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6章
冬の魔性
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『踊り子』さんの丸みを帯びたガラスの様な美しさは、私は素直に綺麗だと思います。
声も空気に溶ける様に甘く転がって、魅了されてしまうのが解る気がします。
「アカリ、あまり見るんじゃない。目に毒だ」
ルーファスが注意してくるのですが、見ないと治療が出来ないのです。
私は包帯を持って指示通りに薬草を塗り込んだ布を『踊り子』さんの背中に張り付けて包帯をクルクルと巻いているのですが、本当に綺麗なのです。
「このお屋敷に女性が居て良かったです」
綺麗な声で『踊り子』さんのリーダーのキンカラさんが私に微笑みながら、綺麗な手に持った煙管をまるでタクトの様に振って、小さな花の幻影を私の前に出す。
「綺麗ですね。ルーファス、今の見ましたか?」
「キンカラ、この屋敷で煙管類は止めてくれ。アカリ、その幻影はハガネの方が得意だから今度見せてもらえ。こいつらの幻影は裏がありそうだから見るんじゃない」
ルーファスが私の目を手で塞ぎながら、小さく唸り声を上げる。
キンカラさんは鈴を転がすような声で笑っていて、余計にルーファスが怒っているのか、私の目を塞ぐ手にも力が入っています。
ルーファス、痛いのです・・・。
ルーファスとハガネが門の所へ『踊り子』さん達と話し合いに向かった際に、既にワンコ4人のテントは傷害事件の現場になっていた様です。
1人の『踊り子』さん、ミンシャーさんに魅了された大橋の工事作業員の人が2人居て、殴り合いの喧嘩からの傷害沙汰に・・・。
そしてミンシャーさんも背中をザックリ斬られ、今現在、お屋敷に担ぎ込まれて治療しているのです。
『踊り子』さん達は雌雄同体の男の人にも女の人にもなれる花人族で、特に性別にこだわりがないそうなのだけど、ミンシャーさんは自分の性別は女の人だと決めていて、治療するのは女の人でなきゃ嫌だと言いまして・・・。
そこで、私の出番だったわけです。
ポーションをかけて傷口を洗い流し、深い傷だったので薬草を練り込んだ布で絆創膏の様にして包帯をぐるぐると巻き付けたのだけど、背中側から包帯を回したけど、一応、ルーファスが監視役として同じ部屋に居て、キンカラさんも居るんですが、非常にやり辛かったです!
2人共平静を装いつつも見えない火花がバチバチしている感じで、険悪でした。
ミンシャーさんを斬りつけてしまった大工作業員の人も自分のお腹を刺したりしてて、そちらは街からボギー医師に来てもらって、別の部屋で治療中です。
キンカラさんとミンシャーさんのみ、このお屋敷に入る事を許されて、他の『踊り子』さん達は事情聴取と言う事で、【刻狼亭】の従業員さんに連行されています。
ハガネはボギー医師の方で、4人のワンコ達はハガネに2人付いて、残りの2人は私達の居る部屋の扉の外で待機しています。
何かあれば直ぐに駆けつけられる様に、しっかりと武装待機です。
「それにしても、今回は随分と早い段階で傷害沙汰が起きたようだな」
ルーファスの言葉にキンカラさんがクスリと笑う。
「血の気の多い大工がこんな場所に居るとは思わなんだでねぇ。雇い人は気を付けなんし」
「そんな血の気の多い奴を引っ掛けたお前達が悪い。自業自得だ」
何だか、また険悪なムードが声に漂ってます。
ルーファスの手をパシパシ叩くと、ようやくルーファスが手の力を抜いてくれて、目が自由になりました。
私の事を蚊帳の外にして忘れ去らないで欲しい物です。
「ミンシャーさん、後で熱が出るかもしれないので解熱剤を飲んでくださいね?」
水差しとコップにボギー医師に貰った薬をミンシャーさんに渡して、ようやく私のお仕事完了です。
「ありがとう。小さな奥様」
ミンシャーさんの透き通る綺麗な声が耳にゾクゾクきます。
これは、男の人がイチコロになってしまう声ですね・・・。
私がゾクゾクしているのに気付いたルーファスに肩をガシッと掴まれて、ニッコリ笑顔を向けられました。
ルーファスの笑顔が怖いと思うのは気のせいにしたいのです・・・。
「ボギー医師の治療が終わり次第、街の方の治療院へ移ってくれ」
「いえ、我々は今年はもう移動するつもりなんさ。今年の温泉大陸は人が少なすぎて実入りが無さそうなんでね、最後に羽目を外そうとして、こうなっちまったから移動なんさ」
キンカラさんが形の良い唇の端を上げて笑い、ルーファスが怪訝な顔をした後で少し間を置いて、小さく溜め息を吐く。
「さては、今この大陸に来ている貴族に誘われたな」
「流石、温泉大陸を統べているだけはありますねぇ。そうなんさ、年明けまではお貴族様の屋敷で楽しく過ごしんす」
綺麗なガラス細工の様な人はそう言って綺麗に笑い、ルーファスが「だろうと思ったよ」と、クククッと笑った後で、私の顔を見て優しい目をして笑ったのは何故なのでしょう?
