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6章
冬のはじまり
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コーンコーンと、鉄を叩くような音が屋敷に広がる。
この音は温泉水が配水管を通って屋敷中を温めている音で、行き渡るとしなくなる音なので、初日の今日だけの音。
今までは朱里の部屋と、朱里が良く使う談話室などだけに温泉水の配管を通していたが、冬の寒さが近づき屋敷全体に行き渡らせることになった。
筋肉質な狼獣人のルーファスは少しの運動で汗が出るので、この温かさは暑すぎるぐらいではあるが、可愛い番がフルフル震えながら歩く毛布状態なのも可哀想だと、自分が薄着で対応する事で調節していくしかない。
玄関ホールでコーンコーンという音を聞きながら、運び込まれる水槽に朱里がハガネの後ろに隠れる。
朱里の体内に毒素が溜まっていないかを調べる為の魚『タンタン』が本日、届けられたのである。
毒素が無ければ手を突きには来ないが、毒素があれば突きに来て、毒素を吸い取り、満腹になると腹を膨らませて背尾泳ぎをする。半透明の小さなフグに似ている魚。
「ハガネ・・・こっそり海に捨てませんか?」
「いや、アカリ。この魚は海水魚じゃなくて淡水魚だから海に捨てたら直ぐに死ぬぞ?」
「ううっ、なら川に捨てましょう!」
「淡水って言っても熱帯魚だから多少温かい川じゃねぇとな」
よしよし。と、朱里の頭を撫でながらハガネが水槽に水を張りながら温度を調節していく。
密封された箱から魚を水槽に移し替えて、魚の動きを見る。
朱里が勢いよく逃げようとハガネから離れると、アッサリといつの間にか忍び寄ったルーファスに掴まる。
「コラ。アカリ逃げるんじゃない」
「はわっ。放してぇ」
ルーファスに腰と胸の上に腕を回されガッチリと拘束され、少し足元を浮かされると水槽の前に連れて行かれる。
「ハガネ、アカリの手を水槽に入れろ」
「ハガネ!メッ!やめよう?やめ・・・ひっ」
「仕方ねぇなぁ」
ハガネが朱里の手を掴み水槽の中にチャポンと浸けると、魚が一斉に朱里の手を突き始める。
「ふっ・・・ふふふ。くすぐった・・・あはっ、やめ、放し・・ふふふ」
朱里がくすぐったさに笑って震え、数分後には水槽の中はお腹が膨らみ浮かびながら背尾泳ぎをする魚と、笑い疲れてぐったりとルーファスの腕の中で伸び切った朱里が居た。
「よし、もう魚は寄ってこねぇな」
「アカリ、もう毒素は抜けたみたいだぞ?」
「・・・」
シーン。
「アカリが、死んだ・・・」
「いや、殺すな。死んでないからな?」
「・・・」
大きな男2人に確保されて拷問を受けました。と、言えるなら言いたい朱里ではあるが、笑いすぎて腹筋が死んでいるのでルーファスにそのまま連行されつつ、少しずつ温かくなる部屋の温度に冷え気味の手足が蘇り始めたのか、はたまた、タンタンに毒素を吸い出してもらって血流が良くなったのかは疑問が残るところである。
朱里の部屋の隣りにあるルーファスの部屋。
木枠とガラスで出来た戸棚には所狭しと書類の束が並べられ、【刻狼亭】の部屋の様な仕事部屋に近くなっている。
ベッドにコートスタンドくらいが生活感のある物という感じで、あとは仕事用の机と図面を立てかけるスタンドが置いてあり、丸めた図面が木の箱に無造作に突っ込まれていて、シンプルな様でいて、仕事部屋感が拭い去れない部屋。
「アカリ、そろそろ大丈夫そうか?」
「ううっ・・・酷い目にあったよ・・・」
「体の方はどうだ?毒素がだいぶ溜まっていたみたいだが」
