黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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7章

ガルドアス領

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 乾燥して凍り付いた枯れ葉を踏みつけるとパリッといい音がする。
ルーファスが白いフードコートを着た朱里を腕に抱き上げて歩き、枯れ葉をパリパリと音を立てさせていく。

「寒いね。草が凍ってる」
「ああ。温泉大陸を出ると何処もこの時期はこんなモノだな」
「温泉大陸も寒いと思ったけど、他の大陸程じゃないんだね」
「温泉大陸は地熱があるからな」

 凍り付いた地面の草がシャリシャリと音を立てて風になびき崩れながら舞っていく。
温泉大陸の大橋を渡り、南西にある人国のあるタンシム国領域へ2人が足を踏み入れたのは【風雷商】のアシュレイの店舗の一つがタンシム国より少し下にあるガルドアス領にある為、アシュレイが「結婚祝いを店舗にある物を見ながら決めてくれ」と、言うので出向いたのである。

 その出向いている途中で馬車の車輪が寒さで軋みヒビが入り、修理に時間が掛かる為に、2人はあと少しでガルドアス領に入る事もあり、歩いている最中である。

アシュレイは警備用に一緒に連れて来ていた騎獣に乗って先にガルドアス領へ向かっている。

「こんな事ならアシュレイの誘いを断っておけば良かったな」
「まぁまぁ、たまには外に出るのもいいじゃない?温泉大陸以外ってアルビーにお花畑に連れて行ってもらって以来だし」
「せめてもう少し温かくなってからの方が良かったな。アカリは寒いだろう?」
「大丈夫。ルーファスが温かいから」

 心配そうにルーファスが朱里を見つめるが朱里は笑顔で大丈夫だとガッツポーズを小さくして見せる。
ガルドアス領の通行門が見え、ルーファスが朱里のフードを目深に被らせると足を踏み出す。

 少し先に進んだところでアシュレイが門の内側から2人に手を上げる。
アシュレイの後ろで黒い髪を撫でつけた30代半ばといった軍服の男が頭を下げる。
獣人の様で黒い丸い耳に長い猫の様な尻尾がある。

「お久しぶりです。ルーファス殿」
「ネヴァーか。久しぶりだな・・・アカリ、昔馴染みでこのガルドアス領の領主をしているネヴァー・ガルドアスだ。ネヴァー、オレの番のアカリだ」
「初めまして。私はこのガルドアス領の領主ネヴァー・ガルドアスです」

 ネヴァーが胸に手を当てて小さくお辞儀をしながら朱里に挨拶を口にすると、朱里も慌てて頭を下げる。

「【刻狼亭】のルーファスの番のアカリです。よろしくお願いします」

 目深に被ったフードの中で朱里がじっとネヴァーの尻尾を見ているとルーファスがその視線に気づき、朱里の耳元で小さく囁く。

「彼は黒豹の獣人だ。尻尾を掴んだ瞬間、噛まれて木の上に吊るされるぞ?」
「はううっ、少し見てただけです」

 ルーファスと朱里の小声の会話にネヴァーの耳が少し動きながら苦笑いを浮かべる。
ネヴァーが3人を昼食に誘い、ネヴァーの後に続いて歩き出すと、家の影から薄汚れた外套を被った小さな影の視線が幾つもルーファス達に飛んでくる。

「ネヴァー、ここの治安は大丈夫なのか?」
「一応、大丈夫です。あの子達は悪さはしませんから」

 アシュレイとネヴァーの会話にルーファスの眉間にしわが寄り、朱里を抱きかかえる手に力がこもる。
朱里は大丈夫だとルーファスの胸に手でトントンと叩く。

 家の影から路上に出て来た小さな影は子供達で、痩せ細り手には小さな器を持っている。
近付いてくる子供達にルーファスが少し殺気立つと、ネヴァーが子供達に声を上げる。

「炊き出しまでもう少しだ!それまで人様に迷惑を掛けるんじゃない!」

子供達はそれでも近寄り、ネヴァーが1人の子供の器に幾つかの飴玉を入れると、子供達が一斉に飴玉を奪い合っていた。

 朱里が目を背けてルーファスの黒いコートをギュッと握り小さく震えると、ルーファスがネヴァーを急がせてネヴァーの屋敷に入る。

 領の村は木で作られたロッジの様な物が多かったが、ネヴァーの屋敷は四角い要塞の様な造りの石壁で作られた屋敷だった。
 それもその筈で、元々この領のこの屋敷は他の大陸との交戦があった時に要塞として使われていた場所でもある。
平地と森しかない領土はタンシムの王都への道にも連なる為にタンシムへ進軍してくる南東の国からの侵略戦で昔はよく被害を受けていた。

 今は平和にはなったが、タンシム国と南東の国に挟まれた中間地点として、今現在ある問題に悩まされていた。

 ネヴァーの屋敷でお茶を淹れてもらいながら朱里が酷く青ざめた顔をしてルーファスの膝の上でぐったりと寄りかかっている。

 朱里自身も竜人国で痩せ細った時期があるが、自分の事はよく分からない為にさほど気にする事ではなかったが、朱里にとっては痩せこけた子供というのは世界の何処か遠い国の話で、TVや募金活動でしか見ないモノ。
実際に目にするのは精神的にくるものがあり、消化出来ずに精神疲労として朱里を今現在苦しめている。

「元々この領は、2つの国に挟まれている為、戦争孤児が両方から流れ着きやすい土地でね、領では子供達を支援する施設を運営しつつやってきていたのですが・・・少し前の【病魔】で親を亡くしたり生活が苦しくなった者達が子供をこの領へ捨てて行き、施設でも収容できない程に子供で溢れかえってしまったのですよ」

 ネヴァーが屋敷の使用人に昼食の用意をさせながら、この領の簡単な事情を口にした。
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