黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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7章

冒険者試験

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 朱里が意気揚々と冒険者ギルドに向かう中、ハラハラと不安な顔をしながら後をつけているのは【刻狼亭】の従業員達だ。

「ああ、若女将本気で行く気だよ~・・・」
「誰か今からでも止めろよ!」
「若は止めなかったのかよー!」

 製薬部隊の副責任者のテッチが朱里に最後のおさらいとして簡単な試験問題を出して朱里が答えながら歩き、不穏な動きをしている後ろの従業員を羊獣人のプリシーが「静かにしなさい」と親指で口にチャックとジェスチャーするが、どう見ても「お前の首をはねる」としか見えず、従業員が顔を青くする。


 事の起こりは正月の次の日にルーファスに抱きつぶされた朱里がへろへろになりながらも、従業員達と温泉で親睦を深めようという物に参加した時の発言が発端だった。

 女性従業員達と温泉に入っていた時に、朱里の白い肌に斑に散った赤と紫の鬱血痕に女性従業員が小さく息を呑み、「若旦那マーキング激しすぎる・・・」と心の中で思いながらも、朱里が恥ずかしがっては可哀想だと黙認し、気まずさから、何でもない話をしようと話を振った事から始まる。

 「若女将、知ってますか?この温泉街にも冒険者ギルドってあるんですよ」
「ルーファスに聞いた事があります。筆記試験と実技試験があるんですよね?」

「そうです。なんとお正月から10日までは何回でも受けられるんですよ」
「つまり・・・今がお得チャンス?」

「筆記は簡単だけど、実技はCランクの冒険者が担当ですけど、これは当たり外れがありますからね」
「相手を降参させるか戦闘不能にするんですっけ?」
「そうですよー」
「私も頑張ったら出来るでしょうか?」

温泉に浸かっている女性従業員たちが朱里を見つめ、お互いに顔を見合わせる。

「出来ますよー」
「そ、そうだよね。うん。出来る出来る」
「女将応援してますよー」
「うちの男共に一撃必殺技とか教えてもらっちゃえ!」
「それがいいですよー。男共ならホイホイ教えてくれますよ」

 女性従業員の「まぁ本気じゃないだろう」「傷付けたら可哀想だよね」という、曖昧な考えで発言された言葉は朱里を本気にさせてしまったのだった。

次の日に朱里が男性従業員に「一撃必殺教えてください!」と聞いて回り。

男性従業員達は「お前等なに若女将焚きつけてるんだ!」と騒ぎ。
女性従業員達は「やってみなきゃわかんないでしょー!」と騒いだ。


女性従業員が中心となり朱里に小手先技を教え、製薬部隊が筆記試験の勉強を教えて数日間様子を見た。

 男性従業員は「若女将に怪我させたら大変だー!」と、冒険者ギルドの試験官に今年の試験内容を探りを入れたり、実技担当は誰だ?!むしろ知り合いのCランクを呼び寄せろ!と騒いでいた。

そんな事は知らない朱里が1人やる気満々で試験に挑む事に意欲を見せていた。

 ルーファスは「アカリが前に冒険者になりたいと言っていたから、暇がある奴はアカリに協力してやってくれ」と言い、従業員が「若女将の貧弱さを考えて止めましょうよ?!」と、叫んだ。

 最近の朱里はタンタンのおかげか調子が良く、ルーファスの気配や他の従業員の気配も察知できる様になっており、病弱な所があまり見えない事もあってか、割りと元気に過ごしているので許可を出した。
何より、番の夢を応援してあげないなどルーファスには出来ない。


__温泉大陸、冒険者ギルド。

朱里がワクワクしながら「漫画の世界だぁー」と心の中で思いながら、冒険者試験の受付を済ませてギルド員に説明を受けていると、朱里に気付いた見知らぬ冒険者が朱里に声を掛けようとすると、お目付け役に付いてきたプリシーに前を塞がれる。

見た目だけならおっとりとした可愛らしい羊獣人のプリシーだが、それで済まないのが【刻狼亭】の従業員。
プリシーの殺気だった目に冒険者が怖気ずく。

「うちの子に気安く話しかけようとしてんじゃねぇわよ」

プリシーが愛用の薙刀をチラつかせると、冒険者はプリシーが何者か判り「ヒッ」と息を呑む。
薙刀使いのプリシー。
羊の皮を被った狼【羊狼】それがプリシーの称号。

「プリシー、筆記試験いってきまーす!」

朱里の声にプリシーが笑顔で「頑張ってねー!」と手を振る。
狼からの羊への豹変に冒険者はそそくさと逃げていく。


30分ほどで筆記試験は終わり、採点に30分ほど掛かる事もあって朱里がテッチに筆記試験の出来具合いを話ては声を弾ませていた。

「今回の冒険者試験の筆記試験難しくなかったか?」
「あー、何か上の方から内容を変えろって言われたらしいぜー」

そんな会話が朱里達の耳にも入り、朱里があわわっと青ざめてガチガチに凍り付き、テッチに慰められたりしつつ、無事に筆記試験は合格をギルド員に告げられ、キャーとはしゃいだ声を上げた。


