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オマケ話
200話記念:シュトラールとお姉さん
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200話目に記念話を書きたかったのですが、話的に入れられなかったので・・・オマケ話です('◇')ゞ
******************************
温泉大陸の森の中にある隠れ家の様な東国風でいてモダンな雰囲気のお店。
【刻狼亭】の女将が切り盛りしているお店、通称『女将亭』。
扱っている物は様々で主にレストラン中心の小物雑貨という感じで、ハーブティのブレンドを作ってお土産にするのが今人気で小瓶が可愛いのも人気の1つ。
他にも温泉大陸の保護鳥の為の支援として温泉鳥をモチーフにした様々な小物は可愛かったり、高級な物もあったりで、お土産を選ぶのに事欠かないラインナップ。
そして何より、人気なのが女将が作っているという昔【病魔】を消し去ったと嘘か本当か判らない『幻のミッカジュース』は今でも持病のある人が飲んだら治ったとか、不治の病が治ったと嘘か本当か判らないが、人々がこぞって買い求めるジュースが予約してもなかなか手に入らない、まさに幻ぶりを発揮している。
私も買いに来たのです‼
『幻のミッカジュース』を!!!
販売開始の朝なら入手出来ると聞き、朝が明けるとすぐに宿を出て『女将亭』へ向かっているのです!
6つ下の妹がずっと病で伏せっていて長い事外にすら出ていない。
嘘か本当か判らない物でもすがり付きたい・・・そんな気持ちで温泉大陸に苦労して人伝に紹介してもらい、ようやく通行証を手に入れる事が出来たのです。
お金持ちや上級冒険者が多いところだと聞いたので、お出かけ用の一番良い水色のストライプのワンピースで来たのですが・・・、先程、すれ違ったご令嬢の様な方が着ている服はフリルがいっぱいで、なんだかすごく場違いな気持ちがします。
さっきのご令嬢は金色の髪に白い角が生えていましたから魔族の方でしょうか?
とても綺麗な顔立ちで思わず見惚れてしまいました。
ああ、でもあのご令嬢に見惚れていたせいで森を迷子になりました・・・。
いえ、人のせいにするのはいけないのです。
私がぼんやりしていたのが悪いのですから・・・。
途中であった『女将亭』への看板通りに来たはずなのに道が無い。
道になっていない森の中で引き返そうにも道が判らない。
ガサガサ・・・
ガサササササ・・・
何かが森の草木の中を走り抜けている音がして、近付いてきているのか遠ざかっているのかもわからない。
「アーパー」
アパ?なんだろう?
動物の声なんだろうか?
魔獣だったら、どうしよう・・・。
黒い影が近くに見え、もう恐怖でいっぱいで思わず森の中を全力疾走し、疾走して・・・また迷子に。
歩きすぎて、疲れた・・・。
なんでこの森大陸内なのにこんなに大きいの?
出口が無いの・・・?
「・・・苦労して、ここまで来たのに・・・帰りたい・・・」
心細さに涙が滲むと視界がぼやけて、ドシッと木にぶつかった。
黒くて大きな木・・・。
「あ、ごめん!大丈夫かい?」
木がしゃべった・・・?
顔をあげると、黒い髪に三角耳、黒い尻尾に左右の目の色が違う青年が立っていた。
左目が金色で右目が黒色の目。
「えーと、大丈夫かい?」
青年が「おーい」と、目の前まで顔を近づけてくる。
「わぁ!すいません!木だと思って・・・」
「へっ?木・・・?え・・・ぶっふっ、木・・・あははは」
お腹に手を当てて青年が笑い始める。
どうやら笑いのツボに入ってしまったらしい。
笑いまくってお腹が痛いと、ヒィヒィ言いながら青年が顔を上げる。
「あー、もぅ、面白いなぁ君。それにしても、どうしてこんなところに?」
「『女将亭』に行こうとして道に迷っちゃって・・・」
「それなら逆だよ?」
「でも、看板見たんですけど、途中で道が無くなってて・・・」
「そうなんだ。じゃあオレが案内してあげるよ」
青年が歯を見せて笑って、何だか違和感がする。
なんだろう?この青年笑うとすごく幼い感じで可愛い。
背は凄く高いけど、もしかして年が若いのだろうか?
