黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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7章

怪我人

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 朱里の目の前が暗くなると、耳に響いたのは銃声だった。

ドサリと音がすると、男が床に倒れていた。

「アカリ、無茶を・・・するな」
ルーファスが顔を歪めながら、腕に抱き寄せた朱里に笑う。 

 銃で撃たれ気を失い、朱里の悲鳴で目を覚ましたルーファスは、朱里の落とした魔導銃を拾い上げて、朱里を自分の懐に抱き寄せて庇うように男に魔導銃を放ったものの、反動で撃たれた腹の傷が痛み、また少し気が遠くなりそうになる。

「ルー・・・ファス・・・?ルーファス!大丈夫?」

「大丈夫だ。アカリこそ、指は大丈夫か?銃を扱い慣れてないと、反動で怪我をする・・・っ、アカリの可愛い爪が、剥がれてしまったな」

 朱里の指の爪が剥がれて血を滲ませているのを痛ましそうに見つめると、朱里が首を振りながらルーファスに抱き着いてワッと泣き始める。

 さすがに泣いている朱里に抱きつかれると腹の傷が痛いとも言えず、やせ我慢で耐えた。

 結局のところ朱里は男に魔導銃を放ったものの、男にかすっただけで逆に自分が銃の扱いに慣れていない為に怪我をしただけという、結果だった。

 医務室で回復ポーションで銃創の傷を洗いながら縫い合わせ、応急処置をされたルーファスとマデリーヌだったが、マデリーヌは【刻狼亭】からの救援がくるまで乗客の安全を優先させる為に、部下に指示を出したりと忙しく動いていた。
流石、騎士団長という事はある。

海賊の男はルーファスの撃った銃で重傷を負ったものの、何とか一命は取り留めている状態であと数時間もすれば【刻狼亭】とイルブールの街から冒険者ギルドから派遣された賞金稼ぎが引き取りに来るだろう。

海賊行為をすれば自動的に賞金首になる為に、今頃大喜びで手ぐすねを引いている事だろう。


 ルーファスは船医に安静を言い渡され、大人しくベッドで横になるものの、横で青白い顔をして寝ている朱里の方が心配で大人しくしていられないのが現状だった。

「アカリ・・・」

 ルーファスが医務室に運ばれている最中に朱里が気を失い倒れたものだから、朱里も医務室送りになっているのである。
どうせ寝返りなんて打てないので同じベッドで寝るとルーファスが我が儘を言い、朱里の横で寝ているが朱里の体温が低い事が気になって寝付くこともできない。

 青白い顔で眠る朱里の顔を覗き込みながらルーファスが朱里の顔にこびりついた血を拭き取る。
ルーファスが朱里を自分の腹に押し込める様に庇いながら銃を撃ったので、朱里の着ていた聖女の服は真っ赤に染まり、顔にも血がこびりついている。

 しかし、青白い肌で医務室に運ばれる朱里の血だらけの姿を見た人々が「【聖女】様が亡くなった!」と騒いだのでそのままにしている。
図らずとも、【聖女】死亡の偽造が出来るのならばそのまま押し通してしまうつもりだ。
ありすは操舵室に隠れたままリロノスと過ごしている為に気付く者も居ない、そのまま【刻狼亭】の船が着くまでは現状維持という事になっている。

 腹に力が入れられない為に朱里を抱いて医務室に運ぶこともできず、マデリーヌの部下に朱里を運ばせる羽目になったのはルーファスとしては不甲斐なく、油断して腹を撃たれた挙句、大事な番の朱里に銃を扱わせて怪我をさせ寝込ませてしまった事で、落ち込みまくるルーファスだったりする。

耳をぺしゃりと下げて朱里にスリ寄りながら、腹の痛さに眉間にしわを寄せる。

「痛っ・・・クソッ」

「・・・だい、じょうぶ?」

朱里が目を開けて上半身を起こすと、心配そうにルーファスを見つめてくる。

「アカリこそ、平気か?指の痛み止めを船医が置いて行っているから飲んでおくといい」
「私は平気。ルーファス、お腹大丈夫?」
「一応、平気だ。内臓には傷がいってないようだが、下手に動けん」

 朱里がルーファスの髪を撫でつけながらぺしゃんとなった耳を触って、痛くて耳がぺしゃんとなってるのかな?無理してるのかな?と、心配で目を揺らしていると、ルーファスの耳が動き、クスリと笑う。

「アカリの言っていた音がするな」

「え?」

「撃たれる前に、ポコポコ音がすると言ってただろ?今、してる」

コポコポ・・・コポ・・・

朱里の体から腸が動くような音がして、ルーファスが耳を澄ませて朱里の体の音を聞く。

「もぅ、恥ずかしいから聞かないで。きっとグル音です。最近、結構食べてたから腸の動きが活発なの」

朱里が困った顔で自分の横で耳を動かすルーファスを見るが、ぺしゃんとなっていた耳が動いているので少しは痛みを忘れさせる気晴らしになるだろうか?とも、思って強くは言わないでおく。

