黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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7章

新店舗

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 夏がいよいよ暑さを増し始めた頃。

 新しい【刻狼亭】の新店舗が出来上がり、朱里の城が完成した。
・・・と、言いたいところではあるが、実際には問題は山積みで、引っ越しの準備が始まっただけともいう。

 外観工事が終わり、1階部分は販売スペースと作業場にキッチン。
庭には巨大なガラスのドームが出来、喫茶店スペースになっている。
いつの間に植えられたのか、アルビーの白い苗木が喫茶店スペースの横に植えられ、いつの間にか店の背丈よりも大きく育っている。

 グリムレインが従者として朱里を主君にしてしまったので、2階の住居スペースの客間にグリムレインを住まわせる事になった。
ハガネは元々、この店舗に従業員として住み込ませるつもりだったのでハガネの部屋は元から用意はされていたが、グリムレインに関しては予定外という感じだった。

 2階はルーファスと朱里夫婦の部屋と子供部屋にハガネの部屋とグリムレインの部屋の4部屋が埋まり、あとの2部屋は客間予定で開けている。
階段を上るとキッチンとリビングがあり、奥に応接間と談話室があり、その部屋を中心に左右に3部屋ずつ別れているので、ハガネとグリムレインが朱里達の部屋に行くのに一々リビングを横切る感じになる。

「アカリ、調味料の置き場はどこにすればいいんだ?」
「私が取りやすい位置が良いので下の段にお願いします。大きな鍋はハガネの取りやすい上で良いよ」

「嫁、我の部屋に置く氷室はどこだ?」
「グリムレインの氷室は1階の販売スペースにまだあったよ」

「アカリ、子供部屋に敷くラグはどこにある?ラグの色はどっちの色を先に使う?」
「確か子供部屋の隅にカーペットと一緒に置いてあるよ。ルーファスに色はお任せ」

 中央のリビングの椅子に座って朱里が3人に指示を出しながら木箱から食器をテーブルに出していく。
お腹が最近ますます大きくなり、テーブルに当たるので作業の効率は悪いとしか言えない。
何より、いきなりお腹の中を蹴り上げられ「ええ?そこに足届くの?」という場所でも足なのか手なのかが伸びてくる為に「今は駄目だよー今は蹴らないでねー」と、朱里がお腹に頼み込みながらしているが、すでに攻撃を受け、朱里は泣かされた後である。

「ううっ、お気に入りのティーカップが割れた・・・」

 蹴られた拍子にテーブルに急いで置いた為、朱里のお気に入りのティーカップは無残な姿になってしまった。
床にティーカップが割れて散らなかっただけが幸いなところだ。
さすがに床にしゃがんで破片を拾うのは無理になってきている。

「アカリ、破片は俺が片付けておくから少し休んでろ」
「私、すごく役に立ってないよー」
「指示出してくれてるだけでも十分だからな」

 ハガネに頭をぽんぽんと叩かれ、朱里が椅子から立ち上がり子供部屋を見に行く。
ルーファスが夏用のラグを見ながら、1つは白い生地に四葉のクローバーがあしらってある緑色の物。
もう1つは水色の布地に白い肉球のあしらってある物を見比べて、どちらにするか迷っている。

「悩んでますね」
「ああ。購入した時もそうだが、どちらが良いか迷うな」
「ふふ。あと1ヶ月もありませんからね」
「そうだな。しっかり部屋を準備しておかないとな」

白い生地のラグに決めたルーファスがしゃがみこみ、朱里のお腹の位置に顔を近づけるとポコと顔を叩かれ、水色のラグに手を伸ばせば、やはりポコと叩かれる。

「どちらも叩かれるんだな」
「ふふ。でも白い方は足で、水色の方は手だったから、水色じゃない?」
「それにしても、子供の手や足の形がこうもハッキリ見えるとは思わなかったな」
「私もこれにはビックリしてるよ。手の平の形がわかるくらいお腹にハッキリうつるの驚くよね。何かお腹からバリって出てきそう」
「怖い事を言うな」

 ルーファスが水色のラグを広げて子供部屋に敷き詰めると「よし」と、声を出して満足そうにするのを朱里が見て、朱里も心の中で「よし」と、声を出す。

「嫁、腹が空いたぞー」
「はーい。今ご飯作りますよー」

 グリムレインの声に朱里が「どっちが主君だっけ?」とクスクス笑いながら言い、ルーファスに「ご飯作ってきます」と、部屋を出ていく。

 キッチンに戻ると、足元をクロとササマキが駆け回り、朱里が「あっ」と声を出した瞬間、目に映ったのは天井だったが、朱里の体を氷色の髪に金色の目をした長身の男が抱きかかえていた。

「嫁は足元に注意しろ」
「あ、ありがとう。グリムレイン」
「礼なら上手い昼飯を頼む。パンに紫のジャムが入っているのが良い」
「はい。ブルーベリーサンドイッチですね。わかりました」
「それだ。それ」

 朱里から手を離すとグリムレインはドラゴンの姿に戻り、2メートルほどの大きさで歩き回る。
ルーファスも背が高いが、ハガネもグリムレインも長身なので天井を高めに作ったが・・・実際、歩き回られると、もう少し高かった方が良かったかな?とも思わないでもない朱里だが、朱里だけなら確実に天井が高い家である。

「うーん。今更だけど、背は高く生まれてくるんだよー」

朱里がお腹に呼びかけながら「ああ、でも背が高いと私すぐに追い越されたらどうしよう!」と、朱里がうーんっと唸ると、キッチンに戻ってきたハガネに笑われ、頬をふくらませたのは言うまでもない。
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