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9章
隠し通路
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___5年半前。
南国ミシリマーフの神殿でテルトワイト・ジスと息子のイルマールは嫌な噂を聞いた。
『魔国の【聖女】アリス・シノノメが亡くなった』
【病魔】で弱り果てた体を【刻狼亭】の若女将の『復興祈願ミッカジュース』で治してもらい、若女将の目を治療したところ、魔国の【聖女】を紹介してもらい、『呪詛』を魔国の【聖女】に取り除いてもらった。
恩義のある人物の死に直ぐさま情報が確かなのかを『情報屋』のギルド員である小鬼に確認したところ、温泉大陸に行く途中で海賊に襲われ亡くなったと聞かされた。
遺体は温泉大陸で埋葬され葬儀もしめやかに行われたらしい。
せめて葬儀に参列ぐらいはしたかったのだが、神官という立場上、早々神殿から出る事も出来ず、神殿内で祈りをささげるぐらいだった。
「主、いい加減諦めて帰りませんか?」
「主は諦める脳みそを何処かに忘れてきたのか?」
失礼なことを右側と左側から言ってくる従者にイルマールが「黙ってろ!」と怒ると、右側の赤い髪の従者エスタークが「主のバカにまた付き合わされるのか」と言い、左側の青髪の従者ダリドアが「我らは本当に仕える主を間違えた」と言う。
「おれはお前等の主だよな?!」
「残念ながらそうだな」
「不憫な我らに謝るといい」
とても性格のいい従者2人はイルマールの頭の上に肘を乗せながら、イルマールが見ている方向を見て眉を顰める。
イルマールの父であり、この神殿の神官テルトワイトが一緒にいる人物ジャガール・リンデルがあまり好ましくない人物なので余計に従者2人は眉を顰めて、肘をより一層、主君であるはずのイルマールの頭に食い込ませていった。
そして、べっしゃりと2人の重さに潰れたイルマールが床に倒れると2人は「主なにやってんですかー」と声を合わせる。
「痛いってば!お前等、いい加減にしろ!」
「主、見つかる。大声を出すな!」
「主は状況をちゃんと見ろ!」
神殿の柱の陰で3人が騒いでいると、柱の前をジャガールが通り過ぎて行った。
3人はジャガールに見つからないように息を殺してジッと身動きせずに部屋から出ていくまで見送った。
ジャガールが部屋から出ていくと、我先にとテルトワイトの所へ駆け寄る。
「父上!大丈夫でしたか?」
「テルトワイト様大丈夫ですか?!アイツに変な事されませんでしたか?!」
「テルトワイト様ご無事ですか?アイツ1回絞めてきましょうか?!」
テルトワイトが困ったような顔で笑うとイルマールの頭を撫でる。
「駄目ですよ?大声で人を悪く言っては」
テルトワイトの言葉に従者2人も頷く。
「「そうだぞ!主!!」」
「だから!なんでおれなんだよ?!」
いつものやりとりをしながら、神殿内で笑ってテルトワイトと一緒に神殿の奥にあるドラゴンの彫像の前に行き、【聖女】の冥福を祈り、平和な世界が続く様に祈り、この穏やかな日常に感謝の祈りを捧げた。
ミシリマーフ国はドラゴンを信仰する国。
神殿の神官のテルトワイトは知恵のドラゴン達の声を聞いて神託を出すと言われているが、実際、ドラゴン達は信託などは出さない。
ドラゴンは会話が可能な生物なので知恵が借りたければ、会話をすればいいだけで、テルトワイトは会話をしているだけなのだ。
ただし、これはテルトワイトの家系ジス家の血統で引き継がれている能力で秘匿されている。
過去に死んだ1匹のドラゴンの声を聞く能力。
悪用を避ける為にも息子のイルマールさえ知らない能力でイルマールが成人を迎えた時に教えるべき事。
「父上、ジャガールは何をしにここへ?ジャガールが神殿に来るなんて天変地異の前触れですか?」
「こらこら。あの人もミシリマーフの国民なのだから神殿に来る事ぐらいありますよ」
