黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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オマケ話2

300話記念話:リュエールの憂鬱

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 温泉大陸にある【刻狼亭】の16代目当主リュエール・トリニアは若干二十歳で当主の座に就いた。
父親のルーファスが母親の朱里と一緒に隠居暮らしを早々に決め込んでしまったのが原因である。
両親が番同士という事もあってか、幾つになっても両親がイチャイチャとしている。
 
 双子の弟シュトラールは冒険者と【刻狼亭】の手伝いを半々でやっているような感じで、冒険者としての二つ名が【蘇生死】である。なんだそれ?という感じではあるが・・・。
シュトラールは回復魔法を使うのでパーティを組むと死なないらしい。
ただし、戦闘特化型でもあるのでいつも派手に暴れまわり、シュトラールの戦闘に巻き込まれて死にかける事が多い事から、そんな変な二つ名が付いた。

 相変わらずシュトラールは父親譲りの顔に背丈をしていて、母親から「若い頃のルーファスそっくり」とうっとりされては父親にガルガル唸られている。

 双子なのに自分の方はと言えば、母親譲りの顔に母親譲りの背丈のせいで「男装の麗人」という事をよく言われる。母親よりかは背は高いが、平均的に背が高い人々に囲まれているせいで背丈に関してはコンプレックスがある。

 6歳ぐらいから【刻狼亭】を引き継ぐ為の指導は父親のルーファスに仕込まれ、周りの従業員からも16代目らしくあるように先導されていたのもあるので、16代目を受け継いだ時もすんなりと交替したのだ。
自分でもよく癖のある従業員に指示を出しつつ回しているものだと思う。

「ハァー・・・今日も疲れる」
 代々の当主が使っていた部屋の仕事机で腕を伸ばしていたら、部屋のドアがノックされる。
顔を出したのは同じ顔をした双子の少女と無表情な少年。

「リュー兄様。お茶の用意をしてきましたので、お茶にしましょう?」
「リュー兄様。今日のお菓子は私達の自信作ですよ?」
 長いウェーブの黒髪をハーフアップにした双子の妹ミルアとナルアが楽しそうに部屋に入りお茶に誘ってくる。
母親譲りの顔をしていて、とても可愛い自慢の妹達は、最近お菓子作りにハマっていていつもお菓子の甘い香りをさせている。
その甘い匂いのせいで「自分の番だと思う!」と言ってくるバカな男共がよく現れるのには少し困っているところだが。
 
 双子の小柄な妹達には同じ日に生まれた半年だけ一緒に家族として暮らしたミールという名の子供が居た。
そのミールが今は妹達専属の騎士として常に男達から2人を守っている。

 今も2人と一緒に部屋に入ってきている。
昔は小さくて可愛い弟だったのだが、成長するにつれて無口な奴になってしまった。
多分、ミールの父親が不愛想なのが原因だろうと思う。
ミールの両親が礼儀作法と騎士の在り方をミールに叩き込んだらしく、無表情で無口な所を除けばすごく満点な少年だ。


 ミルアとナルアがマドレーヌの乗った皿をミールに差し出して声を揃えて問う。

「「私が作ったのはどーれだ?」」
 
 どれも同じ形で無茶な事を言っている気もするが、ミールは指をスッと指す。

「こっちがミルア、こっちがナルア」

「「正解です!正解したので食べてください!」」

 2人は自分が作った物を手に取りミールに「あーん」と言いながら差し出し、ミールが2つ一遍に口に入れる。
可愛い妹が取られている気もするが、ミールも可愛い弟分ではあるので目をつぶっておく。

「美味しい?ミールまだまだあるよ」
「ミール、今度はこっちのクッキーも食べてくださいな」

 ミルアとナルアがミールの両脇を固めて可愛く笑っている・・・が、兄としては余り面白くはない。
父上も最初は「悪い虫!」と騒いでいたが、母上の「他の男性騎士に2人を任せるより、安心でしょう?」と言われ撃沈した・・・。
 まぁ、確かに他の男に2人を任せるぐらいならば、2人と乳兄妹だった事もあり、騎士の腕は確かなミールの方が安心はできる。何より性格も無口なだけで優しい奴なのだ。

