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5章
家出と主君と従者
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「不味っ!!!」
魔力回復ポーションを飲み干して朱里が涙目でポーション瓶をハガネに渡す。
「アカリは何かしら問題起こすよな」
「起こしてないよ!ちょっと失敗しただけ!」
「まぁ、魔法のコツは解かったんだろ?あとは徐々にやっていくしかねぇな。一気にやれば今回みたいな事になるんだからな」
「うう・・・っ反省しましたっ!」
キッチンのテーブルの上で朱里がぺしょっと両手を伸ばして伸びると、ハガネが笑いながら朱里の頭をポンポンと叩いてくる。
昨日から降り続く雨の中をルーファスとリロノスは【刻狼亭】へ魔法通信を使う為に出掛けて行き、ありすは少し寝不足と言ってまだ寝ている。アルビーは自分の部屋で読書をしながら微睡んでいる。
雨のせいで庭にも行けず、屋敷内ですることも無い朱里はハガネの目の届く範囲に居るようにルーファスが出掛ける前にキツく言いつけられたのでキッチンで大人しく、昨日使った魔力の補充を味の美味しくない魔力回復ポーションで補いながらショゲかえっている。
味は二の次ポーションを選んで持ってくる辺り、ルーファスは朱里が魔法で怪我をした事にお仕置きしていると言っても過言ではない。
雨のせいで気温が下がり、秋ではあるけれど、朱里は1人冬装いある。
長いブーツは中に内張ボア入りの物でスカートも裏生地に厚手の布が仕込んである物を履いて、上はバルーン袖のブラウスの上に七分丈のカーディガンを着ている。
「今日は体のあったまるシチューとかが良いなぁ」
「ほいほい。アカリの好きなもん作ってやるから、いつまでもショゲるなよ」
「ハガネ愛してるぅー」
「若旦那に殺されるからやめろ」
「ルーファスはそのくらいじゃ怒らないよ。多分」
「多分じゃねぇよ」
朱里の頭をポンポン叩きながらハガネが食事の下ごしらえを始める。
刃物を怖がる朱里の為にハガネはいつでも自分の手の平に隠せる小さなナイフで何でもやってのける。
野菜を刻み肉を刻み、バターと小麦粉と牛乳でホワイトソースを作りながら、朱里が要望したシチューから作る辺り、主君想いの従者である。
パンの生地をこねながらハガネが暇そうにしている朱里にもお湯玉で手を洗わせてパンをこねさせる。
「んで、シノノメとリロノスはどうするかアカリは聞いたのか?」
「んっ。リロノスさんは弟さん達にも【魔王】継承したいか聞いてから決めるみたい。なりたいなら譲ってしまうみたい。出来るだけ子供達が被害に遭わない様に魔国の改革をしてから【魔王】やめるんだって・・・んっしょ」
朱里がパンをこね回しながらたまにハガネに柔らかさを確かめてもらいこね回していく。
「話し合いはしねぇとだよな。アカリも何か悩んだら話せよ?」
「うん。今のところ悩みは無いかな?あっても、ベッドに埋もれすぎて困るとかそのくらい?とても平和なお悩みしかないよ。ハガネは悩みは無いの?」
「俺かー?俺の悩みはこのパンに何を練り込むかだな」
「はいっ!はーいっ!私は甘く煮た栗か、甘く煮たニンジンを細かくしたのが良いです!」
朱里が元気よく答えるとハガネが白い歯を見せて笑いながら、お茶用に大量に拾ってきて余った栗を甘露煮にした瓶を棚から取り出す。
「アカリは食べ物に関しては口が良く回るよな」
「んーっ、育ち盛りだから?」
朱里の上から下まで見てハガネが「あー・・・育つと良いな」と、残念そうに言うと朱里がむぅっと口を尖らせる。
「ハガネ、今、失礼な事を思いましたね?」
「いやいや、俺はアカリの身長はもう駄目とは思ってねぇぞ」
「身長は伸びるよ!まだ16歳だし!24歳までは身長は伸びるんだよ!」
「俺は16で今の身長だったしな・・・」
ハガネを見上げて朱里がふるふると震え、ぽかぽかとハガネを叩く。
「ハガネのばかー!」
「ははは。まぁ、アカリの為にも身長の伸びそうな食材にしてやるか」
「牛乳はたっぷりめでお願いね」
「ほいほい。今日のデザートはミルクプリンにでもしてやろう」
「やった!」
少し機嫌の直った朱里に苦笑いをしながらハガネがパン生地に栗を細かく切って練り込んでいき、朱里がそれを手でくるくると丸くしていく。
「アカリ、サラダはどうする?」
「前に作ってもらったトゥートとアボナンのやつがいいな」
「ああ、前に朱里が「トマトとアボカド」って言って騒いだやつか」
「それです。それ」
ハガネがキッチンの棚で育てているバジルの葉とオリーブを摘み魔法でバジルソースを作りながら中にチーズをコマ切れにして入れてボウルに作り置きしていく。
「あとは、魚と肉どっちを食いたい?」
「んーっ、魚かな?でもルーファスはお肉の方が好きかも?」
「そうだなぁ・・・魚をムニエルにして今日出して、ローストビーフも作って少しだけ出して。明日の朝食にローストビーフサンドでも出すか?昼でもいいけどよ」
