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8章
決断
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リロノスに産医が告げたのは残酷な決断を迫るものだった。
「このままでは赤ん坊も産道で引っかかったまま窒息死してしまう。しかし、赤ん坊を取り出せば、アリスさんはまた出血を起こして助からない。アリスさんを助けようとすれば、赤ん坊をそのままにして傷を縫合していくしかありませんが、アリスさんが助かるという保証もありません」
リロノスがどちらを選んでも『死』しか残されていない。
赤ん坊もありすも両方失う事にすらなってしまう。
「どちらか一方で助かる確率が高いのは赤ん坊です」
「アリスに死ねと言うのか?!」
産医の言葉にリロノスが声を荒げるが、産医も助けられるのなら両方助けたいと、思ってはいるが、既に失った血液は多く、輸血をするにはありすの血が特殊すぎて適合者が居ないと告げる。
リロノスが直ぐに朱里の血を使うことを提案するが、産医は双子に授乳している分、朱里の血液量に余分な量はなく、無理をさせれば朱里が次は倒れて双子の食事を与えられず、3人が衰弱する事になると却下する。
第一、ありすに必要な血は朱里1人で賄える量ではない。
手術中に常に血を輸血しながらになるので朱里1人分の血液を搾り取っても足りないのだ。
「アリスを失うなんて・・・出来ないっ!」
「しかし、助かる確率はありすさんの方が低いのです・・・赤ん坊を優先させるべきだと医師としてお勧めします」
産医とリロノスの声は産院の廊下にも響き、朱里が嗚咽を漏らしてグリムレインの腕の中で泣くと、グリムレインも歯がゆい思いで朱里をそっと抱きしめる。
「回復魔法で・・・回復魔法で傷を塞ぐことは出来ないの・・・?」
「一瞬で傷を塞ぐ芸当が出来るのは光竜のアルビーだけだ。しかし、アルビーの主は双子だからな・・・アルビーの力はすでに双子の物だ。行使権限の許可が下りなければアルビーが使える回復魔法は程度が知れている」
「そんな・・・っ!主君契約ってそんな制限があるなんて聞いてないよ・・・」
「主君を持つという事はそういう事なのだ。主の為でなければ勝手に能力は使えない」
朱里の足から力が抜け、グリムレインが朱里を支えると朱里が青ざめた顔で静かに泣き、廊下の椅子でリロノスの決断を待っていた。
元気な1つ年上のありす。
妊娠中は塞ぎ込む事も多くてヒステリーも起こしていたが、出産が終われば元の天真爛漫な元気なありすに戻って一緒に楽しく家族ぐるみで付き合っていけると思っていた。
一緒の世界からこの異世界に来てしまった大切な友達。
聖女と聖域という似た能力を持ち、同じ様に病気に弱い弱点を持つ同士で、お互いに弱点を補い合う関係。
ありすを失えば、朱里は元の虚弱体質に戻るのだろうか・・・?