「あの、私ミリアム・レノール。貴方は?」
「オレ?オレはシュトラール。皆シューって呼ぶからシューで良いよ」
森の中をシューが鼻歌を歌いながらサクサク進む。
「シューはこの大陸の人なの?」
「そうだよ。生まれも育ちもココ」
「やっぱり!迷いのない歩き方だからそうだと思ったの」
「ふふ。ミリアムは『女将亭』に食事にきたのかい?」
「いいえ。『幻のミッカジュース』を買いに来たの」
シューが「売ってるかなぁ?」と首をひねる。
「もう売り切れてたりするの?」
「あれは3日前から並んでたりするからね。迷惑だから止めてほしいんだけど」
「そんな・・・」
「ミリアムはどうしてもジュース欲しいの?」
コクリと頷き、目を伏せれば、シューに頭を撫でられる。
「ご主人様か雇い主に買って来いって言われたの?」
「私は使用人じゃないわ!」
「え?そうなの?あー、ごめん。失礼だったね」
確かに私はこの大陸じゃ見劣りする格好かもしれないけど、使用人に思われてるなんて酷い。
「君が幼い感じだったから、小さい子が1人で来るのって珍しいからね」
「幼いって・・・私はこれでも21歳よ」
「えぇええ!!年上のお姉さんだったんだ・・・、じゃあミリアムさんだね」
「呼び捨てでいいわよ。じゃあシューは幾つなの?」
「オレは14歳だよ」
若っ!!!
せいぜい18歳くらいだと思ったのに・・・。
「あ、ココが『女将亭』だよ」
シューが指さしたのは雑誌の切り抜きで見た通りの『女将亭』だった。
既に行列が出来ていて、従業員と思われる黒髪に耳のある少年が行列に注文を取りにメモを走らせている。
「リュー!お客さんだよー!」
シューが少年に手を振って呼びかけるとリューと呼ばれた少年がペンをダーツの様にシューに投げつけ、シューが片手で受け止めると、どんなスピードを出したのか、リューがシューの背後に回り飛び膝蹴りをかまして、地面に倒れたシューの腕を足を絡めてねじり上げていた。
「シュトラール、僕言ったよね?母上の手伝いをしろって」
「ギブ!ギブ!リュー痛い!ごめんってばぁ!」
「まったく、今度母上の手伝いをサボったらギル大叔父の所に放り込むからね」
「それだけは勘弁して!」
服をはたきながらリューが立ち上がる。
シューとは兄弟なのか黒髪に三角耳、尻尾、そして金の右目に黒の左目。
顔立ちは中性的で美少年という感じだ。
「お客さんなら並んでもらってよ。まったく」
リューがペンを拾い上げてスタスタと歩き出す。
「シューの弟さん?」
こそっと聞けば、シューの耳がペタンと下がり、尻尾が股の間に入り込む。
「僕は、シューの兄ですけど?なにか?」
ピンッと立った耳が動き、リューが振り返る。
ギロッと睨みつけられ、思わず首を振る。
なにあれ。怖い。
美少年の迫力怖い。
「ミリアム、リューはオレの双子の兄上」
「双子・・・?えーと・・・」
「あ、うん・・・。よくそういう反応されるけど、正真正銘双子だからね?」
「似て、ないね・・・」
「それもよく言われるけど、リューは母上似でオレは父上似だから」
双子でもたまに似てない人はいるけど、こうも極端に似てない双子も凄い。
シューがおいでおいでと、手招きしてお客さんの列を通り越して、店の中に入りこむ。
なんだか視線がチクチクと痛い・・・割り込みになってはいないだろうか?
大丈夫かなぁ・・・。
「母上、ただいま」
シューが店内に居た白い着物の少女に声を掛ける。
しかし、今『母上』と言った様な?
黒髪、黒目の綺麗な少女で外に居たリューに似ているが、少し大人びた雰囲気もある。
「シューちゃん、おかえりなさい。コラッ。朝は忙しいからお手伝いお願いしてたでしょ?」
「ごめん母上。もうリューに怒られたよ。それよりも母上、ジュース残ってない?」
「ジュースってミッカジュース?」
「うん。オレ、このお姉さんに失礼な事言っちゃってお詫びがしたいんだ」
「まぁ!シューちゃん!あなたって子は!」
シューを押しのけて『母上』と呼ばれた少女が眉を下げて頭を下げる。
「うちの息子がご迷惑をお掛けして申し訳ありません。お詫びをしたいので2階へどうぞ」
「あの、ええええ?」
「ほら、お姉さん行こう!」
息子って言った!
いや、それより私別にお詫びされるような事言われてないし?!
シューに手を引かれて半ば強引に2階へ上がる。
大きなリビングにシューに「座って座って」と、座らされ、シューの母親らしき女性がお茶を出してくる。
「あの、私別に失礼な事は言われてないので!」
「駄目だよ!オレがお詫びしたいの!」
シューがニコニコと「母上お願い!」と両手を合わせている。
「もう。シューちゃんがおっちょこちょいなのは母さんも知ってますから、良いですよ。ごめんなさいね。シューちゃん体は大きいんだけど、子供なので失礼な事言ってるでしょ?あっ、私は【刻狼亭】の女将アカリ・トリニアです」
美少女の笑顔の破壊力!!!
