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9章
呪いの言葉
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ルーファスが朱里の腕輪の通信から直ぐに朱里の元へ駆けつける為に、事務所に居たテンとシュテンに特殊ポーションを3本ずつ持たせ、子供達とハガネを探し出して飲ませる様に指示を出し、『蝋燭の間』へ誰も近寄らないように他の従業員に指示を出した。
指示を出し終わると『蝋燭の間』に急いで足を走らせる。
「止めろダリドア!」
イルマールの声が聞こえ、ルーファスが『蝋燭の間』の前で見た物は、朱里の口に手を入れている青髪の従者ダリドアの姿だった。
「これも主の為だ!この女将に全てが掛かっている!」
朱里の体がビクンと小さく跳ね上がると、手足が黒く染まっていく。
肉の腐る匂いに混じり、朱里の番の甘い香りが鼻に広がりルーファスが絶叫する。
「やめろぉおおおおお!!!」
ルーファスの声にイルマールとダリドアが声の方へ顔を向けると、目の前には黒い影の残像が残るだけだった。
気付いた時にはイルマールは壁に背中を打って廊下にうずくまり、ダリドアは床に転がり天井を見上げていた。
顔面が痛いのだけは確かだとダリドアが自分の顔に手を当てると赤く染まっていて、ルーファスに何かしらの攻撃を受けたと悟る。
「アカリ!しっかりしろ!」
ルーファスが朱里を抱き寄せ、ありすの特殊ポーションを朱里の口に含ませるが手足の黒ずみは消えては戻りを繰り返す。1本分のポーションを消費しても朱里の体からは呪詛の黒ずみが消えずに、朱里の意識は戻らない。
2本目の蓋を開けて口に含ませると、朱里の口からは飲み込まれずポーションの液が溢れ出す。
「ダメだ!主人、女将の口の中に呪詛の金属板が入っている!飲み込ませるな!」
イルマールが叫ぶようにルーファスに手を伸ばすと、ルーファスが朱里の口をこじ開ける。
朱里の口の奥に捕らえて死んだトティッシュが仕込まれていた金属板より小さな魔法陣の描かれた金属板が入っていた。
朱里の口に手を入れるが、朱里の口が小さすぎるのとルーファスの手の大きさに断念し、朱里が飲み込まないように俵抱きにして顔を下に向けて揺するが、金属板は口から出てこない。
「主人、おれが取り出す!」
一瞬、「断る!」と口から出そうになるが、朱里の黒ずみが全身に回る前に取り出すのが先決だと、ぐっと堪えてイルマールの手が朱里の口の中に入るのを見守る。
「どうだ?取れそうか?」
「指先にかすっている・・・痛っ、呪詛が凄いな」
カチャリ・・・。
床に金属板が転がり落ちるとイルマールが朱里の口から手を出し、黒くなった指先をもう片方の手で押さえる。
朱里の唾液で浄化が始まると、イルマールの指先の黒ずみは消え痛みも引くとホッと息を吐く。
「女将は?直ぐにポーションを!」
「わかっている!」
ポーションを口に含んで口移しでルーファスが朱里に飲ませると、小さく喉が動く。
手足の黒ずみが引いていくが、朱里の顔色は青白く唇の色が紫色に変色していく。
「アカリ!戻ってこい!何度目の死の淵を渡ろうとしている!」
朱里の目がスッと見開かれ、口が動くと聞いた事もない声を出す。
「『呪われてしまえ』」
「アカリ・・・?どうした?」
「『ドラゴンなんか呪われればいい』」
「アカリ・・・何を言っている?」
困惑するルーファスにイルマールが聞いた事のある言葉に愕然とする。
「主人、この言葉は呪詛に蝕まれた時に散々聞いた言葉だ」
「どういう事だ?アカリはどうなっている!」
「女将の体に呪詛が宿っている・・・かもしれない」
朱里を抱き上げてルーファスが歩き出すとイルマールが手を伸ばす。
