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8章
暗殺者と双子
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温泉大陸の統治者といえば【刻狼亭】の15代目ルーファス・トリニアである。
ほんの数年前までは独身で結婚などしそうにない身持ちの固い男だった様な気がする。
【刻狼亭】の血縁者と親戚だった人間の姉の夫という、血縁じゃないだろうという雇用主から、ルーファス・トリニアを亡き者にすれば自分が血縁者として名乗り出て【刻狼亭】の当主に収まるのだと言っていた。
しかし、若い番を得て子供が生まれ、跡取りが出来た事で雇い主が後釜に収まる事は不可能になった。
雇い主がハーフエルフな事も災いしているのか、結構な年齢をいっているのだが、未だに【刻狼亭】の当主になる事を夢見ているのだから呆れてしまう。
「金ならあるんだ!早くどうにかしろ!」
そう言われても、ね?
【刻狼亭】は冒険者でも称号持ちや通り名を持っている奴が従業員に多い為に返り討ちに遭うだけで済めばいいが、下手をすれば首と胴体がサヨナラしてしまう。
番が居るという事は番を殺せば、運が良ければ番の後を追ってこの世からサヨナラしてくれるかもしれない。
しかし、子供が居るという事は、子供も始末しなければいけない。
暗殺業をしていて、一番したくないのが子供殺しだ。
しかも双子・・・2人も殺すなんて、最悪だ。
報酬欲しさに依頼を受けてしまったが、心が沈む。
【病魔】騒ぎから数年経ったが、未だに温泉大陸への通行証は審査が厳しくなかなか下りない。
3年も掛けて露店商として温泉大陸に入ることがようやく出来た。
温泉大陸に入った物の、東国風の豪奢な造りの建物の街並みに気圧される。
金持ちの道楽街の様な雰囲気がしている。
確かにハーフエルフの爺が欲しがる感じの街並みではある。
黒塗りの建物で街の中で一際敷居の高そうな建物、黒い暖簾に【刻】と【狼】の白地の文字。
料亭と旅館、最近新しくもうひと店舗出来たと聞く。
どれが当主の住んでいる屋敷なのか・・・。
聞き込みが必要そうだ。
「ぎょーしょーにん!」
「・・・ちがう。シュー、いこ」
黒い髪に耳と尻尾のある獣人の子供が2人、こちらを見ながら騒いでいる。
人懐っこい子が指をさし、もう1人がその子供を引っ張って歩き出す。
「やーだー。リリにぎょーしょーにんみせる!」
「だめ。ぎょーしょーにん、ちがう!」
ワーワー騒ぐ子供に温泉街の人間の目がこちらを見て、子供達の騒ぎを見ている。
目立つのは不味いと足早に立ち去れば、いつの間にか人懐っこい方の子供が付いてきている。
「ねぇ。ぎょーしょーにん、ナニ、うってるのー?」
「あのな、オジちゃんは忙しいんだ。遊ぶなら別の所に行きな」
シッシッと手を振れば、子供は目をキラキラと輝かせて尾を振っている。
何がこの幼児のお気に召したのか・・・尻尾を振るなよ・・・。
「シュー!かえるの!」
もう1人が追いつき尻尾を引っ張りながら、帰ろうと必死に訴えている。
「やーだー。かえらない!」
「ははうえにいう!かえるの!」
兄弟喧嘩なら他所でやれ。
ガシッと足に人懐っこい方がしがみつき、プイッと顔をもう1人から背ける。
ガーンと効果音が出そうな顔をもう1人がして、ペシッと人懐っこい方の頭を叩いて獣化すると泣きながら何処かへ走り去ってしまう。
「おーい。チビ。お前の兄弟行っちまったぞ」
足から幼児を引きはがすと、ぷるぷると震えながら泣いている。
「リュー・・・うわぁああああん」
泣くぐらいなら、言う事を聞いて帰れよ・・・。
とても五月蠅い幼児をどうすればいいやら?
