黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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7章

女将と商人

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 ガルドアス領の【風雷商】の商人が試作品を持って屋敷を訪れたのは2月の終わり頃。

 朱里が【風雷商】に作ってもらった茶葉を入れる為の大きな30cm程の丸みを帯びた四角いガラス容器に施してもらった細工とそのサイズを小さくした10cm程のガラス容器。

 ガラス容器には木と狼と猫と竜を飾り彫りしてもらい、ガラス容器の底には【刻狼】の文字を入れてもらった。
小さい容器にも同じ飾り彫りをしてもらい、小さい容器を入れる木の箱には焼き印で【刻狼】の文字と四隅に木・狼・猫・竜のどれかが焼き印されている。

「ふぁぁ。可愛いです!早く茶葉をいれて飾りたいです!」

朱里が小さなガラス容器を持って目を輝かせると、商人も満足そうに頷く。

「では、この大きめのガラス容器が40個と小さい物は500個で良いんですね?」
「はい。とりあえずはお試しでやるので。小さい容器は順調にいけば追加で注文するかもしれません」

 商人が次に取り出したのはアンゴラータ族の作った織物で作られたカシミア生地に似た布で出来たケープに大きめのレースが施された物で上品さと可愛らしさが引き出された品。

「可愛いし、ドレスにも着物にも合いますね。素敵です」
 
「ええ。我々の商会でも取り扱いをしたいところですが、まずはアカリ様の発案ですから許可を得ませんといけませんしね」

「私のお店でも取り扱いも良いけれど、基本は他のお店で貴族を相手にお金を儲けて欲しいので、【風雷商】で取り扱って下さるなら、それでいいと思います。ガルドアス領の子供達にお給金の良いお仕事になる様にしてください。あとは、このアンゴラータ族の織物の肌触りを貴族に広めて欲しいんです」

「アカリ様は欲がないのですね?しかし、何故、貴族に?」

「貴族は流行に弱い物だから、獣人の人達の耳や尾を切り取って装飾品に使うのも流行の一つだと思うの。だったら流行をこちらが作って、獣人の人達が狙われない様に歯止めを少しでもかけられたら良いでしょう?貴族が買い求めなければ、売る側は利益にならない事はしないはずですから」

 朱里がケープを自分の肩に掛けながら、商人に半紙に描いた他の図案を渡す。
アンゴラータ族の織物で作れそうな物をまとめたもので元の世界では割りと手に入りやすい帽子や手袋などのデザインも描いてあるもので、希少価値のあるアンゴラータ族の織物を売りにガルドアス領の子供達とアンゴラータ族の両方に金銭が行くように思案して行き着いた事だった。

「わかりました。ネヴァー様にもその様に伝えておきますね」

「お願いしますね。アンゴラータ族の織物は露店で安く売られている物だけど、とても希少ですし価値は高い物ですから、今の時期に少し貴族に売りつけて注文を貰って秋と冬に儲けを出せる様に頑張って下さい。と、お伝えください」

 アンゴラータ族のセリアの両親が他のアンゴラータ族に呼びかけてガルドアス領で織物工房を大々的にやれるようにルーファスが資金援助をして、軌道に乗り始めたらガルドアス領が権利を買い取る事になっている。

 獣人の子供が誘拐され、耳や尾を切り取られる事件は相変わらず続いており、アシュレイが【風雷商】の商人組合を使って探りを入れている最中なので、朱里とルーファスは別の観点から獣人の誘拐事件が無いように仕掛けるつもりで、獣人が作り出す物で耳や尾の質感に負けないアンゴラータ族の織物はまさに好都合だった為に、この商売に乗り出した。

