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7章
チョコレート戦争③
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『鬼払い』から少し経ち、温泉街に妙な話が広がっていた。
「2月14日は好きな人にチョコを渡して愛の告白をするらしい」
「2月14日に好きな人にチョコを投げつけてもらったら恋が成就するらしい」
「2月14日は好きな人同士でチョコを投げ合い愛を確かめ合う日らしい」
【刻狼亭】でバレンタインの話が伝言ゲームの様になり、段々と別の物へと変化していったのである。
「豆を当てられたら愛を受け入れた事になるから逃げなきゃいけないでしょ?」
「苦い粉チョコを飲みきる事で好きな人へ対する愛は本物って証明するんじゃ?」
「うわっ、バレンタインって怖い!」
「でも、恋人欲しい!むしろカカオ豆用意すべきか?!」
「愛の為にも我慢してオレは苦いチョコ飲めるようになるよぉぉぉ」
朱里の知らぬところで『恐怖のバレンタイン』騒ぎが独り歩きを始めていた。
ルーファスの耳にもこのバレンタイン騒動は入っていたが、朱里が話題に出さないのであえて聞くことはせずに、朱里がカカオ豆を投げつけて来ても喜んで受け入れる覚悟をしていた。
2月13日、バレンタインの前日。
ルーファスは新しい【刻狼亭】の着工状況を見に出掛けて、朱里は屋敷のキッチンに籠っていた。
キッチンの料理スペースにドンっと置いたチョコレートの塊をパン切り包丁で削り取りながら、ボウルに溜めていく作業をひたすらしている。
「ふぇ~・・・・思った以上に体力仕事だよ・・・」
料理というより、大工仕事じゃないだろうか?!と、朱里がレンガブロックの様なチョコレートの塊と睨み合っていると、助っ人がようやく屋敷に到着した。
「今日はよろしくお願いしますねぇー」
「若女将さん!僕ら情報提供分働きますよ!」
テンと小鬼がキッチンに入りエプロンをすると、朱里にチョコレートを砕いて欲しいと頼まれてザクザクと簡単にチョコを削り取っていく。
実はこの2人はバレンタインの噂が出た時に、情報を把握すべく朱里の元を訪れてキチンとした情報を仕入れていたのである。
その情報の見返りに手伝いを申し出たので、本日、朱里のバレンタインチョコ作りに協力に来たのである。
テンが噂の独り歩きを訂正するわけはなく、小鬼も情報料が発生しない情報は開示しないので噂は独り歩きを独走したまま本日まで来ている。
「テン、チョコを砕くの上手ですね!」
「人と同じで弱点のありそうな弱い場所を削ってますから」
「テンさんは怖いのです!でも僕は情報を目に焼き付けるのです!」
ボウル3個分にチョコレートが溜まると、テンの出したお湯玉の上にボウルを置いて湯煎をして生クリームを入れ、小鬼が小さな羽を動かして飛びながらヘラでかき混ぜていく。
「それじゃ、この後は少し冷まして、スプーンですくい取って丸めていくの」
「はい。チョコは苦いイメージがありますけど、ニオイは甘いですねぇ」
「他の国では甘いチョコにしてオヤツにする所があるそうですよ!あっ、情報料下さい!」
ボウルの中で少し冷えてまとまりやすくなったチョコをスプーンで丸めながら3人はセッセッと平らな鉄板に丸く固めたチョコを並べていく。
「甘いから、テンも小鬼も1日早いけど出来上がったチョコ持って帰ってね」
「よかったですねぇ。小鬼は甘い物すきですからねぇ」
「僕もチョコの甘いのは食べるの初めてなので楽しみです!」
丸まったチョコの上からチョコの粉状の物を掛けていき、再び少しコロコロと丸めてトリュフチョコレートを作ると、小さな小箱に2個ずつ入れて行き細いリボンを掛けて積み上げていく。
最後の箱に入れてリボンを掛け終わると、余ったトリュフチョコレートをテンと小鬼の口に入れて朱里が自分の口にも入れると、3人で親指を上げる。
「美味しー!」
「これは甘くていいですねぇ」
「僕、チョコ大好きです!」
テンと小鬼にトリュフチョコレートを渡し、2人が【刻狼亭】へ帰っていくと、朱里は大急ぎで紙袋にトリュフチョコレートを入れた箱を詰込み、氷室へ詰めていく。
そして、鼻の良いルーファスやワンコ達にバレない様に南国ミシリマーフから取り寄せたカレー粉でカレーを大鍋に作り匂いをかき消していく。
ミシマリーフからのカレー粉は、魔国との交易でありすが手に入れた物を温泉街にも送ってもらっている。
ありすの【聖女】としての働きは食べ物関係が広がっている事に朱里は感謝しかない。
夕方、ルーファスが屋敷に戻るとカレーの匂いと少し甘い匂いが屋敷に漂っていたが、特に気にすることなく終わってしまった。