「なぁ、アカリ・・・。最近、本当に狼に似た動物に噛まれたとかなかったか?」

「またその話?無いよ。第一、ほとんど一緒に居たでしょ?噛まれてたらルーファスが気付かないわけないし」

「そうなんだが・・・アカリが最近よく肉を食べるし、獣人並みに聴覚が良いのが気になる」

「んーっ、あれかもしれません」

「あれ?何か心当たりがあるのか?」

「氷竜さんの『祝福』かな?って、思うの。私も少し気配や匂いに敏感なのが気になったんだけど、それぐらいしか思いつかないよ」

「そういえばアルビーに『祝福』の事を聞き忘れていたな」

 アルビーが冬眠明けで寝ぼけていたのもあったし、魔国行きも決まっていて聞く時間がなかったのもある。
朱里が「お肉いっぱい食べちゃうのはエネルギーをいっぱい使うからかなー?って、解釈してたよ」と笑い、ルーファスが「まぁ、肉はエネルギー補充には良いな。またアカリを連れて焼肉屋にいくか」と言いながら、朱里の体から出ている音に耳を傾ける。

「アカリの心音は安心する」

「心音って聞いていると眠れるって聞いたことあるよ。私の心音で良ければ聞きながら寝てね?早く寝て治さないとまたシュテンやギルさんに怒られちゃう」

「ああ、確実に怒られそうだ。下手したら修行に駆り出されそうだ」

あははと、2人が声を出して笑うと「っ、腹が、笑うと痛い」と、ルーファスが言い慌てて朱里が静かにする。

 ルーファスの耳に朱里の体から心臓の音と呼吸音が静かに聞こえて、氷竜の『祝福』の線もあるな・・・と、人狼の線は可能性が低いか・・・と、考えを捨てる。

トクン トクン・・・
 ( トク トク トク ・・・)

 ルーファスの耳に朱里の心音のゆっくりした音より早い小さな音が聞こえる。
脈の音かとも思ったが、ならば心音と一緒のはずが、2倍くらいの速さでトクトクいっている。

朱里の体に耳を押し付けると、朱里が声を掛けてくる。

「ルーファス?どうしたの?」

「シッ。少し静かにしていろ」

 朱里が首をかしげて、気恥ずかしそうにルーファスに耳を体に押し当てられて身じろぎ出来ずに困っていると、下腹部に耳を当てて、ルーファスが「いや、んー・・・そうなのか?」と、ぶつぶつ言いながら顔を上げる。

「アカリ、月の物はきてるか?」

「えー・・・と、この間ルーファスとした後でなったけど、2日ぐらいで終わったかな?私、この世界にきてから色々あって不順なとこあるから」

「ふむ・・・。オレじゃ判断がつかないな」

ルーファスが起き上がって、ベッドから降りると朱里が慌ててルーファスの服を握り止める。

「何してるの?寝てなきゃ駄目!」

「船医を呼んで来るだけだ」

「それなら私が行くから!寝てて!」

 朱里がベッドから降りると、ルーファスが慌てて朱里をベッドに引き戻し座らせると、顔を歪める。
手を伸ばした反動で撃たれた腹の傷がジクジクと痛み、痛さを逃すために浅く息を吐き出すと、朱里がルーファスに「横になって!すぐお医者さん呼んで来るから!」と悲鳴に近い声を上げて、駆けだすとルーファスも悲鳴に近い声を上げる。

「アカリ!走るな!」
「大丈夫!この船揺れてないから」

 朱里がそう言って足を止めない為に、ルーファスが痛みを堪えて走り、じわっと腹に温かい物が広がり傷が開いたのが分かったが、ルーファスは気にしている場合ではないと朱里の手を掴んで、引き留める。

「ルーファス?何してるの?!酷い顔色になってる!」
「っ・・・、オレはいいから、アカリ、とにかく走るな・・・くっ」
「でも、急がないと・・・!!ルーファス、血が出てる!お医者さん呼ばないと」
「オレよりもアカリの体が心配、だから、痛っ、ハァ」
「訳わからない事言ってないで、ルーファスはココでじっとして!直ぐ呼んで来るから!」

朱里が焦って声を上げ、ルーファスの腕を振り解こうと暴れると、ルーファスに抱きつかれるように羽交い絞めにされる。

「アカリ1人の体じゃないかもしれない!頼むから、走るな・・・つっ」
「そんなの関係ないよ!離して!」
「バカ!妊娠してるかもしれないんだぞ!」
「バ・・・えっ?」

バカって何?と、思わず反論しそうになり、言葉の続きに朱里が目を丸くする。
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