黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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9章

ドラゴン信仰の理由

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 朱里の店のレストランの竜の癒し木の下のテーブルでカレーパンをイルマールとエスタークに出して、1口揚げあんドーナッツをグリムレインの口に入れていく。

「ふふ。ミシリマーフ国のカレーパン人気があるんですよ」

 朱里が笑いながら、グリムレインの口の周りを拭きながら2人に勧めて「グリムレインは辛いの苦手だから甘い方が良いんだよね」と、あんドーナッツを1つ自分の口にも入れる。

「女将、グリムレインと話がしたいのだが、良いだろうか?」
「主、このカレーパン美味しいですよ」
「・・・お前、むぐっ・・・ああ、確かに美味いな」

 イルマールの口にカレーパンを突っ込んでエスタークが指に着いた油を舐めると、朱里が手拭きを渡す。
イルマールが食べ終わるのを見守りながら、グリムレインが氷抹茶を出して、口に入れながらシャクシャク飲み込むと口を開く。

「それで、お前達は我に何の用だ?あの魔術師といいミシリマーフ国は何なのだ?」

 2人はグリムレインがこうも容易く対話をしてくれるとは思って居なかったので少し考える。
対話不成立の時の謝り倒す言葉しか考えていなかったというのが正直なところである。

「南国ミシリマーフでは『冬は神官の祈りが足りなかったからだ』という声もあるぐらいに、グリムレインのもたらす冬は嫌われているのだが、しかし、農作物を駄目にしても、土地を休眠させてより良い実りをもたらしてくれているのも事実で・・・何とか、話し合いでどうにかしてもらえないかと・・・」

「それは無理だな。我が冬に雪をもたらせるのは精霊達が騒ぐからだ」

「精霊・・・ですか?」

「そうだ。そもそも、何故ミシリマーフ国がドラゴンに知恵を借りてドラゴン信仰になったか知っているか?」

 イルマールとエスタークはお互いに目線を合わせて首を振る。
生まれた時から『この国はドラゴンの知恵によって栄えてきた国なんだよ』くらいの知識しかない。

「いえ、神官の息子としては恥ずかしい限りですが、ドラゴンの知恵を借りて発展した国だとしか聞き及んでいません」
「やれやれだな。自分の国の生い立ちや信仰する物の根本を知っておけ」

 グリムレインは遠い記憶を呼び覚ます。
まだ少し緑が溢れる砂漠の土地ミシリマーフを。
キッカケは白虎族のジス家の人間を”彼女”が気に入った事から始まっただろうか?

「ミシリマーフ国がまだ小国家だった頃、ベルデラ大陸のバステト王国がまだ健在して居た頃に遡る。バステトの支配下にならないミシリマーフへ、バステトが仕掛けた魔法は、死に至る魔法。少し前に【病魔】だったか?あれに似ていたな。人は死に、緑は枯れ果て・・・やがて土地に住む精霊が弱り、死の砂漠地帯になり果てた」

「バステト王国・・・随分と古い時代の王国ですね」

 ベルデラ大陸の北東にバステトがあり、南西にあるのがミシリマーフ。
同じ大陸ではあるが、お互いに砂漠地帯の国でしかない。
今は旧バステト王国跡地には遺跡があるぐらいで、遠く離れた同じ大陸と言うだけだ。

 グリムレインはイルマールの唯一残った片耳に目を向けて思い出す。

” グリムレイン、わたしは主君ではなく、友を見つけたの! ”

” 真っ白の可愛い虎の子よ ”

” 生贄の子だったの!可愛くて、つい肩入れしちゃったわ! ”

楽しそうに笑う”彼女”の声がグリムレインの中に蘇る。

 目の前のジス家の息子を見た後で朱里を見る。
あの頃は解らなかった”彼女”の気持ちが今なら解る。
自分も主君を持って、可愛いと肩入れしてしまいたくなるのだから。

「そこでミシリマーフ国の人間がしたことは、1人の女を生贄に捧げて我らドラゴンに解決法の知恵を借りる事だった。それがミシリマーフが我らドラゴンを信仰という名で感謝しを示した事の始まりだ」

「生贄でドラゴンは知恵を授けて下さったのですか?」

「バカを言うな。生贄なんぞ望んでもいない。勝手に用意してきただけだ。だが、我の同胞が生贄の娘を気に入ってな、その娘の為に知恵を授けた。ジス家の初めの娘だ」

 イルマールが驚いた様な顔をするが、グリムレインからしてみれば、自分の始まりの祖先の事を何故知らないのかの方が不思議で仕方がない。

「ジス家・・・おれの家系が代々神官の家系なのもそこに起因しているのでしょうか?」

「そんな事は知らん。だが、同胞はジス家の者にしか知恵を授けないと宣言していたな。まぁ、それがミシリマーフ国のドラゴン信仰の理由だ。あの国の土地は同胞の知恵が無ければ死の砂漠のままだった。今でもあの土地は死に一番近い精霊の悲鳴が酷い場所だ」

「精霊の悲鳴というのはどういうことです?」

「土に水に火に色々な物に精霊が宿っているが、目に見えたり話が出来るものは少ない為に聞こえないのだろうが、あの国は魔力が常に吸い上げられている。だから、我が数年に一度、精霊たちの悲鳴が酷い時だけ我の魔力を宿した雪を降らせていたのだ。それを災害だの何だのと小うるさく言いおって・・・我だって同胞の願いでなければ見捨てておったわ」

 グリムレインが少し不貞腐れたようにツンとそっぽを向けるのを見て、朱里が「グリムレインは優しいから見捨てられなかったんだね」と、笑いながらグリムレインの頬をつつく。

「嫁、それはちと違うぞ」
「ふふ。優しいんだから」

 グリムレインを朱里が腕に抱き寄せながら頭を撫でて頬スリをしている姿をイルマールが見ながら、大事な事を知らずに過ごしてきた事に軽いめまいを起こしていた。

 グリムレインのしてきた事を冬の恵みや土地の休眠ぐらいにしか思って居なかった自分にも、冬の3日間で嘆く人々の物事の知らなさにも、呆れてしまう。
 
 バステト王国が滅びる前から手を貸してもらっているとしたら、このドラゴンは何百年ミシリマーフ国の大地に自分の魔力を降らせていたのだろう?

「なんだジス家の息子。我に何か言いたいのか?」

傍と目が合うと、グリムレインがイルマールに金色の凪いだ目で見つめ返してくるのだった。
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