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5章
家出と招かれざる客
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ザーッと雨の物音の凄さにありすと朱里が「わぁー」と声を上げ、開け放ってしまったキッチンの勝手口を静かに閉じる。
ハガネが眉間にしわを寄せて溜め息を吐く。
「アカリ、シノノメ。この物音でもうわかったな?」
ありすは「解からない」という顔をするが、朱里は「しまった」と顔に出す。
「内側から扉を開けると『結界』が解ける。外の物音がするのはそういう事だ」
「ハガネ・・・どうしましょう?」
「あー・・・若旦那に怒られるしかないな」
「ひぇぇ」
「マジで?ルーッち、こんくらいで怒る?!」
「若旦那は安全の為に結界張ってんのに、守ってる対象が破ってたら怒るだろ?」
「ハガネっちは結界張れないの?」
「張れるが、若旦那達を締め出しちまうからなぁ・・・」
「駄目じゃん!」
朱里が「ルーファスに今日も怒られる」と、青ざめながら諦めた顔する。
ありすは「まぁ開けちゃったんだから仕方ないし」と、ケロッとしている。
ハガネは「仕方ねぇなぁ」と、ドジな主君を慰めようと新しいお茶を淹れてミルクもたっぷり入れて差し出す。
パリーン・・・と、窓が割れる音がするとハガネが表情を変えてキッチンの扉越しにそっと廊下を覗く。
「今の何っしょ?」
「シッ。2人共黙って音を立てるな」
ありすは好奇心を輝かせた目でワクワクしているが、朱里はビクビクと困惑顔をしながらも、ありすを庇う様に両手を広げて自分の背に隠す様にしている。
実際は小さな背の朱里ではあまり意味はないが、朱里の『お姉さん』としての『守らないといけない』という行動である。
「アカリから目を離すわけにもいかねぇからな。ここで食い止めるしかねぇけど、何かあればすぐ逃げろよ」
「わかった。勝手口から逃げればいいんだね?」
「アカリっち?!」
ハガネの真剣な顔に朱里も優先事項はありすの安全に決める。
ありすが2人のやり取りに驚いた声を上げるが、2人に「シッ」と指を立てられる。
廊下にカツカツと靴の音が響き、ハガネが手で朱里とありすにもっと奥へ行くように促す。
朱里とありすが勝手口に近い場所まで移動し、ハガネがキッチンの入り口に小さな瓶を蓋を開けて置き、少し離れた場所で身構える。
キッチンの入り口に姿を現したのは真っ赤に燃える様な髪をした女性だった。
年齢は20代後半くらいのスレンダーで能面の様な顔の女。
キッチリとした黒い騎士服に赤いラインの入った物を着ていた。
頭には黒いカーブを描き上を向いた角。
「マデリーヌ・・・何しに来たし!」
ありすが怒った表情で女性に噛みつかんばかりに声を上げる。
マデリーヌと呼ばれた女性はありすを見て表情は変えず、チラッと見ただけで足元のハガネが設置した小瓶を足で踏み付ける。
「シノノメ、こいつ敵か?味方か?どっちだ!」
ハガネの声にありすは「うちの敵っしょ!」と答える。
朱里が近くに置いてあった麺棒を手に握り、ありすが手の平に尖らせた氷を浮き上がらせる。
「【魔王】様はどうした?【聖女】」
マデリーヌの抑揚のない声にありすが氷を投げつけて答える。
「残念っしょ!リロっちなら此処には居ないし!」
マデリーヌが氷を手で払い廊下に氷が転がると四散して無くなる。
ハガネがマデリーヌの腕を掴み直接【幻惑】を叩き込む。
「やべぇな。この女【幻惑】の世界でも無表情でリロノス斬り殺してんぞ?」
「ハガネっち、マデリーヌはそういう奴だし!」
「とりあえず、俺がこの女押さえとくから、もし【幻惑】が解けたら逃げる準備だけしとけ。こいつ普通にヤバい奴みてぇだから」
