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9章
置手紙
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夜中に通行門の書類の山を漁るハガネに門番がここ1ヶ月の出入りした人間の書類を追加していく。
ハガネが片目を開いて1枚の書類をピンッと弾く。
「偽造の通行証明書があんぞ・・・って、これ【風雷商】の抜き打ち偽造書類かよ!」
「あっ、ありましたか?今回のなかなかに巧妙で探し出せなかったんですよ」
ハァー・・・と、ハガネが溜息を吐きながらも、こうして抜き打ちで偽造書類を紛れ込ませてくれているおかげで偽造書類を見抜くこちらの目も訓練されているので助かるには助かるが、確実に1人【風雷商】の人間が温泉大陸に居るという事だ。
「この書類の人間をちゃんとおもてなししておけよ。旦那の面子を潰さねぇ為にもな」
「了解です。それにしても書類多いですよね」
「それだけ人が出入りしてるって事だな。とっ、あったあった」
ハガネが古びた書類を取り出すと門番はいぶかし気な顔をする。
「その書類、随分と古くないですか?」
「ああ、これは10年は許可が下りる信頼関係のある奴に出されてる許可証の書類だからだ」
「へぇー。その人物は信頼されてるって事ですね」
「んー、どうだろうな。アカリが世話になったから発行されたってだけだからな。まぁ、俺はこれ貰って行くぜ。仕事頑張れよ」
「ハガネさんも仕事頑張って下さい」
「おう。じゃあな!」
ハガネが懐に許可証の書類を入れ込み、通行門から出ると人気のなくなった夜中の温泉街に小さな影がコロコロと転がっていく。
「アゴー!」
「アゴゴーゴ」
「お前等は夜中元気だよな・・・寝ぼけて昼間に崖から飛ぶなよ」
「アゴゴー」
温泉鳥達が間欠泉の森を出て温泉街の町中を転がり体を綺麗にしている・・・と、鳥類学者が言っていたが、ただ遊びまわっている様にも見える行動をしながら、転がって温泉街の道に転がっているゴミを拾っては温泉街の道に設置してある小さな箱に入れ込んでいく。
温泉鳥がゴミを拾い集めて遊んでいたのを見たハガネと朱里が、箱にゴミを入れたら餌が出るという仕掛けの箱を試しに作ったところ、温泉鳥達が覚えていき、今では真夜中の清掃員の様になっている。
この設置箱は朱里が店で売っている温泉鳥のぬいぐるみやアクセサリーの売り上げで【風雷商】にちゃんとした物を作ってもらい、餌は日々の売上金から補充されている。
朱里としては温泉街にゴミをポイ捨てしないで欲しいと思っているが、なかなかに無くならない問題なので今後も設置箱は続けていくらしい。
「ふぁー・・・っと、流石に俺も眠ぃな」
欠伸を噛み殺しながらハガネが海岸に戻り、結界を張っていた洞窟に問題が無いのを確かめると洞窟の中に入っていく。
リュエールとシュトラールが持ち込んだ冬用の枕やクッションを背に丸まる様にイルマールが寝ていた。
ハガネが近付くとバッとイルマールが起き上がり、身を守ろうと身構えるが、ハガネを見て肩の力を抜く。
「お前の従者が温泉大陸に入ってる事を確認してきたぜ」
ハガネが懐から通行証明書を取り出してイルマールに手渡す。
書類を見ながらイルマールが書類を握り、目から涙を溢れださせると「会いたい」と泣き肩を震わせた。
「まぁ、【刻狼亭】の宿舎に行こうぜ?夏っていっても体に悪い。お前の状態もひでぇしな。一応ここに書置きでもして、お前の従者だけがわかる言葉を書いておけばいいだろう?」
「しかし・・・エスタークに何と書けばいいのか・・・」
「なら、あれだ。俺等が最後に会った小料理屋があっただろ?待ち合わせをそこにして、小料理屋の店主にエスタークが来たら【刻狼亭】に連絡を入れてくれる様に頼んでおけばいい」
ハガネが半紙を出し、イルマールが文字を書いていく。
『待ち合わせは温泉大陸の恩人と最後に会った場所にする。おれは無事』
半紙の上に石を置き、双子が持ち出した荷物を隅の方に片付けると、ハガネがイルマールを連れて洞窟を出ると、イルマールが足を引きずりながら歩くのを見て、ハガネがイルマールを担ぎ上げる。
「うわぁ!あの、下ろしてもらいたいんだが?!」
「俺は早く帰って眠りてぇんだよ。ちゃちゃっと宿舎にお前を送り届けてぇ。わかったら黙ってろ」
「・・・すまない・・・」
イルマールが静かになると、ハガネが足早に温泉街に戻っていく。
ハガネが【刻狼亭】の宿舎に着くと寝静まった宿舎の中にあるハガネが使っていた今は空き部屋になっている部屋にイルマールを通し、布団を出して「朝また来るから寝とけ」と、言い残しハガネはサッサッと出ていく。
