黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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6章

冬の竜眼

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 ドームが開くと獣化したルーファスが低い唸り声を上げて氷竜を睨み付けている。

「氷竜さん、下ろして」
「我が儘な嫁だな」
「いえ、私持ち上げてくれなんて言ってませんからね?」

氷竜に下ろしてもらうとルーファスが小さくなった毛皮に包まれたアルビーを氷竜に渡して、獣化を解くと心配そうな顔で私を見つめてくる。

「ルーファス、私もクロも元気です」
「クロも居るのか?寒かったりはしなかったか?」
「はい。大丈夫です。ルーファスは大丈夫でしたか?」
「オレなら大丈夫だ」

ルーファスがポンポンと私の頭を叩いてから、氷竜に向き合うと、氷竜はアルビーを揺すりながら起こしているが、アルビーが嫌そうに手で氷竜の手を払っている。

「アルビー、おい。起きろ!我の目はどうした?」
「われ・・・め?」
「寝ぼけるなアルビー!」

氷竜が半ギレという風に声を荒立てているけれど、アルビーはウトウトと寝落ちしかかっている。

「オレも起こしきれなくてな。仕方がないからササマキに弱点突きさせてアルビーを小さくさせて持ってきた」
「ササマキちゃんはこの雪の中大丈夫でしたか?」
「ああ、ササマキ達温泉鳥は間欠泉の所に住んでいるからな。間欠泉の熱で寒さをもろともしていなかったぞ」
「それなら良かったです」

ルーファスがお湯玉を出しながら自分の手を温めてから私の頬に手で触れると、少しホッとした顔をする。
手にスリスリと頬を摺り寄せると、ルーファスが私の頭の上に頬を乗せてスリスリとし返してくる。

「嫁よ、アルビーを起こせないのか?」
「冬眠なんだし、温かくすれば起きるんじゃないですか?」

氷竜が肩を落として、またドームを張るとアルビーの周りに【暖】の魔法でひし形の提灯を作り、手をワキワキとさせている。

「あ、ルーファス。お湯玉でアルビーを温めたらどうかな?」
「成程、やってみるか」

ルーファスがお湯玉を作り、アルビーをお湯玉に入れて、顔だけ外に出しておくとアルビーの手足がお湯玉の中でピクピクと動き始める。
アルビーの目がうっそりと開くと、眉間にしわを寄せて欠伸をする。

「アルビー!我だ!我の目はどうした?」
「・・・あー、グリムレインじゃない?どうしたの?」
「だから、我が頼んだ目はどうしたんだ?!」
「・・・ああ、そういえば預かってたね」

アルビーの目がパチパチと上下するとお湯玉の中で手足をばたつかせる。

「なにコレ?」
「ああ、悪いな。直ぐに出す」

ルーファスがお湯玉を消して乾燥魔法を掛けると、アルビーが辺りを見回して「うわぁ・・・」と嫌な顔をしてドームの外の雪を見る。

「私、もしかして寝坊しちゃった?一応、冬眠前に起きれる様に部屋に目覚まし草を近くに置いてたんだけど」
「我は2週間も待ち合わせ場所で待ちぼうけをくらったのだぞ!」

氷竜が眉を下げてアルビーに言うと、アルビーがあれー?と、言いながら首をかたむける。
その様子を見ていたルーファスが渋い顔をする。

「おそらく、うちの厄介な駄犬達がアルビーの部屋にでも入って目覚まし草を蹴倒したかどうかしたんだろうな」

あー、あの4人ならやりそうです。
未だにあの4人よく夜中にフラフラ徘徊してはご飯を漁ってハガネに怒られているようだし。

アルビーが魔法を唱えながら口の中からオーロラ色の玉を手に吐き出すと、聖水を出して洗い流す。
アルビーの手の中に金色の目玉がコロンと転がる。

「はい。グリムレインの目だよ。私の中で治療しておいたから、もう治っているはずだよ」
「おお。流石アルビーだ」

氷竜のグリムレインが嬉しそうに目を入れ込むと、グリムレインの両眼が綺麗に金色に光る。
入れてどうにかなる物なのですか!!と、思わず思ってしまったのは仕方がないと思うのです。

