黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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7章

多忙中

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 『星降り祭り』の季節が再びやってきた。

 本来ならばもう【刻狼亭】の当主に戻る時期ではあったのに、朱里が妊娠した為に側を離れたくないルーファスが叔父のギルに当主を押し付けていたのだが、流石に『星降り祭り』は無視出来ず、当主に戻り、業務と会合に走り回るルーファスの姿があった。

 ギルが自分の屋敷に戻り、朱里とルーファスも自分達の部屋に戻った。
ハガネもササマキとクロを連れて戻り、ハガネも『星降り祭り』の忙しさに走り回る事になり、朱里は朱里で新しい【刻狼亭】の準備があり、忙しく動き回っている。

新しい【刻狼亭】も工事が進み、外観も出来始めてきた。
明治風な少し和風で少し洋風な可愛らしい店は完成したら、住居スペースに朱里とルーファスは移り住む事を予定している。

 ほぼ外観工事だけなので、朱里はガルドアス領の【風雷商】の商人と店に入り、商品棚や販売用品の棚など話し合いを進めている。

「ここに看板が欲しいんですよね」
「看板は店の顔ですからね。外観にマッチする様な物に仕上げたいですね」
「ええ。それを含めてガラス容器に入れてもらった狼と猫と竜の形を入れてほしいんです」
「では、何点か図案を考えてきますので次の話し合いは看板を決めましょう」
「はい。お願いします」

 商人と話をして次の約束を取り付けると、次はギルの屋敷に行き、ギルが色々用意したベビー用品を見に行く。
まだ早いと思うような遊び道具等もあるが、ギルの心遣いなので無下にも出来ず、新しい【刻狼亭】の子供部屋に置けそうな物や必要な物を持って行ってもらい、残ったものはここに子供を連れて来た時に使わせてもらう事を話している。

「ギルさん、有り難いですけど・・・流石に服は生まれてみないと性別がわからないですし、子供の大きさにもよるので用意はあまりしなくてもいいですよ」

「でも女の子なら衣装持ちの方がいいでしょう?」
「うーん。子供は服を汚しちゃうからこんなフリルだらけなのはどうかと思います」

「男の子なら汚してもいい様に多めに服はいるでしょう?」
「うーん。でもこの服って乳児用じゃなくて結構大きくなってからのだと思います」

ギルの用意した子供服を前に朱里が小さく溜息を吐く。
すでに孫を楽しみにしている祖父母の様で、暴走気味のギルを止められずにいる。

「あっ、痛っいたたたたた!」
「ああ、またですか?よく足が攣る様になりましたね」

ギルが朱里の足に回復魔法を掛けながら、「運動不足ですよ」と朱里に言うと、涙目で朱里が首を振る。

「運動不足じゃないです。子供が重くなってるからどうしてもなっちゃうんです」
「だから妊娠前に運動して体力を付けろと言ったんですよ?」
「運動しても体力つけてもなるものはなりますよ」
「少なくとも子供の重さに耐えられる体づくりをしなかったアカリが悪いんです」
「子宮は鍛えられません!無理ったら無理ですー!」

朱里とギルがワーッと言い合うとネルフィームとアルビーが尻尾でギルを叩く。

「主、アカリを苛めるんじゃない」
「ギル!アカリを苛めたら私が許さない!」

 相棒と愛息子に怒られギルがムスッと頬をふくらませるとネルフィームが「やれやれ、仕方のない主だ」と、ぶつくさ言いながら、朱里に持っていく物を聞いて木箱に詰めながら、ベビー用品を送り届けるついでに朱里を【刻狼亭】まで送り届ける。

 【刻狼亭】に戻るころには良い時間帯になっており、お風呂に入り、着替えを終わらせると朱里は一気に眠気に襲われ、ベッドに沈み込む。
前までは布団を敷いてあったルーファスの部屋も朱里が立ち上がりやすい様にベッドを導入している。

「今日も疲れたー・・・」

 最近は子供が大きくなり、胃が上に押し上げられ始めた為に食欲が出ずに食べずに寝てしまう事が多くなってきた。
今日もこのまま寝てしまおうかとウトウトする瞼に閉じてしまうか迷っていると、腕輪からルーファスの通信が入る。

『アカリ、会合が終わったから今から帰るがどこに居る?』
「もう部屋に戻ってるよ」
『声が眠そうだな。飯は食べたのか?』
「んーんー。食欲無いからこのまま寝ようと思うよ」
『水分だけでも摂っておかないとまた足が攣るぞ?』
「はーい。何か飲んで寝ます」

のろのろとベッドから起き上がると、さながらゾンビが手を前に出して歩く様に朱里が動き出す。
氷室からむくみ改善の薬草部隊から毎日届けられる緑色の味はバナナで誤魔化したと言わんばかりのスムージーをぐびっと飲みながら朱里が腰に手を当てて飲み干す。

「不味ーい!もういっぱーい!いらなーい!」

静かな部屋で朱里が元気に声を上げて、そういえば部屋の間取りをもう少し考えたかったんだと、家の設計図を出して家具の配置をメモに書いていく。

「ああ、そういえば、お皿の柄も東国の職人さんに描く様に言われてたんだ」

1つ思い出しては1つやり、気付けば、ルーファスが部屋に戻り、朱里の口に何かを放り込むまで熱中して仕事をこなしていた。

「はふ・・・、この味は・・・タコヤキ?!」
「オクトパ焼きだ。祭りで出すらしくてな、試食に持たされた」
「んーっ、マヨネーズ欲しいですね」
「まよねーず?」
「卵とお酢とレモーネのお汁少し入れてお塩とマスタードを混ぜた調味料です」
「ふむ。酸っぱそうだな」
「今度作ってあげます。意外とハマる味ですよ?」

 ルーファスにオクトパ焼きを口に入れられながらモクモクと食べている間に、ルーファスに仕事道具を片付けられていた。

「もう少し続けたいのに」
「そろそろ止めておけ。まったく、寝るんじゃなかったのか?」
「スムージーで目が覚めたの」
「なら、また製薬部隊に追加を頼んでおくか」

歯磨きをしながら朱里が首をふる。
あのスムージーはぎりぎり飲めるけど、冷たくなければ飲めない代物だとも思う。
朱里の眉間のしわにルーファスが味は駄目なのかとクククッと笑う。

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