231 / 960
9章
小さな手
しおりを挟む
小さな手を知っている。
懐かしい声も知っている。
『まけちゃダメだよ?ハガネはつよいもん』
ササマキを腕に抱いて笑う声に、ああ、そうだな。と頷く。
ふわふわとした緩やかなウェーブのかかったホワイトシルバーの髪。
アメジスト色に氷の色の混じった丸い瞳。
甘く舌ったらずな声。
『わたしもいそいでハガネのところにいくから、がんばって』
無茶すんな。
お前の母ちゃん父ちゃんに俺が叱られる。
『ハガネ。だいすきだよ』
知ってるよ。
お前を助けてやれなくて、守ってやれなくてごめんな。
『ううん。またあえたもん』
小せぇのに、また小さくなってどうすんだよ。
でも、今、ササマキが俺に懐いてた理由がわかった。
他の温泉鳥と微妙に違う理由もわかった。
『さぁ、めをあけて!がんばって!』
わかった。
もう少し、俺も踏ん張るか!
目を開けて、自分の下で蠢くトティッシュが扉に近付かないように体全体を使って遮ると、扉の鉄格子から黒い物体がもがきながら中に入ろうと踏ん張っている。
「アパー!!!」
スポーンと、鉄格子の間から出るとササマキが床をコロコロと勢いよく転がる。
「だから、無茶すんなっつーの、ハハ・・・ハ」
「アパパー!」
ササマキが床から起き上がってハガネに体当たりの様に飛び掛かると、ハガネが困った顔で笑って涙をにじませる。
「バッカやろ・・・サラノア・・・お前、折角・・・精霊に生まれ変わったのに温泉鳥の雛に同化しちまったら、精霊じゃなくなるだろ・・・ったく。お前バカだなぁ」
「アパー、アパパ」
精霊族の王は精霊族の祈りで生まれる。
それと同様に精霊族の祈りで精霊も生まれる。
まれに精霊は動物や物の中に入り込んでしまうが、入り込んでしまうと出る事が出来ずに精霊ではなくなってしまう。
ササマキの温泉鳥らしからぬ行動や成長の遅さに違和感は感じていたが、個性の様な物だと目をつぶっていた。
まさか、前の主君の娘サラノアが精霊として生まれてくるとは思わなかったが、1人だけ、サラノアを精霊として、この世に生まれ直させた人物に心当たりがある。
サアユが死ぬ原因の一因になった役立たずな黒騎士の精霊族の男。
あいつなら精霊族の祈りで執着してでもセイランかサラノアを連れ戻しそうではある。
ハガネも精霊の声ならサアユの主君契約がある為に聞ける。
しかし、ササマキの体の中に入ってしまったサラノアの声は聞こえない。
もう温泉鳥として同化してしまっているから。
「お前の前で情けねぇ所は見せられねぇな」
「アパー」
体のほとんどは呪詛に侵食されている。
それでも、まだやれる。
「悪ぃな。お前も付き合わせる事になるけど、終わったらアカリに治してもらおうぜ」
「アパパー!」
ササマキがトティッシュの顔めがけて頭突きを放つと、ハガネもトティッシュの頭を押さえつける。
「ササマキ、頭に何か弱点があるんだな?」
「アパ!アパ!」
ササマキの特殊能力【弱点突き】がある以上、頭に何かしら弱点があるはずだと、ハガネがトティッシュの頭を呪詛で重くなっていく手を使いながら必死に探す。
「腕が重てぇー・・・っと、これか!」
トティッシュの口の中に手を突っ込み鉄の板を手に掴むと、ガブリとトティッシュに噛みつかれるがササマキがトティッシュの頬を蹴り上げて何とか、口から手を出す事が出来た。
呪詛の魔法陣の描いてある5cmほどの金属の板を口から取り出した途端、トティッシュは大人しくなり、そのまま動かなくなった。
「これが、動く死体の原因・・・か?」
「アパー?」
ハガネが床に金属板を置くと、力尽きたとばかりに床に腰を下ろす。
ハガネの黒くなった腕にササマキがスリ寄りながら、笑うようにハガネを見上げる。
そんなササマキもトティッシュに触ったせいで呪詛でフワフワの羽毛が抜け落ちている。
「サラノア・・・いや、ササマキ。付き合わせて悪ぃ・・・体が小せぇ分痛いよな。ごめんな」
「アパー」
ドタドタと足音が聞こえ、やっと自分の役目は終わりだとハガネが目を閉じる。
呪詛に蝕まれた体は痛いけれど、ササマキの小さな体の温かさだけはちゃんとハガネに感じる事が出来た。
とろりとした浮遊感の中でハガネが見るのはやはり朱里の姿ではなくササマキの姿だった。
『ハガネ。おつかれさま』
サラノアがササマキを腕に抱いたまま笑って、ハガネの周りをチョロチョロと動き回る。
サラノアもササマキもお疲れさん。
流石に俺も無茶した感じがすげぇする。体中痛ぇーわ。
『ハガネ。ゆっくりやすもうね』
サラノアもササマキもゆっくり休めよ。
きっと今頃、皆が助けてくれるだろうから、しばらくは寝てられる。
『おきたら、いっしょにあそんでね』
ああ。沢山遊んでやるよ。
だから、しばらく俺はひと眠りだ。
3日間寝てなかったからな。
『うん。ハガネ、ばいばい』
ああ。またな。
ハガネが片手を上げて白い歯を見せながら笑うと、サラノアがササマキをハガネに押し付けて、ニッと白い歯を見せて笑って、何処かへ跳ねる様な足取りで消えていった。
懐かしい声も知っている。
『まけちゃダメだよ?ハガネはつよいもん』
ササマキを腕に抱いて笑う声に、ああ、そうだな。と頷く。
ふわふわとした緩やかなウェーブのかかったホワイトシルバーの髪。
アメジスト色に氷の色の混じった丸い瞳。
甘く舌ったらずな声。
『わたしもいそいでハガネのところにいくから、がんばって』
無茶すんな。
お前の母ちゃん父ちゃんに俺が叱られる。
『ハガネ。だいすきだよ』
知ってるよ。
お前を助けてやれなくて、守ってやれなくてごめんな。
『ううん。またあえたもん』
小せぇのに、また小さくなってどうすんだよ。
でも、今、ササマキが俺に懐いてた理由がわかった。
他の温泉鳥と微妙に違う理由もわかった。
『さぁ、めをあけて!がんばって!』
わかった。
もう少し、俺も踏ん張るか!
