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6章
冬の迷路
しおりを挟む「せぇーのぉー!せいっ!!!」
勢いをつけて透明な壁に体当たりをするものの、ビィィィンと、振動するだけでビクともしない。
ペタペタと壁に手をつけて、これはダメかも?と、諦めモードで壁の向こう側を見る。
「アカリ、無理はするな。何とかしてみるから」
「アカリは動くな。大丈夫だから無茶すんな」
「そうですよ!若女将はそこに居て下さい」
ルーファスとハガネとマグノリアの3人が、私にやめろと言うけれど、私より、問題はあなた達3人の方なのだけどね?
事の起こりは結界をどうにかしてササマキちゃんが蹴破らない強度と広さを維持するというものだったのだけど、何をどう話が転んだのか・・・。
「結界を迷路状にして複雑にした中にササマキを入れたら、一直線に蹴破ってくると思うか?」
なんて馬鹿な事を冗談で言って、悪ノリした結果、この3人の大人たちは屋敷を中心とした巨大な迷路状の結界を張ってしまい、結界を解こうとしたら、3人掛かりで掛け合わせて作ったので中々解けず・・・今に至っているわけです。
ササマキちゃんは何処かに走って行ってしまい、見当たらないし、テッチがササマキちゃんを追って行ったけれど、迷子になっているし・・・。
透明で解りにくい迷路はとても難解で、外の方からも「なんだこれー!」の声がしているので、襲撃者の人達も巻き込んでいるみたいです。
プリシーやエイガルスが「今そちらに行きます」って声もしていましたが、今のところ出会えてはいないです。
私は3人にお昼ご飯を運んでいる最中に巻き込まれ、3人の居る部屋の前の廊下に私が居ます。
「ルーファス、どうしましょう?」
「何とか解けるか3人で力の配分をしてみるが、駄目なら結界が維持できないくらい魔力消費をして消すしかないな。アカリは動き回ると体力を消費していつ倒れるか判らないから、そこで大人しくしておけ」
「くしゅんっ」
ううっ、キッチンのお勝手口が実は少し開いていて風がピューと入ってきているのです。
ほんの少しお料理を届けに行ってすぐ戻るつもりでお勝手口を開けてお野菜の出し入れをしているところだったのです・・・。
背中冷たい、寒い・・・帰りたい・・・ブルブル。
廊下で空気の流れが違うからルーファス達に気付かれていないのが幸いな所・・・バレたらハガネに怒られる。
絶対、横着するなって言われるからお口にチャックで我慢の子です。
「アカリ、寒いのか?」
「大丈夫だよ。廊下は他の部屋と違って温度が低いだけだし、一応室内だから平気だから心配しないで」
嘘ではないけど、このままココに居たら確実に熱出しそうだなぁ・・・。
ううっ、せめてお勝手口閉めておくんだった。
「アパ?アパパ」
ハッ!と、可愛い声に振り向くとササマキちゃんが後ろに歩いて近づいて来ていた。
「ササマキちゃん!」
おいでー!と、両手を広げると、ササマキちゃんが突進してきて、ビィィィィンと、私の目の前で透明な壁にぶつかり、コロンコロンと床を転がっていくぅぅぅ!!!!
「きゃあああ!ササマキちゃーん!!!」
「ササマキ、大丈夫か!」
私の悲鳴とハガネの焦った声にササマキちゃんが起き上がり、その場で地団駄を踏むと「パァアア!!!!」と、怒った様な声を上げて何処かへ爆走して行ってしまった・・・。
「ササマキちゃん何処かに行っちゃった・・・」
「何処かでササマキが蹴破ってくれれば良いんだが」
ルーファス、蹴破られる事が前提なのですね?
でも、この状況はやはり、ヤバいので早く蹴破ってほしいです。
「ふぁ・・・くしゅっん!くしゅん!」
ブルッと身震いすれば、ルーファスとハガネが心配そうな顔で向けて来て「仕方がない・・・やるか」と、3人が結界の壁に手を押し付けて、たまに手の平が光ってバチッと音がしている。
3人が集中して結界を解除しようとしているので、手持ち無沙汰もあって、手を透明な壁に置きながら移動してみると、意外にもキッチンまでは迷路にはなっていなくて、お勝手口を閉めることが出来ました!
これで戻っても寒くない!