14歳の子供がいるなら少女では無いのよね?
私より年上・・・見えない。
しかも、【刻狼亭】の女将って・・・温泉大陸のあの【刻狼亭】?
「あの、その、私、ミリアム・レノールと言います」
「緊張しないでください。ふふ。ミッカのジュース直ぐに作りますから、待っててくださいね」
「あの、そんな恐れ多いです・・・」
「良いの良いの。息子の不始末は母親の仕事ですから」
女将さんが「アルビーお手伝いおねがーい」と、声を出すと白金のドラゴンが部屋に入ってきて女将さんにスリ寄ると「良いよ。何をすればいいの?」と、仲が良さそうにキッチンに立つ。
「ミリアム、良かったね。あ、でもミッカジュースは日持ちはしないから直ぐに飲んでね」
「あの、ありがとう。私、どう言ったらいいか・・・」
「良いの良いの。オレの鼻がミリアムを助けた方がいいってかぎ分けただけだから」
「妹がこれで良くなると良いんだけど・・・」
「妹さん?病気か何かなの?」
「ええ。ずっと寝込んでいて起き上がれないの」
「ミリアムはココからどのくらいの距離に住んでるの?」
「えっと、乗り合い馬車で5日のサフランという村なんだけど・・・」
シューが椅子から立ち上がると、キッチンに走っていく。
どうしたんだろう?
「母上、日持ちしない距離だった!ごめん!それでオレが直接行って治したいんだけど良い?」
「まぁ!シューちゃん・・・それはどうしてもなの?」
「オレの鼻を信じて!助けた方が良いってオレにはわかるの!」
「駄目です。シューちゃんが能力を使うのは許しません!」
「お願い!母上!一生のお願いだから!」
「シューちゃんの能力を使うのは禁止しますが、母さんのポーションをあげます」
「本当?!さすが母上!」
女将さんの頬にシューがキスをして、女将さんが「誰に似たのかしら」と頬を染めている。
白金のドラゴンが「それはルーファスしか居ないでしょ」と、呆れた声を出している。
シューが尾を振りながら戻ってきて「ミッカジュースより良い物貰えるよ!」と、嬉しそうな声を出す。
女将さんが戻ってきて、オレンジ色のジュースの瓶とオパール色の小さな小瓶と黒い通行証を渡してくる。
「これはお土産の『ミッカジュース』賞味期限は3日程です。そしてコレは【刻狼亭】の秘薬です。あとこの通行証があれば高速移動の魔獣馬車が使えますから使ってください」
「あの・・・こんなに貰ったら悪いです。お金払います!」
カバンに手を入れると、女将さんに手を止められる。
「うちの息子があなたを助けたいみたいなの。これは息子の為だから気にしないで」
「そうだよ!この薬で妹さんの病気を治して、今度は妹さんも一緒に温泉街に来てよ」
お礼を言ってシューに高速魔獣の馬車乗り場まで案内してもらい、何度もお礼を言って別れるとシューは魔獣馬車が見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。
高速魔獣馬車だったのでギリギリ3日で家にたどり着き、妹にミッカジュースを飲ませると、噂は本当で妹は次の日にはベッドから起き上がる事が出来た。
それから数年して、妹は医学の道に進み今は温泉大陸の【刻狼亭】で医師として働いている。
そして私は結婚したのだけれど、夫が事業拡大を成功させた途端、病気にかかり治らないと言われ、妹の為に貰ったオパール色の小瓶を夫に使ったところ治り、夫はその薬に深く感謝をして事業拡大で得た技術で作った魔道具を【刻狼亭】へ無償で提供した。
数年ぶりに会ったシューは少年から本当の青年になっていて、私に気付くと「ほら。オレの鼻は間違えないんだから」と親指を上げて歯を見せて笑った。
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温泉大陸の森の中にある隠れ家の様な東国風でいてモダンな雰囲気のお店。
【刻狼亭】の女将が切り盛りしているお店、通称『女将亭』。
扱っている物は様々で主にレストラン中心の小物雑貨という感じで、ハーブティのブレンドを作ってお土産にするのが今人気で小瓶が可愛いのも人気の1つ。
他にも温泉大陸の保護鳥の為の支援として温泉鳥をモチーフにした様々な小物は可愛かったり、高級な物もあったりで、お土産を選ぶのに事欠かないラインナップ。
そして何より、人気なのが女将が作っているという昔【病魔】を消し去ったと嘘か本当か判らない『幻のミッカジュース』は今でも持病のある人が飲んだら治ったとか、不治の病が治ったと嘘か本当か判らないが、人々がこぞって買い求めるジュースが予約してもなかなか手に入らない、まさに幻ぶりを発揮している。
私も買いに来たのです‼
『幻のミッカジュース』を!!!