ジロジロと通行人にも見られるし、この大陸で仕事をするのに人目に付くのは本当に勘弁してほしい。
「あっ、シューちん!ここで何泣いてるし?」
「シュー、ないてるー」
金髪の白い角のある幼女を連れた黒髪の少女が声を掛けてくる。
「リュー・・・ひっぐ、どこー?」
「リューちんとはぐれたん?」
「まいごー」
「あー、もう1人ならその子と喧嘩して走ってどっか行っちまったよ」
知り合いなら引き取って行ってほしい。
黒髪の少女が目に痛い色の板切れをいじり耳に当てる。
「もしもし、アカリっちー?リューちんそっちに居る?」
何をこの少女は独り言を言っているんだろう?
「良かったし!シューちん、こっちに居るから連れて行くし!はぁ?!人さらい?!」
少女がこちらをチラッと見て、眉間にしわを寄せてチラチラとこちらを見てくる。
「多分、そいつ居るし・・・場所は、黄色い温泉まんじゅう売ってる、そうそこっしょ」
少女が板切れをカバンに仕舞い込むと、幼女と泣き虫幼児を抱き上げる。
やれやれ、これで俺も落ち着いて情報収集をしながら本来の仕事に戻れる。
「あ、そういえばアンタ温泉大陸の当主って何処に住んでるか知らないか?」
「うちが答えるわけ無いし!何の用だし!」
いきなり少女が睨みながら声を上げる。
関わると面倒くさそうな少女な気がする・・・。
「いや、知らないならいい。ちょっとした好奇心で聞いただけだから忘れてくれ」
「待つし!何処に行く気だし!」
何なんだ・・・?
不意にゾワッとした気配に背中の産毛が逆立つ。
「アリス!リリス!」
上から声がすると金髪に白い角を持った魔族の男が空から降って来た。
地面に降り立つと少女達3人を腕に抱き上げると、地面を跳躍して建物の屋根へ飛びあがる。
「リロっちー!」
「とっとー!」
「大丈夫?2人共怪我は?」
「「ないしー!」」
屋根の上で盛り上がっているが、何だか俺、悪人にされてないか?
悪人ではあるが、まだ依頼をこなせていない状態でいきなりの悪人扱いは酷い。
「シュトラール!何処だ!!」
今度は黒髪に黒耳の全身黒い着物の獣人が大声を上げながら殺気立って走って来た。
黒い獣人・・・黒い着物?
何かが引っかかる。
「シューちんならここだし!」
「ちちうえー?」
ホッとした表情をした黒い獣人がこちらを向くと、殺気立ったままいきなり襲い掛かって来た。
ちょっと待てぇえええ!!!
何だこの状況?!
「何なんだ!あんた!いきなり人を襲うとか!」
「うちの息子を攫っておいて!何を!言うのか!」
一撃、一撃が重い攻撃をしてくる獣人相手に露店商用に持って来た冒険者用の防具でガードしながら攻防しているが、流石獣人というか、素手でここまで重いのはヤバいな。
しかし、一体全体何で俺が子供を攫った事になってんだー!!!
「俺は子供なんか攫ってない!その子がくっついてきたんだよ!」
「ふざけるな!うちの息子が攫われたと助けを求めにきた!」
まさか、あのもう一人の子かー!!!!
攫ってないのは解ってるだろうに、なんつー事言うんだ!
どんな教育をしてるんだ!親の顔が見てみたい!って、目の前のが親だ!!
「ならその子にも話を聞けよ!攫ってないから!」
「問答無用だ!」
しまった!と、思った時には防具を貫いて獣人の拳が腹に届いていた。
目の前がぐらっと歪むその時に思い出した。
黒狼の金目の黒い着物の男は温泉大陸で1人しかいない。
こいつがルーファス・トリニアだ。
ああ・・・じゃあ、あの子供2人がターゲット対象だったのか・・・。
双子のはずなのに、全然似てないとか・・・ああ、くそ。
分かっていれば、もっと上手く立ち回れたのにな・・・。
再び目を覚ました時、目の前には金色と黒目の人懐っこい方の子供が覗き込んでいた。
「コラ!シューちゃん!人様のお腹の上に乗っちゃいけません!」
「ははうえー、ぎょーしょーにん、おきたー」
「あら?シューちゃん、父上呼んで来て」
「いくー!」
トテトテとおぼつかない足取りで子供が部屋を出ていく。
黒髪に白い着物の少女が困った顔をして頭を下げる。
「うちの息子達と主人が迷惑をかけてしまって、ごめんなさい!」
息子達と主人・・・この少女が【刻狼亭】の番か!