「アパーッ!」
「へっ?!」
ポスンッと、透明な壁を蹴りながらササマキちゃんが私の胸に飛び込んできた。
急いでササマキちゃんを胸に押さえつけながら確保して、元の場所に戻るとルーファス達が透明な壁に手を付けながら移動していた。
「ササマキちゃん捕まえたよ」
「アパー!」
何故かドヤ顔をしているササマキちゃんを3人に見せると、ホッとした顔をされる。
「アカリ、何処に行ったかと思ったぞ!」
「一言いってから行けよな!」
「若女将が居ないから2人を止めるのが大変だったんですよ!」
少しの距離だから大丈夫かと思ったんだけど、出入り口の壁で見え辛かったのかな?
首をかしげると、ルーファスに「アカリ!動くなと言っておいただろう!」と、怒られてしまいました。
でも、寒かったし・・・手持ち無沙汰だし、仕方がないよね?
「ごめんなさい。でもササマキちゃん捕まえたよ!」
透明な壁にササマキちゃんの足をテシテシと付けると、ハガネが壁越しにササマキちゃんに白い歯を見せて笑う。
「ササマキ、この壁破れるか?」
「アーパー?」
首をかしげてクルっとした丸い目がハガネを見つめる。
「頑張ってササマキちゃん!」
床にササマキちゃんを下ろすと、ササマキちゃんがハガネの壁の前で首をひねりながらハガネを見つめる。
頑張れーと、期待を込めてササマキちゃんを見つめると、ササマキちゃんが壁をツンツンとくちばしで突いて、助走をつけて壁を蹴り上げると、反対側の壁に飛んで、ジグザグに壁をバネに移動を繰り返し、大丈夫だろうか?と、見守っていると、廊下の玄関ホールへ通じる道から、変な方向へ行き、段々と移動していく。
「ハガネ・・・ササマキちゃん何しているんだろう?」
「俺にもわかんねぇけど、移動はしてるな・・・」
私もササマキちゃんを追い駆けて移動すると、どうやら、私の元居たところより、1本先の道に出た様で、床に置いておいた食事を乗せたトレイが透明な壁の向こうにある。
「アパー!アパパパパ!」
タタタタタと、ササマキちゃんが勢いよく走り、突撃とばかりに、飛び込むとハガネの足にドシッとタックルしていました。
「おおーっ、迷路抜けてきたみてぇだな」
「アパーッ!」
ササマキちゃんを手の平に乗せてハガネが嬉しそうに言って、ササマキちゃんと頬をスリスリし合ってますよ。
良かった良かった。
「アカリ、大丈夫そうか?」
「むぎゅぅ・・・多分・・・ね?」
ササマキちゃんは通れたんだけど、私には結構狭い通路の様で・・・頭と肩は出たんだけど、胸がつーぶーれーるー。胸の圧迫がキツイ・・・。
ルーファスに引っ張ってもらいながら、気分は地面から引っこ抜かれる野菜の気分です・・・。
「ううっ、ルーファスありがとー」
「いや、オレこそ巻き込んですまなかったな」
ルーファスに抱き着いてここぞとばかりに熱を奪う。
獣人は温かい!ううっ、冷えた体に獣人は最高です・・・。
「アカリ、体が冷えすぎてるな。ほら、上着を着とけ」
ルーファスが自分のカーディガンを私に掛けてよしよしと、頭を撫でてくる。
「ルーファスは寒くない?大丈夫?」
「オレはアカリが見た目でも寒がるかと思って着こんでいるだけだからな。寒くはない」
「寒くなったら言ってね?返すから」
「ん?寒くなったらアカリを抱きしめるから良い」
サラッとそういうセリフを吐いて似合うイケメンはTVの中かルーファスぐらいですよ!
ううっ、言う方より言われたほうが赤面するっておかしいと思うの?
「さてさて、結界どうしますかねぇ?」
マグノリアが困りましたねと、言いながら顎に手をやると、ハガネの手からササマキちゃんがポーンと飛び出す。
部屋の隅の方に走っていくと、パシィーンと、蹴り破って結界が壊れる音がする。
「「「ササマキ?!(ちゃん)」」」
「アパーッ!」
ドヤ顔のササマキちゃんに「えー?」と、顔を突き合わせると、マグノリアさんがササマキちゃんを【鑑定】して解かった事。
ササマキちゃんは特殊能力【弱点突き】を保有していて、どんな物でも1つは弱点があるように、結界の一番弱い部分に蹴りを放ち壊していたことが判明。
ちなみにこの能力、実はルーファスの叔父のギルさんも保有していて、ギルさんは私の前でもこの能力使っていたのですよ。
ハガネをアナグマに変えたり、アルビーを小さくしたり・・・。
つまり、ササマキちゃんに弱点突きをされたらヤバイ事になるという事です。
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