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7章
竜と木
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温泉大陸に桜色の花びらが舞う。
桜の木の下で白金のドラゴンが首を伸ばしながら、鼻をスンスンと動かす。
「アルビー、もう体は大丈夫なの?」
白い着物に桜色の帯をした朱里が屋敷から庭に出て、桜の下に居るアルビーに声を掛ける。
アルビーが金色の目を朱里に向けて瞬きをすると、首をゆらゆらと揺らしながら「クルル」と喉を鳴らす。
「うん。冬眠明けで体がなまってるけど、平気だよ」
「それなら良かった。ガラスハウスでアルビーの白い木を育ててるけど見る?」
一瞬、アルビーが「なんだっけそれ?」と首をひねるが、途中で思い出したのか尻尾をパタパタ左右に振り始める。
「見るよ。大きくなった?」
「それなりに大きくなったよ」
ガラスハウスの前でアルビーが体のサイズを朱里と同じくらいに縮めると2人でガラスハウスの中へ入る。
アルビーの白い木は冬の間でも成長をぐんぐんと続け、氷竜から貰った時は小さな手の平に乗せられるほどの苗木だった物が、今では1メートル程の大きさに成長している。
「アカリお世話してくれてたんだね。ありがとー」
「ううん。それより、アルビーこの白い木は何の木なの?」
「この木はね『竜の癒し木』だよ」
「竜の癒し木・・・どんな木なの?」
「この木に成る実は竜の好物なんだよ。だから竜の癒し木」
「なるほど。早く美味しい実が成ると良いね」
朱里がアルビーの鼻先を撫でるとアルビーが嬉しそうに目を細めながら、朱里にすり寄って「実が収穫出来たら一緒に食べようね」と楽しそうに声を出す。
「アカリ、そろそろ出掛けるぞ」
「あ、はーい。アルビーまた帰ってきたらね」
革のトランクを持ったルーファスに声を掛けられ、朱里がアルビーに手を振るとアルビーも手を振り返す。
「いってらっしゃい!ルーファス、アカリ」
「行ってくる。留守は頼んだぞアルビー」
「いってきます!アルビーお土産買って帰るね!」
仲良く手を繋ぎながら出掛けて行くルーファスと朱里を見送りながら、ガラスハウスの中でアルビーが白い木を眺める。
「アカリに水やり頼んで正解だった。毒も無くなって聖属性の木になってる」
『竜の癒し木』の美味しい実は竜が卵になる前に食べる最後の実。
猛毒の実ではあるけれど、古い体を捨てて新しい体になる為に一度死ななければいけない為になくてはならない実。
美味しさのあまり、何度か卵孵りしてしまった事がある竜も居るぐらい美味しい。
死ぬほど美味しい。
文字通り死んでしまうけど。
アルビーは植物を調べる事が好きな竜なので『竜の癒し木』の実を死なずに食べれない物かと昔から考えていた。実験的に自分の聖属性で作った水を苗木に与えていたところ、猛毒が薄まった為に育てていたのだが、毎年、冬眠で育てられずに実験は頓挫していた。
今回も懲りずに実験するつもりで氷竜に小さな苗木を頼んでいた。
幸運な事に、冬眠をしない聖属性の朱里が居る事と、ギルと違って植物が好きな事でアルビーの冬眠の間の実験は成功した。
ギルに冬眠中の水やりを頼んで何度枯らされた事か・・・。
「でも、私の水やりではここまで毒が消える事無かったんだけどなぁ」
聖属性ではアルビーの方が朱里よりも上位ではあるが、朱里の能力の【聖域】は浄化能力に関してはアルビーより優秀らしい。
「これで美味しい実がいっぱい食べれたら嬉しいなぁ」
何度か食べた事のある美味しい実にアルビーが尻尾を振りながら、舌なめずりする。
万が一、死んでしまっても卵になるだけなので1個目は自分で実験として食べて大丈夫なら他の仲間や朱里達にもおすそ分けしようと、アルビーは思いながら、ガラスハウスを出ていく。
「アカリ、アルビーの白い木が何か解って良かったな」
「うん。ずっと何か気になってたから」
カラコロと下駄の音をさせながらルーファスと朱里は温泉街を抜けて港の方へ歩いていく。
春になったとはいえ、まだ少し肌寒くはあるけれど、温泉街を歩く人々は春らしい色合いの着物を着ていて目を楽しませてくれる。
港に着くまで人々の着物で目を楽しませてから、ルーファスと朱里は魔国エグザドル行きの定期船に乗り込む。
「ありすさん達に会うの楽しみだね」
「そうだな。久々のシノノメの賑やかさに今から耳が下がりそうだ」
「ふふ。ルーファスったら」
「半分冗談だが半分は本気だぞ?」
