黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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7章

蹂躙

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 能面の様な顔で表情もなく赤い燃えるような髪をなびかせてマデリーヌが次々と海賊の首筋や腕を狙ってレイピアで突きを放っていく。

「化け物女だー!!」
「他に魔導銃を持ってる奴はいないのか?!」
「こんなに嫌らしい攻撃をしてくる女見た事ねぇ」

 海賊達の足元にはレイピアで銃のトリガー部分を貫かれ暴発をさせられた魔導銃が転がっている。
マデリーヌが的確に銃の弱い部分を狙って魔法とレイピアで攻撃をしてくる為に、遠距離を止め、接近戦に持ち込んで近付けば、首や手首などを集中的に狙われ、数で押そうと人数を集めたものの、狭い船内では仲間が邪魔で余計にマデリーヌに有利な戦いになってしまっていた。

 表情すら変えないマデリーヌに海賊も恐怖しか覚えない。
息も乱さない余裕すら見える戦いぶりではあるが、流石のマデリーヌも気の抜けない戦いに疲弊しないわけではない。

ありすとリロノスがマデリーヌが守る部屋に居る以上は疲れた等言ってはいられない。守るべき者が居る以上、マデリーヌに負けという文字は許されないのである。

「魔導銃ならここにあるぞ」

 マデリーヌが無表情のまま心の中で焦ると、バンッと発砲音がするとドサリと海賊が一人倒れ、バンッと音がする度にドサリと海賊がまた一人と倒れていく。
海賊達が何が起きたのかと後ろを向けば、ルーファスが海賊の足を打ち抜きながら魔導銃を海賊達に向けていた。

「マデリーヌ、大丈夫か?」
「はい。何という事はありません」

 海賊達がマデリーヌの方を向けば後ろからルーファスに魔導銃で足を打ち抜かれ、ルーファスの方を向けばマデリーヌにレイピアで突かれる。
逃げ場のない海賊達も捨て身で襲い掛かってくるも、的確に急所をついてくるマデリーヌと魔導銃で確実に足を打ち抜いてくるルーファスに逃げたくても逃げられず、逆に蹂躙されていった。

 数十分で廊下には床に転がり呻き声が上げる海賊達が出来上がっていた。
マデリーヌがようやくフゥーッと息を吐くと、ルーファスの傍らに朱里が居ないことに気付く。

「アカリ様はどちらに?」
「アカリならこの廊下の3番目の部屋に隠れている。迎えに行くからこいつ等を鎮圧しておいてくれ」

 ルーファスが踵を返すとマデリーヌが分厚い騎士団のブーツの底で海賊達の顎をめがけて振り下ろしていく。
マデリーヌが海賊達を気絶させながら、騎士団服から赤い金属糸を取り出すと海賊達の両腕を後ろ手に回し、親指同士をくっつけて糸で縛り、1人ずつ廊下の隅に転がしていく。


 ルーファスが廊下の3番目の部屋をノックし「アカリ」と声を掛けると朱里が部屋のドアを開けてルーファスの顔を確かめるとギュッとルーファスの腰にしがみつく。

「怪我してない?大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
「ありすさん達は?」
「マデリーヌが部屋を守っていた。今から入るからアカリも行くぞ」
「はい」

朱里を抱き上げて、マデリーヌの所まで戻ると、マデリーヌがありすとリロノスの居る部屋をノックする。

「マデリーヌです。鎮圧完了しました」
「・・・」

マデリーヌの言葉に中からの返答はなく、横から朱里が声を掛ける。

「ありすさん大丈夫ですか?」

朱里の声に扉が開き、リロノスが剣を構えたまま廊下の3人を見渡し、廊下に転がされている海賊を見てホッと息をつく。

「マデリーヌ、一体何があったというんだ?」
「おそらく、この式典での処女航海に乗り込む金持ち目当ての海賊の犯行だと思われます」

リロノスとマデリーヌのやり取りにルーファスが口をはさむ。

「この船の船員も奴らの一味が入っていたぞ。詳しく調べる前に鎮圧してしまったので何処まで一味が入り込んでいたかはわからないが」

ルーファスの言葉に朱里が申し訳なさそうな顔をして、ポーションホルダーを指で弄っている。
しかし、リロノスとマデリーヌはルーファスの言葉に息をのむ。

「この船の船員は安全上の理由で1週間前に乗る船の情報が知らされるのです。海賊が偶然ならば問題はないかもしれませんが、船員に海賊の一味が雑じっていたとなると・・・問題があります」
「魔王陛下が狙われたのでは?」
「いや、私は本来乗り込む事は予定になかった・・・だとすれば、シノノメか?」

 リロノスが難しい顔をしながら部屋の中に3人を招き入れ、ベッドの上で青い顔をしたありすに声を掛けると、ありすが無理に笑って見せる。

「なんか物音すごかったっしょ。皆大丈夫だった?」
「ありすさんこそ大丈夫ですか?」
「うちは大丈夫」

 青い顔をして何を言っているやらと、思いつつも口に出さずにリロノスがありすの横に座り腕組をする。
海賊の目的が海賊行為なのか、それとも別の思惑があるのか、それがハッキリしなければ動きようもない。

 「なあ、海賊行為があった後の船の乗客の末路はどうなるかわかっているか?」

ルーファスの低い声にリロノスがハッとした顔をして面を上げる。

「乗客は殺されるか、救命船で海へ投げ出されるか、船員が海賊の一味で使い物にならなければ船は動かせない」
「そうだ。まだ出航して少しだから引き返せる距離かもしれないが、シノノメに海を泳げというのも救命船も辛いかもしれない」
「やはりこの計画は無謀だったのか・・・」

「シッ。皆、静かに」

朱里の声にルーファスの耳が動く。
ルーファスの耳に人の足音と声が聞こえる。
「聖女を探せ」という声が。
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