黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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7章

屋敷への帰還

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 【刻狼亭】の旅館『月光の間』からルーファスと朱里の着物類が運び出され、手荷物をルーファスが持って歩き出すと、朱里が肩にはクロ、頭にササマキを乗せてその後ろをついて歩く。

「今日からはまた屋敷暮らしだな」
「そうだね。久々にお料理が作れるよ」
「アカリの料理を楽しみにしてるよ」
「ふふ。何作ろうかなー?」

 【刻狼亭】での挨拶回りも終わり、ギルが引き続き【刻狼亭】の代理当主として業務を開始したので、ルーファスと朱里は今日からまたギルの屋敷で暮らすことになっている。

「アルビーの苗木はどうするんだ?」
「後でテッチがガラスハウスに植え替えしてくれるそうです」
「なら、朝の水やりは少しは楽になるな」
「はい。歩く距離が少なくなる分、冷えなくて良いです」

 毎朝、旅館から料亭へ行き、薬草園の温室へ行くのは実の所、寒くて大変だったりしたのだが、アルビーにお願いされている為に、朱里は毎日欠かさずお世話をし続けていたのである。
 
 朱里が歩きながら自分の冒険者カードを眺めてへらっと笑う。
何だかんだ言っても登録が終わってしまった以上は冒険者として悪い事でもしない限り、登録抹消は出来ない為に、そのまま冒険カードを貰ってしまっている。

「アカリの今年の目標が1つ終わってしまったな」
「うん。冒険者になったよ。これぞ異世界の王道です」
「もう少し温かくなったら一緒に半日ほど冒険に行ってランクでも上げるか?」
「ふふ。それは楽しみですね。ぜひぜひ私を守って下さい」
「それは当たり前だ」

 2人で温かくなったら冒険に行く。
少し先の話にウキウキとしながら朱里が冒険者カードをルーファスに見せる。

「私の名前。アカリ・トリニアになっているの」
「ふむ。まぁ、番になったからかもしれないな」
「何だかくすぐったい感じです」
「オレのたった1人のトリニア家の家族だな」
「ふふ。クロにも冒険者カードがあったらクロ・トリニアですよ」

 名前を呼ばれたクロが朱里の肩で「ナウ」と鳴くとルーファスと朱里が目線を合わせて笑って温泉街を冒険者や旅行客に紛れて歩く。

 温泉住民通りの青果店の前を通り、丘になっている道を上がっていけばギルの屋敷が見えてくる。
門の前ではハガネの弟子になった4人以外の3人の襲撃者がテントを構えて過ごしている。
4人の印象が強すぎてあまり印象にない3人だったりする。

「ただいまですよ」

朱里がテントの前で干し肉を火で焙っている3人に声を掛けると3人が「アーッ!」と、声を出す。

「ご飯の女神が帰ってきた~」
「ひもじい・・・」
「何処に行っていたのか・・・」

相変わらず、朱里は「ご飯」として襲撃者にはインプットされているらしい。

「【刻狼亭】で過ごしていたのです。襲撃に来ればご馳走あったのに」

「正月に集合している従業員の人達相手に死ねと?」
「命は大事にするもんなんだぜ?」
「正月早々タコ殴りにされたくない」

3人はガクリと項垂れながら、お腹をぐぅうぅぅ~と、鳴らしている。

「お屋敷に戻ったら、何か作って持ってきてあげますからそれまで頑張って」

「「「流石、女神~」」」

 そんなやり取りをルーファスが眉を少し下げながら見つつ、朱里を連れて屋敷の門をくぐり、屋敷までの道を庭を朱里の足に合わせてゆっくり歩く。
トテトテと歩く朱里は、随分と歩き方もちゃんとした物になっている。
ほんの数ヵ月前までは竜国での扱いのせいで少し頼りない歩き方だった、それを思うとルーファスは自分の番の回復具合に安堵の笑みを浮かべる。
 
 「ただいまー!」
 朱里が玄関ホールで元気に声を出すと、耳ざとい4人の犬獣人達は尻尾を振りながら玄関ホールまでダッシュで集まり「おかえりー!」と騒いで近寄る。

「「「「食材?!!」」」」

「ナーウー!」
「アパパー!!」

 4人の言葉に2匹の魔獣が声を上げて威嚇すると、4人が一瞬身構えるが余裕の笑みを浮かべている。
ギルとの正月からの成果で鍛え上げられた精神力の賜物なのかドヤ顔である。

「ササマキちゃん『弱点突き』です!」

「アパパパパ!!!!」

 朱里の号令にササマキが頭からポーンと飛び上がり、4人に向かって突き攻撃をするとボンボンボンボンと、4人は犬の姿に変えられ驚いた顔をすると、ササマキが勝利のタップダンスをその場でしてみせる。
朱里がササマキに仕込んだ可愛らしいタップダンスに、朱里が「可愛い」と声を上げるが、4匹の犬と化した獣人達は「地鳴らししてる。怖い」と、顔を引きつらせる。

耳をぺしゃっと尻尾をだらんと下げて4匹はルーファスに「修行が足りない」と、寒空の下屋敷の外に追い出され、テント組の3人の所に逃げ帰っていった。

ササマキはハガネの部屋に走っていき、クロは屋敷探索に歩いて行ってしまった。

「アカリ、おかえり」
「ルーファスもおかえりなさい」

ルーファスが朱里の手を取るとポチャリと、玄関ホールの脇にある水槽に手を入れさせる。
ワラッと寄ってくるタンタンに朱里が「いやぁあああ」と叫び、笑い悶えたのは直ぐ後だった。
その後は、いつもの様にお湯玉に入れさせられて乾燥のあと、ようやく抱き上げられてキスをするのだから時間のかかるやり取りだったりする。

「ルーファスはこの一連作業欠かさないですよね・・・」
「そりゃあ、大事な番の為だからな」

こうして屋敷に戻った2人の日々がまた始まった。
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