頭を下げている今なら殺れるか?
手を動かすと、後ろから冷気の様な物が漂ってきた。
「嫁、我は腹が空いたぞ!」
「グリムレイン、お客さんの前です!後にして!」
後ろを振り向けば薄い氷色の2メートル程のドラゴンが顔を出していた。
こいつは間違いなく氷竜だ!
なんてもん飼ってるんだ!!
「アカリ!私もお腹空いたよー!」
「もう、アルビーまで!」
白金色のドラゴンも顔を出し、目の前の少女にスリ寄り少女の頭に顎を乗せている。
光竜・・・駄目だ。
ここでドラゴン相手に事を構える方がリスクが高い。
黒狼の獣人ルーファス・トリニアが部屋に入ってきてバツの悪そうな顔で頭を下げると、少女もまた頭を下げる。
「息子の癇癪で人攫い呼ばわりして怪我をさせてしまって申し訳ない」
「本当にごめんなさい!人に弟を取られたと思って人攫いなんて言うなんて・・・息子にはよく言って聞かせます。申し訳ありませんでした!」
温泉大陸の当主夫婦が俺に頭を下げている・・・もしかして、これは報酬より美味しいお詫びが貰えるかもしれない!
頭の中で算盤をザザッと弾き、気分が少し高揚する。
骨折り損になりそうだったが、そうでもなさそうだ。
部屋にバンッと人懐っこい方ではない片割れの子供が現れる。
「リュー、わるくない!そいつ、ぎょーしょーにんちがう!でてけー!」
「リュエール!悪いのはお前だろう!謝りなさい!」
「リューちゃん!ごめんなさいしなさい!」
夫婦が子供を叱りつけると、背の高い体躯のいい男が現れ白い歯を見せながら「しゃーねーなぁ」と笑いながら子供を回収する男と目が合った。
「「あっ!」」
思わず声が出ていた。
しまった!なんでこいつが此処にいるんだ!!!
ドカッと顔を蹴り上げられ、顔に手を当てるともう一度蹴り上げられた。
「きゃあああ!ハガネ何をしてるの!」
「おい!ハガネ!」
やっぱり、こいつは東国の幻惑使いハガネか!
昔こいつの主君に暗殺を仕掛けて返り討ちにあってから会いたくない奴の上位だってのに!
この温泉大陸はなんで厄介な奴しかいないんだ!
「こいつは暗殺業を生業としてる奴だ!行商人じゃねぇのは確かだ!」
「なに?!アカリ、リュエールを連れて部屋から出ていろ!」
「はい!リューちゃん!行くよ!」
バタバタと物音がして気付いた時には吊し上げられて、妙な白い部屋でにこにことした若い男に拷問を受けていた。
【恐怖】使い・・・どこかの国の軍用拷問官と同じ様な事をしてくる奴で、温泉大陸に来た理由も雇用主も洗いざらい吐かされ、見知らぬ山岳地帯に捨てられていた。
命があるだけ有り難い。
でも、あんな所はもう二度と行きたくない!
ハーフエルフのクソ爺め!
俺がこんな目に遭ったんだから爺も酷い目に遭いやがれ!!
