黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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7章

魔法通信

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 「この船は最新型の高速船なのに魔法通信の水晶は積んでいないのか?」

ルーファスの問いにキリヒリは困った顔で緊急用の連絡方法として一応は知っているものの、ルーファスに教えていいのかが判断がつかないでいた。
 魔法通信に使われている水晶はかなり希少であまり数がない為に船に積んであること自体少なかったり、指定場所に制限のある物などが支流で、この船に搭載されている魔法通信の水晶は温泉大陸と魔国の海域ならどの国とも通信ができるそこそこ高い物。
売れば派手に暮らさなければ一生食べていけるだけのお金にはなる。
ルーファスが盗人かもしれない危険性もあるのに、喋って盗まれでもしたら、自分の責任になってしまうのだ。
それは非常に困る。

「あったとしたら何を伝えるんです?魔国へ連絡するにしてもこの高速船の速さを考えたら今も進んでいますから、あなた方の言う海賊行為への救助を求めるにしても、追いつくことは不可能ですよ?この船を停止させるわけにもいかないですし・・・」

 海賊行為があったと告げてもキリヒリがこの船を進めている為に、朱里の立てた船から落ちて聖女と魔王死亡計画も危なすぎて出来ないのだ。

 キリヒリいわく、一度急病人の為に船を停めたので停めて遅れた分を巻き返して進ませている最中なので停止なんてできないらしい。
お給金が減らされてしまうのはキリヒリとしては御免こうむりたい。

「温泉大陸へ海賊行為があった旨を知らせ、【刻狼亭】所有の高速船『刻狼丸』でこちらの方まで迎えに来るように伝えたいのだが」

「無理ですよ!【刻狼亭】への連絡にそんな事を伝えたら、この船が沈められます!この船に【刻狼亭】の当主とその奥様が乗っているんですよ?当主と奥様に無礼を働いたと知られて無事であるはずがない!」

 ルーファスが自分の冒険者カードを取り出してキリヒリに突き付ける。

「オレが【刻狼亭】の当主ルーファス・トリニア本人だ。冒険者カードの偽造は出来ない。名前と所属と職業を見てみろ」

冒険者カードの所属には【刻狼亭】の文字。
職業欄には【刻狼亭】15代目当主の文字。

「こ・・・刻狼亭の・・・と、当主、いえご当主様ぁぁぁあああ!!!!」

「確認出来たようなら、すぐさま連絡を取りたいのだが?」

戸惑うキリヒリにルーファスがズイッと近付くと、キリヒリが泣きそうな顔になる。
【刻狼亭】の当主なんて噂ぐらいでしか聞いたことがないし、有名な人物と関わることなどキリヒリの人生にはほぼない出来事で頭の処理能力がついて行かない状態なのだった。

「ルーファス、苛めては駄目です」

 操舵室に朱里が入ってくると、ルーファスが「苛めてはいない」と、首を振る。
マデリーヌとありすとリロノスも入り、操舵室の密度が上がる。

 さすがにキリヒリも【魔王】のリロノスは知っている。
【魔王】に【刻狼亭】の当主の有名どころが2人も目の前に居る為にキリヒリの頭は脳内パニックを起こす。

「リロノス、この船に魔法通信は乗せていないのか?」
「あるはずですが・・・そこの操舵士、魔法通信の水晶を出してくれ」

 リロノスに命令され、キリヒリが「ひゃぃいい」と変な返事をしながら操舵室にあるレバーを引くと、床から魔法通信の水晶がゆっくりと下から上に上がってくる。

 ルーファスが【刻狼亭】へ連絡を取ると魔法通信に出たのはシュテンだった。

『若、どうかされましたか?』

「シュテン、魔国からの高速船で問題発生だ。【魔王】の暗殺と【聖女】誘拐を目論んだ海賊行為が行われている。温泉大陸から高速船でこっちに救援を頼めるか?」

『わかりました。直ぐに向かわせます。そちらは今どこら辺の海域に居ますか?』

「おい、操舵士この海域はどこらへんになる?」

ルーファスがキリヒリに話を振ると、キリヒリが航海図を指さしながら、魔国から出て東南沖を指さす。

「ふむ・・・。この船の速度をもっと上げることは出来るか?」

「出来ます。上げるとしたら明日にはイルブールの街の近くまでは行けると思います」

「随分早いな・・・」

世界の中心イルブールの街は冒険者ギルドの本部。
少し東へ進むと東国、そして東国から南西へ下れば温泉大陸の海域になる。

「寝る暇と、エンジン全開で燃料も気にせずに行けば東国辺りまでいけますが・・・かなり燃料を使うので温泉大陸海域辺りで燃料切れを起こすかもしれません」

「よし、それでいこう。シュテン、【刻狼亭】の高速船で東国付近の海域で海賊を引き渡せるようにギルド本部へ連絡し、海賊を取り押さえられるように出来るようにしておいてくれ」

『わかりました。若はくれぐれも無茶はしないで下さいね』

 ルーファスが肩をすくませてみせると、シュテンが眉間を指でほぐしながら小さく溜息を吐く。
シュテンの後ろでメビナとタマホメが「船に乗るの?」と騒いでいる声がする事から双子が暴れに来るかもしれないなと、ルーファスは思いながらも暴れてもらったほうが良いかとも思う。

 魔法通信が終わると、ルーファスがキリヒリに全速力で温泉大陸を目指すことを指示し、キリヒリが自分の能力を全開にして船の速度を上げていく。
揺れ一つ起こさず速度を上げていく能力は凄いと素直にルーファスは思う。

「操舵士、もしこの船がこの事件で証拠品として押さえられたら、うちの操舵士として働いてほしいところだ。考えておいてくれ。お前の腕は素晴らしいものがある。給金も身に合うものを提示させてもらおう」

「へぇ?はぃぃぃぃいい?!!」

 クククッと笑いながらルーファスが良い人材だとキリヒリに目を付けて素早く勧誘している。
キリヒリが目を白黒させながら、冗談なのか本気なのか戸惑うと、朱里がキリヒリを見上げる。

「私も良いと思いますよ。操舵士さん、ぜひ【刻狼亭】で働いて下さいな」

「えと、あなた様は・・・」

 聖女様だろうかとドギマギしながらキリヒリが朱里を見つめると、朱里はにっこりと笑って「【刻狼亭】の女将です」とキリヒリに告げる。
聖女様ではなかったのかと少し残念に思いながらも、【刻狼亭】の当主と奥方に直に勧誘されるとは・・・。
これがキリヒリの分岐点だったと、後にキリヒリは語る。
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