黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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7章

風雷商

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 ガルドアス領の【風雷商】店舗。
重たい鉄製の扉を従業員が2人掛かりで開け、アシュレイたちを招き入れると、2人掛かりで再び扉を閉める。

白い洋風な造りの店内はガラスケースの中に宝飾品や雑貨が並び奥へ行くほど武器等の日用品とは違う物が並んでいる。

「俺は少し他の支部と本部に連絡を入れるから、好きに見ててくれ」

 アシュレイが従業員に2人を任せると奥へ消えていく。
従業員にお茶を淹れてもらい、朱里がフルーティーな薄い黄色のお茶に興味を持つと従業員が茶葉を薦めに掛かる。
ルーファスがそれを見て、少し笑うと店内を見て回り始める。

 朱里の為の新しい【刻狼亭】に何を置くべきか・・・。
まだ朱里自身が何の用途でその店を使うかを決めていない為に、勝手にあれこれと買う事も出来ないが、何かしら贈りたいとは思っているルーファスは「ふむ」と、店内を歩きながら吟味していく。

 「ルーファス、お茶入れの可愛い瓶探しましょう!」

風雷商の従業員を後ろに連れて朱里がルーファスの所に来て少し興奮気味に目を輝かせている。
先程まで沈んでいた気分が浮上した朱里にルーファスが目を細めて笑うと、朱里と一緒に店内を見て回る。

「アカリ、茶葉入れも良いが、ティーセットも奥にあるぞ」
「見たいです!見ましょう!」

 ガラスケースの中にある高級感溢れるティーカップを従業員が鍵を開けて朱里に見せると、朱里が「割りそうで怖い」と恐々と触りながら手に持っては「うーん」と、唸り声を上げている。

「あっ、このティーカップ可愛い。ルーファス見て、ティーカップとソーサーの絵柄が白いドラゴンだよ。アルビーにお土産に買っちゃおうかな?」

 薄い緑色の枠に金で細かい花模様を施された絵柄の中に白いドラゴンが描かれたティーカップに朱里がはしゃいだ声を上げて、買うつもり満々の様だ。

「この茶器はティーポット・ティーストレーナー・ティースプーン・ティーメジャー・シュガーポット・ミルクポット・ティートレーもセットでありますよ」

「わぁ。見せて下さい」

 従業員の言葉に朱里がティーセットを見せてもらいながら、ルーファスに「買ってもいい?」と目で訴え、ルーファスが「セットで購入させてもらう」と、伝えると朱里と従業員が笑顔を向ける。

「保温魔法を付与する事も出来ますが、どうしますか?」
「つけてくれ」
「ぜひお願いします!」

 従業員がティーセットを奥へ持って行き、他の従業員に話をして再びルーファスと朱里の元へ戻ってくる。

「ルーファスの見たい物はないの?」
「今回は新しい【刻狼亭】に使える物があるかを見に来た様な物だからアカリが好きに見てくれ」
「はーい。いきなりお土産に走っちゃったけど、頑張って探してみます」
「ああ。アカリの中にある新しい【刻狼亭】のイメージに合う物を探してくれ。まぁ、勿論まだ先の話だから目星をつけて店が完成してからの購入でも構わない」
「はい。なら、やはりお茶入れです!お茶は欠かせません!」
「わかった。ゆっくり良い物を見つけよう」

透明で大きめのガラス瓶と小さなガラス瓶を朱里が見ながら、「あともうひと捻りほしい」と、うんうん唸っている。

「でしたら、ガラス容器に細工を施すのはどうですか?」
「出来るんですか?」

「ええ。この領は子供達の職業訓練の様な場所でもありますから、出来ますよ」
「なら子供達にお仕事として依頼も出来て、この領にも貢献できる・・・かな?」

「他にもこの領では子供達に色々教えていますので、ご活用下されば子供達にもお給金が入りますから喜ばれると思いますよ」
「少し考えている事があって、私が描く絵の物を作ってもらえたりするでしょうか?」