「でも、ジャガールは神殿を嫌っているじゃないですか?」
「まぁ彼にも色々あるからね。それよりもイルはどうして神殿に?」
「うっ!あのーその・・・」
「勉強の日だったはずですが、エスターク、ダリドアどういう事かな?」
イルマールが言葉に詰まると、性格のいい従者2人はアッサリとイルマールを裏切る。
「主が勉強をサボり、神殿の抜け道探しにきました!」
「主が勉強からの抜け道を探しにきました!」
「あっ!お前等言うなよ!」
「「我らは主の父君には逆らえない」」
「お前等の主はおれだよな?!」
昔、自分達の祖先がドラゴンの知恵を得る為にドラゴンの卵を食べた事でドラゴン信仰のあるミシマリーフでは爪弾きに遭っている2人に手を差し伸べたのは、ドラゴン信仰の神殿の神官テルトワイトで、彼らを差別なく受け入れてくれたのはイルマール。
彼らにとってテルトワイトは恩人でイルマールは自分達を否定しない大事な主君。
軽口は叩いても裏切ることなど有り得はしない。
少し、正直すぎてイルマールを追い詰めることは多々あるが。
「神殿の隠し通路はこのドラゴンの彫像の下ですよ」
「はっ?父上!」
「え?テルトワイト様教えたらいけない!」
「ふぁっ!主は今すぐ忘れるといい!」
テルトワイトは何でもない事の様にイルマールに隠し通路を教えると、クスクス笑う。
「大丈夫。この隠し通路はこの彫像を壊さないと使えませんから」
「えー・・・無理じゃないですか」
「主、諦めろ」
「主には無理だな」
4メートルはあるドラゴンの彫像を見上げてイルマールはガクリと首をうなだれ、従者2人はイルマールの肩に手をポンッと置き首を振りながら笑う。
___5年半後、現在。
ミシマリーフの神殿の奥に崩れ去ったドラゴンの彫像の下に小さな隙間が見え、長く暗い階段が見える。
二つの影が松明を階段の中に放り込んで中を覗き込む。
「隠し通路が使われた様です」
「やはり、ジス家の人間は逃げ出していたようですね」
2人は踵を返すと神殿の奥から出ていく。
「どういたしますか?神官ジャガール」
「探し出せ」
南国ミシリマーフの神殿でテルトワイト・ジスと息子のイルマールは嫌な噂を聞いた。
『魔国の【聖女】アリス・シノノメが亡くなった』
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恩義のある人物の死に直ぐさま情報が確かなのかを『情報屋』のギルド員である小鬼に確認したところ、温泉大陸に行く途中で海賊に襲われ亡くなったと聞かされた。
遺体は温泉大陸で埋葬され葬儀もしめやかに行われたらしい。
せめて葬儀に参列ぐらいはしたかったのだが、神官という立場上、早々神殿から出る事も出来ず、神殿内で祈りをささげるぐらいだった。
「主、いい加減諦めて帰りませんか?」
「主は諦める脳みそを何処かに忘れてきたのか?」
失礼なことを右側と左側から言ってくる従者にイルマールが「黙ってろ!」と怒ると、右側の赤い髪の従者エスタークが「主のバカにまた付き合わされるのか」と言い、左側の青髪の従者ダリドアが「我らは本当に仕える主を間違えた」と言う。
「おれはお前等の主だよな?!」
「残念ながらそうだな」
「不憫な我らに謝るといい」
とても性格のいい従者2人はイルマールの頭の上に肘を乗せながら、イルマールが見ている方向を見て眉を顰める。
イルマールの父であり、この神殿の神官テルトワイトが一緒にいる人物ジャガール・リンデルがあまり好ましくない人物なので余計に従者2人は眉を顰めて、肘をより一層、主君であるはずのイルマールの頭に食い込ませていった。
そして、べっしゃりと2人の重さに潰れたイルマールが床に倒れると2人は「主なにやってんですかー」と声を合わせる。
「痛いってば!お前等、いい加減にしろ!」
「主、見つかる。大声を出すな!」
「主は状況をちゃんと見ろ!」
