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6章
冬の約束
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寒さが遮断されたのは氷のドームに閉じ込められてからだった。
私を包み込むように薄い水色の氷がドーム状に囲われ、吹雪も遮断されて、お腹に入れたクロを抱き直し、お布団も自分の体に巻き直していると頭から上から声がする。
「少しの間、我に付き合ってもらうぞ」
薄い氷の様な水色のドラゴンが頭の上からそう言ってくる。
「寒いので帰して欲しいです」
ドームの中は風は入らないけど、やはり冷えた体は中々元の温かさには戻らない。
【刻狼亭】で温かい温泉に入ってじんわり温まりたい気分です。
何より、ドームの外が吹雪いてて何も見えないし、氷竜は怖いし・・・帰りたい。
「お前の夫がアルビーを起こすまでは付き合ってもらう」
「え?夫ってルーファスですか?!」
「【刻狼亭】の主ルーファス・トリニアだ」
「夫です・・・。何でルーファスがアルビーを起こすのに私が人質なのですか?」
氷竜はシュルシュルと身を縮めて人型になるとドームの中に入ってきた。
氷の様な髪の色に金色の目の綺麗な男の人。
長い髪は足元にまで届きそうで背丈はネルフィームと同じくらい高い。
でも、片目だけ無い。
空洞の目に吸い込まれそう。
グイっと片手で顔を掴まれて何も見えなくされると、氷竜はフンッと鼻で息を吐く。
「我の目を見るんじゃない。虚無に落ちるぞ」
「虚無・・・?それより、手を放して下さい。冷たいです」
顔面が冷えておでこがガンガンしますよ・・・。
氷を顔に当てられているみたい。
手が離れると、氷竜はドカッとその場に座って氷で机を出して、私にお茶を差し出す。
「・・・ありがとうございます。でもコレ、抹茶かき氷ですね・・・」
「仕方がなかろう。アルビーが我の目を治すまでは力の制御が出来ん」
ムスッとしながら氷竜はシャリシャリと抹茶かき氷を口にする。
かき氷を飲むように食べる人初めて見たかも・・・頭にキーンときそう・・・。
「あの、なんで私が人質なのですか?」
「アルビーに治療を頼んだんだが、あやつ未だにぐーすか寝ているんでな、簡単には起きんだろうから人質を取ったまでの事よ」
「でも、私を人質にしたらルーファスが怒ると思うんですけど・・・」
「ああ、怒ってはいたが、あの寒さの中で唯一安全な場所、つまりこのドーム内にお前を置けば寒さはしのげるという事を説明したら渋々承諾したぞ」
確かにあのままあそこに居たら凍り付いていたかもしれないけど・・・。
「こんな事しなくても、アルビーを起こすぐらいしてくれたと思うんですよ?」
「それは判らん。我の目は竜眼だぞ?氷を操る能力を半分あの目に宿している。欲の張った者ならばアルビーから奪うかもしれない。だからこそ、お前の夫の心の中を覗き見て、一番人質に取られたくない者を人質にしたのだ」
「ルーファスはそんな欲深な人じゃありませんよ!」
「だからこそ、人質のお前をこうして安全なドームに入れてやっているのだ」
むぅ・・・これって人質って言うのかな?
むしろ寒さから守ってもらっている一時預かりみたいな?
アルビーを起こして治療してもらうまで私を安全な場所に置いておくからルーファスに安心してアルビーの所へ行けと言っている様な感じ?
「あの、私以外の人達はどうなるの?」
「我がこの大陸に居る以上、弱い者は氷に包まれ仮死状態になる」
「それって危ないんじゃ?!」
「我の氷だ。我が望まない限り死にはせん」
望んだら死んじゃうのですか?とは、怖くて聞けない・・・きっと出来そう。
「ん・・・っ」
お腹の中で小さくクロがモゾモゾと動いて、クロの猫湯たんぽ・・・魔獣湯たんぽで少しお腹がほわっと温かくてクロで少し暖を取っていると、氷竜が「参ったな」と呟いた。
「どうかしたのですか?」
「いや、身重の人質となるとお前の夫は必死になるだろうからアルビーが無事だと良いんだが」
「違いますよ。身重じゃないです。でも、ルーファスは身重じゃなくても今頃アルビーの所に向かってますよ。私とルーファスは『番』ですから」
これだけは分かる。
ルーファスは私の為に頑張ってしまう人だもの。
「ふむ。あまり得意では無いが・・・【暖】。これで少しは温かいだろう?」
氷竜が私の近くに橙色のひし形の提灯みたいな物を出すとほんのりと温かくなる。
「ありがとうございます。温かいですね」
「お前には安全を約束するとお前の夫と約束したからな」
氷竜は少し得意げな顔をして、新しいお茶・・・というか、かき氷を作ってジャクジャクと飲み干しています。
「あの、この温泉大陸の近くの空でアルビーと待ち合わせとか出来なかったの?」
「待ち合わせはしていた。2週間も待たされた・・・しびれを切らしてここに来たのだ」
アルビー・・・流石にこれはアルビーが悪いかもしれない。
でも冬眠中だから、冬場に待ち合わせしたこの氷竜も悪い気もする。
「ルーファスがアルビーを呼びに行くまで別の所で待っているとかは出来ないの?」
「そうしたいが、アルビーは飛ぶ速度が速いわけでは無いからな。冬眠から目覚めたばかりだと余計にふらつくだろうから、近場で待たせてもらっている」
「この吹雪を止めたら早く来れるのでは?」
