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9章
邪竜
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南国ミシマリーフから来た魔術師トティッシュ・タイプが突然狂ったとしか思えなかった。
驚いた表情から、いきなり血走った目になり豹変した様に叫び始めた。
「この邪竜め!神官の息子に言われて私を殺しに来たのだな!」
いきなり訳の分からない事を叫び、邪竜扱いである。
グリムレインがポカンとくちを開けなかったのを褒めてほしいぐらいだ。
「やはり国王陛下たちが言っていた国を滅ぼす邪教は邪竜を操る力を持っていたのだ!」
「なぁ?お前は先ほどから何を言っているのだ?我は氷竜だ邪竜ではない」
目の血走った魔術師は話を聞かず、狂ったようにグリムレインは「邪竜」と口を開くたびに喚かれた。
座敷牢の外で少し様子を見ていたハガネ達も「これ以上は話にならないな」と、座敷牢の中に入り、グリムレインに外に出る様に言った。
「この邪竜め!呪詛で呪われて朽ち果てればいい!」
魔術師が言った言葉にグリムレインが眉根を寄せて魔術師の開いた口を見る。
ガコガコガコと、音がすると、魔術師の口の中は氷が顎が外れるまで入った。
「コラ!グリムレインやめろ!話を聞きださないといけねぇんだから!」
「しかし、我はそいつ、嫌いだ」
「俺もこんな狂った奴好きじゃねぇよ」
ハガネに止められて仕方がなく魔術師の口の中の氷を消して、グリムレインは朱里の待つ店へ帰っていった。
グリムレインを魔術師の男に合わせて動揺して何か口走るかと思って居たら、口走ったのは訳の分からない叫びに似た妄信を口走っただけだった。
しかし、これが真実に近い話なのかもしれないとハガネは思う。
「やれやれ、こりゃ・・・洗脳でもされてんのかねぇ?」
ハガネの面倒くさそうな声が座敷牢にボソリと響いた。
*************
ムスッとした顔でグリムレインが朱里の頭の上に顎を乗せてため息を吐く。
「グリムレイン、仕方が無いよ。会話にならない人っているもの」
「我は邪竜ではない」
「よしよし、グリムレインは氷竜だよ。夏は涼しく、冬は寒いのを遮ってくれる良い子だよ」
「嫁は我を子供扱いするのか?今日は我は冷や飯が食べたい」
「ふふ。冷やし茶漬けだね。わかったよー」
ミシリマーフ国の魔術師に「邪教徒の邪竜め!」等、散々言われ、途中で本気で一捻りにしてやろうかと思ったら、ハガネに「まだ聞き出すことがあるから駄目だ」と言われ、「我は傷ついたー!」と、朱里に泣きついているグリムレインなのである。
朱里が手のかかる子供をあやす様にグリムレインに接し、店の接客をしている。
お客さんの邪魔にならないように30cm程の小ささのドラゴンになっているので、傍から見れば「あの人ドラゴンの形の氷を頭に乗せてる?!」と、見えるので一瞬だけお客を驚かせることが出来る。
「ミッカジュース売り切れまで後3本です!はーい。お買い上げありがとうございます!完売いたしましたー!」
「紅茶のセット購入のお客様には今なら可愛い『温泉鳥の扇子チャーム』が付いていますよ。ええ、扇子にこの様に付けていただける物で、若い方に今人気です」
「お持ち帰りのカレーパン15個です。小さな火で食べる前に少し炙るとカリカリとした触感になりますよ」
店内で朱里とリロノスと刻狼亭から派遣された従業員がせわしなく声を出して動き回っている。
「嫁よー。我も何か手伝うか?」
「んーっ、ならお客さんのコップの氷をサービスして。今日は暑いから」
カロンカロンカロンと、店のレストラン部分で小さな氷の音がして、グリムレインがサービスついでに店内に冷気を流していく。
「グリムレイン、お利口さん!」
「やはり、我の嫁が一番、我を慰めるのが上手い」
グリムレインに頭にスリスリされて髪が少し乱れるが、よしよしとグリムレインの背中を手でポンポンと優しく叩き、「閉店まであと1時間!ラストオーダーに入ります!」と、声を出してレストランの受付に『15時ラストオーダー』と札を出しておく。