販売開始の朝なら入手出来ると聞き、朝が明けるとすぐに宿を出て『女将亭』へ向かっているのです!
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さっきのご令嬢は金色の髪に白い角が生えていましたから魔族の方でしょうか?
とても綺麗な顔立ちで思わず見惚れてしまいました。
ああ、でもあのご令嬢に見惚れていたせいで森を迷子になりました・・・。
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途中であった『女将亭』への看板通りに来たはずなのに道が無い。
道になっていない森の中で引き返そうにも道が判らない。
ガサガサ・・・
ガサササササ・・・
何かが森の草木の中を走り抜けている音がして、近付いてきているのか遠ざかっているのかもわからない。
「アーパー」
アパ?なんだろう?
動物の声なんだろうか?
魔獣だったら、どうしよう・・・。
黒い影が近くに見え、もう恐怖でいっぱいで思わず森の中を全力疾走し、疾走して・・・また迷子に。
歩きすぎて、疲れた・・・。
なんでこの森大陸内なのにこんなに大きいの?
出口が無いの・・・?
「・・・苦労して、ここまで来たのに・・・帰りたい・・・」
心細さに涙が滲むと視界がぼやけて、ドシッと木にぶつかった。
黒くて大きな木・・・。
「あ、ごめん!大丈夫かい?」
木がしゃべった・・・?
顔をあげると、黒い髪に三角耳、黒い尻尾に左右の目の色が違う青年が立っていた。
左目が金色で右目が黒色の目。
「えーと、大丈夫かい?」
青年が「おーい」と、目の前まで顔を近づけてくる。
「わぁ!すいません!木だと思って・・・」
「へっ?木・・・?え・・・ぶっふっ、木・・・あははは」
お腹に手を当てて青年が笑い始める。
どうやら笑いのツボに入ってしまったらしい。
笑いまくってお腹が痛いと、ヒィヒィ言いながら青年が顔を上げる。
「あー、もぅ、面白いなぁ君。それにしても、どうしてこんなところに?」
「『女将亭』に行こうとして道に迷っちゃって・・・」
「それなら逆だよ?」
「でも、看板見たんですけど、途中で道が無くなってて・・・」
「そうなんだ。じゃあオレが案内してあげるよ」
青年が歯を見せて笑って、何だか違和感がする。
なんだろう?この青年笑うとすごく幼い感じで可愛い。
背は凄く高いけど、もしかして年が若いのだろうか?
「あの、私ミリアム・レノール。貴方は?」
「オレ?オレはシュトラール。皆シューって呼ぶからシューで良いよ」
森の中をシューが鼻歌を歌いながらサクサク進む。
「シューはこの大陸の人なの?」
「そうだよ。生まれも育ちもココ」
「やっぱり!迷いのない歩き方だからそうだと思ったの」
「ふふ。ミリアムは『女将亭』に食事にきたのかい?」
「いいえ。『幻のミッカジュース』を買いに来たの」
シューが「売ってるかなぁ?」と首をひねる。
「もう売り切れてたりするの?」
「あれは3日前から並んでたりするからね。迷惑だから止めてほしいんだけど」
「そんな・・・」
「ミリアムはどうしてもジュース欲しいの?」
コクリと頷き、目を伏せれば、シューに頭を撫でられる。
「ご主人様か雇い主に買って来いって言われたの?」
「私は使用人じゃないわ!」
「え?そうなの?あー、ごめん。失礼だったね」
確かに私はこの大陸じゃ見劣りする格好かもしれないけど、使用人に思われてるなんて酷い。
「君が幼い感じだったから、小さい子が1人で来るのって珍しいからね」
「幼いって・・・私はこれでも21歳よ」
「えぇええ!!年上のお姉さんだったんだ・・・、じゃあミリアムさんだね」
「呼び捨てでいいわよ。じゃあシューは幾つなの?」
「オレは14歳だよ」
若っ!!!