___暗殺者の男を山岳地帯に捨てた後。
「リュエール、父上が悪かった」
「リューちゃん母上もちゃんと聞いてあげなくてごめんね」
【刻狼亭】の当主夫婦は長男に謝ることになる。
「シューもメッ!リューのいうこときくのー!」
「いーやー!シューのおハナがくんくんしたんだもん!」
双子が喧嘩を始めてうやむやになったが、後に暗殺者の男は山岳地帯である鉱石を拾い、その鉱石で作られた魔道具が温泉大陸の温泉鳥達を救うことになる。
ほんの数年前までは独身で結婚などしそうにない身持ちの固い男だった様な気がする。
【刻狼亭】の血縁者と親戚だった人間の姉の夫という、血縁じゃないだろうという雇用主から、ルーファス・トリニアを亡き者にすれば自分が血縁者として名乗り出て【刻狼亭】の当主に収まるのだと言っていた。
しかし、若い番を得て子供が生まれ、跡取りが出来た事で雇い主が後釜に収まる事は不可能になった。
雇い主がハーフエルフな事も災いしているのか、結構な年齢をいっているのだが、未だに【刻狼亭】の当主になる事を夢見ているのだから呆れてしまう。
「金ならあるんだ!早くどうにかしろ!」
そう言われても、ね?
【刻狼亭】は冒険者でも称号持ちや通り名を持っている奴が従業員に多い為に返り討ちに遭うだけで済めばいいが、下手をすれば首と胴体がサヨナラしてしまう。
番が居るという事は番を殺せば、運が良ければ番の後を追ってこの世からサヨナラしてくれるかもしれない。
しかし、子供が居るという事は、子供も始末しなければいけない。
暗殺業をしていて、一番したくないのが子供殺しだ。
しかも双子・・・2人も殺すなんて、最悪だ。
報酬欲しさに依頼を受けてしまったが、心が沈む。
【病魔】騒ぎから数年経ったが、未だに温泉大陸への通行証は審査が厳しくなかなか下りない。
3年も掛けて露店商として温泉大陸に入ることがようやく出来た。
温泉大陸に入った物の、東国風の豪奢な造りの建物の街並みに気圧される。
金持ちの道楽街の様な雰囲気がしている。
確かにハーフエルフの爺が欲しがる感じの街並みではある。
黒塗りの建物で街の中で一際敷居の高そうな建物、黒い暖簾に【刻】と【狼】の白地の文字。
料亭と旅館、最近新しくもうひと店舗出来たと聞く。
どれが当主の住んでいる屋敷なのか・・・。
聞き込みが必要そうだ。
「ぎょーしょーにん!」
「・・・ちがう。シュー、いこ」
黒い髪に耳と尻尾のある獣人の子供が2人、こちらを見ながら騒いでいる。
人懐っこい子が指をさし、もう1人がその子供を引っ張って歩き出す。
「やーだー。リリにぎょーしょーにんみせる!」
「だめ。ぎょーしょーにん、ちがう!」
ワーワー騒ぐ子供に温泉街の人間の目がこちらを見て、子供達の騒ぎを見ている。
目立つのは不味いと足早に立ち去れば、いつの間にか人懐っこい方の子供が付いてきている。
「ねぇ。ぎょーしょーにん、ナニ、うってるのー?」
「あのな、オジちゃんは忙しいんだ。遊ぶなら別の所に行きな」
シッシッと手を振れば、子供は目をキラキラと輝かせて尾を振っている。
何がこの幼児のお気に召したのか・・・尻尾を振るなよ・・・。
「シュー!かえるの!」
もう1人が追いつき尻尾を引っ張りながら、帰ろうと必死に訴えている。
「やーだー。かえらない!」
「ははうえにいう!かえるの!」
兄弟喧嘩なら他所でやれ。
ガシッと足に人懐っこい方がしがみつき、プイッと顔をもう1人から背ける。
ガーンと効果音が出そうな顔をもう1人がして、ペシッと人懐っこい方の頭を叩いて獣化すると泣きながら何処かへ走り去ってしまう。
「おーい。チビ。お前の兄弟行っちまったぞ」
足から幼児を引きはがすと、ぷるぷると震えながら泣いている。
「リュー・・・うわぁああああん」
泣くぐらいなら、言う事を聞いて帰れよ・・・。
とても五月蠅い幼児をどうすればいいやら?