「グリムレインの目、そのまま入れて大丈夫だったの?空洞になって虚無が出来てなかった?」
「ああ、それならそこの嫁に治療してもらった」

アルビーとルーファスがバッと私の方を見る。
ううっ、そんな怖い顔しないで欲しいです・・・ワザとじゃないです。

「アカリ、また何かしたの?!」
「アカリ!何処か傷をつけたのか?!」

「違います!犬笛を私が吹いた後に氷竜さんが吹いて唾液で治っただけだから!」

アルビーが「なーんだ」と、ホッとした顔をして、ルーファスは呆れた顔をして私を小突く。

「やたらと犬笛が鳴ると思ったら・・・何をしているんだか」
「鳴って無いですよ?音がしなくて、2人で鳴るか確かめていたぐらいですし」
「犬笛は人の耳では聞こえないが、オレ達犬族や狼族には聞き取れる音なんだ。壊れていたわけでは無い」
「あらら。そうなのですか」

不思議な笛です。
フーとしか鳴らなかったのに、ルーファスには聞こえていたのね・・・。
かなり鳴らしてましたからうるさかったかも・・・申し訳ないです。

「さて、我の目が戻ったから雪を全てさげるか。嫁よ、嫁の夫よ迷惑を掛けたな」

グリムレインが手を空に上げると、一斉に雪が空に上がってく。

「グリムレイン、お礼は?」
「ああ、アルビーに約束していた物ならちゃんと持ってきたぞ」

グリムレインが自分の懐を漁って小さな苗木を取り出してアルビーに渡す。

「やった!流石グリムレインだね」
「我の目を治してもらうのに苗木一株では安上がりだとは思うが・・・」
「十分だよ。それに癒しは私の光竜としての本分だしね」

アルビーが嬉しそうに白い苗木に頬ずりしながら喜ぶ。
グリムレインが私とルーファスの方を向くと静かに頭を下げる。

「嫁と、嫁の夫にも何か礼をしてやろう」

「そんな物は良いから、今回の様な迷惑行為をもう掛けるな」

ルーファスが嫌そうな顔をして私をギュッと後ろから抱きしめてグリムレインに威嚇する。
そんなルーファスに苦笑いしつつも私も同感と言わざるを得ないので頷いておく。

「嫁には空洞を治療してもらった礼もせんとな」
「何も要らないですよ?」
「ふむ。欲のない夫婦だのう・・・。なら、嫁は小さいから祝福だけしておくか」
「だから小さいは余計です!」

グリムレインが丸い氷の玉の様な物を出すと私の口に突っ込んで、その玉を吐き出そうとしたら口の中で溶けて無くなった。

「何ですか!今のなんですかー!!」
「嫁への祝福だ。悪い物ではない。そのうちわかる」

「それじゃあ、我はそろそろ行くとする。世話になったな」

グリムレインが犬笛を私に返すと、ドームを消して背中に羽を出してアルビーの頭を撫でると「またの」と、アルビーに言い、アルビーが「そのうちねー」と手を振るとグリムレインが空に飛び、ドラゴンに姿を変えると温泉大陸をぐるっと旋回してから旅立って行った。


「そろそろ年が明けるな・・・」
「もうそんなに経っていたの?!」

吹雪で周りが見えていなかったので空模様も気にしていませんでしたよ・・・。
夜だなぁとは思いましたけどね?
朝に巻き込まれたと思ったら夜、しかも年が明けるって、そんな馬鹿な!

「ルーファス、今年最後の日がとんでもない事になってましたね」
「まぁ、朱里が無事ならそれでいいさ」

2人で苦笑いをしながら笑っていると、年が明けた事を告げる花火が空に上がった。

「アカリ、今年もよろしく頼む」
「はい。今年もよろしくお願いします」

「アカリー!ルーファスー!私、寒いから早く帰りたーい!」

アルビーの悲鳴の様な声に私達は急いで【刻狼亭】へ帰っていったのです。
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