黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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9章

追跡

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 夕飯が終わり、朱里が後片付けをしている最中の事だった。

 朱里の目を盗んではパンや夕飯の残りのお肉を入れた保存用のガラス容器を双子の息子達がコソコソとカバンに入れていた。

(バッチリ見えてますよ。見て見ぬふりをしてあげますけど)

「さーて、そろそろお片付けが終わったからお風呂でも入ろうかなー」

 子供達に聞こえる様に朱里が少し大きめの声で言うと、2人の耳がピコピコと動き尻尾がうずうずと動いていた。

(私はお邪魔なようですね。ふふ、早くご飯あげに行きたいんだろうなぁ)

 朱里がキッチンから出て、リビングを通り、廊下に出ると後ろからルーファスに抱きしめられる。

「アカリ、今のはお誘いという事でいいのか?」
「ふぇ?」
ルーファスに耳元で囁かれながら、何のことだろう?と、朱里が首をかしげると首筋をペロッと舐められて声にならない悲鳴を上げる。

「っ?!!!」
「夏はアカリの汗交じりで甘じょっぱいくて良いな」

(ぎゃああああ!!!うちの旦那様が何か変態な事言ってるぅぅぅ!!!)

「えーと、ルーファス?」
「ん?なんだ?」

(あああ、目がもうエッチな時の目になってる!ううっ・・・何がスイッチだったんだろう?)

「汗は流石に汚いから舐めるの駄目だから、ね?」
「仕方がないな。まぁアカリから風呂の誘いがあったんだから、まぁいいか」

ルーファスに腰を持ち上げられてお姫様抱っこをされると顔に頬ずりされながら、何がスイッチかを悟る。

(お風呂にルーファスを誘ったわけじゃない・・・とは言えない。嬉しそうな顔に尻尾しちゃって。出逢った時より少し年齢を重ねてワイルドさが増したのに、こういう所は可愛いんだよねシュトラールみたいで)

「ルーファス、洗いっこしましょうか?」
「・・・獣化しろと?」
「ふふ。してくれるんですか?このままでも良いですけど、獣化して洗わせてくれるならそれはそれで」
「いや、このままで頼む」
「はーい。ふふふ」

 ルーファスに朱里が抱えられて夫婦の寝室に消えると、リュエールがシュトラールに親指を上げて合図すると、リビングから出て音を立てないようにソロリソロリと階段を下りて、店内の氷室から売り物のミッカジュースを1本取り出すとカバンに入れる。

「リュー、今のうちー」
「まって、ベッドに細工していくから」

 子供部屋のベッドの中に丸めた布を入れて上にカバーをして、リュエールが「よし!」と、満足そうに偽造工作に頷くと子供部屋のドアを出て、子供部屋のドアに紙を挟む。
ドアを誰かが開いた事が分かる様にする為に。

「リュー、まだー?」
「シュー、しっ。今行くから」

 階段の上からポーンッとひと飛びで下の階まで下りると、シュトラールと共に日の落ちた森の中に消えていく。
その様子を金色の目が2階の窓から見ていた。

「アルビー、お前の主達が悪さをしに外に行ったみたいだぞ」
「えっ?!リューとシュー!こんな夜に何しに行ってんのさ!」

 グリムレインが氷で作ったグラスで酒を飲みながら、揶揄うようにアルビーの氷のグラスにも酒を追加する。
注がれた酒はアルビーがこの店の庭に植えた『竜の癒し木』の実から作った酒で1年に1回収穫しては酒に漬け込みこうして楽しむのが2人の楽しみな時間だ。
双子の事は心配だが、この温泉大陸は暗殺者が商人に扮して紛れ込んでからというもの、通行許可が前以上に発行されにくくなり、安全な場所になっているので人的な事での危険は無いと言っても良い。
それに生まれた時から知り尽くしているこの温泉大陸は双子には庭の様なものなので危険とは言えない。

「うーん・・・心配だけど、子供にはこういう冒険も必要だよね」
「うむ。それに、酒を楽しんでる最中に出掛けるのは面倒くさいしな」
「それは思っても口に出したら駄目なやつだよ」
「ふはははは」

 駄目なドラゴン達の会話に「おいおい」と、思いつつハガネが双子の後を追って家を出て森の中に入っていく。
あまり鼻に自信は無いが、それほど離れていなければハガネにも追う事は可能なので、アナグマの姿になり双子の匂いを頼りに追跡を開始する。




 ___再び、朱里の家。

お風呂場でルーファスの背を洗いながら朱里が「そういえば」と、口を開く。

「今日ね、あの子達が何か拾ったみたいなの」
「何かって何なんだ?」
「それが、秘密みたいでね。冬用のクッションとかが無くなってたから捨て猫か犬でも拾ったのかも?」
「秘密にするような事ではないだろうに」
「そう思うでしょ?でも3人共隠してて、ふふ。それが可愛くて」
「うちにはクロとササマキが居るが、別に増える事には叱りはしないのにな」
「さっき夕飯の残りとかカバンに入れてたから今頃持って行ってるかも?」
「ふむ。こんな夜にか?」

 朱里がルーファスの背中に抱きついて首筋にキスをして「心配?」と聞くと、ルーファスが「いいや」と笑う。

「狼族の目は夜でも見えるからな。それにオレにも覚えがある」
「ふふ。ルーファスは何を拾ったの?」
「従業員だな」
「・・・それ、拾う物なの?」
「シュテンとかは良い拾い物だった」
「・・・ルーファス・・・私、子供達が心配になってきました」

 朱里がルーファスの背から体を離すと、振り向いたルーファスに捕まり、そのまま口づけが交わされると朱里が明日は子供達が何を拾ったか話してくれると良いなと、思いながらルーファスとの甘い時間を過ごす。



 一方、ハガネが双子の追跡でたどり着いたのは、海岸にある洞窟だった。

 風向きを考えて双子の鼻に気付かれないように、ハガネが裏から回り込み洞窟内を探索しながら見たのは、魔法の光でほんのりと明るくなっている洞窟内で、夕飯の残りと店の売り物のジュースをカバンから出している双子の姿と、この大陸ではあまり見かけない肌の色をした男だった。

 薄汚れて色が解り難いが、その男にハガネは見覚えがあった。
片耳になり、尻尾も無い。
以前見た時は、白い尾に白い丸耳をした少年だったはずだ。
薄汚れてはいるが、肌の色も褐色、髪の色もパサついて色が薄くなっているが金色。
南国ミシリマーフの神官の息子。


「お前、イルマール・ジスか?」

ハガネの声に男と双子が驚いた様な顔でハガネを見た。
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