黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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8章

困った双子

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 ゴチンと、お互いの頭をぶつけてリュエールとシュトラールが顔を歪める。

「ぎゃああああん」
「・・・っ」

泣くのはシュトラールでリュエールは涙目になり、痛さを我慢している。

「あー、リューちゃん、シューちゃん、頭ゴッチンしたの?よしよし、痛いね」

 朱里が双子の頭を撫でると、リュエールがようやく声をあげて泣き始める。
掴まり立ちを覚え、歩くことを覚えた双子は、よくお互いにぶつかり泣いていることがある。
体が小さい事が心配されたリュエールも今はシュトラールと体格が変わらず、同じ場所をぶつけてるのに成長していると実感できるところでもある。

「あかりー、んまー」
「はーい。リリスちゃん待っててねー」

ようやく「ははえー」から「あかり」呼びになり、朱里の呼び方がリリスの中で変わった。
リリスはリロノスの事は「とっと」と呼んでいる。
リロノスが「お父さんだよ」と教えている為に「とっと」になっているらしい。
ルーファスの事は「ちちえー」ではあるけれど、ちゃんとリロノスを父親として分かっているのであえてリロノスも直そうとはしていない。

「ふぁああ・・・忙しい。目が離せないぃぃ」

朱里が「ひぇぇ」と言いながら子供達を回収し【刻狼亭】の旅館の室内で慌ただしくしていると、ノックの音が響き朱里が「入ってくださーい」と声を出すと、テンが現れる。

「アカリさんお子さんたちは見てますから、支度の方に行ってきてくださいねぇ」
「ありがとうございます。テンこの子達、歩き回ったり掴まり立ちするので気を付けてくださいね。目を離すとバラバラに動き回るので」
「子供の扱いは慣れていますから、大丈夫ですよぉ~」

朱里がテンに頭を下げながら、本日呼ばれた結婚式の為に着替えと髪をセットしに別室へ急ぐと、後ろから「ははえー!!!」と子供達の声がするが、構っている時間はないので、テンに任せて部屋を出ていく。

 別室で従業員が待ち構え、朱里に化粧と髪結いをしていく。

「女将、最近忙しかったから今日ぐらいはお子さん達の事は任せて結婚式を楽しんできてくださいね」
「ごめんね。うちの子達お願いします」
「女将、小さい痣とかいっぱいですね。大丈夫ですか?」
「最近あの子達が掴まり立ちとか歩き回ったりで、テーブルにぶつかる前に先回りすると、こっちの方が先にぶつかっちゃって・・・最近我が家から物が無くなってスッキリした家になってるの」
「子供が歩き回ってからが大変ですからねー」

 子供の話に花を咲かせながら、朱里がパールグリーンのドレスを着て、髪をアップにしてもらい髪飾りをしてもらう。
 久々にブレスレットとネックレスと耳飾りも付けて、久々のオシャレに朱里が、子供の口に入るといけないからって色々付けてなかったなぁ・・・と、鏡を見ながら小さく苦笑いをする。

腕輪が振動し、ルーファスの声が腕輪からする。

『アカリ、そろそろ支度は出来たか?』
「はい。今終わりました。直ぐに行くから待ってて」
『ああ。待ってるから急がないでいい』

 ルーファスとの腕輪での魔法通信を終わらせると、従業員に頭を下げて部屋を出ると子供達の顔を見てから行こうと部屋のドアをそっと開けると、テンの前で3人がちょこんと座り、テンの手元を真剣に見ている。
何をしているんだろう?と、思い朱里がじっと見ていると「ははえー!」とリュエールが立ち上がりトコトコと歩いてくるので、慌ててドアを閉める。

「ごめんね。母上はお出掛けなのー!」
「ははえー?!!ははええええぇぇぇ!!!」

 リュエールの泣き叫ぶ声に、見に行かなかった方が良かったかも!と、朱里が思いながら心で謝りつつその場を逃げていく。
獣人の鼻の良さを忘れていた。失敗したなぁと、フロントロビーまで行くと礼服のスーツを着たルーファスが黒い眼鏡を掛けて笑って朱里を出迎えたが、その笑顔が朱里が近付くにつれて強張っていく。

「リュエール?!」

 ルーファスの驚いた声に朱里が首をかしげると、朱里の足元にもふっと小さな衝撃がかかる。
足元をみれば黒いもふもふとした毛玉が「キューキュー」と鳴き声をあげている。

「え・・・リューちゃん?」

朱里が毛玉を持ち上げると金と黒のオッドアイが輝いている。
間違いなくトリニア家の長男リュエールである。

「アカリ、この子獣化して走っていたぞ」
「ええ?!!気付きませんでした!えー、リューちゃんドア閉めたのにどうして?」
「キュウゥゥン」

 獣化したまま朱里にしがみつくリュエールに朱里が困り果てていると、テンがリリスとシュトラールを抱きかかえてフロントロビーまで走ってくる。

「リューくん居た!よかったぁー」

テンが珍しく焦った声を出してゼィゼィと息を整える。

「何があったの?私ドア閉めたと思ったんだけど・・・」
「アカリさんが出ていった後にリューくんがドアをぶち破って獣化して飛び出して行っちゃったんですよぉ」
「リュエール・・・やんちゃが過ぎるぞ」

 ルーファスの一言に「やんちゃ」で済むの?!と、朱里とテンがルーファスを見る。
朱里からリュエールを受け取ろうと手を出すとカプッとリュエールがルーファスの手に噛みつき、ほんの少し血が滲む。

「リュエール!父上を噛んじゃ駄目でしょ!」
「キュ・・・ふぇええええん!!!」
「アカリ、犬歯が引っかかっただけだから大丈夫だ」
「ルーファスは黙ってて!噛んで良い時と悪い時があるの!今のは駄目!」

 珍しく朱里が本気で叱りつけた事に獣化していたリュエールが元に戻り泣き声を上げ始めると、テンの腕の中に居たシュトラールがルーファスに手を伸ばすと、ルーファスの噛まれた傷が治る。

「りゅー、めっはめぇー」

シュトラールが「リューを怒るのは駄目」と朱里に必死に訴え、朱里が小さく溜息を吐く。

「シューちゃん、怪我を治してもリューちゃんがした事はメッなの!」
「ははえー、めっはめぇー」
「シューちゃん、悪い事はメッしないと駄目なの」
「ふぇぇえん」

シュトラールにも泣かれ朱里が困った顔をすると、リュエールが涙を止める。

「ははえー、しゅー、めっはめぇー」
「いやいや、リューちゃん、シューちゃんを怒ってないよ?リューちゃんをメッしてるの」

朱里がルーファスに助けを求める目をすると少し困った顔をして、シュトラールをテンの手から抱き上げあやし始める。

「なあ、アカリ。シューが回復魔法を使ったんだが?」
「んっ???!そういえば!」

ぐすぐすっと泣いているシュトラールを朱里がじっと見つめていると、テンが声を出す。

「えーと、お時間がギリギリになってしまいませんかぁ?」

ルーファスと朱里がハッとして、テンに子供達を預けると急いで出掛けて行った。

 
 魔国の船でスカウトした操舵士のキリヒリ・ムゥトと【刻狼亭】の従業員フリウーラの結婚式で船の上での挙式に子供達は海の上は流石に危ないと置いては来たものの、出掛けのリュエールのドアをぶち破ったという怪力と、シュトラールの回復魔法の事でルーファスと朱里は頭がいっぱいで式どころではなかった。
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