ジロジロと通行人にも見られるし、この大陸で仕事をするのに人目に付くのは本当に勘弁してほしい。
「あっ、シューちん!ここで何泣いてるし?」
「シュー、ないてるー」
金髪の白い角のある幼女を連れた黒髪の少女が声を掛けてくる。
「リュー・・・ひっぐ、どこー?」
「リューちんとはぐれたん?」
「まいごー」
「あー、もう1人ならその子と喧嘩して走ってどっか行っちまったよ」
知り合いなら引き取って行ってほしい。
黒髪の少女が目に痛い色の板切れをいじり耳に当てる。
「もしもし、アカリっちー?リューちんそっちに居る?」
何をこの少女は独り言を言っているんだろう?
「良かったし!シューちん、こっちに居るから連れて行くし!はぁ?!人さらい?!」
少女がこちらをチラッと見て、眉間にしわを寄せてチラチラとこちらを見てくる。
「多分、そいつ居るし・・・場所は、黄色い温泉まんじゅう売ってる、そうそこっしょ」
少女が板切れをカバンに仕舞い込むと、幼女と泣き虫幼児を抱き上げる。
やれやれ、これで俺も落ち着いて情報収集をしながら本来の仕事に戻れる。
「あ、そういえばアンタ温泉大陸の当主って何処に住んでるか知らないか?」
「うちが答えるわけ無いし!何の用だし!」
いきなり少女が睨みながら声を上げる。
関わると面倒くさそうな少女な気がする・・・。
「いや、知らないならいい。ちょっとした好奇心で聞いただけだから忘れてくれ」
「待つし!何処に行く気だし!」
何なんだ・・・?
不意にゾワッとした気配に背中の産毛が逆立つ。
「アリス!リリス!」
上から声がすると金髪に白い角を持った魔族の男が空から降って来た。
地面に降り立つと少女達3人を腕に抱き上げると、地面を跳躍して建物の屋根へ飛びあがる。
「リロっちー!」
「とっとー!」
「大丈夫?2人共怪我は?」
「「ないしー!」」
屋根の上で盛り上がっているが、何だか俺、悪人にされてないか?
悪人ではあるが、まだ依頼をこなせていない状態でいきなりの悪人扱いは酷い。
「シュトラール!何処だ!!」
今度は黒髪に黒耳の全身黒い着物の獣人が大声を上げながら殺気立って走って来た。
黒い獣人・・・黒い着物?
何かが引っかかる。
「シューちんならここだし!」
「ちちうえー?」
ホッとした表情をした黒い獣人がこちらを向くと、殺気立ったままいきなり襲い掛かって来た。
ちょっと待てぇえええ!!!
何だこの状況?!
「何なんだ!あんた!いきなり人を襲うとか!」
「うちの息子を攫っておいて!何を!言うのか!」
一撃、一撃が重い攻撃をしてくる獣人相手に露店商用に持って来た冒険者用の防具でガードしながら攻防しているが、流石獣人というか、素手でここまで重いのはヤバいな。
しかし、一体全体何で俺が子供を攫った事になってんだー!!!
「俺は子供なんか攫ってない!その子がくっついてきたんだよ!」
「ふざけるな!うちの息子が攫われたと助けを求めにきた!」
まさか、あのもう一人の子かー!!!!
攫ってないのは解ってるだろうに、なんつー事言うんだ!
どんな教育をしてるんだ!親の顔が見てみたい!って、目の前のが親だ!!
「ならその子にも話を聞けよ!攫ってないから!」
「問答無用だ!」
しまった!と、思った時には防具を貫いて獣人の拳が腹に届いていた。
目の前がぐらっと歪むその時に思い出した。
黒狼の金目の黒い着物の男は温泉大陸で1人しかいない。
こいつがルーファス・トリニアだ。
ああ・・・じゃあ、あの子供2人がターゲット対象だったのか・・・。
双子のはずなのに、全然似てないとか・・・ああ、くそ。
分かっていれば、もっと上手く立ち回れたのにな・・・。
再び目を覚ました時、目の前には金色と黒目の人懐っこい方の子供が覗き込んでいた。
「コラ!シューちゃん!人様のお腹の上に乗っちゃいけません!」
「ははうえー、ぎょーしょーにん、おきたー」
「あら?シューちゃん、父上呼んで来て」
「いくー!」
トテトテとおぼつかない足取りで子供が部屋を出ていく。
黒髪に白い着物の少女が困った顔をして頭を下げる。
「うちの息子達と主人が迷惑をかけてしまって、ごめんなさい!」
息子達と主人・・・この少女が【刻狼亭】の番か!