朱里の店は16時まで。
16時以降は店を閉めて17時まで次の日の用意をして解散という形なので割りと早めに閉める。
森の中にある為に夏場はともかく冬場は16時過ぎると暗くなるからと、お客さんに配慮した形となっている。
最近は【刻狼亭】の新店舗ではなく、『女将亭』と呼び名が付いている為に何となく『女将亭』で定着しつつある。
「さて、あともうひと踏ん張り頑張ろー!」
「嫁は働き者だ。うむ。我が誉めてやろう」
「ふふ。ありがとう」
朱里の頭の上でグリムレインが朱里の頭を小さな手でカシカシと撫でると余計に髪の毛がモサっとなった朱里が苦笑いする。
「女将、その頭に乗っているのは氷竜グリムレインか?」
朱里が声のする方を向けば、イルマールが白いロングシャツに黒いズボン姿でエスタークと共に立っていた。
「そうですよ。イルマールさん、体の方はもう大丈夫ですか?」
「むっ。ミシリマーフ国のジス家だな」
グリムレインがイルマールの耳を見ながら、難なくイルマールが何者かを把握する。
「はい。私はミシリマーフ国の神官テルトワイト・ジスの息子、イルマール・ジスです」
「ドラゴン・ハーフが従者なのか?神官の息子なのに茨の道を選ぶやつだの」
グリムレインは半目になりながら、「ドラゴン信仰のある国でよくドラゴン・ハーフが生きてこれたものだな」と朱里の頭の上から降りると、エスタークにフーッと、細雪の様な氷を口から出し吹き付けていく。
「これで少しはドラゴン・ハーフ臭くはなくなるだろう。アルビーに見つかるとうるさいからの」
グリムレインが再び朱里の頭の上に戻ると朱里がグリムレインの頭を撫でる。
「イルマールさん、うちの店でミシリマーフのスパイスで作ったお料理があるので召し上がっていってくださいな」
イルマールとエスタークを庭のレストランに案内しながら朱里がグリムレインと楽しそうに喋っている。
「エスターク。氷竜は意外と喋るみたいだな」
「ええ。ドラゴン・ハーフを見ても激高しませんしね」
「おれは人嫌いのドラゴンなのだと思って居た」
「主に同感です」
ミシリマーフ国で『氷竜グリムレインは対話の出来ないドラゴン』説はガラガラと崩れていった。
驚いた表情から、いきなり血走った目になり豹変した様に叫び始めた。
「この邪竜め!神官の息子に言われて私を殺しに来たのだな!」
いきなり訳の分からない事を叫び、邪竜扱いである。
グリムレインがポカンとくちを開けなかったのを褒めてほしいぐらいだ。
「やはり国王陛下たちが言っていた国を滅ぼす邪教は邪竜を操る力を持っていたのだ!」
「なぁ?お前は先ほどから何を言っているのだ?我は氷竜だ邪竜ではない」
目の血走った魔術師は話を聞かず、狂ったようにグリムレインは「邪竜」と口を開くたびに喚かれた。
座敷牢の外で少し様子を見ていたハガネ達も「これ以上は話にならないな」と、座敷牢の中に入り、グリムレインに外に出る様に言った。
「この邪竜め!呪詛で呪われて朽ち果てればいい!」
魔術師が言った言葉にグリムレインが眉根を寄せて魔術師の開いた口を見る。
ガコガコガコと、音がすると、魔術師の口の中は氷が顎が外れるまで入った。
「コラ!グリムレインやめろ!話を聞きださないといけねぇんだから!」
「しかし、我はそいつ、嫌いだ」
「俺もこんな狂った奴好きじゃねぇよ」
ハガネに止められて仕方がなく魔術師の口の中の氷を消して、グリムレインは朱里の待つ店へ帰っていった。
グリムレインを魔術師の男に合わせて動揺して何か口走るかと思って居たら、口走ったのは訳の分からない叫びに似た妄信を口走っただけだった。
しかし、これが真実に近い話なのかもしれないとハガネは思う。
「やれやれ、こりゃ・・・洗脳でもされてんのかねぇ?」
ハガネの面倒くさそうな声が座敷牢にボソリと響いた。
*************
ムスッとした顔でグリムレインが朱里の頭の上に顎を乗せてため息を吐く。
「グリムレイン、仕方が無いよ。会話にならない人っているもの」
「我は邪竜ではない」
