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7章
氷竜と光竜
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暗い海の中で海獣に囲まれ始めると、ああ、海獣に食われて終わるのか・・・と、ぼんやりと思っていると、海面に沢山の光が見える。
花火か・・・ああ、綺麗だな。
最期に綺麗な物を目に焼き付けられるならいいか・・・。
ザボンと、遠くで音がすると月明かりと花火の光の中に白金の光が眩しく見える。
鱗が光に反射しながら、見知った顔が近づいてくる。
ああ、そういえば、アルビーに助けを求めに来たんだった。
あと、【刻狼亭】の嫁にも。
小さな手が必死に腕をつかみ、海面に引きずり上げられた。
「グリムレイン!体を小さくして!飛ぶよ!」
「ああ、耳元で騒ぐな」
体を小さくするとアルビーに咥えられ運ばれる。
海面に海獣がウロウロと泳いでいるのが見える。
うむ。残念ながら我は海獣の餌にはならないらしい。
意識を手放すと疲れた体は直ぐに眠りに落ちていった。
アルビーが【刻狼亭】の旅館の最上階へ戻ると30cmほどの小ささになったグリムレインを床に下ろす。
ハガネがグリムレインを布団の上に持っていき、グリムレインの体を診る。
傷だらけの体は鱗が所々剥がれ、裂けた皮膚から肉と筋が見えている。
呪いを受けたと分かる傷跡には虚無が出来ていた。
「氷竜さん大丈夫でしょうか?」
「わかんねぇな。取り合えず、回復ポーション使うか」
「あ、待って。呪いが掛かってるから私の血をそのポーションに混ぜよう」
「指先だけだからな」
「うん。針貸して」
ハガネが懐からソーイングセットを出すと朱里に針を貸し出す。
朱里が小さく針で指を刺し、ぷくりと赤い血が出るとポーションに血をかき混ぜる。
ハガネがポーションを傷口に少しずつかけながら、アルビーが回復魔法を展開していく。
「うう・・・っ」
グリムレインの口から小さく唸り声がするとアルビーがグリムレインの頬をペシペシ叩く。
「グリムレイン、起きて」
「我の頬を叩くでない」
小さな手でやめろとブンブン振り回し、グリムレインが目を開ける。
金色の目でアルビーを睨み、金色の目のアルビーに睨み返される。
「何があったのさ?」
「何・・・?あああ、そうだった!我が北の山で眠りについていたら、いつぞやの魔術師がまた我に攻撃してきてな・・・眠っていたところを襲われてこのざまだ!アルビーと嫁に治してもらいにきたら・・・力尽きた」
「あと少しで海獣の餌だったよ。私に感謝してよね」
「すまん。助かった」
「あと、アカリもグリムレインに血を使って呪いを解いてくれたからお礼言ってね」
グリムレインがようやく朱里の存在に気付いたのか、目をパチッと丸くして何度か瞬きをすると「嫁~」と、恨みがましそうな声を出す。
「嫁のせいで、我は嫁の下僕になった!どうしてくれる!」
「えええ?!何ですかソレ!」
「我は自分の体内に人の血を受け入れると、その人間の下僕になる契約をしているのだ!どうしてくれる!」
「知りませんよ!なんですか!その変な契約は!」
グリムレインが小さな体で怒りをあらわにするようにジタバタと暴れ、朱里もグリムレインにむぅっと頬をふくらませる。
「あはは。私達ドラゴンは自分の主を決める条件がそれぞれあるんだよ」
アルビーがグリムレインを指さして笑い転げ、グリムレインが顔を赤くしながらムスクれる。
「笑い事ではないのだ・・・我が嫁の下僕・・・」
ガクリと、グリムレインが項垂れながらため息を吐く。
「えーと、ごめんなさい?」
「もう、いい。我も嫁は気に入っていたからな。我は氷竜グリムレイン。氷竜の名の元に嫁を主に認めよう」
「グリムレインさん、気にしないで気楽にお付き合いくださいな。ね?」
「グリムレインでいい。我は嫁の下僕だからな」
「うーん・・・。下僕じゃなくてハガネみたいに気楽にお友達感覚でお願いします」
朱里がハガネを紹介し、グリムレインがハガネを見ながら「嫁の下僕なら我の下僕だな」と言い、ハガネに「先輩の言う事は聞くもんだぜ?後輩」と、見えない火花を散らしていた。
グリムレインの治療を回復ポーションを追加して行い、グリムレインが人心地着くと、星降り祭りはいつの間にか終わりを告げていた。
ルーファスが腕輪の通信に朱里が反応しないので旅館に見に行くと、布団の上で小さな2匹のドラゴンを両腕に腕枕しつつ、アナグマになったハガネを枕に朱里が寝落ちしていた。
「旦那・・・助けてくれ、流石に獣化してると重い」
「クククッ。うちの番は獣化していれば枕にするからな」
「したくてしたわけじゃねぇーよ」
「それにしても、ポーション瓶がすごいな。何があった?」
「そこの氷竜が怪我してココに運び込まれて治療したのに使ったんだよ。ついでにそいつ、アカリの従者になっちまった」
「・・・アカリはまた凄い奴を従者に引っ掛けたな」
「冬の風物詩がアカリの手中に収まっちまった」
ルーファスがすやすやと眠る朱里を見ながら、朱里のお腹に手を当てて優しく撫でる。
「お前の母親は大陸1つ氷漬けにする従者を従えているから悪さはするなよ?お仕置きが怖いからな」
「確かに、違ぇねーな」
ルーファスとハガネがとんでもないドラゴンを従者にしたものだと苦笑する。
