黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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7章

刻狼丸

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 暗い視界にグラグラと少し揺れる世界は怖い。

世界の中心イルブールの街がある海域付近で【刻狼亭】の高速船『刻狼丸』が停船し、他にも冒険者ギルドの船が4隻、『魔狼号』を取り囲み、ギルドの船から冒険者が乗り込むと、甲板に縛っておいた海賊と偽騎士団が引き渡されていく。

 そして、乗船客の目の前で白い布に包まれた遺体・・・と、いう役柄を与えられた血濡れのままの聖女服を着た朱里が甲板に運ばれ【刻狼亭】の船から棺が持ち込まれ、遺体の朱里を棺に入れると『刻狼丸』へ担ぎ込まれる。

「聖女様が・・・」と、すすり泣く声が乗船客から漏れ聞こえるのを聞きながら、朱里は「早く棺を下ろしてもらわないとグラグラ揺れて怖い!」と、思って必死に耐えていた。

 朱里を回収し終わると、怪我人と病人を先に温泉大陸に運ぶという事で、ルーファスとマデリーヌとありすが『刻狼丸』へ運ばれる。
騎士団の服に身を包み変装をしたリロノスもこの時に病人に手を貸す振りをして乗り込んだ。

 全速力でここまで船を急がせた為に燃料が乏しくなった『魔狼号』へ燃料を補充して、あとはゆっくりと温泉大陸を目指す様にキリヒリに指示をだし、『刻狼丸』は一足先に温泉大陸へ向けて出港する。



 船内に入り、ありすが口元を抑えて洗面所に駆け込むと、リロノスが慌てて後を追う。
その様子を見て、朱里が大変そう・・・と、自分とありすの違いに少し申し訳なさを感じる。

「アカリ、大丈夫か?」
「はい。大丈夫です。はぁー・・・ようやく服が着替えられるー・・・」

棺から朱里を出してルーファスが引き上げようとすると、『刻狼丸』に乗ってきていた製薬部隊のマグノリアに止められ、朱里はテンに引き上げてもらう。

「テン。ありがとう」
「いえいえ~。これぐらいしか今回役に立てませんしねぇ」

 今回はマデリーヌの部下達が船内に潜伏していた海賊と偽騎士団を捕縛していたので、出番無しの【刻狼亭】のメンバーだったりする。
テンが苦笑いをしながら、肩に乗せた小鬼が目をくるくる動かしながら情報を他の小鬼に流しているのを軽く突きながら「小鬼は情報操作の仕事がありますけどね」と、笑う。

小鬼には【聖女】死亡の情報を他の小鬼に流させ、魔国への情報開示をさせている。


 朱里が船内にある客室に入り、入浴と着替えをしている間に、医務室でルーファスはマグノリアに捕まっていた。

「さて、若旦那。無茶をしたようですね。苦い薬と不味い薬どちらが良いですか?」

マグノリアが不気味な色のポーションと怪しい色のポーションを手にルーファスのに迫ると、ルーファスが眉間にしわを寄せながら「苦い方で・・・」と苦渋の決断をしてポーションを受け取る。

「マグノリア、一応言っておく。オレは若旦那ではなくなる」
「え?若旦那、ギルに【刻狼亭】を譲って隠居ですか?腹に風穴開けられたぐらいで弱気ですね?」
「違う。そのぐらいで隠居できるものならとっくの昔に隠居している」
「じゃあ、どうしたって言うんです?」

 少し目線をさ迷わせながらルーファスがいざ口に出すのは結構照れる物だなと思いながら口を開く。

「【刻狼亭】の16代目が出来た。まだアカリの腹の中だが」
「若・・・いえ、旦那様。おめでとうございます。本当に良かったです」
「数時間前に気付いたばかりでまだお互いどう喜んで良いかわからないんだがな」

少し困ったような照れた笑い方をするルーファスにマグノリアが優しい目を向ける。

「つわりが酷くなったり、体がむくんだりしたら妊婦にも良い薬草がありますからいつでも言ってくださいね」
「ありがとうマグノリア。まぁ、アカリはつわりがないみたいでな、シノノメの方がつわりが酷いようだから後で薬草を出しておいてやってくれ」
「ええ、いいですよ。しかし、女将は妊娠の兆候なんて見えませんでしたから驚きですね」
「アカリも驚いていた。温泉大陸に戻り次第、産医を呼ぼうと思うが、こういう時はどうすべきなんだろうな?」

「とりあえず、そのポーションを飲んで治療をさっさっと終わらせる事ですね」

 マグノリアがニッコリ笑顔で丸眼鏡をずり上げながら笑うと、ルーファスが「チッ」と、小さく舌打ちをする。
話のめでたさに忘れてくれるほどマグノリアは甘くはない。

 ルーファスが渋い顔でポーションを飲み干し、マグノリアに回復魔法をしてもらい銃創から魔弾の核を取り出して治療をしてもらうと、最後に痛み止めの薬草を煎じた物を飲まされ「結局、苦いのも不味いのも飲まされるんじゃないか」と、少し涙目で文句を言うと、マグノリアがくすくす笑って、ありすのつわり用の薬草を煎じ始める。


 浴室でシャワーを浴び終わると朱里が洋服に着替えて、ようやく人心地着く。
さすがにルーファスの血といえど血まみれの服のままなのは勘弁願いたかったりした。

ぐぅー・・・

お腹の虫が鳴り、朱里がお腹に手を当てる。

「食いしん坊さんだねぇ・・・って、ご飯食べてないから仕方がないか」

 朱里が「ハガネのご飯食べたい・・・」と、呟けばお腹からポコポコと音がして「うんうん。やっぱりハガネのご飯が最高だよねぇ」と、朱里が音に答える。


 『刻狼丸』は温泉大陸に昼を過ぎた頃に着いた。
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