あれですか?綺麗な人を見た後に、私の平凡な顔をみてホッとした・・・そんな感じですか?
ボギー医師の治療が終わり、大工さん達は温泉大陸の治安所に拘留された後で、大工さんが住んでいる大陸の治安所へ引き渡されて、そこで取り調べなど色々受けるみたいです。
『踊り子』関連の事件は情状酌量の余地があるそうなので、そう重い刑罰にはならないみたいですけどね。
ただ、こういう事件を起こすと新しい現場に入る時の入国審査に犯罪者印が刻まれるので、結構な痛手にはなる様です。
キンカラさん達は「来年もよろしくお願いしますね?」と、言ってお屋敷を出て行ったのですが、ルーファスは「出来れば来ないでほしいものだ」と、ボソリと低い声を出していました。
兎にも角にも、冬の風物詩の1つがこうして慌ただしいくらいに小さく搔き乱して、華やかに過ぎ去っていったのです。
声も空気に溶ける様に甘く転がって、魅了されてしまうのが解る気がします。
「アカリ、あまり見るんじゃない。目に毒だ」
ルーファスが注意してくるのですが、見ないと治療が出来ないのです。
私は包帯を持って指示通りに薬草を塗り込んだ布を『踊り子』さんの背中に張り付けて包帯をクルクルと巻いているのですが、本当に綺麗なのです。
「このお屋敷に女性が居て良かったです」
綺麗な声で『踊り子』さんのリーダーのキンカラさんが私に微笑みながら、綺麗な手に持った煙管をまるでタクトの様に振って、小さな花の幻影を私の前に出す。
「綺麗ですね。ルーファス、今の見ましたか?」
「キンカラ、この屋敷で煙管類は止めてくれ。アカリ、その幻影はハガネの方が得意だから今度見せてもらえ。こいつらの幻影は裏がありそうだから見るんじゃない」
ルーファスが私の目を手で塞ぎながら、小さく唸り声を上げる。
キンカラさんは鈴を転がすような声で笑っていて、余計にルーファスが怒っているのか、私の目を塞ぐ手にも力が入っています。
ルーファス、痛いのです・・・。
ルーファスとハガネが門の所へ『踊り子』さん達と話し合いに向かった際に、既にワンコ4人のテントは傷害事件の現場になっていた様です。
1人の『踊り子』さん、ミンシャーさんに魅了された大橋の工事作業員の人が2人居て、殴り合いの喧嘩からの傷害沙汰に・・・。
そしてミンシャーさんも背中をザックリ斬られ、今現在、お屋敷に担ぎ込まれて治療しているのです。
『踊り子』さん達は雌雄同体の男の人にも女の人にもなれる花人族で、特に性別にこだわりがないそうなのだけど、ミンシャーさんは自分の性別は女の人だと決めていて、治療するのは女の人でなきゃ嫌だと言いまして・・・。
そこで、私の出番だったわけです。
ポーションをかけて傷口を洗い流し、深い傷だったので薬草を練り込んだ布で絆創膏の様にして包帯をぐるぐると巻き付けたのだけど、背中側から包帯を回したけど、一応、ルーファスが監視役として同じ部屋に居て、キンカラさんも居るんですが、非常にやり辛かったです!