 朱里が従業員と半紙に筆で何かを描き始め、従業員が「出来ますよ。ならサイズ違いを作ってはどうです?」と、盛り上がりルーファスがその様子を見ながら、朱里の為の【刻狼亭】は色々と朱里の中でイメージが固まってきている様だと安心して話が終わるのを待つ。

 しばらく従業員と朱里が春頃に合わせて仕事を依頼する旨を話し合い、【風雷商】の商品を土台に朱里の指示通りの物をこの領で試作品を作り、出来上がり次第【刻狼亭】へ持ち込み、朱里の希望に沿うものが出来れば、仕事依頼をするという話をまとめあげていた。

「ルーファス、お待たせ」
「アカリ、お疲れ様。色々と商談出来たようだな」
「はい。お店が軌道に乗るかはわかりませんが、頑張ります」
「アカリがのんびりとやっていける店ならそれでいい」

 朱里がルーファスの手を引きながら店の中を周り、魔道具の置いてある場所で朱里が声を上げる。

「私の携帯!!」

 この異世界に召喚された時にトートバッグには入っていなかったのでてっきり、車に撥ねられた時に飛んで行ったのかと思っていたら、こんな場所で魔道具として置いてあるとは・・・と、朱里が驚いた表情で携帯を手に取る。

もう充電が切れているかと思えば、充電100%の表示。
メールを開けば、母親からの最後のメールが残っている。

『帰りに牛乳1本お願いね』

日常の何気ないメール。
これが最後のメールで携帯を新しい物に買い換えられなかった理由の1つ。

もう1つの理由は、画像フォルダに入った家族の画像が残っている事。
家族と一緒に行った公園の花を写した画像すら、思い出で消すことが出来なかった。

「アカリ、その魔道具がどうかしたのか?」

ルーファスが少し首をかしげて朱里を見ると、朱里が泣き笑いの顔で携帯の画像をルーファスに見せる。

「私の家族だよ。ルーファスに直接紹介は出来なかったけど、これが私の家族」

小さな画面に小さな食卓で白いホールケーキを囲んで笑う5人の家族。

「アカリによく似ているな。この小さい子は妹さんか?」
「うん。4つ下の美波みなみちゃん。こっちの男の子が5つ下の弟の貴広たかひろだよ」

ぽろぽろと涙を零し始めた朱里にルーファスが抱きしめながら背中を撫でると、アシュレイが戻って来て声を掛ける。

「ああ、その魔道具に目を付けたのか。中々に良い物だろ?」
「どうやらこれはアカリの持ち物だったようなんだが?」
「そうなのか?タンシム国から持ち込まれた物で少しこちらでもいじくった物で値段もいい感じに設定した物なんだがな」
「ふむ・・・。結婚祝いが貰えるならこれでいい」
「・・・わかった。でも、元々持っていた物なら、結婚祝いに何か別の物も贈らせてもらう」

アシュレイが従業員に何かを持ってくるように言い、戻ってきた従業員が絹の布に包んで物を持ってくる。
絹の布の中にあるのは薄いピンク色の宝石のついた金色の腕輪が2つ。黒い石が1つ。

「この腕輪はシンプルだが、通信魔法が出来るペアリングになっている。この宝石は希少な石でポードレッタイトという。この石が通信魔法が付与を可能にさせている物だ。すでに夫婦なら要らないものかもしれないが、少し離れた時にでも使えるだろう?」

「オレには可愛すぎる気もするが、アカリには可愛くて似合っているかもしれないな」

「まぁ、そうだろうと思うから、俺の細工魔法を見せてやろう」

金色の腕輪を手に取ると黒い石を手にして、アシュレイが小さく魔法を唱えると、黒い石は蛇の様に動き、金色の腕輪に巻き付いていくと黒い石は蔦の模様に変わる。

ルーファスに腕輪を渡し、アシュレイが細工のしていない方の腕輪を朱里に渡す。

「結婚祝いにしては少し華やかさが欠けるが値段はビックリな物だから大事にしろ」
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