黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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7章

チョコレート戦争②

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 白い雪が静かに降り始め、地面に雪化粧を施していく。
温泉大陸から大橋を渡って出た大陸の平地で銀髪の髪をなびかせてルーファスの叔父ギルが色とりどりの鈴を所狭しと服に付けて準備運動を始めている。

「さて、ルーファス準備は出来ましたか?」
「ああ。久々にギル叔父上と本気の『鬼払い』だからな」

 ルーファスが冒険者の時の服装で黒一色の軽装になると、コートを朱里に手渡す。
朱里は逆に帽子にイヤーマフにマフラーに厚手のコートと手袋をして毛布まで被っているという重装備である。
ルーファスが「行ってくる」と朱里にキスをしてから本陣になる南側へ走っていくと、既に作戦会議をしていた従業員達が寒い中やる気を出してメラメラと燃えていた。


「ギルさんから鈴を1個でも取れば金一封!!」
「代理当主から鈴を奪えればボーナス!!」
「鈴の色で金額が違うらしいぞ!!」

【刻狼亭】の従業員と襲撃者のワンコ達も参加して約40人程の参加となった『鬼払い』。
参加しない従業員は【刻狼亭】で通常業務をこなしている。

 救護テントに朱里が移動し、製薬部隊のマグノリアとロタルスにピルマーの3人と合流すると、コートと毛布を椅子の上に置くとポーションの入った箱を準備し始める。

「味はともかく効き目は保証付きです!何度でも戦闘復帰させましょうね!」

マグノリアの掛け声に製薬組みと朱里が元気に「おー!」と親指を上げる。

「皆さんポーションが無くなるまで頑張りましょう!」
「おう!ポーション地獄だな!若女将、無理すんなよ」
「今日は怪我人一杯出るから頑張ろうね!若女将」

 そんな救護テントの掛け声に参加者は「戦闘不能しても戦闘不能させられる」と、ブルっと震えたのは雪の寒さだけでは無かったはず。


「さぁ、私から『鬼払いの鈴』を奪って下さいね!」

 ギルが両手を広げて薄く笑い、戦闘開始の合図と共にいきなり本陣に襲撃をかけて来て、ルーファスと激しい攻防を繰り返すと、遠距離攻撃が得意な従業員がルーファスごとギルに攻撃魔法や矢を撃ちこんでいく。

 ルーファスとギルがお互いに離れると、腹ペコワンコ達がちょこまかと動き回り、従業員がワンコ達の動きに紛れて遠距離からギルの鈴を撃ち落とそうとすると、ギルがワンコを盾にしたりと・・・乱戦になり、土煙と雪の中で聞こえるのは「キャイーン」というワンコの悲惨な声。

「大丈夫?」
「女神ぃぃ痛いっす!!!」

 早々に救護テントに来たワンコ達ではあったものの、盾にされた時に1個鈴を奪えた様でボロボロながらも得意な顔をしている。
 ピルマーから味は二の次ポーションを飲まされて「ギャウン!」と声をあげながら、「さぁ戦闘復帰しろ!」とロタルスに追い出されて、再びボロボロになって救護テントに帰ってきてはいたが・・・。

 時間が経つと救護テントには負傷者がそれなりに来てはいたが、直ぐさま復帰すると戦闘に参加するので製薬部隊が用意した回復ポーションも足りなくなり、その場でポーションを作る事になったりした。

「あの・・・鈴が地面に一杯落ちてるのに何で皆拾わずに戦ってるの?」

「あー、あれはもう戦う事に目的が変わってるね」

 血の気の多い人々は既に『鬼払い』の目的を忘れてギルに一本取る事だけにシフトしてしまっているらしく、たまに作戦を数人で練っては襲い掛かり、別方向から他の従業員が襲い掛かりと、ギル1人に乱打戦になっていた。