2人共平静を装いつつも見えない火花がバチバチしている感じで、険悪でした。
ミンシャーさんを斬りつけてしまった大工作業員の人も自分のお腹を刺したりしてて、そちらは街からボギー医師に来てもらって、別の部屋で治療中です。
キンカラさんとミンシャーさんのみ、このお屋敷に入る事を許されて、他の『踊り子』さん達は事情聴取と言う事で、【刻狼亭】の従業員さんに連行されています。
ハガネはボギー医師の方で、4人のワンコ達はハガネに2人付いて、残りの2人は私達の居る部屋の扉の外で待機しています。
何かあれば直ぐに駆けつけられる様に、しっかりと武装待機です。
「それにしても、今回は随分と早い段階で傷害沙汰が起きたようだな」
ルーファスの言葉にキンカラさんがクスリと笑う。
「血の気の多い大工がこんな場所に居るとは思わなんだでねぇ。雇い人は気を付けなんし」
「そんな血の気の多い奴を引っ掛けたお前達が悪い。自業自得だ」
何だか、また険悪なムードが声に漂ってます。
ルーファスの手をパシパシ叩くと、ようやくルーファスが手の力を抜いてくれて、目が自由になりました。
私の事を蚊帳の外にして忘れ去らないで欲しい物です。
「ミンシャーさん、後で熱が出るかもしれないので解熱剤を飲んでくださいね?」
水差しとコップにボギー医師に貰った薬をミンシャーさんに渡して、ようやく私のお仕事完了です。
「ありがとう。小さな奥様」
ミンシャーさんの透き通る綺麗な声が耳にゾクゾクきます。
これは、男の人がイチコロになってしまう声ですね・・・。
私がゾクゾクしているのに気付いたルーファスに肩をガシッと掴まれて、ニッコリ笑顔を向けられました。
ルーファスの笑顔が怖いと思うのは気のせいにしたいのです・・・。
「ボギー医師の治療が終わり次第、街の方の治療院へ移ってくれ」
「いえ、我々は今年はもう移動するつもりなんさ。今年の温泉大陸は人が少なすぎて実入りが無さそうなんでね、最後に羽目を外そうとして、こうなっちまったから移動なんさ」
キンカラさんが形の良い唇の端を上げて笑い、ルーファスが怪訝な顔をした後で少し間を置いて、小さく溜め息を吐く。
「さては、今この大陸に来ている貴族に誘われたな」
「流石、温泉大陸を統べているだけはありますねぇ。そうなんさ、年明けまではお貴族様の屋敷で楽しく過ごしんす」
綺麗なガラス細工の様な人はそう言って綺麗に笑い、ルーファスが「だろうと思ったよ」と、クククッと笑った後で、私の顔を見て優しい目をして笑ったのは何故なのでしょう?
あれですか?綺麗な人を見た後に、私の平凡な顔をみてホッとした・・・そんな感じですか?
ボギー医師の治療が終わり、大工さん達は温泉大陸の治安所に拘留された後で、大工さんが住んでいる大陸の治安所へ引き渡されて、そこで取り調べなど色々受けるみたいです。
『踊り子』関連の事件は情状酌量の余地があるそうなので、そう重い刑罰にはならないみたいですけどね。
ただ、こういう事件を起こすと新しい現場に入る時の入国審査に犯罪者印が刻まれるので、結構な痛手にはなる様です。
キンカラさん達は「来年もよろしくお願いしますね?」と、言ってお屋敷を出て行ったのですが、ルーファスは「出来れば来ないでほしいものだ」と、ボソリと低い声を出していました。
兎にも角にも、冬の風物詩の1つがこうして慌ただしいくらいに小さく搔き乱して、華やかに過ぎ去っていったのです。
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