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9章
回復過剰
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ハガネが目を開けた時、目の前に居たのは黒曜石の様な黒目の朱里だった。
朱里の家のハガネの自室。そして、ハガネのベッドの上。
アカリはベッドの横に椅子を置いて、ハガネが起きるのをずっと待っていたらしく、手には毛糸と編み棒があり、随分と大作が完成間近のようであった。
「よう。どのくらい寝てた?」
「6日間だよ。徹夜した3日分取り戻した上に3日プラスして眠ってたよ」
困った様な顔をして朱里が膝に乗せていたササマキをハガネに渡す。
ふくふくしたササマキの羽が短くなっていた。
「アーパー。アパパ」
「羽、短くなっちまったな」
「ササマキちゃんの羽先は腐り落ちちゃってどうしようもなかったの」
「そっか・・・悪ぃなササマキ」
「アパー」
ハガネがササマキの頭を指でクリクリと撫でるとササマキが、その指にスリ寄り首を何度も左右に振る。
「んで、アカリ。あの後どうなったか聞いても良いか?」
「グリムレインが呪詛の付いた金属板に聖水と私の血を混ぜたのを掛けたら呪詛は消えたよ。拘束してた人も元の人型に戻ったって聞いたけど、そこら辺は私は詳しく知らないの」
「そっか。呪詛が消えたなら、安心だな」
元の人型に戻ったという事は肉塊から、元の姿のまま死体に戻ったという事だろう。
ルーファスが朱里に死体だなんだを話すわけはないから、そういう事なのだろう。
「ついでに呪詛を直接触った様な感じだったから、ハガネとササマキちゃんはその場でアルビーの聖水にどっぷり付け込まれて私も血をコップ1杯採られました。なのでハガネには、今度美味しいキッシュを作ってもらいます!キノコいっぱい入ったやつ!」
「わかったよ。キノコだろうが何だろうが作ってやるよ。勿論、庭の大窯でデッカイの作ってやる」
「やった!チーズはいっぱいでパイ生地よりもクッキー生地のキッシュが良いです!」
「了解。アカリは食べ物に関してはうるさいからな」
ヘラッとハガネが笑って朱里が目を細めて笑って「すごく、心配したんだよ」と、ハガネの手を握りしめる。
朱里の後ろからヌッとグリムレインが顔を出し、「起きたか」とハガネの顔を覗く。
「よう。世話掛けちまったみたいだな」
「別にいい。元は我の同胞のせいでもあるようだしの」
「そういやぁ、ドラゴンにも効く呪詛だのなんだの言ってたな」
「ああ。つまりお前はドラゴン並みに呪詛が効きにくい奴という事だの」
「死ぬかと思ったけどな」
「フンッ。嫁の飯を食っているおかげで多少耐性が上がっていて良かったな」
「耐性が上がっててあんだけ体ボロボロにされんのかよ。おっかねぇなぁ」
苦笑いしながらハガネが「あー、死んでねぇって事は良い事だ」と誰に言うでもなく呟くと、ササマキが「アパー」と、声を上げて首を上下に振る。
割りと今回は死ぬかもしれないなっと、思ったりもしたが、無事に生還したようで何よりだとハガネも安堵しつつ、6日も経っているという事は何かしら進展があったかが気になる。
ハガネが体を起こして違和感に気付いたのはその時だった。
見慣れた手や足が若干細い。そして肌がツルツルしている。
「あー・・・アカリ、鏡持ってるか?」
「あるけど、うーん。見る前に謝っておくね!ごめんなさい!」
朱里がコンパクトミラーを手渡しながらハガネに頭を下げる。
コンパクトミラーを受け取り、ハガネが「はぁっ?!」と声を出し、朱里が顔をそむける。
グリムレインは興味なさげな顔で体を縮めると朱里の頭の上に顎を置く。
どうやらグリムレインの最近の定位置は朱里の頭らしい。
「アカリ、これはどういうことか説明してくんねぇか?」
「あー、うん、そのね・・・皆、ハガネを心配してやりすぎちゃったの」
「やりすぎたらどうして俺がこの姿になるんだ?」
「アルビーが回復魔法の活性化で治癒力を高めようとしたの。そしたら、うちのリューちゃんとシューちゃんもハガネに回復魔法掛けてたみたいでね、リリスちゃんも回復魔法掛けてね・・・私とありすさんも特殊ポーションとか色々飲ませて、製薬部隊も何か色々飲ませたみたいなの・・・気付いたらハガネがそんな姿になってたの」
ハガネが「あー・・・まぁこうなったもんは仕方ねぇか」と、半ばあきらめたような声を出し、自分の姿に懐かしさを覚える。
「ボビー先生の話ではハガネの肉体年齢『15歳前後』まで若返ってるみたいなの」
「15?!随分若い見た目になったとは思ったけど、そこまでかよ!」
「ごめんね?一過性のものか持続される物かは分からないけど、許して?」
朱里がえへへと、笑いながら首をかしげると、ハガネが「仕方ねぇ。まぁ若返る分にゃいいさ」と白い歯を見せて笑い、「俺も案外、皆に愛されてんなぁ」と数年前の追われて逃げてを繰り返していた自分はどこに行ったのやらと思う。
死ぬかもしれないとほんの少し覚悟はしたが、呪詛では死ななかった上に若返ってしまうとは・・・。
運がいいのか悪いのか、とりあえずハガネが言えるのはこれだけだ。