「あー、うん。そこは凄く体がスッキリしていつもより体ポカポカです」
「やはり体の冷えは毒素が原因か・・・」
「部屋が温かいからかもしれないけどね?」
ルーファスがベッドの上に朱里を下ろすと幾つかの図面を持って朱里に手渡す。
「これは・・・お家の図面?」
「新しく建てる【刻狼亭】の設計図だ。アカリにも協力してもらおうと思ってな」
朱里の横に座ると、ルーファスが図面の一つを指さす。
「ここはアカリの城にするといい」
「私のお城・・・?」
キッチンとカウンターに売り場の様な物がある図面に朱里が首をひねると、ルーファスが色付きの完成図を出す。
可愛らしい洋風な感じのアンティークなお店の絵に朱里が「可愛い」と声を漏らすとルーファスが笑って頷く。
「何を売るかはアカリ次第。食べ物屋でも土産屋でも何でもいい。【刻狼亭】の女将の隠れた店として知る人ぞ知るという感じでやってくれ」
「ええええっ?!無理だよ!!」
朱里が驚きながら困った顔をすると、朱里の頬にキスをしながら「大丈夫だ」と囁く。
「着工するのは春先だから、冬の間にいっぱい考えてくれ」
「責任が重いのだけど?」
「アカリの作るミッカのジュースの売れ行きを見てもアカリには出来ると思うぞ」
「ミッカジュース工場にでもしろと?」
「いや。好きにやってくれて構わない。ハガネと作っているパンや製薬部隊と作っているハーブティでも良いし、アルビーと作っているポーションでも良いし、服のデザインをして呉服屋でも良いし、東国が落ち着けば東国から陶器の絵付けもアカリの好きにしてもらうつもりだから、陶器販売でも良いしな」
ルーファスに一気に言われ、朱里が「ペンとメモを~」と手をさ迷わせながら、ベッドから降りようとするとルーファスに引き戻される。
「急がなくていい。冬は始まったばかりで長いしな」
ルーファスの意図は何なのだろう?と、思いつつ朱里も少し未来の自分の店を考えて図面を見ながら小さくやる気を出してみせる。
この音は温泉水が配水管を通って屋敷中を温めている音で、行き渡るとしなくなる音なので、初日の今日だけの音。
今までは朱里の部屋と、朱里が良く使う談話室などだけに温泉水の配管を通していたが、冬の寒さが近づき屋敷全体に行き渡らせることになった。
筋肉質な狼獣人のルーファスは少しの運動で汗が出るので、この温かさは暑すぎるぐらいではあるが、可愛い番がフルフル震えながら歩く毛布状態なのも可哀想だと、自分が薄着で対応する事で調節していくしかない。
玄関ホールでコーンコーンという音を聞きながら、運び込まれる水槽に朱里がハガネの後ろに隠れる。
朱里の体内に毒素が溜まっていないかを調べる為の魚『タンタン』が本日、届けられたのである。
毒素が無ければ手を突きには来ないが、毒素があれば突きに来て、毒素を吸い取り、満腹になると腹を膨らませて背尾泳ぎをする。半透明の小さなフグに似ている魚。
「ハガネ・・・こっそり海に捨てませんか?」
「いや、アカリ。この魚は海水魚じゃなくて淡水魚だから海に捨てたら直ぐに死ぬぞ?」
「ううっ、なら川に捨てましょう!」
「淡水って言っても熱帯魚だから多少温かい川じゃねぇとな」
よしよし。と、朱里の頭を撫でながらハガネが水槽に水を張りながら温度を調節していく。
密封された箱から魚を水槽に移し替えて、魚の動きを見る。
朱里が勢いよく逃げようとハガネから離れると、アッサリといつの間にか忍び寄ったルーファスに掴まる。
「コラ。アカリ逃げるんじゃない」
「はわっ。放してぇ」
ルーファスに腰と胸の上に腕を回されガッチリと拘束され、少し足元を浮かされると水槽の前に連れて行かれる。
「ハガネ、アカリの手を水槽に入れろ」
「ハガネ!メッ!やめよう?やめ・・・ひっ」