「ハガネっち、もっとエグイ【幻惑】お見舞いするし!」
「シノノメは容赦ねぇな」
そんな2人のやり取りに朱里がもう1人の屋敷の住民を思い出す。
「アルビー大丈夫かな?」
「今はこの女押さえとかねぇと不味いしな・・・アルビーが騒ぎに気付いて来てくれりゃあ良いんだけど」
「トカゲちゃんあの物音で何故気付かないし!」
3人がアルビーの事を気に掛けているとのんびりとした声がキッチンに届く。
「皆さん、大丈夫ですかー?」
薄い金髪に水色の瞳で穏やかな表情はしているが、実は腹黒な【刻狼亭】の【恐怖】使いテン・サマードが顔を覗かせる。
「テン!いい所に来たな!この女、お前の【恐怖】で落とせるか?」
「良いですけど・・・何ですこの女性?」
「敵だし!不法侵入者だし!」
「テン、お願いします!」
テンがハガネの持っている手とは逆の手に自分の手を置き、いつも通りの穏やかな顔で【恐怖】を唱える。
「あ、この女性面白いですねぇー」
「だろ?お前に任しても大丈夫そうか?俺はアルビー見に行かねぇといけねぇんだ」
「大丈夫ですよー。久々に燃えますねぇー」
クスクスとテンが楽し気に笑いハガネがマデリーヌから手を放し、朱里とありすを連れてアルビーの部屋へ急ぐ。
アルビーの部屋を勢いよく開けると、本を枕にピスピスとアルビーはうたた寝していた。
3人がホッと息をつきアルビーを起こすとアルビーが眠たげに目を擦りながら3人の後について歩く。
再びキッチンに向かおうとすると、玄関ホールにルーファスとリロノスの姿を見つける。
ルーファスが朱里に気付くとお湯玉で全身をくぐらせてから【乾燥】をして朱里に両手を伸ばす。
「ルーファス!」
「アカリ、ただいま」
朱里が走ってルーファスに抱き着くと、ルーファスが嬉しそうな顔して朱里を抱き上げる。
「アカリ、また結界を破ったな」
「侵入者です!」
朱里の困惑顔にルーファスも表情を引き締める。
「どういうことだ?」
「今、キッチンでテンが取り押さえてます!急いで!」
ハガネが眉間にしわを寄せて溜め息を吐く。
「アカリ、シノノメ。この物音でもうわかったな?」
ありすは「解からない」という顔をするが、朱里は「しまった」と顔に出す。
「内側から扉を開けると『結界』が解ける。外の物音がするのはそういう事だ」
「ハガネ・・・どうしましょう?」
「あー・・・若旦那に怒られるしかないな」
「ひぇぇ」
「マジで?ルーッち、こんくらいで怒る?!」
「若旦那は安全の為に結界張ってんのに、守ってる対象が破ってたら怒るだろ?」
「ハガネっちは結界張れないの?」
「張れるが、若旦那達を締め出しちまうからなぁ・・・」
「駄目じゃん!」
朱里が「ルーファスに今日も怒られる」と、青ざめながら諦めた顔する。
ありすは「まぁ開けちゃったんだから仕方ないし」と、ケロッとしている。
ハガネは「仕方ねぇなぁ」と、ドジな主君を慰めようと新しいお茶を淹れてミルクもたっぷり入れて差し出す。
パリーン・・・と、窓が割れる音がするとハガネが表情を変えてキッチンの扉越しにそっと廊下を覗く。
「今の何っしょ?」
「シッ。2人共黙って音を立てるな」
ありすは好奇心を輝かせた目でワクワクしているが、朱里はビクビクと困惑顔をしながらも、ありすを庇う様に両手を広げて自分の背に隠す様にしている。
実際は小さな背の朱里ではあまり意味はないが、朱里の『お姉さん』としての『守らないといけない』という行動である。
「アカリから目を離すわけにもいかねぇからな。ここで食い止めるしかねぇけど、何かあればすぐ逃げろよ」
「わかった。勝手口から逃げればいいんだね?」
「アカリっち?!」
ハガネの真剣な顔に朱里も優先事項はありすの安全に決める。