目を開けて、自分の下で蠢くトティッシュが扉に近付かないように体全体を使って遮ると、扉の鉄格子から黒い物体がもがきながら中に入ろうと踏ん張っている。
「アパー!!!」
スポーンと、鉄格子の間から出るとササマキが床をコロコロと勢いよく転がる。
「だから、無茶すんなっつーの、ハハ・・・ハ」
「アパパー!」
ササマキが床から起き上がってハガネに体当たりの様に飛び掛かると、ハガネが困った顔で笑って涙をにじませる。
「バッカやろ・・・サラノア・・・お前、折角・・・精霊に生まれ変わったのに温泉鳥の雛に同化しちまったら、精霊じゃなくなるだろ・・・ったく。お前バカだなぁ」
「アパー、アパパ」
精霊族の王は精霊族の祈りで生まれる。
それと同様に精霊族の祈りで精霊も生まれる。
まれに精霊は動物や物の中に入り込んでしまうが、入り込んでしまうと出る事が出来ずに精霊ではなくなってしまう。
ササマキの温泉鳥らしからぬ行動や成長の遅さに違和感は感じていたが、個性の様な物だと目をつぶっていた。
まさか、前の主君の娘サラノアが精霊として生まれてくるとは思わなかったが、1人だけ、サラノアを精霊として、この世に生まれ直させた人物に心当たりがある。
サアユが死ぬ原因の一因になった役立たずな黒騎士の精霊族の男。
あいつなら精霊族の祈りで執着してでもセイランかサラノアを連れ戻しそうではある。
ハガネも精霊の声ならサアユの主君契約がある為に聞ける。
しかし、ササマキの体の中に入ってしまったサラノアの声は聞こえない。
もう温泉鳥として同化してしまっているから。
「お前の前で情けねぇ所は見せられねぇな」
「アパー」
体のほとんどは呪詛に侵食されている。
それでも、まだやれる。
「悪ぃな。お前も付き合わせる事になるけど、終わったらアカリに治してもらおうぜ」
「アパパー!」
ササマキがトティッシュの顔めがけて頭突きを放つと、ハガネもトティッシュの頭を押さえつける。
「ササマキ、頭に何か弱点があるんだな?」
「アパ!アパ!」
ササマキの特殊能力【弱点突き】がある以上、頭に何かしら弱点があるはずだと、ハガネがトティッシュの頭を呪詛で重くなっていく手を使いながら必死に探す。
「腕が重てぇー・・・っと、これか!」
トティッシュの口の中に手を突っ込み鉄の板を手に掴むと、ガブリとトティッシュに噛みつかれるがササマキがトティッシュの頬を蹴り上げて何とか、口から手を出す事が出来た。
呪詛の魔法陣の描いてある5cmほどの金属の板を口から取り出した途端、トティッシュは大人しくなり、そのまま動かなくなった。
「これが、動く死体の原因・・・か?」
「アパー?」
ハガネが床に金属板を置くと、力尽きたとばかりに床に腰を下ろす。
ハガネの黒くなった腕にササマキがスリ寄りながら、笑うようにハガネを見上げる。
そんなササマキもトティッシュに触ったせいで呪詛でフワフワの羽毛が抜け落ちている。
「サラノア・・・いや、ササマキ。付き合わせて悪ぃ・・・体が小せぇ分痛いよな。ごめんな」
「アパー」
ドタドタと足音が聞こえ、やっと自分の役目は終わりだとハガネが目を閉じる。
呪詛に蝕まれた体は痛いけれど、ササマキの小さな体の温かさだけはちゃんとハガネに感じる事が出来た。
とろりとした浮遊感の中でハガネが見るのはやはり朱里の姿ではなくササマキの姿だった。
『ハガネ。おつかれさま』
サラノアがササマキを腕に抱いたまま笑って、ハガネの周りをチョロチョロと動き回る。
サラノアもササマキもお疲れさん。
流石に俺も無茶した感じがすげぇする。体中痛ぇーわ。
『ハガネ。ゆっくりやすもうね』
サラノアもササマキもゆっくり休めよ。
きっと今頃、皆が助けてくれるだろうから、しばらくは寝てられる。
『おきたら、いっしょにあそんでね』
ああ。沢山遊んでやるよ。
だから、しばらく俺はひと眠りだ。
3日間寝てなかったからな。
『うん。ハガネ、ばいばい』
ああ。またな。
ハガネが片手を上げて白い歯を見せながら笑うと、サラノアがササマキをハガネに押し付けて、ニッと白い歯を見せて笑って、何処かへ跳ねる様な足取りで消えていった。
50
お気に入りに追加
4,628
あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する
アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。
しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。
理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で
政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。
そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。