朱里がありすを失うかもしれない時に、双子の前から自分が消えてしまう未来を想像して竦みあがった。
子供達を残して死にたくない。
折角手に入れた自分の家族を手放してしまいたくない。
自分が病気になったら、もう、ありすの特殊ポーションで治してもらう事すらできない。
ありすが大変な時に自分勝手な事を考えていると朱里も思うが、幸せを失うのは怖い。
双子の子供達の為にもありすを失うわけにはいかない。
「考えなきゃ・・・ありすさんを助ける方法・・・」
「嫁、命にはそれぞれの時間があるものだ。アリスの時間がここまでという事だ」
「ありすさんを失ったら、私の時間も止まっちゃうかもしれない!」
「嫁、しかしどうにもならん事もある」
朱里が自分の口元に手を当てて目を見開く。
「そうだよ・・・止められる。グリムレインが居れば、止められる」
「どうしたのだ?嫁、大丈夫か?」
「グリムレイン、あなたは人を凍らせても望まなければその人は死なないのよね?」
「ああ、そうだが・・・ああ、なるほど。嫁は流石だな」
グリムレインが目を細めてニヤリと笑い、朱里が大きくうなずく。
2人はドアを叩き、産医とリロノスに提案を口にする。
「ありすさんを助ける方法があるかもしれません!」
朱里の言葉にリロノスと産医が朱里を見る。
「しばらくありすさんとは話せなくなりますが、生きていて欲しいですよね?」
「当たり前だ!アリスが助かるなら!」
「はい。では、まずは赤ちゃんを手早く救い出し、ありすさんを冷凍してしばらく冬眠状態にします」
「どういう事だ?アカリさんは何を言いたいんだ!」
リロノスが困惑した顔で朱里を見ると、グリムレインが「もう時間が無いぞ」と急かす。
「説明の時間が惜しいです!赤ちゃんとありすさんを助けるにはうちのリューとシューが喋れるまでの時間が必要なんです!その間、ありすさんはグリムレインの氷で一時的に時を止めておく必要があるんです!」
「本当に助かるんですか?」
「絶対は無いです。でも今よりも助かる確率は上がります!あ、産医さんありすさんの流した血はグリムレインが氷で持ち帰るのでそのままで!」
ありすの血液をグリムレインが凍らせ採取すると朱里が頷く。
これで何とか大量の特殊ポーションを作るストックを作り、双子が喋り出しアルビーに回復魔法の行使権限が使えるまで持ちこたえればいい。
朱里自身もありすの為に輸血用の血を作る時間を稼げる。
産医に赤ん坊を取り出してもらい、ありすはそのままグリムレインの氷で冷凍させられた。
ありすの時間を停め、ありすを凍らせた氷は朱里の家でグリムレインが管理することになった。
生まれたばかりの女の子にありすとリロノスの名前から『リリス』と名付けられ、朱里が「2人も3人も一緒だから」と、リリスに乳を飲ませて世話をする事になり、リロノスも朱里達の家の最後の一室に住むことになり、結果、朱里の店で従業員として働くことになった。
「このままでは赤ん坊も産道で引っかかったまま窒息死してしまう。しかし、赤ん坊を取り出せば、アリスさんはまた出血を起こして助からない。アリスさんを助けようとすれば、赤ん坊をそのままにして傷を縫合していくしかありませんが、アリスさんが助かるという保証もありません」
リロノスがどちらを選んでも『死』しか残されていない。
赤ん坊もありすも両方失う事にすらなってしまう。
「どちらか一方で助かる確率が高いのは赤ん坊です」
「アリスに死ねと言うのか?!」
産医の言葉にリロノスが声を荒げるが、産医も助けられるのなら両方助けたいと、思ってはいるが、既に失った血液は多く、輸血をするにはありすの血が特殊すぎて適合者が居ないと告げる。
リロノスが直ぐに朱里の血を使うことを提案するが、産医は双子に授乳している分、朱里の血液量に余分な量はなく、無理をさせれば朱里が次は倒れて双子の食事を与えられず、3人が衰弱する事になると却下する。
第一、ありすに必要な血は朱里1人で賄える量ではない。
手術中に常に血を輸血しながらになるので朱里1人分の血液を搾り取っても足りないのだ。
「アリスを失うなんて・・・出来ないっ!」
「しかし、助かる確率はありすさんの方が低いのです・・・赤ん坊を優先させるべきだと医師としてお勧めします」
産医とリロノスの声は産院の廊下にも響き、朱里が嗚咽を漏らしてグリムレインの腕の中で泣くと、グリムレインも歯がゆい思いで朱里をそっと抱きしめる。
「回復魔法で・・・回復魔法で傷を塞ぐことは出来ないの・・・?」
「一瞬で傷を塞ぐ芸当が出来るのは光竜のアルビーだけだ。しかし、アルビーの主は双子だからな・・・アルビーの力はすでに双子の物だ。行使権限の許可が下りなければアルビーが使える回復魔法は程度が知れている」
「そんな・・・っ!主君契約ってそんな制限があるなんて聞いてないよ・・・」
「主君を持つという事はそういう事なのだ。主の為でなければ勝手に能力は使えない」
朱里の足から力が抜け、グリムレインが朱里を支えると朱里が青ざめた顔で静かに泣き、廊下の椅子でリロノスの決断を待っていた。
元気な1つ年上のありす。
妊娠中は塞ぎ込む事も多くてヒステリーも起こしていたが、出産が終われば元の天真爛漫な元気なありすに戻って一緒に楽しく家族ぐるみで付き合っていけると思っていた。
一緒の世界からこの異世界に来てしまった大切な友達。
聖女と聖域という似た能力を持ち、同じ様に病気に弱い弱点を持つ同士で、お互いに弱点を補い合う関係。
ありすを失えば、朱里は元の虚弱体質に戻るのだろうか・・・?