ありすが2人のやり取りに驚いた声を上げるが、2人に「シッ」と指を立てられる。
廊下にカツカツと靴の音が響き、ハガネが手で朱里とありすにもっと奥へ行くように促す。
朱里とありすが勝手口に近い場所まで移動し、ハガネがキッチンの入り口に小さな瓶を蓋を開けて置き、少し離れた場所で身構える。
キッチンの入り口に姿を現したのは真っ赤に燃える様な髪をした女性だった。
年齢は20代後半くらいのスレンダーで能面の様な顔の女。
キッチリとした黒い騎士服に赤いラインの入った物を着ていた。
頭には黒いカーブを描き上を向いた角。
「マデリーヌ・・・何しに来たし!」
ありすが怒った表情で女性に噛みつかんばかりに声を上げる。
マデリーヌと呼ばれた女性はありすを見て表情は変えず、チラッと見ただけで足元のハガネが設置した小瓶を足で踏み付ける。
「シノノメ、こいつ敵か?味方か?どっちだ!」
ハガネの声にありすは「うちの敵っしょ!」と答える。
朱里が近くに置いてあった麺棒を手に握り、ありすが手の平に尖らせた氷を浮き上がらせる。
「【魔王】様はどうした?【聖女】」
マデリーヌの抑揚のない声にありすが氷を投げつけて答える。
「残念っしょ!リロっちなら此処には居ないし!」
マデリーヌが氷を手で払い廊下に氷が転がると四散して無くなる。
ハガネがマデリーヌの腕を掴み直接【幻惑】を叩き込む。
「やべぇな。この女【幻惑】の世界でも無表情でリロノス斬り殺してんぞ?」
「ハガネっち、マデリーヌはそういう奴だし!」
「とりあえず、俺がこの女押さえとくから、もし【幻惑】が解けたら逃げる準備だけしとけ。こいつ普通にヤバい奴みてぇだから」
「ハガネっち、もっとエグイ【幻惑】お見舞いするし!」
「シノノメは容赦ねぇな」
そんな2人のやり取りに朱里がもう1人の屋敷の住民を思い出す。
「アルビー大丈夫かな?」
「今はこの女押さえとかねぇと不味いしな・・・アルビーが騒ぎに気付いて来てくれりゃあ良いんだけど」
「トカゲちゃんあの物音で何故気付かないし!」
3人がアルビーの事を気に掛けているとのんびりとした声がキッチンに届く。
「皆さん、大丈夫ですかー?」
薄い金髪に水色の瞳で穏やかな表情はしているが、実は腹黒な【刻狼亭】の【恐怖】使いテン・サマードが顔を覗かせる。
「テン!いい所に来たな!この女、お前の【恐怖】で落とせるか?」
「良いですけど・・・何ですこの女性?」
「敵だし!不法侵入者だし!」
「テン、お願いします!」
テンがハガネの持っている手とは逆の手に自分の手を置き、いつも通りの穏やかな顔で【恐怖】を唱える。
「あ、この女性面白いですねぇー」
「だろ?お前に任しても大丈夫そうか?俺はアルビー見に行かねぇといけねぇんだ」
「大丈夫ですよー。久々に燃えますねぇー」
クスクスとテンが楽し気に笑いハガネがマデリーヌから手を放し、朱里とありすを連れてアルビーの部屋へ急ぐ。
アルビーの部屋を勢いよく開けると、本を枕にピスピスとアルビーはうたた寝していた。
3人がホッと息をつきアルビーを起こすとアルビーが眠たげに目を擦りながら3人の後について歩く。
再びキッチンに向かおうとすると、玄関ホールにルーファスとリロノスの姿を見つける。
ルーファスが朱里に気付くとお湯玉で全身をくぐらせてから【乾燥】をして朱里に両手を伸ばす。
「ルーファス!」
「アカリ、ただいま」
朱里が走ってルーファスに抱き着くと、ルーファスが嬉しそうな顔して朱里を抱き上げる。
「アカリ、また結界を破ったな」
「侵入者です!」
朱里の困惑顔にルーファスも表情を引き締める。
「どういうことだ?」
「今、キッチンでテンが取り押さえてます!急いで!」
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