「よしよし、グリムレインは氷竜だよ。夏は涼しく、冬は寒いのを遮ってくれる良い子だよ」
「嫁は我を子供扱いするのか?今日は我は冷や飯が食べたい」
「ふふ。冷やし茶漬けだね。わかったよー」
ミシリマーフ国の魔術師に「邪教徒の邪竜め!」等、散々言われ、途中で本気で一捻りにしてやろうかと思ったら、ハガネに「まだ聞き出すことがあるから駄目だ」と言われ、「我は傷ついたー!」と、朱里に泣きついているグリムレインなのである。
朱里が手のかかる子供をあやす様にグリムレインに接し、店の接客をしている。
お客さんの邪魔にならないように30cm程の小ささのドラゴンになっているので、傍から見れば「あの人ドラゴンの形の氷を頭に乗せてる?!」と、見えるので一瞬だけお客を驚かせることが出来る。
「ミッカジュース売り切れまで後3本です!はーい。お買い上げありがとうございます!完売いたしましたー!」
「紅茶のセット購入のお客様には今なら可愛い『温泉鳥の扇子チャーム』が付いていますよ。ええ、扇子にこの様に付けていただける物で、若い方に今人気です」
「お持ち帰りのカレーパン15個です。小さな火で食べる前に少し炙るとカリカリとした触感になりますよ」
店内で朱里とリロノスと刻狼亭から派遣された従業員がせわしなく声を出して動き回っている。
「嫁よー。我も何か手伝うか?」
「んーっ、ならお客さんのコップの氷をサービスして。今日は暑いから」
カロンカロンカロンと、店のレストラン部分で小さな氷の音がして、グリムレインがサービスついでに店内に冷気を流していく。
「グリムレイン、お利口さん!」
「やはり、我の嫁が一番、我を慰めるのが上手い」
グリムレインに頭にスリスリされて髪が少し乱れるが、よしよしとグリムレインの背中を手でポンポンと優しく叩き、「閉店まであと1時間!ラストオーダーに入ります!」と、声を出してレストランの受付に『15時ラストオーダー』と札を出しておく。
朱里の店は16時まで。
16時以降は店を閉めて17時まで次の日の用意をして解散という形なので割りと早めに閉める。
森の中にある為に夏場はともかく冬場は16時過ぎると暗くなるからと、お客さんに配慮した形となっている。
最近は【刻狼亭】の新店舗ではなく、『女将亭』と呼び名が付いている為に何となく『女将亭』で定着しつつある。
「さて、あともうひと踏ん張り頑張ろー!」
「嫁は働き者だ。うむ。我が誉めてやろう」
「ふふ。ありがとう」
朱里の頭の上でグリムレインが朱里の頭を小さな手でカシカシと撫でると余計に髪の毛がモサっとなった朱里が苦笑いする。
「女将、その頭に乗っているのは氷竜グリムレインか?」
朱里が声のする方を向けば、イルマールが白いロングシャツに黒いズボン姿でエスタークと共に立っていた。
「そうですよ。イルマールさん、体の方はもう大丈夫ですか?」
「むっ。ミシリマーフ国のジス家だな」
グリムレインがイルマールの耳を見ながら、難なくイルマールが何者かを把握する。
「はい。私はミシリマーフ国の神官テルトワイト・ジスの息子、イルマール・ジスです」
「ドラゴン・ハーフが従者なのか?神官の息子なのに茨の道を選ぶやつだの」
グリムレインは半目になりながら、「ドラゴン信仰のある国でよくドラゴン・ハーフが生きてこれたものだな」と朱里の頭の上から降りると、エスタークにフーッと、細雪の様な氷を口から出し吹き付けていく。
「これで少しはドラゴン・ハーフ臭くはなくなるだろう。アルビーに見つかるとうるさいからの」
グリムレインが再び朱里の頭の上に戻ると朱里がグリムレインの頭を撫でる。
「イルマールさん、うちの店でミシリマーフのスパイスで作ったお料理があるので召し上がっていってくださいな」
イルマールとエスタークを庭のレストランに案内しながら朱里がグリムレインと楽しそうに喋っている。
「エスターク。氷竜は意外と喋るみたいだな」
「ええ。ドラゴン・ハーフを見ても激高しませんしね」
「おれは人嫌いのドラゴンなのだと思って居た」
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