魔国の【聖女】東雲ありすと【魔王】リロノスからの正式な招待状が届き、ルーファスと朱里は温泉大陸を出て魔国エグザドルへ向かう事になった。
桜の木の下で白金のドラゴンが首を伸ばしながら、鼻をスンスンと動かす。
「アルビー、もう体は大丈夫なの?」
白い着物に桜色の帯をした朱里が屋敷から庭に出て、桜の下に居るアルビーに声を掛ける。
アルビーが金色の目を朱里に向けて瞬きをすると、首をゆらゆらと揺らしながら「クルル」と喉を鳴らす。
「うん。冬眠明けで体がなまってるけど、平気だよ」
「それなら良かった。ガラスハウスでアルビーの白い木を育ててるけど見る?」
一瞬、アルビーが「なんだっけそれ?」と首をひねるが、途中で思い出したのか尻尾をパタパタ左右に振り始める。
「見るよ。大きくなった?」
「それなりに大きくなったよ」
ガラスハウスの前でアルビーが体のサイズを朱里と同じくらいに縮めると2人でガラスハウスの中へ入る。
アルビーの白い木は冬の間でも成長をぐんぐんと続け、氷竜から貰った時は小さな手の平に乗せられるほどの苗木だった物が、今では1メートル程の大きさに成長している。
「アカリお世話してくれてたんだね。ありがとー」
「ううん。それより、アルビーこの白い木は何の木なの?」
「この木はね『竜の癒し木』だよ」
「竜の癒し木・・・どんな木なの?」
「この木に成る実は竜の好物なんだよ。だから竜の癒し木」
「なるほど。早く美味しい実が成ると良いね」
朱里がアルビーの鼻先を撫でるとアルビーが嬉しそうに目を細めながら、朱里にすり寄って「実が収穫出来たら一緒に食べようね」と楽しそうに声を出す。
「アカリ、そろそろ出掛けるぞ」
「あ、はーい。アルビーまた帰ってきたらね」
革のトランクを持ったルーファスに声を掛けられ、朱里がアルビーに手を振るとアルビーも手を振り返す。
「いってらっしゃい!ルーファス、アカリ」
「行ってくる。留守は頼んだぞアルビー」
「いってきます!アルビーお土産買って帰るね!」
仲良く手を繋ぎながら出掛けて行くルーファスと朱里を見送りながら、ガラスハウスの中でアルビーが白い木を眺める。
「アカリに水やり頼んで正解だった。毒も無くなって聖属性の木になってる」
『竜の癒し木』の美味しい実は竜が卵になる前に食べる最後の実。
猛毒の実ではあるけれど、古い体を捨てて新しい体になる為に一度死ななければいけない為になくてはならない実。
美味しさのあまり、何度か卵孵りしてしまった事がある竜も居るぐらい美味しい。
死ぬほど美味しい。
文字通り死んでしまうけど。
アルビーは植物を調べる事が好きな竜なので『竜の癒し木』の実を死なずに食べれない物かと昔から考えていた。実験的に自分の聖属性で作った水を苗木に与えていたところ、猛毒が薄まった為に育てていたのだが、毎年、冬眠で育てられずに実験は頓挫していた。
今回も懲りずに実験するつもりで氷竜に小さな苗木を頼んでいた。
幸運な事に、冬眠をしない聖属性の朱里が居る事と、ギルと違って植物が好きな事でアルビーの冬眠の間の実験は成功した。
ギルに冬眠中の水やりを頼んで何度枯らされた事か・・・。
「でも、私の水やりではここまで毒が消える事無かったんだけどなぁ」
聖属性ではアルビーの方が朱里よりも上位ではあるが、朱里の能力の【聖域】は浄化能力に関してはアルビーより優秀らしい。
「これで美味しい実がいっぱい食べれたら嬉しいなぁ」
何度か食べた事のある美味しい実にアルビーが尻尾を振りながら、舌なめずりする。
万が一、死んでしまっても卵になるだけなので1個目は自分で実験として食べて大丈夫なら他の仲間や朱里達にもおすそ分けしようと、アルビーは思いながら、ガラスハウスを出ていく。
「アカリ、アルビーの白い木が何か解って良かったな」
「うん。ずっと何か気になってたから」
カラコロと下駄の音をさせながらルーファスと朱里は温泉街を抜けて港の方へ歩いていく。
春になったとはいえ、まだ少し肌寒くはあるけれど、温泉街を歩く人々は春らしい色合いの着物を着ていて目を楽しませてくれる。
港に着くまで人々の着物で目を楽しませてから、ルーファスと朱里は魔国エグザドル行きの定期船に乗り込む。
「ありすさん達に会うの楽しみだね」
「そうだな。久々のシノノメの賑やかさに今から耳が下がりそうだ」
「ふふ。ルーファスったら」
「半分冗談だが半分は本気だぞ?」
魔国の【聖女】東雲ありすと【魔王】リロノスからの正式な招待状が届き、ルーファスと朱里は温泉大陸を出て魔国エグザドルへ向かう事になった。
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