部屋に残されたイルマールは久々の柔らかい布団にホッと息をつく。
「エスターク・・・何処にいるんだ・・・」
不安はあるが、自分の従者がこの温泉大陸に居る。
今は休んで合流しなくてはいけない。そう思い、布団に潜り込むと睡魔は直ぐに訪れた。
ハガネが片目を開いて1枚の書類をピンッと弾く。
「偽造の通行証明書があんぞ・・・って、これ【風雷商】の抜き打ち偽造書類かよ!」
「あっ、ありましたか?今回のなかなかに巧妙で探し出せなかったんですよ」
ハァー・・・と、ハガネが溜息を吐きながらも、こうして抜き打ちで偽造書類を紛れ込ませてくれているおかげで偽造書類を見抜くこちらの目も訓練されているので助かるには助かるが、確実に1人【風雷商】の人間が温泉大陸に居るという事だ。
「この書類の人間をちゃんとおもてなししておけよ。旦那の面子を潰さねぇ為にもな」
「了解です。それにしても書類多いですよね」
「それだけ人が出入りしてるって事だな。とっ、あったあった」
ハガネが古びた書類を取り出すと門番はいぶかし気な顔をする。
「その書類、随分と古くないですか?」
「ああ、これは10年は許可が下りる信頼関係のある奴に出されてる許可証の書類だからだ」
「へぇー。その人物は信頼されてるって事ですね」
「んー、どうだろうな。アカリが世話になったから発行されたってだけだからな。まぁ、俺はこれ貰って行くぜ。仕事頑張れよ」
「ハガネさんも仕事頑張って下さい」
「おう。じゃあな!」
ハガネが懐に許可証の書類を入れ込み、通行門から出ると人気のなくなった夜中の温泉街に小さな影がコロコロと転がっていく。
「アゴー!」
「アゴゴーゴ」
「お前等は夜中元気だよな・・・寝ぼけて昼間に崖から飛ぶなよ」
「アゴゴー」
温泉鳥達が間欠泉の森を出て温泉街の町中を転がり体を綺麗にしている・・・と、鳥類学者が言っていたが、ただ遊びまわっている様にも見える行動をしながら、転がって温泉街の道に転がっているゴミを拾っては温泉街の道に設置してある小さな箱に入れ込んでいく。
温泉鳥がゴミを拾い集めて遊んでいたのを見たハガネと朱里が、箱にゴミを入れたら餌が出るという仕掛けの箱を試しに作ったところ、温泉鳥達が覚えていき、今では真夜中の清掃員の様になっている。
この設置箱は朱里が店で売っている温泉鳥のぬいぐるみやアクセサリーの売り上げで【風雷商】にちゃんとした物を作ってもらい、餌は日々の売上金から補充されている。
朱里としては温泉街にゴミをポイ捨てしないで欲しいと思っているが、なかなかに無くならない問題なので今後も設置箱は続けていくらしい。
「ふぁー・・・っと、流石に俺も眠ぃな」
欠伸を噛み殺しながらハガネが海岸に戻り、結界を張っていた洞窟に問題が無いのを確かめると洞窟の中に入っていく。
リュエールとシュトラールが持ち込んだ冬用の枕やクッションを背に丸まる様にイルマールが寝ていた。
ハガネが近付くとバッとイルマールが起き上がり、身を守ろうと身構えるが、ハガネを見て肩の力を抜く。
「お前の従者が温泉大陸に入ってる事を確認してきたぜ」
ハガネが懐から通行証明書を取り出してイルマールに手渡す。
書類を見ながらイルマールが書類を握り、目から涙を溢れださせると「会いたい」と泣き肩を震わせた。
「まぁ、【刻狼亭】の宿舎に行こうぜ?夏っていっても体に悪い。お前の状態もひでぇしな。一応ここに書置きでもして、お前の従者だけがわかる言葉を書いておけばいいだろう?」
「しかし・・・エスタークに何と書けばいいのか・・・」
「なら、あれだ。俺等が最後に会った小料理屋があっただろ?待ち合わせをそこにして、小料理屋の店主にエスタークが来たら【刻狼亭】に連絡を入れてくれる様に頼んでおけばいい」
ハガネが半紙を出し、イルマールが文字を書いていく。
『待ち合わせは温泉大陸の恩人と最後に会った場所にする。おれは無事』
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「うわぁ!あの、下ろしてもらいたいんだが?!」
「俺は早く帰って眠りてぇんだよ。ちゃちゃっと宿舎にお前を送り届けてぇ。わかったら黙ってろ」
「・・・すまない・・・」
イルマールが静かになると、ハガネが足早に温泉街に戻っていく。
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部屋に残されたイルマールは久々の柔らかい布団にホッと息をつく。
「エスターク・・・何処にいるんだ・・・」
不安はあるが、自分の従者がこの温泉大陸に居る。
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