神殿の柱の陰で3人が騒いでいると、柱の前をジャガールが通り過ぎて行った。
3人はジャガールに見つからないように息を殺してジッと身動きせずに部屋から出ていくまで見送った。
ジャガールが部屋から出ていくと、我先にとテルトワイトの所へ駆け寄る。
「父上!大丈夫でしたか?」
「テルトワイト様大丈夫ですか?!アイツに変な事されませんでしたか?!」
「テルトワイト様ご無事ですか?アイツ1回絞めてきましょうか?!」
テルトワイトが困ったような顔で笑うとイルマールの頭を撫でる。
「駄目ですよ?大声で人を悪く言っては」
テルトワイトの言葉に従者2人も頷く。
「「そうだぞ!主!!」」
「だから!なんでおれなんだよ?!」
いつものやりとりをしながら、神殿内で笑ってテルトワイトと一緒に神殿の奥にあるドラゴンの彫像の前に行き、【聖女】の冥福を祈り、平和な世界が続く様に祈り、この穏やかな日常に感謝の祈りを捧げた。
ミシリマーフ国はドラゴンを信仰する国。
神殿の神官のテルトワイトは知恵のドラゴン達の声を聞いて神託を出すと言われているが、実際、ドラゴン達は信託などは出さない。
ドラゴンは会話が可能な生物なので知恵が借りたければ、会話をすればいいだけで、テルトワイトは会話をしているだけなのだ。
ただし、これはテルトワイトの家系ジス家の血統で引き継がれている能力で秘匿されている。
過去に死んだ1匹のドラゴンの声を聞く能力。
悪用を避ける為にも息子のイルマールさえ知らない能力でイルマールが成人を迎えた時に教えるべき事。
「父上、ジャガールは何をしにここへ?ジャガールが神殿に来るなんて天変地異の前触れですか?」
「こらこら。あの人もミシリマーフの国民なのだから神殿に来る事ぐらいありますよ」
「でも、ジャガールは神殿を嫌っているじゃないですか?」
「まぁ彼にも色々あるからね。それよりもイルはどうして神殿に?」
「うっ!あのーその・・・」
「勉強の日だったはずですが、エスターク、ダリドアどういう事かな?」
イルマールが言葉に詰まると、性格のいい従者2人はアッサリとイルマールを裏切る。
「主が勉強をサボり、神殿の抜け道探しにきました!」
「主が勉強からの抜け道を探しにきました!」
「あっ!お前等言うなよ!」
「「我らは主の父君には逆らえない」」
「お前等の主はおれだよな?!」
昔、自分達の祖先がドラゴンの知恵を得る為にドラゴンの卵を食べた事でドラゴン信仰のあるミシマリーフでは爪弾きに遭っている2人に手を差し伸べたのは、ドラゴン信仰の神殿の神官テルトワイトで、彼らを差別なく受け入れてくれたのはイルマール。
彼らにとってテルトワイトは恩人でイルマールは自分達を否定しない大事な主君。
軽口は叩いても裏切ることなど有り得はしない。
少し、正直すぎてイルマールを追い詰めることは多々あるが。
「神殿の隠し通路はこのドラゴンの彫像の下ですよ」
「はっ?父上!」
「え?テルトワイト様教えたらいけない!」
「ふぁっ!主は今すぐ忘れるといい!」
テルトワイトは何でもない事の様にイルマールに隠し通路を教えると、クスクス笑う。
「大丈夫。この隠し通路はこの彫像を壊さないと使えませんから」
「えー・・・無理じゃないですか」
「主、諦めろ」
「主には無理だな」
4メートルはあるドラゴンの彫像を見上げてイルマールはガクリと首をうなだれ、従者2人はイルマールの肩に手をポンッと置き首を振りながら笑う。
___5年半後、現在。
ミシマリーフの神殿の奥に崩れ去ったドラゴンの彫像の下に小さな隙間が見え、長く暗い階段が見える。
二つの影が松明を階段の中に放り込んで中を覗き込む。
「隠し通路が使われた様です」
「やはり、ジス家の人間は逃げ出していたようですね」
2人は踵を返すと神殿の奥から出ていく。
「どういたしますか?神官ジャガール」
「探し出せ」
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