「そろそろギルさん疲れて来てるぞ!今がチャンスだ!」
「回復ポーション連打で体力こそぎ取れ!」
「魔法部隊は足止め!遠距離は1人ずつ秒間開けずに叩き込め!」
「あーっ!ギルが回復ポーション飲みやがったぞ!!」

大混乱の戦場を見ながら、【刻狼亭】の料理長アーネスが屋台カートを引きながら救護テントまで来る。

「『鬼払い』の豆汁作って持ってきたぞ。リタイアした奴から食っていけ」

『鬼払い』の縁起物は豆汁という、豚汁に似た物に3種類の豆が魚のすり身と一緒に団子にされた物が振舞われる。
リタイア組にワンコ達は早々なっているので、汁茶碗を片手に尻尾を振りながら豆汁待ちをしている。

「鬼払いの鈴って意味があるんですか?」

朱里が豆汁を貰って食べながらアーネストに聞くとアーネストがしわの深い顔をくしゃっとさせて笑い、かっぽう着のポケットから鈴を7つ出す。

「金が金運。銀が健康。赤が恋愛。青が力強さ。緑が豊穣。白が美貌。黒が繁栄。と、いう感じだな。鈴を持ってると鬼がその意味のある物を奪って行かないって言われている。豆汁は鈴が手に入らなかった奴も、まめまめしく生きろって意味だ」

わはははと、アーネストが笑いながら従業員達に豆汁を配り始めると、段々と救護テントに人が集まり始める。

「豆汁が来たら、そろそろ終わりって感じだな」
「やっぱり豆汁だよなー」
「動きすぎて熱ぃ・・・豆汁より冷えた水くれー」

救護テント前が豆汁を食べる従業員で一杯になると、朱里が救護テントから出て腕輪に魔力を込める。

「ルーファス、豆汁が届いたのでそろそろお開きらしいですよ」

『わかった。そろそろそっちに戻る』

「はーい・・・っくしゅん!」

『すぐ戻る!』

 朱里が鼻をスンっと言わせると、本陣になっている南側でドォンと音が上がり、朱里が目を細めて眺めると、まるで獣型モンスターが一斉に人に襲い掛かる様に、獣化したルーファス達がギルに襲い掛かっていた。

珍しくボロっとなったギルがムスッとしながら救護テントまで戻り、人型に戻ったルーファス達も戻ってきた。

「ルーファス、おかえりなさい。最後どうなったんですか?」

「アカリ、ただいま。最後は、大きな煙幕を出して獣化出来る奴は獣化して一斉に飛び掛かっただけだぞ?人型だけが戦闘スタイルじゃないからな。とっさにサイズを変えると流石のギル叔父上も対応に少し時間が掛かるからな。奇襲作戦みたいなものだ」

「お疲れ様です。豆汁ありますから、ゆっくり体を休めて下さいね」

「アカリは毛布はどうした?羽織っておけ」

「テントにあるよ。皆の熱気で熱くなってるから大丈夫」

ガバッとルーファスにお姫様抱っこをされて救護テントに連れ込まれ毛布でぐるぐる巻きにされると、従業員達が朱里の周りに集まってくる。

「はい。若女将に鈴あげます」
「私もあげる」
「いっぱい取ったよ」

チリンチリンと、銀色の鈴が山積みにされて朱里の前に置かれていく。

「皆ありがとうございます。銀だから・・・健康?」

「若女将、体弱いから」

有り難いやら、情けないやらで複雑な顔で朱里が笑うと、ルーファスも銀色の鈴を朱里の前に並べる。

「戦利品は多い方が良いだろう?」

「皆、私の健康どれだけ気遣ってるの?!」

「アカリはすぐ体を壊すからな」

「うんうん」と従業員が頷いて、朱里が「来年は私も参加しますからね!」と騒ぐと、ルーファスを含め従業員達に口をそろえて「救護班で参加なのはわかってるから」と、言われ「違うものー!」と叫んでいた。

鬼役のギルは「来年リベンジしますからね!」と、来年も鬼役をする気らしい。
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