___2月14日バレンタイン当日。
朝早くから朱里がトタトタと足音をさせてキッチンでゴソゴソと音を立てているのを察したルーファスは、チョコ豆の準備だろうと苦笑いしながらベッドの上で微睡みつつ、朱里がカカオ豆をぶつけに来るのを待っていた。
しばらくすると、パンの焼ける匂いに甘い香りが充満し始め、その後で何やら揚げ物を揚げる音が響いていた。
良い匂いに釣られて起きてキッチンを覗くと、朱里がせっせっと揚げ物をしていた。
「アカリ、おはよう。何を作っているんだ?」
「おはよう。カレーパンだよ。昨日の残りのカレーをパンに入れて揚げてるの」
「それは異世界の食べ物か?」
「こっちの世界にはないの?美味しいんだよ」
「んーっ、オレは聞いた事も食べた事もないな」
「ならば、ご賞味くださいな!美味しいから!むしろ布教活動したいくらい」
朱里にルーファスがキスをしようと口を近づけると、朱里の唇に茶色い物を見つける。
ペロッと舐めて朱里の口の中にも舌を入れると、番同士の甘いキスに別の甘さと匂いが広がる。
「アカリ・・・何だかすごく口の中が甘いんだが?」
「えへへ。少しつまみ食いしちゃって。チョコを練り込んだパンも焼いてみたの」
「チョコ・・・パンに入れて投げるのか?」
「んんん???投げる?なにを?」
「バレンタインはカカオ豆を投げつけるんじゃないのか?」
「へっ?なんで?」
朱里が眉間にしわを寄せて首をかしげると、ルーファスも朱里の表情に違うのかと行きつき、噂の事を話した。
「違うよ?!そんな物騒なイベントじゃないよ!!女の子が好きな人に愛の告白をする日ではあるけど、カカオ豆ぶつけるとか苦いチョコ飲ませて試すとかの試練の日じゃないよー!!」
「オレも何となく変な愛を試す異世界の文化だとは思った」
「文化じゃないから!違うんだから!もっと可愛い物だからね?」
ルーファス用に用意した少し大きめの箱に入れたトリュフチョコレートを取り出してルーファスに差し出す。
「えと、初めてお父さんと弟以外の男の人に渡すけど・・・私の気持ちをチョコに込めたから食べてね?」
「ありがとうアカリ。しかし、やはりチョコの試練はあるんだな」
「1個食べてみたら解るから!試練じゃないから!」
朱里がトリュフチョコレートをルーファスの口に1個摘まんで入れる。
ルーファスが少し困惑顔で口をモゴモゴとさせて、表情がパッと明るくなる。
「甘いな」
「でしょ?女の子が好きな人に甘い気持ちを届ける日なのに、試練を与えてどうするの?・・・あ、でも、試練の日でも合ってるか。告白と一緒にチョコを渡しても、好きな人に断られたり、貰った人が返事に困ったりする事もあるからね」
「オレはアカリからの愛の告白なら断らないぞ」
「ふふ。そうでしょうとも」
2人が甘いバレンタインを満喫している中で、温泉街の住民は間違ったバレンタインの試練に朝から戦々恐々として、朱里が届けにきたチョコレートを絶望した顔で受け取る者もいれば、苦いままのチョコレートの液体を出してくる者も居た。
大量にカカオ豆を用意して投げ合う準備をしていた従業員からはカカオ豆を回収して、後日、正式なチョコレートとして生まれ変わった甘いチョコを渡し、温泉大陸でチョコレートブームが起きるのはもう少し後の話。
「2月14日は好きな人にチョコを渡して愛の告白をするらしい」
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「2月14日は好きな人同士でチョコを投げ合い愛を確かめ合う日らしい」
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キッチンの料理スペースにドンっと置いたチョコレートの塊をパン切り包丁で削り取りながら、ボウルに溜めていく作業をひたすらしている。
「ふぇ~・・・・思った以上に体力仕事だよ・・・」
料理というより、大工仕事じゃないだろうか?!と、朱里がレンガブロックの様なチョコレートの塊と睨み合っていると、助っ人がようやく屋敷に到着した。
「今日はよろしくお願いしますねぇー」
「若女将さん!僕ら情報提供分働きますよ!」
テンと小鬼がキッチンに入りエプロンをすると、朱里にチョコレートを砕いて欲しいと頼まれてザクザクと簡単にチョコを削り取っていく。
実はこの2人はバレンタインの噂が出た時に、情報を把握すべく朱里の元を訪れてキチンとした情報を仕入れていたのである。
その情報の見返りに手伝いを申し出たので、本日、朱里のバレンタインチョコ作りに協力に来たのである。
