黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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7章

進水式

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 エグザドルの港に一隻の船が登場すると、進水式が始まり、ルーファスの言っていたようにお偉い人の長い話が始まった。
 かいつまんで話すと、この船は今日初めて海に入るよ!温泉大陸とエグザドルを行き来する定期高速船だよ!って事なのだと、朱里はぼーっとしながら自分の頭の中で話をまとめる。

 【魔王】リロノスは真面目な顔で式典に臨み、表情を崩さないのはさすがとしか言いようがない。
ルーファスも表情を崩さず式典を眺めている。
ありすは長いベールで頭と顔を隠してしまっているので表情をうかがうことは出来ないが、たまにミントの香りがしていることからミントタブレットを食べながらつわりと戦いつつじっとしているのだろう。

 朱里は話を右から左状態になりながらも、【刻狼亭】の女将として初めて公の場に姿を出しているので表情だけは崩さないようにしているが、話の長さに飽きて、お偉い人が話すたびに揺れているカツラが危なそうだな・・・とみているぐらいだった。

パチパチパチ・・・と、拍手が周りから起きて、ようやく朱里の意識は戻ってくる。

「アカリ、長い話は終わったみたいだぞ」
「はい。長かったです・・・」

 ルーファスが意識が何処かに飛んでいた朱里に小さく苦笑いすると、移動の旨を朱里に言えば「そうなの?」と聞き返してくる。

「相当話を聞いてなかったんだな」
「だって、簡単な話を難しい事言って長々と言うんだもの」
「まぁ確かに、あれだけの内容だと5分で終わるからな。ある意味30分以上も長引かせたのはすごいと思うぞ」
「それでどこに向かっているんですか?」
「船の前まで移動だ。船を出航させるから、その前に船の安全祈願を願って呪いをするんだ」
「おまじないですか?」
「ああ、昔は生贄を使っていたらしいが・・・今は赤葡萄のワインを船に叩きつけるだけのものだ」
「知ってます。見たことありますよ!たまにお酒の瓶が割れなくて何度も叩きつけるやつですね!」
「やるのはアカリなのをわかってるのか?」
「ふぇ?」
「シノノメとアカリが代表でやると言っていたのも聞いてなかったのか?」
「聞いてないです!ふぇぇ~っ」

 仕方がない番だと、ルーファスが笑いながら朱里の手を引きながら移動し、ありすとリロノスは腕を組みながら移動をする。

 船の前で再び、カツラのズレそうなお偉い人の話に朱里がぼやんとしていると、奇妙な気配に思うより先に体が動いていた。
それはルーファスも同じで「アカリ!」と声を出しながらも朱里の手を引き自分の腕に抱きよせると、朱里の居た場所に顔を赤くした酔っ払いの男が倒れこんでいた。

「大丈夫か?」
「うん。びっくりした」

 朱里とルーファスの元へマデリーヌが駆け寄ると、騎士達が酔っ払いの男を取り押さえて連行していく。

「ご無事ですか?」
「はい。大丈夫です」
「あれはただの酔っ払いか?」
「おそらくは港町ですので酔っ払いの類だとは思いますが、一応取り調べておきます」

 マデリーヌが朱里とルーファスの横で護衛をし、目を光らせていると、ワインのボトルが船の上に作られた檀上でお偉い人の手によって掲げられると、ありすと朱里が呼ばれる。

 ルーファスが少し心配そうな顔をするが、朱里が小さく「頑張る」と、両手を小さくガッツポーズさせて見せ、ありすと一緒にワインボトルに手を掛ける。

「ありすさん、ワインボトルを船に叩きつけるのってワクワクしますね」
「アカリっちに少しお願いしていい?うち、少し気持ち悪くて」
「わかりました。では、手を添えるだけで。割ったら直ぐに休んでくださいね?」
「ごめんっしょ・・・」
「いえいえ」

 人の視線の集まる中、ありすと朱里がワインボトルを周りに見せる様にして、お偉い人から言葉が出るのを待つ。

「では、【聖女】様とアカリ様、進水式のワインを!!」

その言葉にありすと朱里でワインを投げると、途中でありすが手を放し、朱里が思いっきり船にワインを叩きつける。
コツンと、軽い音がしてボトルが割れずに跳ね返って戻ってくると、ルーファスが返ってきたワインボトルを手でキャッチして朱里の手に再び戻す。

「思いっきり投げたんだけど・・・」
「どうやら、このワインボトルは割れにくい様に細工がしてあるようだぞ」
「なんでそんな事が?」
「見たところ、意地の悪そうなのがニヤついていたから、おそらくそいつ等だろう」

 ルーファスが目線で出席している集団の中でニヤついている偉そうな男達を睨みつけながら、朱里が再度投げつけたワインボトルに小さく魔法で亀裂を入れ、船に当たる瞬間にお湯玉を作り、ワインボトルが割れた瞬間に、ニヤついていた男達にお湯球がぶつけられる。

「ギャー」という声は、ワインボトルが割れた拍手にかき消され、ルーファスがフンッと鼻を鳴らす。

「アカリ、船に乗るぞ」
「はい。ありすさんも手を」

 朱里がありすに手を伸ばすと、リロノスがありすを抱き上げて朱里の手を取り船の中へと急がせる。
ルーファスが少し怪訝な顔をしながらも船に乗り込むと、船の外ではカツラのズレそうな男が「【魔狼号】の処女航海は温泉大陸行きになり、初航海に【刻狼亭】より【聖女】様が正式招待を受け、より一層の魔国エグザドルと温泉大陸の親善大使として向かわれます」と、拡声器の様な魔法で話すのが聞こえる。

「シノノメの具合が悪くなっているので進行役に説明は頼んでおきました」

リロノスが簡単な説明しながら、人目につかない船内を通り、客室へありすを運ぶとベッドに座らせるとありすを抱きしめてから、客室を出ていく。

「私は出航を急がせます。出航したら船医を呼びますのでそれまでシノノメをお願いします」
「わかりました。ありすさんの事は任せてください」

リロノスに朱里が答え、リロノスが頭を下げると踵を返して去っていく。

「ルーファス、私たち必要だったのでしょうか?」
「さぁな。まぁ、シノノメの傍にいてやる信用できる人間が必要だったんだろうさ」

ルーファスと朱里が目線を合わせながら小さく肩をすくませ、船が出航するまで具合の悪いありすの世話をすることになった。
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