せいぜい18歳くらいだと思ったのに・・・。
「あ、ココが『女将亭』だよ」
シューが指さしたのは雑誌の切り抜きで見た通りの『女将亭』だった。
既に行列が出来ていて、従業員と思われる黒髪に耳のある少年が行列に注文を取りにメモを走らせている。
「リュー!お客さんだよー!」
シューが少年に手を振って呼びかけるとリューと呼ばれた少年がペンをダーツの様にシューに投げつけ、シューが片手で受け止めると、どんなスピードを出したのか、リューがシューの背後に回り飛び膝蹴りをかまして、地面に倒れたシューの腕を足を絡めてねじり上げていた。
「シュトラール、僕言ったよね?母上の手伝いをしろって」
「ギブ!ギブ!リュー痛い!ごめんってばぁ!」
「まったく、今度母上の手伝いをサボったらギル大叔父の所に放り込むからね」
「それだけは勘弁して!」
服をはたきながらリューが立ち上がる。
シューとは兄弟なのか黒髪に三角耳、尻尾、そして金の右目に黒の左目。
顔立ちは中性的で美少年という感じだ。
「お客さんなら並んでもらってよ。まったく」
リューがペンを拾い上げてスタスタと歩き出す。
「シューの弟さん?」
こそっと聞けば、シューの耳がペタンと下がり、尻尾が股の間に入り込む。
「僕は、シューの兄ですけど?なにか?」
ピンッと立った耳が動き、リューが振り返る。
ギロッと睨みつけられ、思わず首を振る。
なにあれ。怖い。
美少年の迫力怖い。
「ミリアム、リューはオレの双子の兄上」
「双子・・・?えーと・・・」
「あ、うん・・・。よくそういう反応されるけど、正真正銘双子だからね?」
「似て、ないね・・・」
「それもよく言われるけど、リューは母上似でオレは父上似だから」
双子でもたまに似てない人はいるけど、こうも極端に似てない双子も凄い。
シューがおいでおいでと、手招きしてお客さんの列を通り越して、店の中に入りこむ。
なんだか視線がチクチクと痛い・・・割り込みになってはいないだろうか?
大丈夫かなぁ・・・。
「母上、ただいま」
シューが店内に居た白い着物の少女に声を掛ける。
しかし、今『母上』と言った様な?
黒髪、黒目の綺麗な少女で外に居たリューに似ているが、少し大人びた雰囲気もある。
「シューちゃん、おかえりなさい。コラッ。朝は忙しいからお手伝いお願いしてたでしょ?」
「ごめん母上。もうリューに怒られたよ。それよりも母上、ジュース残ってない?」
「ジュースってミッカジュース?」
「うん。オレ、このお姉さんに失礼な事言っちゃってお詫びがしたいんだ」
「まぁ!シューちゃん!あなたって子は!」
シューを押しのけて『母上』と呼ばれた少女が眉を下げて頭を下げる。
「うちの息子がご迷惑をお掛けして申し訳ありません。お詫びをしたいので2階へどうぞ」
「あの、ええええ?」
「ほら、お姉さん行こう!」
息子って言った!
いや、それより私別にお詫びされるような事言われてないし?!
シューに手を引かれて半ば強引に2階へ上がる。
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「あの、私別に失礼な事は言われてないので!」
「駄目だよ!オレがお詫びしたいの!」
シューがニコニコと「母上お願い!」と両手を合わせている。
「もう。シューちゃんがおっちょこちょいなのは母さんも知ってますから、良いですよ。ごめんなさいね。シューちゃん体は大きいんだけど、子供なので失礼な事言ってるでしょ?あっ、私は【刻狼亭】の女将アカリ・トリニアです」
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14歳の子供がいるなら少女では無いのよね?
私より年上・・・見えない。
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「良いの良いの。息子の不始末は母親の仕事ですから」
女将さんが「アルビーお手伝いおねがーい」と、声を出すと白金のドラゴンが部屋に入ってきて女将さんにスリ寄ると「良いよ。何をすればいいの?」と、仲が良さそうにキッチンに立つ。
「ミリアム、良かったね。あ、でもミッカジュースは日持ちはしないから直ぐに飲んでね」
「あの、ありがとう。私、どう言ったらいいか・・・」
「良いの良いの。オレの鼻がミリアムを助けた方がいいってかぎ分けただけだから」
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「妹さん?病気か何かなの?」
「ええ。ずっと寝込んでいて起き上がれないの」
「ミリアムはココからどのくらいの距離に住んでるの?」
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それから数年して、妹は医学の道に進み今は温泉大陸の【刻狼亭】で医師として働いている。
そして私は結婚したのだけれど、夫が事業拡大を成功させた途端、病気にかかり治らないと言われ、妹の為に貰ったオパール色の小瓶を夫に使ったところ治り、夫はその薬に深く感謝をして事業拡大で得た技術で作った魔道具を【刻狼亭】へ無償で提供した。
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