黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
113 / 960
5章

家出と招かれざる客

しおりを挟む
 ザーッと雨の物音の凄さにありすと朱里が「わぁー」と声を上げ、開け放ってしまったキッチンの勝手口を静かに閉じる。

ハガネが眉間にしわを寄せて溜め息を吐く。

「アカリ、シノノメ。この物音でもうわかったな?」

ありすは「解からない」という顔をするが、朱里は「しまった」と顔に出す。

「内側から扉を開けると『結界』が解ける。外の物音がするのはそういう事だ」
「ハガネ・・・どうしましょう?」
「あー・・・若旦那に怒られるしかないな」
「ひぇぇ」

「マジで?ルーッち、こんくらいで怒る?!」
「若旦那は安全の為に結界張ってんのに、守ってる対象が破ってたら怒るだろ?」
「ハガネっちは結界張れないの?」
「張れるが、若旦那達を締め出しちまうからなぁ・・・」
「駄目じゃん!」

朱里が「ルーファスに今日も怒られる」と、青ざめながら諦めた顔する。
ありすは「まぁ開けちゃったんだから仕方ないし」と、ケロッとしている。
ハガネは「仕方ねぇなぁ」と、ドジな主君を慰めようと新しいお茶を淹れてミルクもたっぷり入れて差し出す。

パリーン・・・と、窓が割れる音がするとハガネが表情を変えてキッチンの扉越しにそっと廊下を覗く。

「今の何っしょ?」
「シッ。2人共黙って音を立てるな」

ありすは好奇心を輝かせた目でワクワクしているが、朱里はビクビクと困惑顔をしながらも、ありすを庇う様に両手を広げて自分の背に隠す様にしている。
実際は小さな背の朱里ではあまり意味はないが、朱里の『お姉さん』としての『守らないといけない』という行動である。

「アカリから目を離すわけにもいかねぇからな。ここで食い止めるしかねぇけど、何かあればすぐ逃げろよ」
「わかった。勝手口から逃げればいいんだね?」
「アカリっち?!」

ハガネの真剣な顔に朱里も優先事項はありすの安全に決める。
ありすが2人のやり取りに驚いた声を上げるが、2人に「シッ」と指を立てられる。

廊下にカツカツと靴の音が響き、ハガネが手で朱里とありすにもっと奥へ行くように促す。
朱里とありすが勝手口に近い場所まで移動し、ハガネがキッチンの入り口に小さな瓶を蓋を開けて置き、少し離れた場所で身構える。

キッチンの入り口に姿を現したのは真っ赤に燃える様な髪をした女性だった。
年齢は20代後半くらいのスレンダーで能面の様な顔の女。
キッチリとした黒い騎士服に赤いラインの入った物を着ていた。
頭には黒いカーブを描き上を向いた角。

「マデリーヌ・・・何しに来たし!」

ありすが怒った表情で女性に噛みつかんばかりに声を上げる。
マデリーヌと呼ばれた女性はありすを見て表情は変えず、チラッと見ただけで足元のハガネが設置した小瓶を足で踏み付ける。

「シノノメ、こいつ敵か?味方か?どっちだ!」

ハガネの声にありすは「うちの敵っしょ!」と答える。
朱里が近くに置いてあった麺棒を手に握り、ありすが手の平に尖らせた氷を浮き上がらせる。

「【魔王】様はどうした?【聖女】」

マデリーヌの抑揚よくようのない声にありすが氷を投げつけて答える。

「残念っしょ!リロっちなら此処には居ないし!」

マデリーヌが氷を手で払い廊下に氷が転がると四散して無くなる。
ハガネがマデリーヌの腕を掴み直接【幻惑】を叩き込む。

「やべぇな。この女【幻惑】の世界でも無表情でリロノス斬り殺してんぞ?」
「ハガネっち、マデリーヌはそういう奴だし!」

「とりあえず、俺がこの女押さえとくから、もし【幻惑】が解けたら逃げる準備だけしとけ。こいつ普通にヤバい奴みてぇだから」
「ハガネっち、もっとエグイ【幻惑】お見舞いするし!」
「シノノメは容赦ねぇな」

そんな2人のやり取りに朱里がもう1人の屋敷の住民を思い出す。

「アルビー大丈夫かな?」
「今はこの女押さえとかねぇと不味いしな・・・アルビーが騒ぎに気付いて来てくれりゃあ良いんだけど」
「トカゲちゃんあの物音で何故気付かないし!」

3人がアルビーの事を気に掛けているとのんびりとした声がキッチンに届く。

「皆さん、大丈夫ですかー?」

薄い金髪に水色の瞳で穏やかな表情はしているが、実は腹黒な【刻狼亭】の【恐怖】使いテン・サマードが顔を覗かせる。

「テン!いい所に来たな!この女、お前の【恐怖】で落とせるか?」
「良いですけど・・・何ですこの女性?」
「敵だし!不法侵入者だし!」
「テン、お願いします!」

テンがハガネの持っている手とは逆の手に自分の手を置き、いつも通りの穏やかな顔で【恐怖】を唱える。

「あ、この女性面白いですねぇー」
「だろ?お前に任しても大丈夫そうか?俺はアルビー見に行かねぇといけねぇんだ」
「大丈夫ですよー。久々に燃えますねぇー」

クスクスとテンが楽し気に笑いハガネがマデリーヌから手を放し、朱里とありすを連れてアルビーの部屋へ急ぐ。
アルビーの部屋を勢いよく開けると、本を枕にピスピスとアルビーはうたた寝していた。

3人がホッと息をつきアルビーを起こすとアルビーが眠たげに目を擦りながら3人の後について歩く。
再びキッチンに向かおうとすると、玄関ホールにルーファスとリロノスの姿を見つける。

ルーファスが朱里に気付くとお湯玉で全身をくぐらせてから【乾燥】をして朱里に両手を伸ばす。

「ルーファス!」
「アカリ、ただいま」

朱里が走ってルーファスに抱き着くと、ルーファスが嬉しそうな顔して朱里を抱き上げる。

「アカリ、また結界を破ったな」
「侵入者です!」

朱里の困惑顔にルーファスも表情を引き締める。

「どういうことだ?」
「今、キッチンでテンが取り押さえてます!急いで!」
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。