黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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6章

冬の踊り子

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 華やかな集団に朱里が目を奪われると、不意に目の前が暗くなる。

「若女将は見ちゃいけません」

 そんな従業員の言葉と共に目を両手で塞がれて朱里が何事なのかと驚くと、隣りからルーファスの舌打ちの音がする。

「何の用だ?ここは専用スペースだが?」

「警戒なさらないでくださいな。ただのご挨拶ですよ」

 女性とも男性ともつかない声が楽し気にコロコロと鈴を転がすように声を出す。
朱里の耳に心地よく響く声は不思議な声色だと思って、少しだけ彼らの姿を見たかったのだが、従業員の手は朱里の目から離れてはくれないらしい。

「毎年言っているが、【刻狼亭】では『踊り子』同伴での宿泊は許可をしていないのでな。別の宿をあたるといい」
「そうだ!そうだ!俺達の職場で物取りみたいな真似はさせねぇぞ!」
「刃傷沙汰もご免だよ!」
「うちの従業員にも手を出すんじゃないよ!」

ルーファスの声に従業員達の声もどこか追い払う様な口調と言葉だった。
 
 
「相変わらず【刻狼亭】の人々は『主君』持ちばかりで可愛げが足りませんね」


コロコロとした声はまるで口どけの良い飴の様。


「お前達を否定はしないが、厄介事は迷惑なのでな」

「おやまぁ。貴方はもっと寛容かと思っていたけれど・・・ああ、そこのお嬢さんが『好い人』なのかねぇ?」


 朱里の顔の前で何かがバッと音を立てて横切る。
何だろう?と目隠しをされたまま朱里が首をひねると、クスッという笑い声がする。


「挨拶なら済んだだろう!サッサッと去れ!」

ルーファスの噛みつくような声とクスクス笑う複数の鈴を転がすような心地よい声。


「ええ。では、失礼いたしますね。ご贔屓下さる時はいつでもお呼び下さいませ」

ザッザッと足をそろえるような音がして足音と笑い声が遠ざかっていく。


 ようやく従業員が手を放して周りを見る事の出来た朱里の目の前には、朱里を庇う様に伸ばされたルーファスの腕と、ルーファスの壁になる様に身構えた従業員の後ろ姿だった。


「今の人達は何だったの?」

「この時期に現れる『踊り子』と呼ばれる者達だ。独り身の者を魅了して歩く厄介な冬の風物詩だ」

「性質の悪い毒花ですよ」
「若女将は気にしちゃいけません」
「目の毒です」


朱里の質問に対しての答えは随分なモノだが、取り敢えずは招かれざる者達の様だ。


「でも、綺麗な人達でしたね」
「アカリは若いから純粋に奴等を綺麗だと言えるんだ。アレは禍々しいに近いぞ」

一同がうんうん。と、頷いて身をブルっと震わせる。

「あいつ等の魅了にかかって、毎年、刃傷沙汰が起きますしね。困ったもんですよ」
「若い奴ほどのめり込んでしまいますしね」
「あいつ等はそれを楽しんでいる所もあるし」

自分には関係は無いし、気にしなくてもいいかな?と、朱里が思いながら「綺麗な花には棘があるですね」と、言うと、一同に「そんな高尚なもんじゃない」と一蹴された。


露店で買った食べ物を食べ終わった後、従業員達と別れて再びルーファスと朱里は露店巡りを再開させる。



「冬の間に必要な物ってあるの?」
「冬の間は部屋に籠りっきりになる種族が多いからな。携帯食や保存食だな」
「それはハガネがいっぱい作ってたから要らないかな?」
「まぁ見るだけ見て良い物があれば買えばいい」

 
 大きな瓶にスライスして乾燥させた果物や長細いパンに砂糖でコーティングした物など保存食のある露店を巡りながら、ルーファスが購入したのはドライフルーツの瓶詰に壺に入った梅酒。
朱里が購入したのはマシュマロに似たお菓子を飴の様なパリパリした物でコーティングしたお菓子。
後は燻製肉を色々と味見をしながら買ったりして、2人はそれなりに両手が塞がると、露店商の離れにある茶屋に立ち寄る。


 昆布茶に似たような味のお茶と羊羹をどら焼きの薄皮で包んだようなお菓子を食べながら、買い物の袋を少し丈夫な布バッグに入れ替えてひとまとめにして、茶屋の人に荷物の配送を頼む。
この時期はどこの店でも配送を小銭稼ぎの子供達がしてくれるので、子供のお小遣い稼ぎに貢献するためにもこまめに使ってあげるといいのだとか。
 

「結構買ったねー」
「いろんな店で細々と買ったからな」
「お店の人に勧められるままに買ったのもあるから何買ったか覚えてないや」
「屋敷に帰ってからがまた楽しみだな」
「うん。この後はどうするの?」

ルーファスが少し朱里の顔を見た後に笑うと「温泉宿にいくか」と誘う。

「【刻狼亭】にいくの?」
「いや、うちとは少し違う趣向の温泉宿だ。デートといえば休憩所だろ?」
「休憩所?」
「まぁ、行けばわかる」

 ルーファスに連れられるままに、古風な感じの個室が密集した温泉宿に行くと、入り口は客とお店側の人間が判らないような仕切りのある所で部屋の鍵を貰い、案内係も無く自分達で部屋まで行く。
 
 部屋を開けると6畳程の布団が敷いてある部屋と、室内温泉の入浴場と洗面所に小さなテーブルが置いてあるだけのこじんまりとした部屋があるだけ。

「・・・もしかして、ラブホ・・・?」
「ん?アカリ何か言ったか?」
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