「何処へ?」
「【聖女】の所だ!アカリだけが呪いを解呪出来るわけでは無い!」
「ああ、そうか。【聖女】もここには健在だったな・・・良かった・・・」
イルマールがホッとして壁に寄り掛かりながらルーファスを見送ると、床に仰向けになっているダリドアに蹴りを入れる。
「このバカ従者!お前は何を考えてるんだ!」
「主の事しか考えてない。あの呪詛をどうにかしない限り主達は国から狙われる」
「だからって呪いを解呪出来る女将を殺しかけて何がしたいんだお前は!」
「女将は解呪出来なかった。もうお終いです。エスタークと父君の事お願いします」
「何を最後みたいな事言っているお前は」
「最期ですよ。主、大好きでしたよ」
「そういう冗談は死んでからしろ」
イルマールが「フンッ」と鼻息を荒くしてソッポを向くと、ダリドアが自分の呪詛に塗れて黒くなった腕を見た後でイルマールを眺めながら笑う。
「もう、死ぬんです」
ダリドアの小さなつぶやきはイルマールの耳には届かなかった。
ルーファスが朱里を抱きながら運んでいる間も朱里の口からは呪いの言葉が紡がれる。
朱里には不似合いな言葉に「もう口を開かないでくれ」と、何度も心の中で叫びながら、ありすの居る【刻狼亭】の料亭にある企画室へ入ると、ありすが次の企画書を作成中だった。
「ルーっち、アカリっちどーしたん?」
「アリス、アカリが呪詛にやられた!助けてほしい!」
「分かった!直ぐにアカリっちを横に寝かせて!」
朱里を企画室の机の上に横たえると、ありすが浄化を始める。
「アカリっち、直ぐに治してあげるかんね!【浄化】」
朱里の目から涙が溢れると、悲し気な声が響く。
「『邪竜のわたしは死ぬことも生きる事も出来ない』」
ありすとルーファスが顔を見合わせ、朱里の顔を見ながら「邪竜?」とオウム返し聞く。
朱里の呪いの言葉は何事もなかったようにピタリと止まり、朱里の胸が上下に動き顔色に血の気が戻る。
朱里の手が光ると、朱里が目を開く。
「エデン!」
朱里が起き上がり、手の中を開くと、金色の眩しい光が溢れ出した。
指示を出し終わると『蝋燭の間』に急いで足を走らせる。
「止めろダリドア!」
イルマールの声が聞こえ、ルーファスが『蝋燭の間』の前で見た物は、朱里の口に手を入れている青髪の従者ダリドアの姿だった。
「これも主の為だ!この女将に全てが掛かっている!」
朱里の体がビクンと小さく跳ね上がると、手足が黒く染まっていく。
肉の腐る匂いに混じり、朱里の番の甘い香りが鼻に広がりルーファスが絶叫する。
「やめろぉおおおおお!!!」
ルーファスの声にイルマールとダリドアが声の方へ顔を向けると、目の前には黒い影の残像が残るだけだった。
気付いた時にはイルマールは壁に背中を打って廊下にうずくまり、ダリドアは床に転がり天井を見上げていた。
顔面が痛いのだけは確かだとダリドアが自分の顔に手を当てると赤く染まっていて、ルーファスに何かしらの攻撃を受けたと悟る。
「アカリ!しっかりしろ!」
ルーファスが朱里を抱き寄せ、ありすの特殊ポーションを朱里の口に含ませるが手足の黒ずみは消えては戻りを繰り返す。1本分のポーションを消費しても朱里の体からは呪詛の黒ずみが消えずに、朱里の意識は戻らない。
2本目の蓋を開けて口に含ませると、朱里の口からは飲み込まれずポーションの液が溢れ出す。
「ダメだ!主人、女将の口の中に呪詛の金属板が入っている!飲み込ませるな!」
イルマールが叫ぶようにルーファスに手を伸ばすと、ルーファスが朱里の口をこじ開ける。
朱里の口の奥に捕らえて死んだトティッシュが仕込まれていた金属板より小さな魔法陣の描かれた金属板が入っていた。