 ガラッと、部屋の窓が開き双子の弟シュトラールがヒョイと身軽に入ってくる。
「こら!シュー、ドアから入ってこい」
「まぁまぁ。あっ、ミル、ナル、何かお菓子作ったの?なになに」
 シュトラールが鼻をひくつかせてミルアとナルアに近寄ると、2人が笑顔でお菓子の皿をシュトラールに差し出す。

「シュー兄様、自信作です。食べてくださいな」
「シュー兄様、おすすめは紅茶を混ぜたクッキーです」
 2人が「あーん」と口を開けるシュトラールにクッキーを放り込んでクスクス笑っている。
「シュー兄様、美味しいですか?」
「シュー兄様、お行儀悪い。ふふっ」
「うん。2人共今日のお菓子も美味しいッ」
 チュッチュッと2人のおでこにキスをしてシュトラールが白い歯を見せて笑い、2人は少し頬を染めながら「シュー兄様は女の子の敵です」とポカポカとシュトラールを叩いている。

 僕、妹達に「あーん」もされてないんだけど・・・何なんだろうね?
この差は・・・まぁ、いいんだけどね?

「あっ、ミール。オレと少し虫退治しにいかない?」
 ミールの片眉が少し上がり、コクリと頷く。
『虫退治』はいわゆるミルアとナルアに寄り付く『悪い虫』で少し性質の悪そうな害虫の名称。
少し前は父上が排除していたが、父上が隠居してからはシュトラールが行っていて、ミールもそれを手伝っている。

「ミルア、ナルア、少し行ってくる」
「ミル、ナル、ミール借りるね」
「シュー兄様、ミールに無茶させないでくださいね」
「シュー兄様、蜂の巣退治でしたらはちみつお願いしますね」
 シュトラールが笑顔でまた窓から出ていくとミールも窓からシュトラールを追って出ていく。

「まったく、ドアから出入りしろと言って居るのに・・・」
「ふふっ、リュー兄様は苦労人ですね。甘いものでも食べて心を落ち着かせるのです」
「美味しいものは全てを救うのです!リュー兄様も救われて下さいな」
 フィナンシェをミルアに口に入れられ、ナルアに紅茶を渡されると少し心がほんわかする。
まぁ、確かに美味しいものはいいよね。うん。

「有り難う。2人も食べなさい」
「ふふ。リュー兄様も女の子の敵なのです」
「甘い物は女の子の味方であり、敵なのです!」
チュッチュッと両頬を妹達にキスをされ、2人は「甘いのはこれで十分なのです」と笑う。

「まったく、そういうの誰に似たのさ?」
「母上です!」
「父上です!」
「本当に困った妹達だな」
「父上とリュー兄様にだけですから安心してくださいな」
「シュー兄様にはナイショですからね?」
 
 やれやれと思いつつも、こうした日常は嫌いじゃないなと目を細める。
ミルアとナルアが鼻歌を歌いながら紅茶を淹れていると、窓から光竜のアルビーが顔を出す。

「ミルア、ナルア、お茶かい?私もごちそうになっていい?」
「まぁ、アルビーいらっしゃい!」
「アルビーも来ると思ってお花を使ったゼリーのババロアもありますよ」
 2人がアルビーの頬にスリ寄って笑うと、アルビーが目を弓なりにして人型を取ると白金の髪をした父ルーファスそっくりの姿になる。

「やっぱりアルビーは父上そっくりなのです」
「カッコイイのです」
「仕方が無いよ。私はルーファスの姿をそのまま模してるだけだからね」
「でも父上に無い雰囲気がアルビーです」
「そうです。アルビーらしさがいいのです」
 お茶を淹れながら2人がアルビーにべったり張り付く。
この2人、とても父上が好き過ぎる節がある。
僕が2人に隠れて「ふぅ」とため息を吐けばアルビーが「元気だしなよリュー」と言ってくるが、今、僕の元気をそぎ落としたのはアルビーだと言いたい。
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