「目が治らん限りは我にも加減が出来ん」
空洞になっている片目を手で押えながら、氷竜が「我の目は無事だろうか」と、少し力なさげに呟いたのだった。
私を包み込むように薄い水色の氷がドーム状に囲われ、吹雪も遮断されて、お腹に入れたクロを抱き直し、お布団も自分の体に巻き直していると頭から上から声がする。
「少しの間、我に付き合ってもらうぞ」
薄い氷の様な水色のドラゴンが頭の上からそう言ってくる。
「寒いので帰して欲しいです」
ドームの中は風は入らないけど、やはり冷えた体は中々元の温かさには戻らない。
【刻狼亭】で温かい温泉に入ってじんわり温まりたい気分です。
何より、ドームの外が吹雪いてて何も見えないし、氷竜は怖いし・・・帰りたい。
「お前の夫がアルビーを起こすまでは付き合ってもらう」
「え?夫ってルーファスですか?!」
「【刻狼亭】の主ルーファス・トリニアだ」
「夫です・・・。何でルーファスがアルビーを起こすのに私が人質なのですか?」
氷竜はシュルシュルと身を縮めて人型になるとドームの中に入ってきた。
氷の様な髪の色に金色の目の綺麗な男の人。
長い髪は足元にまで届きそうで背丈はネルフィームと同じくらい高い。
でも、片目だけ無い。
空洞の目に吸い込まれそう。
グイっと片手で顔を掴まれて何も見えなくされると、氷竜はフンッと鼻で息を吐く。
「我の目を見るんじゃない。虚無に落ちるぞ」
「虚無・・・?それより、手を放して下さい。冷たいです」
顔面が冷えておでこがガンガンしますよ・・・。
氷を顔に当てられているみたい。
手が離れると、氷竜はドカッとその場に座って氷で机を出して、私にお茶を差し出す。
「・・・ありがとうございます。でもコレ、抹茶かき氷ですね・・・」
「仕方がなかろう。アルビーが我の目を治すまでは力の制御が出来ん」
ムスッとしながら氷竜はシャリシャリと抹茶かき氷を口にする。
かき氷を飲むように食べる人初めて見たかも・・・頭にキーンときそう・・・。
「あの、なんで私が人質なのですか?」
「アルビーに治療を頼んだんだが、あやつ未だにぐーすか寝ているんでな、簡単には起きんだろうから人質を取ったまでの事よ」
「でも、私を人質にしたらルーファスが怒ると思うんですけど・・・」
「ああ、怒ってはいたが、あの寒さの中で唯一安全な場所、つまりこのドーム内にお前を置けば寒さはしのげるという事を説明したら渋々承諾したぞ」
確かにあのままあそこに居たら凍り付いていたかもしれないけど・・・。
「こんな事しなくても、アルビーを起こすぐらいしてくれたと思うんですよ?」
「それは判らん。我の目は竜眼だぞ?氷を操る能力を半分あの目に宿している。欲の張った者ならばアルビーから奪うかもしれない。だからこそ、お前の夫の心の中を覗き見て、一番人質に取られたくない者を人質にしたのだ」
「ルーファスはそんな欲深な人じゃありませんよ!」
「だからこそ、人質のお前をこうして安全なドームに入れてやっているのだ」
むぅ・・・これって人質って言うのかな?
むしろ寒さから守ってもらっている一時預かりみたいな?
アルビーを起こして治療してもらうまで私を安全な場所に置いておくからルーファスに安心してアルビーの所へ行けと言っている様な感じ?
「あの、私以外の人達はどうなるの?」
「我がこの大陸に居る以上、弱い者は氷に包まれ仮死状態になる」
「それって危ないんじゃ?!」
「我の氷だ。我が望まない限り死にはせん」
望んだら死んじゃうのですか?とは、怖くて聞けない・・・きっと出来そう。
「ん・・・っ」
お腹の中で小さくクロがモゾモゾと動いて、クロの猫湯たんぽ・・・魔獣湯たんぽで少しお腹がほわっと温かくてクロで少し暖を取っていると、氷竜が「参ったな」と呟いた。
「どうかしたのですか?」
「いや、身重の人質となるとお前の夫は必死になるだろうからアルビーが無事だと良いんだが」
「違いますよ。身重じゃないです。でも、ルーファスは身重じゃなくても今頃アルビーの所に向かってますよ。私とルーファスは『番』ですから」
これだけは分かる。
ルーファスは私の為に頑張ってしまう人だもの。
「ふむ。あまり得意では無いが・・・【暖】。これで少しは温かいだろう?」
氷竜が私の近くに橙色のひし形の提灯みたいな物を出すとほんのりと温かくなる。
「ありがとうございます。温かいですね」
「お前には安全を約束するとお前の夫と約束したからな」
氷竜は少し得意げな顔をして、新しいお茶・・・というか、かき氷を作ってジャクジャクと飲み干しています。
「あの、この温泉大陸の近くの空でアルビーと待ち合わせとか出来なかったの?」
「待ち合わせはしていた。2週間も待たされた・・・しびれを切らしてここに来たのだ」
アルビー・・・流石にこれはアルビーが悪いかもしれない。
でも冬眠中だから、冬場に待ち合わせしたこの氷竜も悪い気もする。
「ルーファスがアルビーを呼びに行くまで別の所で待っているとかは出来ないの?」
「そうしたいが、アルビーは飛ぶ速度が速いわけでは無いからな。冬眠から目覚めたばかりだと余計にふらつくだろうから、近場で待たせてもらっている」
「この吹雪を止めたら早く来れるのでは?」
「目が治らん限りは我にも加減が出来ん」
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