「仕方ねぇなぁ」
ハガネが朱里の手を掴み水槽の中にチャポンと浸けると、魚が一斉に朱里の手を突き始める。
「ふっ・・・ふふふ。くすぐった・・・あはっ、やめ、放し・・ふふふ」
朱里がくすぐったさに笑って震え、数分後には水槽の中はお腹が膨らみ浮かびながら背尾泳ぎをする魚と、笑い疲れてぐったりとルーファスの腕の中で伸び切った朱里が居た。
「よし、もう魚は寄ってこねぇな」
「アカリ、もう毒素は抜けたみたいだぞ?」
「・・・」
シーン。
「アカリが、死んだ・・・」
「いや、殺すな。死んでないからな?」
「・・・」
大きな男2人に確保されて拷問を受けました。と、言えるなら言いたい朱里ではあるが、笑いすぎて腹筋が死んでいるのでルーファスにそのまま連行されつつ、少しずつ温かくなる部屋の温度に冷え気味の手足が蘇り始めたのか、はたまた、タンタンに毒素を吸い出してもらって血流が良くなったのかは疑問が残るところである。
朱里の部屋の隣りにあるルーファスの部屋。
木枠とガラスで出来た戸棚には所狭しと書類の束が並べられ、【刻狼亭】の部屋の様な仕事部屋に近くなっている。
ベッドにコートスタンドくらいが生活感のある物という感じで、あとは仕事用の机と図面を立てかけるスタンドが置いてあり、丸めた図面が木の箱に無造作に突っ込まれていて、シンプルな様でいて、仕事部屋感が拭い去れない部屋。
「アカリ、そろそろ大丈夫そうか?」
「ううっ・・・酷い目にあったよ・・・」
「体の方はどうだ?毒素がだいぶ溜まっていたみたいだが」
「あー、うん。そこは凄く体がスッキリしていつもより体ポカポカです」
「やはり体の冷えは毒素が原因か・・・」
「部屋が温かいからかもしれないけどね?」
ルーファスがベッドの上に朱里を下ろすと幾つかの図面を持って朱里に手渡す。
「これは・・・お家の図面?」
「新しく建てる【刻狼亭】の設計図だ。アカリにも協力してもらおうと思ってな」
朱里の横に座ると、ルーファスが図面の一つを指さす。
「ここはアカリの城にするといい」
「私のお城・・・?」
キッチンとカウンターに売り場の様な物がある図面に朱里が首をひねると、ルーファスが色付きの完成図を出す。
可愛らしい洋風な感じのアンティークなお店の絵に朱里が「可愛い」と声を漏らすとルーファスが笑って頷く。
「何を売るかはアカリ次第。食べ物屋でも土産屋でも何でもいい。【刻狼亭】の女将の隠れた店として知る人ぞ知るという感じでやってくれ」
「ええええっ?!無理だよ!!」
朱里が驚きながら困った顔をすると、朱里の頬にキスをしながら「大丈夫だ」と囁く。
「着工するのは春先だから、冬の間にいっぱい考えてくれ」
「責任が重いのだけど?」
「アカリの作るミッカのジュースの売れ行きを見てもアカリには出来ると思うぞ」
「ミッカジュース工場にでもしろと?」
「いや。好きにやってくれて構わない。ハガネと作っているパンや製薬部隊と作っているハーブティでも良いし、アルビーと作っているポーションでも良いし、服のデザインをして呉服屋でも良いし、東国が落ち着けば東国から陶器の絵付けもアカリの好きにしてもらうつもりだから、陶器販売でも良いしな」
ルーファスに一気に言われ、朱里が「ペンとメモを~」と手をさ迷わせながら、ベッドから降りようとするとルーファスに引き戻される。
「急がなくていい。冬は始まったばかりで長いしな」
ルーファスの意図は何なのだろう?と、思いつつ朱里も少し未来の自分の店を考えて図面を見ながら小さくやる気を出してみせる。
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