黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
142 / 960
6章

冬の約束

しおりを挟む
 寒さが遮断されたのは氷のドームに閉じ込められてからだった。

私を包み込むように薄い水色の氷がドーム状に囲われ、吹雪も遮断されて、お腹に入れたクロを抱き直し、お布団も自分の体に巻き直していると頭から上から声がする。

「少しの間、我に付き合ってもらうぞ」

薄い氷の様な水色のドラゴンが頭の上からそう言ってくる。

「寒いので帰して欲しいです」

ドームの中は風は入らないけど、やはり冷えた体は中々元の温かさには戻らない。
【刻狼亭】で温かい温泉に入ってじんわり温まりたい気分です。
何より、ドームの外が吹雪いてて何も見えないし、氷竜は怖いし・・・帰りたい。

「お前の夫がアルビーを起こすまでは付き合ってもらう」

「え?夫ってルーファスですか?!」

「【刻狼亭】の主ルーファス・トリニアだ」

「夫です・・・。何でルーファスがアルビーを起こすのに私が人質なのですか?」

氷竜はシュルシュルと身を縮めて人型になるとドームの中に入ってきた。
氷の様な髪の色に金色の目の綺麗な男の人。
長い髪は足元にまで届きそうで背丈はネルフィームと同じくらい高い。
でも、片目だけ無い。
空洞の目に吸い込まれそう。

グイっと片手で顔を掴まれて何も見えなくされると、氷竜はフンッと鼻で息を吐く。

「我の目を見るんじゃない。虚無に落ちるぞ」

「虚無・・・?それより、手を放して下さい。冷たいです」

顔面が冷えておでこがガンガンしますよ・・・。
氷を顔に当てられているみたい。
手が離れると、氷竜はドカッとその場に座って氷で机を出して、私にお茶を差し出す。

「・・・ありがとうございます。でもコレ、抹茶かき氷ですね・・・」

「仕方がなかろう。アルビーが我の目を治すまでは力の制御が出来ん」

ムスッとしながら氷竜はシャリシャリと抹茶かき氷を口にする。
かき氷を飲むように食べる人初めて見たかも・・・頭にキーンときそう・・・。

「あの、なんで私が人質なのですか?」

「アルビーに治療を頼んだんだが、あやつ未だにぐーすか寝ているんでな、簡単には起きんだろうから人質を取ったまでの事よ」

「でも、私を人質にしたらルーファスが怒ると思うんですけど・・・」

「ああ、怒ってはいたが、あの寒さの中で唯一安全な場所、つまりこのドーム内にお前を置けば寒さはしのげるという事を説明したら渋々承諾したぞ」

確かにあのままあそこに居たら凍り付いていたかもしれないけど・・・。

「こんな事しなくても、アルビーを起こすぐらいしてくれたと思うんですよ?」

「それは判らん。我の目は竜眼だぞ?氷を操る能力を半分あの目に宿している。欲の張った者ならばアルビーから奪うかもしれない。だからこそ、お前の夫の心の中を覗き見て、一番人質に取られたくない者を人質にしたのだ」

「ルーファスはそんな欲深な人じゃありませんよ!」

「だからこそ、人質のお前をこうして安全なドームに入れてやっているのだ」

むぅ・・・これって人質って言うのかな?
むしろ寒さから守ってもらっている一時預かりみたいな?
アルビーを起こして治療してもらうまで私を安全な場所に置いておくからルーファスに安心してアルビーの所へ行けと言っている様な感じ?

「あの、私以外の人達はどうなるの?」

「我がこの大陸に居る以上、弱い者は氷に包まれ仮死状態になる」

「それって危ないんじゃ?!」

「我の氷だ。我が望まない限り死にはせん」

望んだら死んじゃうのですか?とは、怖くて聞けない・・・きっと出来そう。

「ん・・・っ」

お腹の中で小さくクロがモゾモゾと動いて、クロの猫湯たんぽ・・・魔獣湯たんぽで少しお腹がほわっと温かくてクロで少し暖を取っていると、氷竜が「参ったな」と呟いた。

「どうかしたのですか?」

「いや、身重の人質となるとお前の夫は必死になるだろうからアルビーが無事だと良いんだが」

「違いますよ。身重じゃないです。でも、ルーファスは身重じゃなくても今頃アルビーの所に向かってますよ。私とルーファスは『番』ですから」

これだけは分かる。
ルーファスは私の為に頑張ってしまう人だもの。

「ふむ。あまり得意では無いが・・・【暖】ウォーム。これで少しは温かいだろう?」

氷竜が私の近くに橙色のひし形の提灯みたいな物を出すとほんのりと温かくなる。

「ありがとうございます。温かいですね」

「お前には安全を約束するとお前の夫と約束したからな」

氷竜は少し得意げな顔をして、新しいお茶・・・というか、かき氷を作ってジャクジャクと飲み干しています。

「あの、この温泉大陸の近くの空でアルビーと待ち合わせとか出来なかったの?」

「待ち合わせはしていた。2週間も待たされた・・・しびれを切らしてここに来たのだ」

アルビー・・・流石にこれはアルビーが悪いかもしれない。
でも冬眠中だから、冬場に待ち合わせしたこの氷竜も悪い気もする。

「ルーファスがアルビーを呼びに行くまで別の所で待っているとかは出来ないの?」

「そうしたいが、アルビーは飛ぶ速度が速いわけでは無いからな。冬眠から目覚めたばかりだと余計にふらつくだろうから、近場で待たせてもらっている」

「この吹雪を止めたら早く来れるのでは?」

「目が治らん限りは我にも加減が出来ん」

空洞になっている片目を手で押えながら、氷竜が「我の目は無事だろうか」と、少し力なさげに呟いたのだった。
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。