朱里がありすを失うかもしれない時に、双子の前から自分が消えてしまう未来を想像して竦みあがった。
子供達を残して死にたくない。
折角手に入れた自分の家族を手放してしまいたくない。
自分が病気になったら、もう、ありすの特殊ポーションで治してもらう事すらできない。
ありすが大変な時に自分勝手な事を考えていると朱里も思うが、幸せを失うのは怖い。
双子の子供達の為にもありすを失うわけにはいかない。
「考えなきゃ・・・ありすさんを助ける方法・・・」
「嫁、命にはそれぞれの時間があるものだ。アリスの時間がここまでという事だ」
「ありすさんを失ったら、私の時間も止まっちゃうかもしれない!」
「嫁、しかしどうにもならん事もある」
朱里が自分の口元に手を当てて目を見開く。
「そうだよ・・・止められる。グリムレインが居れば、止められる」
「どうしたのだ?嫁、大丈夫か?」
「グリムレイン、あなたは人を凍らせても望まなければその人は死なないのよね?」
「ああ、そうだが・・・ああ、なるほど。嫁は流石だな」
グリムレインが目を細めてニヤリと笑い、朱里が大きくうなずく。
2人はドアを叩き、産医とリロノスに提案を口にする。
「ありすさんを助ける方法があるかもしれません!」
朱里の言葉にリロノスと産医が朱里を見る。
「しばらくありすさんとは話せなくなりますが、生きていて欲しいですよね?」
「当たり前だ!アリスが助かるなら!」
「はい。では、まずは赤ちゃんを手早く救い出し、ありすさんを冷凍してしばらく冬眠状態にします」
「どういう事だ?アカリさんは何を言いたいんだ!」
リロノスが困惑した顔で朱里を見ると、グリムレインが「もう時間が無いぞ」と急かす。
「説明の時間が惜しいです!赤ちゃんとありすさんを助けるにはうちのリューとシューが喋れるまでの時間が必要なんです!その間、ありすさんはグリムレインの氷で一時的に時を止めておく必要があるんです!」
「本当に助かるんですか?」
「絶対は無いです。でも今よりも助かる確率は上がります!あ、産医さんありすさんの流した血はグリムレインが氷で持ち帰るのでそのままで!」
ありすの血液をグリムレインが凍らせ採取すると朱里が頷く。
これで何とか大量の特殊ポーションを作るストックを作り、双子が喋り出しアルビーに回復魔法の行使権限が使えるまで持ちこたえればいい。
朱里自身もありすの為に輸血用の血を作る時間を稼げる。
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ありすの時間を停め、ありすを凍らせた氷は朱里の家でグリムレインが管理することになった。
生まれたばかりの女の子にありすとリロノスの名前から『リリス』と名付けられ、朱里が「2人も3人も一緒だから」と、リリスに乳を飲ませて世話をする事になり、リロノスも朱里達の家の最後の一室に住むことになり、結果、朱里の店で従業員として働くことになった。
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