黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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9章

古代の呪い

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 双子に反応を示した死体はその後は静かになったものの・・・。
相変わらずハガネが結界を維持中で3日間、朱里の家にも戻れず睡眠時間もほぼないまま、不味い『味は二の次』魔力ポーションを飲みながら虚ろな目で朱里の差し入れのお弁当を食べていた。

「眠ぃ・・・自分の布団で寝てぇ・・・」

 ハガネが欠伸を噛み殺しながら小さな下駄の音に耳をピクリと動かすと、小さくコンコンと座敷牢の扉にノック音が響く。
ギィッ・・・と、扉が開くと白い着物を着た朱里がグリムレインを頭に乗せて風呂敷包みを持って入ってくる。

「ハガネ。着替え持って来たよ」
「ああ。あんがとな。ここは危ねぇから、早く出ていった方がいいぞ」

ガタガタガタ。

 再び激しく振動する死体にハガネが目を見開く。
朱里の目からは四角い布がガタガタ振動している様に見えて、首をかしげる。

「アカリ、早く部屋から出ろ!」
「え?なに?なに?」
「何だ!その変な箱はうるさいぞ!」

 ハガネが朱里を座敷牢の外へ追いやると、ズズズと音を立てて死体が入口へ向かい動き始める。

「やべぇ!グリムレイン!アカリを連れて逃げろ!あと誰かココに来るように言ってくれ!」

 扉の前をハガネが押さえながら叫ぶと、朱里が困惑した顔で格子のついた扉の中に居るハガネとグリムレインを交互に見る。

「そいつはドラゴンである我と、我の契約者の嫁に反応している!ドラゴンを呪う呪詛を吐き続けて、とてもうるさい!アルビーの聖水と嫁の血を混ぜて浄化させるのが一番だ。ハガネ、少し持ちこたえていろ!」

 グリムレインが人型になると壁に尖った氷を出し、壁に穴をあけると朱里を抱き上げて背中から翼を出して空に飛びあがる。

「早くしろよー!」
「わかっている!」

 ハガネが鉄格子越しに空に飛び立つグリムレインを見送り、座敷牢の中で未だ暴れる四角い箱に再び結界を仕掛け、また1本魔力ポーションを飲み干す。

「クソッ!俺はもう寝不足で切れ掛けだっつーの!」

「ポーションの味は不味いわ!」

「お前みてぇなのと一緒に3日も過ごすとか!」

「いい加減、俺を怒らせんなっつーの!!」

 苛立ちをぶつける様にハガネが箱を足で止めながら後ろに下がらせようとゲシゲシと足蹴にしていく。
ドラゴンに世話になった国のくせにドラゴンを恨むってどんだけ心がねじ曲がってんだよ!と、ハガネが思いながら、双子に反応してガタガタ音を立てていたのも、アルビーと主君契約しているからかと気付く。

 ミシミシと結界内が壊れる様な軋んだ音が広がり、ハガネがまた結界を張るがバリバリと結界が壊れていく。
どういう状況かと布を取れば、肉塊はトティッシュ・タイプの人形に戻っては形が崩れを繰り返している。

「おいおい。何だよこりゃあ。マジでシャレになんねぇな」

 結界を重ねがけしてはバリンと破られ、ハガネも焦る。
トティッシュの体に白い光が溢れ、体中に魔法陣が浮かんでトティッシュが動くたびにハガネの結界を壊していく。
それは呪詛を媒介とした結界破壊。

「不味い・・・本当に不味い。さっきので魔力ポーションはもうねぇし、グリムレイン急げよ・・・」

 朱里も心配だが、双子が【刻狼亭】で温泉鳥達を治療しに来ている時点でハガネに『撤退』の文字は無い。
失うわけにはいかない。大事な主も主の息子達も今度こそハガネの手の届く範囲で助かる命なら全力を尽くすしかない。

「もういっちょ!【結界】!」

バリン。

「もう1回!【結界】!」

バリン。

「いい加減諦めろっつーの!【結界】!」

バリン。




 何度も繰り返し座敷牢の扉の前で時間はどのくらい経ったかもわからない。
数分にも思えるし、1時間以上にも思える。

「【結界】・・・もう魔力がねぇな・・・」

バリン。

「諦めるか・・・。結構、楽しかったな。アカリ、悪ぃな」

 ハガネが結界を張るのを諦めると、素手でトティッシュの体を止める為に掴む。
じわじわと掴んだ手に黒い染みが広がる様に呪詛がハガネの腕に絡みついて、広がっていく。

『ドラゴンを滅ぼさなくては国が滅びる!』

『ドラゴンを殺さなければ!』

『古の害獣め!』

『ドラゴンを殺せ!』

『殺せ!』

 呪詛が広がる度に激痛と共に声が響く。
ドラゴンを憎む声がうるさく体にがなり立てる。

 ああ、グリムレインが言っていたうるさい声はこれの事か。

『ドラゴンを殺せ!』

『ドラゴンが憎い!』

『呪ってやる!』

「だぁあもう!うるせぇんだよ!!」

 ハガネが激痛で感覚の無くなった腕でトティッシュの首に腕を通し、足をトティッシュの足に絡ませて床に転ばせると、上にのしかかる。
呪詛が体に広がるのは早くはなるが、トティッシュよりハガネの方が体格はいいので抜け出すには苦労するだろう。
いい時間稼ぎにはなる。と、ハガネが自分の体の大きさに魔法使い向きの大きさではなく好きではない身長。
この時ばかりは、でかい体で良かったと思った。

 黒く広がる呪詛の激痛に視界も黒く埋まっていく。

「どうせ、黒なら・・・アカリの、目がいい、な」

ハガネの心に浮かんだのは、小さな黒髪黒目の主、朱里・・・ではなかった。

小さな黒いクリクリとした目の温泉鳥だった。

なんで、ササマキ・・・なんだ・・・?

ハガネの疑問にクリクリの目の温泉鳥を手に取る小さな手が見えた。


『ハガネ。がんばって!』


その声は懐かしい声だった。
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