頭を下げている今なら殺れるか?
手を動かすと、後ろから冷気の様な物が漂ってきた。
「嫁、我は腹が空いたぞ!」
「グリムレイン、お客さんの前です!後にして!」
後ろを振り向けば薄い氷色の2メートル程のドラゴンが顔を出していた。
こいつは間違いなく氷竜だ!
なんてもん飼ってるんだ!!
「アカリ!私もお腹空いたよー!」
「もう、アルビーまで!」
白金色のドラゴンも顔を出し、目の前の少女にスリ寄り少女の頭に顎を乗せている。
光竜・・・駄目だ。
ここでドラゴン相手に事を構える方がリスクが高い。
黒狼の獣人ルーファス・トリニアが部屋に入ってきてバツの悪そうな顔で頭を下げると、少女もまた頭を下げる。
「息子の癇癪で人攫い呼ばわりして怪我をさせてしまって申し訳ない」
「本当にごめんなさい!人に弟を取られたと思って人攫いなんて言うなんて・・・息子にはよく言って聞かせます。申し訳ありませんでした!」
温泉大陸の当主夫婦が俺に頭を下げている・・・もしかして、これは報酬より美味しいお詫びが貰えるかもしれない!
頭の中で算盤をザザッと弾き、気分が少し高揚する。
骨折り損になりそうだったが、そうでもなさそうだ。
部屋にバンッと人懐っこい方ではない片割れの子供が現れる。
「リュー、わるくない!そいつ、ぎょーしょーにんちがう!でてけー!」
「リュエール!悪いのはお前だろう!謝りなさい!」
「リューちゃん!ごめんなさいしなさい!」
夫婦が子供を叱りつけると、背の高い体躯のいい男が現れ白い歯を見せながら「しゃーねーなぁ」と笑いながら子供を回収する男と目が合った。
「「あっ!」」
思わず声が出ていた。
しまった!なんでこいつが此処にいるんだ!!!
ドカッと顔を蹴り上げられ、顔に手を当てるともう一度蹴り上げられた。
「きゃあああ!ハガネ何をしてるの!」
「おい!ハガネ!」
やっぱり、こいつは東国の幻惑使いハガネか!
昔こいつの主君に暗殺を仕掛けて返り討ちにあってから会いたくない奴の上位だってのに!
この温泉大陸はなんで厄介な奴しかいないんだ!
「こいつは暗殺業を生業としてる奴だ!行商人じゃねぇのは確かだ!」
「なに?!アカリ、リュエールを連れて部屋から出ていろ!」
「はい!リューちゃん!行くよ!」
バタバタと物音がして気付いた時には吊し上げられて、妙な白い部屋でにこにことした若い男に拷問を受けていた。
【恐怖】使い・・・どこかの国の軍用拷問官と同じ様な事をしてくる奴で、温泉大陸に来た理由も雇用主も洗いざらい吐かされ、見知らぬ山岳地帯に捨てられていた。
命があるだけ有り難い。
でも、あんな所はもう二度と行きたくない!
ハーフエルフのクソ爺め!
俺がこんな目に遭ったんだから爺も酷い目に遭いやがれ!!
___暗殺者の男を山岳地帯に捨てた後。
「リュエール、父上が悪かった」
「リューちゃん母上もちゃんと聞いてあげなくてごめんね」
【刻狼亭】の当主夫婦は長男に謝ることになる。
「シューもメッ!リューのいうこときくのー!」
「いーやー!シューのおハナがくんくんしたんだもん!」
双子が喧嘩を始めてうやむやになったが、後に暗殺者の男は山岳地帯である鉱石を拾い、その鉱石で作られた魔道具が温泉大陸の温泉鳥達を救うことになる。
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