後日、朱里が「不可抗力です!」と宣言するが、グリムレインに「我は嫁に無理やり下僕にさせられたのだ」と言われ、刻狼亭の従業員達に「女将さすがです」と、言われるのだった。
花火か・・・ああ、綺麗だな。
最期に綺麗な物を目に焼き付けられるならいいか・・・。
ザボンと、遠くで音がすると月明かりと花火の光の中に白金の光が眩しく見える。
鱗が光に反射しながら、見知った顔が近づいてくる。
ああ、そういえば、アルビーに助けを求めに来たんだった。
あと、【刻狼亭】の嫁にも。
小さな手が必死に腕をつかみ、海面に引きずり上げられた。
「グリムレイン!体を小さくして!飛ぶよ!」
「ああ、耳元で騒ぐな」
体を小さくするとアルビーに咥えられ運ばれる。
海面に海獣がウロウロと泳いでいるのが見える。
うむ。残念ながら我は海獣の餌にはならないらしい。
意識を手放すと疲れた体は直ぐに眠りに落ちていった。
アルビーが【刻狼亭】の旅館の最上階へ戻ると30cmほどの小ささになったグリムレインを床に下ろす。
ハガネがグリムレインを布団の上に持っていき、グリムレインの体を診る。
傷だらけの体は鱗が所々剥がれ、裂けた皮膚から肉と筋が見えている。
呪いを受けたと分かる傷跡には虚無が出来ていた。
「氷竜さん大丈夫でしょうか?」
「わかんねぇな。取り合えず、回復ポーション使うか」
「あ、待って。呪いが掛かってるから私の血をそのポーションに混ぜよう」
「指先だけだからな」
「うん。針貸して」
ハガネが懐からソーイングセットを出すと朱里に針を貸し出す。
朱里が小さく針で指を刺し、ぷくりと赤い血が出るとポーションに血をかき混ぜる。
ハガネがポーションを傷口に少しずつかけながら、アルビーが回復魔法を展開していく。
「うう・・・っ」
グリムレインの口から小さく唸り声がするとアルビーがグリムレインの頬をペシペシ叩く。
「グリムレイン、起きて」
「我の頬を叩くでない」
小さな手でやめろとブンブン振り回し、グリムレインが目を開ける。
金色の目でアルビーを睨み、金色の目のアルビーに睨み返される。
「何があったのさ?」
「何・・・?あああ、そうだった!我が北の山で眠りについていたら、いつぞやの魔術師がまた我に攻撃してきてな・・・眠っていたところを襲われてこのざまだ!アルビーと嫁に治してもらいにきたら・・・力尽きた」
「あと少しで海獣の餌だったよ。私に感謝してよね」
「すまん。助かった」
「あと、アカリもグリムレインに血を使って呪いを解いてくれたからお礼言ってね」
グリムレインがようやく朱里の存在に気付いたのか、目をパチッと丸くして何度か瞬きをすると「嫁~」と、恨みがましそうな声を出す。
「嫁のせいで、我は嫁の下僕になった!どうしてくれる!」
「えええ?!何ですかソレ!」
「我は自分の体内に人の血を受け入れると、その人間の下僕になる契約をしているのだ!どうしてくれる!」
「知りませんよ!なんですか!その変な契約は!」
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「あはは。私達ドラゴンは自分の主を決める条件がそれぞれあるんだよ」
アルビーがグリムレインを指さして笑い転げ、グリムレインが顔を赤くしながらムスクれる。
「笑い事ではないのだ・・・我が嫁の下僕・・・」
ガクリと、グリムレインが項垂れながらため息を吐く。
「えーと、ごめんなさい?」
「もう、いい。我も嫁は気に入っていたからな。我は氷竜グリムレイン。氷竜の名の元に嫁を主に認めよう」
「グリムレインさん、気にしないで気楽にお付き合いくださいな。ね?」
「グリムレインでいい。我は嫁の下僕だからな」
「うーん・・・。下僕じゃなくてハガネみたいに気楽にお友達感覚でお願いします」
朱里がハガネを紹介し、グリムレインがハガネを見ながら「嫁の下僕なら我の下僕だな」と言い、ハガネに「先輩の言う事は聞くもんだぜ?後輩」と、見えない火花を散らしていた。
グリムレインの治療を回復ポーションを追加して行い、グリムレインが人心地着くと、星降り祭りはいつの間にか終わりを告げていた。
ルーファスが腕輪の通信に朱里が反応しないので旅館に見に行くと、布団の上で小さな2匹のドラゴンを両腕に腕枕しつつ、アナグマになったハガネを枕に朱里が寝落ちしていた。
「旦那・・・助けてくれ、流石に獣化してると重い」
「クククッ。うちの番は獣化していれば枕にするからな」
「したくてしたわけじゃねぇーよ」
「それにしても、ポーション瓶がすごいな。何があった?」
「そこの氷竜が怪我してココに運び込まれて治療したのに使ったんだよ。ついでにそいつ、アカリの従者になっちまった」
「・・・アカリはまた凄い奴を従者に引っ掛けたな」
「冬の風物詩がアカリの手中に収まっちまった」
ルーファスがすやすやと眠る朱里を見ながら、朱里のお腹に手を当てて優しく撫でる。
「お前の母親は大陸1つ氷漬けにする従者を従えているから悪さはするなよ?お仕置きが怖いからな」
「確かに、違ぇねーな」
ルーファスとハガネがとんでもないドラゴンを従者にしたものだと苦笑する。
後日、朱里が「不可抗力です!」と宣言するが、グリムレインに「我は嫁に無理やり下僕にさせられたのだ」と言われ、刻狼亭の従業員達に「女将さすがです」と、言われるのだった。
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