「今回の実技試験の試験官なのですが、Cランク冒険者に都合がつきませんでした。Bランク冒険者が担当になります」
ギルド員の言葉に朱里以外の試験を受けに来た受講者も「えええ」と声を上げる。

「ですので、試験官は一歩も動くことなく相手を致しますので、頑張って下さい」

受講者たちが手を上げて「質問いいですか!」と騒ぎ立てる。

「飛び道具はありですか?」
「はい。ありです。ただし、試験の前に怪我をした場合の責任を一切負わないという契約書にサインをしていただきます」
「えーと・・・それはどっちの怪我ですか?」
「はい。試験を受ける方側です」

ギルド員の言葉にゾッしながらも、順番に実技が始まる。

「プリシーどうしましょう?大丈夫でしょうか?」
「一歩も動かない・・・と、なると相手が飛び道具の場合もあるから・・・でも、試験で試験官が本気で来る事は無いから多少の怪我は覚悟ですよ」
「アパー!」
「ナウナーン」
「プリシーも2匹もありがとー頑張るよー」

朱里の頭の上と肩でササマキとクロが元気づける様に声を上げる。
ササマキとクロは一応、飛び道具として許可が出ている。

「5番の実技試験の方、順番です!」

「はーい!」

朱里がマフラーを口元にしっかり巻き付けて立ち上がり、テッチとプリシーに親指を上げて試験会場に向かう。
2人も朱里に親指を立てて見送り、朱里達をつけて来ていた他の従業員達がギルド内をクマの様にウロウロとせわしなく動き回って、ギルド員に叩き出されたりしていた。


実技試験会場では1人の男が飄々とした顔で立ち尽くしていた。
男は槍を手に持っていた事から槍使いのようでもある。

「今度はおチビさんか。今年はオレが居る限り合格者は0だ!」
「小さいは余計です!」

「一応、言っておくがオレはココから一歩たりとも動かない」
「それは好都合です。私は接近戦だめですから」

「見たところ、魔獣使いか」
「それはお答えしかねます」

ギルド員が来て「試験開始です」と、いう合図と共に朱里が実技試験官から離れるとクロが試験官の足元にすり寄ってから朱里の方へ逃げていく。

「一歩も動かないのですか?」
「動くわけない。むしろ動かずにお前を戦闘不能にしてやるよ。悪いなおチビさん」

朱里がポーションホルダーからポーションを試験官に投げつけるも槍でアッサリ叩き割られる。

「攻撃は終わりか?こっちの番だ!【氷柱】」

バンっと音がすると、実技試験官の冒険者が氷の柱に閉じ込められて固まっていた。

朱里の戦略が効果を発揮する前に、クロのカーバンクルの石の【魔法反射】により、試験官の自滅。
戦闘不能で朱里の勝ちとなった。

「受験番号5番さん合格です!」

ギルド員の言葉に朱里が複雑な顔をする。
冒険者ギルドに戻るとプリシーとテッチが喜んだものの、朱里は少し不服だった。

ギルド員に冒険者カードを発行してもらい【刻狼亭】へ戻ると心配していた従業員達にギュウギュウに抱き着くされた。

旅館に戻り、ルーファスが部屋に居る事を確認すると、くしゃっと顔を泣き顔にしてルーファスに飛びつく。

「どうしたアカリ?不合格だったのか?」
「ううん。受かったよ。でもね、でもね悔しいの」

ルーファスが朱里の頭を撫でると朱里がぐすぐすと、涙声を上げ始める。

「私、自分の力で冒険者になりたかったの」
「そうか。じゃあ何かアクシデントでもあったのか?」

「ちゃんと実技で対策考えてね、クロに痺れ粉を最初に相手の足元に置いてくる練習もしたの」
「ハガネじみた戦略だな」

「揮発性の睡眠ポーションも投げつけたの」
「相手は戦闘不能になったか?」

「ううん。なかなか効かなくて、相手が凍らせる魔法をしてきたら、ネックレスかクロのどちらかが魔法反射しちゃって、相手が氷漬けで戦闘不能になったの」
「なら、アカリの勝ちじゃないのか?」

「私は自分の実力で勝ちたかったのっ!ぐすっ」
「アカリは意外と負けず嫌いだな」

ルーファスがオレの番は負けず嫌いなところもある。と、小さくほくそ笑むと、朱里が顔を上げる。

「あとね、筆記試験も変だった・・・」
ルーファスが少しぎこちない笑みをすると朱里が「やっぱり!」と声を上げる。

「ルーファスが教えてくれた事がいっぱい出てたもの!『瘴気の中で怪我をした場合の対処法』とか出て何か怪しいと思ったの!ルーファス、裏から手を回しましたね?!」

朱里にズイッと迫られルーファスが耳を下げると、朱里が頬を膨らませる。

「次にこんな事をしたら魔国に家出しますから!」

「わかった・・・これからは気を付ける」

その夜、朱里にお仕置きとして獣化させられて朱里の枕にされたのは言うまでもない。
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