと動いている。
2人は「これは今出ていったら、労われるどころか半殺しに合う!」とソロソロと執務室から離れる。

「確か・・・女将3人目妊娠中だよな?」
「激しくしなきゃ大丈夫だろ?・・・じゃなくて、場所考えてー!」
「くぅっ・・・オレ等を労ってくれる優しい人間が居ない!」
「優しさが欲しいッ!」
 ロタルスとウェイトが【刻狼亭】の廊下で泣き言を漏らしていると、2人の目の前に木のコップが差し出される。

「ロタルス、ウェイト。お疲れさま」
「2人に差し入れだよ」
【刻狼亭】の次期当主になる予定のリュエールとシュトラールが、2人にコーンスープの入ったコップと保温機能の付いているバスケットから照り焼きの挟んであるハンバーガーを差し出す。
「なにこれ・・・天使かな?」
「双子の天使がここにいる・・・っ!」
リュエールとシュトラールが首を左右にかしげて「ハガネからだよ」と言うと、2人はガクリと項垂れる。

「オレ等いたわってくれるのはオッサン天使だけかよ・・・」
「いや、アイツ今、オレ等より若いし・・・」
 ハガネの若返りには自分達も関与してしまった為に文句も言えないが、ハガネは若くなった分、見た目も変わり、朱里や子供の世話など卒なくこなすので一部から「若いのに出来た男」と、人気が上がっている。
オッサンだったクセに!やっぱ若い見た目かよ!と、2人は思うものの、こうした気配りがハガネの人気なのだろうと痛感する。
ハガネが女だったら良い嫁に・・・いや、あんな口の悪い飽き性で背の高い女は無いな・・・と、2人は乾いた笑いを出す。
 
 ハァー・・・と、2人が双子からコップとバスケットを受け取り、モソモソと食べ始めると双子は自分達の仕事は終わりとばかりに、じゃれ合いながら廊下で追いかけっこをしながら何処かへ行ってしまう。

「冬山の寒さとこの虚しい寒さどっちが寒いよ?」
「両方だろ・・・」

 頃合いを見計らって執務室に顔を出すと執務室のソファの上でルーファスの膝の上を枕に朱里が体を丸めて眠りながら足元に獣化したリュエールとシュトラールも寝ていた。

「薬草採取終わりましたー」
「今、マグノリア室長達が薬草を解析中です」
 2人が報告するとルーファスが「ん。ご苦労様」と書類に目を通しながら答える。
労いの言葉はやはりないのかー・・・と、2人が思って居るとルーファスが懐を漁る。

「雪山は寒かっただろう?美味い魔牛の店の特別券だ。好きに食べて来い」
 特別券を2人に渡してルーファスが再び書類に目を通し始めると、2人は「ありがとうございますー!」と元気よく出ていく。

「魔牛の店!食べ放題!」
「寒い思いをして採取しに行った甲斐があったな!」
 2人が早速、魔牛の店に行くと店員から「申し訳ありません」と言葉を貰う。

「あちらのお客様が魔牛肉を食べ尽くされまして・・・」
店内で氷色の髪をした金目の男が肉を頬張っていた。

「あーっ!!グリムレイン!!」
「お前も旦那からこの店の特別券貰ったのかよ!!」
 ロタルスとウェイトの声にグリムレインがニッと笑う。

「当たり前だろう?我も一緒に薬草採取に行ったのだからな」
 ペロリと口の周りを舌で舐め、ふぅーと、息を吐くとグリムレインが「じゃあの」と2人の肩を叩いて店を出ていく。

「「オレ等を労ってー!!!」」

 2人の叫びが冬の温泉大陸に虚しく響き渡った。
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