「とりあえず、生きてりゃいいか。なぁササマキ」
「アパー」
朱里の家のハガネの自室。そして、ハガネのベッドの上。
アカリはベッドの横に椅子を置いて、ハガネが起きるのをずっと待っていたらしく、手には毛糸と編み棒があり、随分と大作が完成間近のようであった。
「よう。どのくらい寝てた?」
「6日間だよ。徹夜した3日分取り戻した上に3日プラスして眠ってたよ」
困った様な顔をして朱里が膝に乗せていたササマキをハガネに渡す。
ふくふくしたササマキの羽が短くなっていた。
「アーパー。アパパ」
「羽、短くなっちまったな」
「ササマキちゃんの羽先は腐り落ちちゃってどうしようもなかったの」
「そっか・・・悪ぃなササマキ」
「アパー」
ハガネがササマキの頭を指でクリクリと撫でるとササマキが、その指にスリ寄り首を何度も左右に振る。
「んで、アカリ。あの後どうなったか聞いても良いか?」
「グリムレインが呪詛の付いた金属板に聖水と私の血を混ぜたのを掛けたら呪詛は消えたよ。拘束してた人も元の人型に戻ったって聞いたけど、そこら辺は私は詳しく知らないの」
「そっか。呪詛が消えたなら、安心だな」
元の人型に戻ったという事は肉塊から、元の姿のまま死体に戻ったという事だろう。
ルーファスが朱里に死体だなんだを話すわけはないから、そういう事なのだろう。
「ついでに呪詛を直接触った様な感じだったから、ハガネとササマキちゃんはその場でアルビーの聖水にどっぷり付け込まれて私も血をコップ1杯採られました。なのでハガネには、今度美味しいキッシュを作ってもらいます!キノコいっぱい入ったやつ!」
「わかったよ。キノコだろうが何だろうが作ってやるよ。勿論、庭の大窯でデッカイの作ってやる」
「やった!チーズはいっぱいでパイ生地よりもクッキー生地のキッシュが良いです!」
「了解。アカリは食べ物に関してはうるさいからな」
ヘラッとハガネが笑って朱里が目を細めて笑って「すごく、心配したんだよ」と、ハガネの手を握りしめる。
朱里の後ろからヌッとグリムレインが顔を出し、「起きたか」とハガネの顔を覗く。
「よう。世話掛けちまったみたいだな」
「別にいい。元は我の同胞のせいでもあるようだしの」
「そういやぁ、ドラゴンにも効く呪詛だのなんだの言ってたな」
「ああ。つまりお前はドラゴン並みに呪詛が効きにくい奴という事だの」
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「フンッ。嫁の飯を食っているおかげで多少耐性が上がっていて良かったな」
「耐性が上がっててあんだけ体ボロボロにされんのかよ。おっかねぇなぁ」
苦笑いしながらハガネが「あー、死んでねぇって事は良い事だ」と誰に言うでもなく呟くと、ササマキが「アパー」と、声を上げて首を上下に振る。
割りと今回は死ぬかもしれないなっと、思ったりもしたが、無事に生還したようで何よりだとハガネも安堵しつつ、6日も経っているという事は何かしら進展があったかが気になる。
ハガネが体を起こして違和感に気付いたのはその時だった。
見慣れた手や足が若干細い。そして肌がツルツルしている。
「あー・・・アカリ、鏡持ってるか?」
「あるけど、うーん。見る前に謝っておくね!ごめんなさい!」
朱里がコンパクトミラーを手渡しながらハガネに頭を下げる。
コンパクトミラーを受け取り、ハガネが「はぁっ?!」と声を出し、朱里が顔をそむける。
グリムレインは興味なさげな顔で体を縮めると朱里の頭の上に顎を置く。
どうやらグリムレインの最近の定位置は朱里の頭らしい。
「アカリ、これはどういうことか説明してくんねぇか?」
「あー、うん、そのね・・・皆、ハガネを心配してやりすぎちゃったの」
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「アルビーが回復魔法の活性化で治癒力を高めようとしたの。そしたら、うちのリューちゃんとシューちゃんもハガネに回復魔法掛けてたみたいでね、リリスちゃんも回復魔法掛けてね・・・私とありすさんも特殊ポーションとか色々飲ませて、製薬部隊も何か色々飲ませたみたいなの・・・気付いたらハガネがそんな姿になってたの」
ハガネが「あー・・・まぁこうなったもんは仕方ねぇか」と、半ばあきらめたような声を出し、自分の姿に懐かしさを覚える。
「ボビー先生の話ではハガネの肉体年齢『15歳前後』まで若返ってるみたいなの」
「15?!随分若い見た目になったとは思ったけど、そこまでかよ!」
「ごめんね?一過性のものか持続される物かは分からないけど、許して?」
朱里がえへへと、笑いながら首をかしげると、ハガネが「仕方ねぇ。まぁ若返る分にゃいいさ」と白い歯を見せて笑い、「俺も案外、皆に愛されてんなぁ」と数年前の追われて逃げてを繰り返していた自分はどこに行ったのやらと思う。
死ぬかもしれないとほんの少し覚悟はしたが、呪詛では死ななかった上に若返ってしまうとは・・・。
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