黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
216 / 960
9章

ミシリマーフ国とグリムレイン

しおりを挟む
 南国ミシリマーフは冬が3日あるだけの夏だけの国。

その冬の3日も氷竜グリムレインが気まぐれにミシリマーフの上空を飛んだ時だけ訪れる偶然の冬。

 グリムレインが訪れると大量の雪と氷に閉ざされ、ただでさえ砂漠ばかりのミシリマーフでは農作物が育つのは厳しく、それが全滅させられてしまう事もあった。

 人懐っこいドラゴン達は対話によって事情を顧みてくれるが、グリムレインは普通に飛んでいるだけ、通り過ぎるだけのドラゴンなので対話の機会などない。

 しかも、グリムレインは冬場しか姿を現さないドラゴンで冬以外は人を寄せ付けない氷山の奥深くで寝ていたり、氷に閉ざされた海底深くで寝ていたりと、ランダムに寝床を変える厄介なドラゴン。

 いつ何処に飛んで来るかも分からない相手に話し合い等出来る筈がない。

 極めつけはドラゴン特有の瀕死になると卵還りしてしまい、新しい体になって記憶を引き継ぎ報復に来るので退治するという事も出来ない。

 ドラゴン信仰をしているミシリマーフ国にとって、グリムレインは非常に頭の痛い問題だった。
ドラゴンが天災をもたらすのだから、たまったものではない。

 神殿の神官テルトワイトの所にもグリムレインが冬をもたらした年は「神官は祈りを捧げていなかったのか!」等苦情が来る。

「あいつ等身勝手ですよね。氷竜が居るから冬があるのに、無かったら夏しかないじゃないか」

 イルマールが3年ぶりの雪に苦情を言いに来た人間が帰っていく姿に舌を出しながら文句を言うと、テルトワイトは「悪口は駄目ですよ」とたしなめる。

「氷竜様は何も考え無しで冬を運んでいるわけじゃないんですよ?」
「そうですか?規則性は無いような気がしますけど・・・」
「イル、氷竜様が来た年は作物は駄目になってしまうけれど、土地自体が弱り切っているのを氷竜様の雪水で水分を含ませて1年休ませて土地の回復をしてくれているんですよ」
「そうなのですか?やはりドラゴンは知恵の塊なのですね」

 イルマールが父上は凄いと目を輝かせてテルトワイトを見上げて笑うと、テルトワイトもその笑顔に目を細めてイルマールの頭を撫でて幸せそうに微笑むのだった。


 しかし、作物問題は作物を製作している方にとってはたまったものではない。
氷竜グリムレインが土地を休眠させなくても、魔法と肥料で問題は解決していけると研究も進んでいる。


『もう古いドラゴン達の力も知恵も要らない』


そんな声が国民から上がり始め、ドラゴン信仰のミシリマーフ国でも信仰は揺らいできていた。

 テルトワイトとしてはそれはそれで構わないが、今までドラゴンの力や知識を借りておいて、用が済めば不要だ迷惑だと言うのは違うと思って居る。

 不穏な動きがあったのは【病魔】騒ぎがあった時だった。

氷竜を倒す為の王家直下の魔術師部隊が結成されたという。
魔法反射をする『カーバンクルの石』が手に入り、氷竜が居る場所もわかっている今が好機だというのだ。

 テルトワイトは神官として止めなくてはいけなかったが、【病魔】で体が蝕まれ病床の床についていた。
【病魔】が終息すると、体を癒す為にお忍びで温泉大陸にイルマールと従者のエスタークとダリドアを連れて温泉大陸へ行ったのだった。

 そこで光竜のアルビーと黒竜のネルフィームを怒らせてしまったが、【刻狼亭】の女将の朱里の治療をした事で当主のルーファスから魔国への手引きと、温泉大陸へ10年は入国できる通行証を発行された。

 魔国で【聖女】東雲ありすに持てなされた。

「呪い掛かってるっしょ?そんなんじゃ治る物も治らないっしょ!」

 そう言って【聖女】ありすが病魔に混じり呪詛がある事を見抜き、浄化魔法で呪詛を取り除き、テルトワイトの体は完全に治った。

 息子のイルマールですら『神眼』で見抜けなかった呪詛を見破ったのは、【聖女】ありす的には偶然だったらしいが、テルトワイトの命の恩人になっていた。

 ただ、自分が巧妙な呪詛を掛けられた事にミシリマーフの国内で神官の自分を消したい人間が居るのは確かなのだとも悩みもした。
ミシリマーフに戻り、自分を狙う人間に気を付けなくては・・・そう思いながら日々を過ごしていた。


冬の時期になり、氷竜グリムレインがミシリマーフの上空を飛んだ。


 その冬は雪などと言う可愛いものではなかった。
土地を休眠させる理由などではなく、吹雪で全てを凍らせていく様に荒れ狂った冬をもたらせたのだった。

 神殿には【病魔】でただでさえ多くの人が亡くなり、人々が疲弊しているところへ、この猛吹雪。
嘆き悲しみ怒り狂った人々が押し寄せた。

【病魔】の傷が癒えない人々の恐怖と悲しみと怒りが自分達に向いてしまったのだと、思うよりほかに理由は見付からなかった。


 それから暫くして【聖女】ありすの死亡の情報が届き、ありすの冥福を祈る日々が続いていた。

 1年の間にドラゴンを信仰する人々の少なくなった事で神殿は閑散とするようになっていた。

 そして、また『呪詛』が掛けられていたことに気付く。
治ったはずの体が弱り、皮膚が黒ずみ寝込むことが多くなり、元気だったイルマールも寝込むようになった。
護符で呪詛を取り払うものの、新たな呪詛に掛けられ、このままではいけないと、ミシリマーフから脱出する準備を進めていた。

 
 「人々に今まで偽りを教え広めた邪教徒め!」


 そんな言葉を吐かれる日々にテルトワイト達も少し疲れていたのだと思う。
夜遅くに神殿に人の気配がし、きな臭い匂いにイルマールがテルトワイトの寝室へ従者2人を連れて駆け込んだ時、黒いローブ姿の王家直下の魔術師部隊がテルトワイトを囲んでいた。

 従者2人が応戦し、神殿の中をテルトワイトとイルマールは逃げた。
神殿は炎に巻かれ、従者2人と合流した時には逃げ場はもう神殿の奥にある竜の彫像の場所しかなかった。


「主、こうなったらここしかないですよ!」
「主、我らは主を最後まで逃がす為に尽力する!心配無用だ!」


いつもは軽口ばかりで主君を主君扱いしない従者達がイルマールにそんな言葉を吐いてドラゴンの彫刻に手を掛けた。









*感想でお話のネタを貰ったので使わせていただきました~。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。