朱里の口に手を入れるが、朱里の口が小さすぎるのとルーファスの手の大きさに断念し、朱里が飲み込まないように俵抱きにして顔を下に向けて揺するが、金属板は口から出てこない。
「主人、おれが取り出す!」
一瞬、「断る!」と口から出そうになるが、朱里の黒ずみが全身に回る前に取り出すのが先決だと、ぐっと堪えてイルマールの手が朱里の口の中に入るのを見守る。
「どうだ?取れそうか?」
「指先にかすっている・・・痛っ、呪詛が凄いな」
カチャリ・・・。
床に金属板が転がり落ちるとイルマールが朱里の口から手を出し、黒くなった指先をもう片方の手で押さえる。
朱里の唾液で浄化が始まると、イルマールの指先の黒ずみは消え痛みも引くとホッと息を吐く。
「女将は?直ぐにポーションを!」
「わかっている!」
ポーションを口に含んで口移しでルーファスが朱里に飲ませると、小さく喉が動く。
手足の黒ずみが引いていくが、朱里の顔色は青白く唇の色が紫色に変色していく。
「アカリ!戻ってこい!何度目の死の淵を渡ろうとしている!」
朱里の目がスッと見開かれ、口が動くと聞いた事もない声を出す。
「『呪われてしまえ』」
「アカリ・・・?どうした?」
「『ドラゴンなんか呪われればいい』」
「アカリ・・・何を言っている?」
困惑するルーファスにイルマールが聞いた事のある言葉に愕然とする。
「主人、この言葉は呪詛に蝕まれた時に散々聞いた言葉だ」
「どういう事だ?アカリはどうなっている!」
「女将の体に呪詛が宿っている・・・かもしれない」
朱里を抱き上げてルーファスが歩き出すとイルマールが手を伸ばす。
「何処へ?」
「【聖女】の所だ!アカリだけが呪いを解呪出来るわけでは無い!」
「ああ、そうか。【聖女】もここには健在だったな・・・良かった・・・」
イルマールがホッとして壁に寄り掛かりながらルーファスを見送ると、床に仰向けになっているダリドアに蹴りを入れる。
「このバカ従者!お前は何を考えてるんだ!」
「主の事しか考えてない。あの呪詛をどうにかしない限り主達は国から狙われる」
「だからって呪いを解呪出来る女将を殺しかけて何がしたいんだお前は!」
「女将は解呪出来なかった。もうお終いです。エスタークと父君の事お願いします」
「何を最後みたいな事言っているお前は」
「最期ですよ。主、大好きでしたよ」
「そういう冗談は死んでからしろ」
イルマールが「フンッ」と鼻息を荒くしてソッポを向くと、ダリドアが自分の呪詛に塗れて黒くなった腕を見た後でイルマールを眺めながら笑う。
「もう、死ぬんです」
ダリドアの小さなつぶやきはイルマールの耳には届かなかった。
ルーファスが朱里を抱きながら運んでいる間も朱里の口からは呪いの言葉が紡がれる。
朱里には不似合いな言葉に「もう口を開かないでくれ」と、何度も心の中で叫びながら、ありすの居る【刻狼亭】の料亭にある企画室へ入ると、ありすが次の企画書を作成中だった。
「ルーっち、アカリっちどーしたん?」
「アリス、アカリが呪詛にやられた!助けてほしい!」
「分かった!直ぐにアカリっちを横に寝かせて!」
朱里を企画室の机の上に横たえると、ありすが浄化を始める。
「アカリっち、直ぐに治してあげるかんね!【浄化】」
朱里の目から涙が溢れると、悲し気な声が響く。
「『邪竜のわたしは死ぬことも生きる事も出来ない』」
ありすとルーファスが顔を見合わせ、朱里の顔を見ながら「邪竜?」とオウム返し聞く。
朱里の呪いの言葉は何事もなかったようにピタリと止まり、朱里の胸が上下に動き顔色に血の気が戻る。
朱里の手が光ると、朱里が目を開く。
「エデン!」
朱里が起き上がり、手の中を開くと、金色の眩しい光が溢れ出した。
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