 一種の賭けでもあるが、作り出されるものは上質な物なので貴族に相手にされずとも、売れる事は間違いないと踏んでいる。

 痩せこけた子供の数を減らす事が出来れば、朱里にとってもそれが一番で、救える者の数を増やす事にもなる。



「あ、そうそう。アカリ様のご注文下さった物の試作品が幾つか出来ているので持ってきましたよ」


 商人が50cm程の大きなぬいぐるみにカメオのカフスボタンにブローチに根付を出すとテーブルに並べる。
デフォルメされた温泉鳥のぬいぐるみを朱里が手に取って撫でつける。

「わぁ!もしかしてこの布地ってアンゴラータ族の織物ですか?!」

「そうです。まだ工房の子供達ではアンゴラータ族の織物は上手に織れませんから、練習中の物を使用したので値段はほぼ掛かっていませんが、肌触りは良いですよ」

「うんうん。すごく柔らかいですね。これは良い物ですね!」

「試作品なので大きめのサイズで作りましたが、どうですか?」

「温泉大陸らしいご当地物。まさにコレです!可愛く作ってもらえているし、小さい子や若い女性が欲しがりそう」

 カメオのカフスボタンやブローチも温泉鳥がモチーフで、温泉大陸で採れる貝や温泉岩に浮き彫りして貰い、こちらも温泉大陸らしさを売りにしている。

「品のある仕上げにしましたから高級感もありますし、この様な品が出来る事にこちらとしても驚きました」

「ふふふ。私も知ってはいたけど、カメオの実物は初めてみます」

 カメオの提案はルーファスが元で、昔から【刻狼亭】にあるアクセサリーの1つにカメオがあり、文献に作り方が載っていたのを試行錯誤して作ってもらった物である。

「根付は香木の良い物を選びましたが、やはり東国の職人の方が良いかもしれませんね。東国の職人に注文したところ【刻狼亭】の職人になっているので手は貸せないと言われまして、アカリ様からの注文の旨を伝えたところ【刻狼亭】からの指示があれば作るとの事です」

「じゃあ、今度ルーファスにお願いして職人さんをガルドアス領に来てもらって、職人さんに子供達の中でお弟子さんに出来る子を見つけてもらうか、駄目なら東国の職人さんに任せることになるかもしれないですね」

「ええ。一応、ガルドアス領で作った根付は持ってきましたが、本物に近い温泉鳥を掘るより、デフォルメされた温泉鳥の方が上手に作れている感じです」

朱里が根付を手に取って「これはこれで可愛いですね」と、ふふっと笑って鼻の近くで振って匂いを楽しむと商人が発注書の確認をして、朱里との商談をまとめていく。


「しかし、温泉鳥の物ばかりで良かったのですか?」

「ええ。温泉鳥たちって直ぐに怪我しちゃうから保護費を何処かで作れないかな?って思ってたの。本人達をモチーフに売り上げて保護費をその中から出して運営していく事が第一目的ですからね。まぁ可愛いのもあるんですけど」

「成程。アカリ様は【刻狼亭】の女将なだけはありますね。色々考えているようで安心しました」

 朱里がにこりと笑いながら商人を屋敷の玄関ホールまで見送り、商人が屋敷から立ち去ると朱里はルーファスの部屋にノックを鳴らして入る。

「ルーファス、商人さんとの商談終わりました」

「ん・・・お疲れ様、アカリ」

ベッドの上で気怠そうに獣化した狼姿のルーファスが寝そべっている。
朱里がベッドに腰を掛けて座ると、ルーファスが朱里の膝の上に頭を乗せてスリスリと甘えてくる。

「製薬部隊から疲労回復ポーション貰ってきましょうか?」

「いや、大丈夫だ。明日には治る」

「【蜜籠り】の終わりって大変なんだね」

「ん・・・、生殖衝動を急激に押さえつけられている様な物だからな」

「よくわからないけど、早く治ると良いね」

よしよしと、朱里がルーファスの頭を撫でながら「蜜籠りが終わりなら、襲撃者もお仕事終わりで居なくなるのかな?少し寂しいかな・・・」と、思いつつ今日の夕飯はワンコ達の好きなお肉を奮発してあげようと小さく思ったのだった。
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