テンが噂の独り歩きを訂正するわけはなく、小鬼も情報料が発生しない情報は開示しないので噂は独り歩きを独走したまま本日まで来ている。
「テン、チョコを砕くの上手ですね!」
「人と同じで弱点のありそうな弱い場所を削ってますから」
「テンさんは怖いのです!でも僕は情報を目に焼き付けるのです!」
ボウル3個分にチョコレートが溜まると、テンの出したお湯玉の上にボウルを置いて湯煎をして生クリームを入れ、小鬼が小さな羽を動かして飛びながらヘラでかき混ぜていく。
「それじゃ、この後は少し冷まして、スプーンですくい取って丸めていくの」
「はい。チョコは苦いイメージがありますけど、ニオイは甘いですねぇ」
「他の国では甘いチョコにしてオヤツにする所があるそうですよ!あっ、情報料下さい!」
ボウルの中で少し冷えてまとまりやすくなったチョコをスプーンで丸めながら3人はセッセッと平らな鉄板に丸く固めたチョコを並べていく。
「甘いから、テンも小鬼も1日早いけど出来上がったチョコ持って帰ってね」
「よかったですねぇ。小鬼は甘い物すきですからねぇ」
「僕もチョコの甘いのは食べるの初めてなので楽しみです!」
丸まったチョコの上からチョコの粉状の物を掛けていき、再び少しコロコロと丸めてトリュフチョコレートを作ると、小さな小箱に2個ずつ入れて行き細いリボンを掛けて積み上げていく。
最後の箱に入れてリボンを掛け終わると、余ったトリュフチョコレートをテンと小鬼の口に入れて朱里が自分の口にも入れると、3人で親指を上げる。
「美味しー!」
「これは甘くていいですねぇ」
「僕、チョコ大好きです!」
テンと小鬼にトリュフチョコレートを渡し、2人が【刻狼亭】へ帰っていくと、朱里は大急ぎで紙袋にトリュフチョコレートを入れた箱を詰込み、氷室へ詰めていく。
そして、鼻の良いルーファスやワンコ達にバレない様に南国ミシリマーフから取り寄せたカレー粉でカレーを大鍋に作り匂いをかき消していく。
ミシマリーフからのカレー粉は、魔国との交易でありすが手に入れた物を温泉街にも送ってもらっている。
ありすの【聖女】としての働きは食べ物関係が広がっている事に朱里は感謝しかない。
夕方、ルーファスが屋敷に戻るとカレーの匂いと少し甘い匂いが屋敷に漂っていたが、特に気にすることなく終わってしまった。
___2月14日バレンタイン当日。
朝早くから朱里がトタトタと足音をさせてキッチンでゴソゴソと音を立てているのを察したルーファスは、チョコ豆の準備だろうと苦笑いしながらベッドの上で微睡みつつ、朱里がカカオ豆をぶつけに来るのを待っていた。
しばらくすると、パンの焼ける匂いに甘い香りが充満し始め、その後で何やら揚げ物を揚げる音が響いていた。
良い匂いに釣られて起きてキッチンを覗くと、朱里がせっせっと揚げ物をしていた。
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「おはよう。カレーパンだよ。昨日の残りのカレーをパンに入れて揚げてるの」
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「チョコ・・・パンに入れて投げるのか?」
「んんん???投げる?なにを?」
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「オレも何となく変な愛を試す異世界の文化だとは思った」
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「ありがとうアカリ。しかし、やはりチョコの試練はあるんだな」
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朱里がトリュフチョコレートをルーファスの口に1個摘まんで入れる。
ルーファスが少し困惑顔で口をモゴモゴとさせて、表情がパッと明るくなる。
「甘いな」
「でしょ?女の子が好きな人に甘い気持ちを届ける日なのに、試練を与えてどうするの?・・・あ、でも、試練の日でも合ってるか。告白と一緒にチョコを渡しても、好きな人に断られたり、貰った人が返事に困ったりする事もあるからね」
「オレはアカリからの愛の告白なら断らないぞ」
「ふふ。そうでしょうとも」
2人が甘いバレンタインを満喫している中で、温泉街の住民は間違ったバレンタインの試練に朝から戦々恐々として、朱里が届けにきたチョコレートを絶望した顔で受け取る者もいれば、苦いままのチョコレートの液体を出してくる者も居た。
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