「ハガネは天才!!」
「おう!褒めろ褒めろ」
カラカラとハガネが笑い朱里が最後のパン生地をこね終わると、ハガネが卵白をパン生地に塗り温めておいたオーブンに入れ込む。
お湯玉を出して朱里と一緒に手を洗うと、キッチンの棚から買い置きの茶菓子を出して新しいお湯玉でお茶を淹れて朱里と自分の分を用意する。
「若旦那達が帰ってくるまでパンが焼けるの待ってるかな」
「そうだねー。雨に濡れないといいんだけど」
「まぁ濡れても【乾燥】で直ぐに乾かせるだろ。アカリみたいに失敗しなきゃ」
「ぐぅ・・・まだ引きずりますか・・・」
「まぁな。魔法は少しずつ初歩から覚えていけよ。でないと昨日みたいに怪我するし、下手したら今頃手首から先が無くなってたかもしれねぇんだぞ」
「はーい。気を付けるよー」
「本当に気を付けてくれよ?」
「ハガネは心配症すぎるよ」
「逆にアカリは俺に心配かけさせるなよ」
ハガネが朱里の頭にポンポンと手を置きながら「俺の主君は無茶なのしか居ない」と苦笑いする。
魔力回復ポーションを飲み干して朱里が涙目でポーション瓶をハガネに渡す。
「アカリは何かしら問題起こすよな」
「起こしてないよ!ちょっと失敗しただけ!」
「まぁ、魔法のコツは解かったんだろ?あとは徐々にやっていくしかねぇな。一気にやれば今回みたいな事になるんだからな」
「うう・・・っ反省しましたっ!」
キッチンのテーブルの上で朱里がぺしょっと両手を伸ばして伸びると、ハガネが笑いながら朱里の頭をポンポンと叩いてくる。
昨日から降り続く雨の中をルーファスとリロノスは【刻狼亭】へ魔法通信を使う為に出掛けて行き、ありすは少し寝不足と言ってまだ寝ている。アルビーは自分の部屋で読書をしながら微睡んでいる。
雨のせいで庭にも行けず、屋敷内ですることも無い朱里はハガネの目の届く範囲に居るようにルーファスが出掛ける前にキツく言いつけられたのでキッチンで大人しく、昨日使った魔力の補充を味の美味しくない魔力回復ポーションで補いながらショゲかえっている。
味は二の次ポーションを選んで持ってくる辺り、ルーファスは朱里が魔法で怪我をした事にお仕置きしていると言っても過言ではない。
雨のせいで気温が下がり、秋ではあるけれど、朱里は1人冬装いある。
長いブーツは中に内張ボア入りの物でスカートも裏生地に厚手の布が仕込んである物を履いて、上はバルーン袖のブラウスの上に七分丈のカーディガンを着ている。
「今日は体のあったまるシチューとかが良いなぁ」
「ほいほい。アカリの好きなもん作ってやるから、いつまでもショゲるなよ」
「ハガネ愛してるぅー」
「若旦那に殺されるからやめろ」
「ルーファスはそのくらいじゃ怒らないよ。多分」
「多分じゃねぇよ」
朱里の頭をポンポン叩きながらハガネが食事の下ごしらえを始める。
刃物を怖がる朱里の為にハガネはいつでも自分の手の平に隠せる小さなナイフで何でもやってのける。
野菜を刻み肉を刻み、バターと小麦粉と牛乳でホワイトソースを作りながら、朱里が要望したシチューから作る辺り、主君想いの従者である。
パンの生地をこねながらハガネが暇そうにしている朱里にもお湯玉で手を洗わせてパンをこねさせる。
「んで、シノノメとリロノスはどうするかアカリは聞いたのか?」
「んっ。リロノスさんは弟さん達にも【魔王】継承したいか聞いてから決めるみたい。なりたいなら譲ってしまうみたい。出来るだけ子供達が被害に遭わない様に魔国の改革をしてから【魔王】やめるんだって・・・んっしょ」
朱里がパンをこね回しながらたまにハガネに柔らかさを確かめてもらいこね回していく。
「話し合いはしねぇとだよな。アカリも何か悩んだら話せよ?」
「うん。今のところ悩みは無いかな?あっても、ベッドに埋もれすぎて困るとかそのくらい?とても平和なお悩みしかないよ。ハガネは悩みは無いの?」
「俺かー?俺の悩みはこのパンに何を練り込むかだな」
「はいっ!はーいっ!私は甘く煮た栗か、甘く煮たニンジンを細かくしたのが良いです!」
朱里が元気よく答えるとハガネが白い歯を見せて笑いながら、お茶用に大量に拾ってきて余った栗を甘露煮にした瓶を棚から取り出す。
「アカリは食べ物に関しては口が良く回るよな」
「んーっ、育ち盛りだから?」
朱里の上から下まで見てハガネが「あー・・・育つと良いな」と、残念そうに言うと朱里がむぅっと口を尖らせる。
「ハガネ、今、失礼な事を思いましたね?」
「いやいや、俺はアカリの身長はもう駄目とは思ってねぇぞ」
「身長は伸びるよ!まだ16歳だし!24歳までは身長は伸びるんだよ!」
「俺は16で今の身長だったしな・・・」
ハガネを見上げて朱里がふるふると震え、ぽかぽかとハガネを叩く。
「ハガネのばかー!」
「ははは。まぁ、アカリの為にも身長の伸びそうな食材にしてやるか」
「牛乳はたっぷりめでお願いね」
「ほいほい。今日のデザートはミルクプリンにでもしてやろう」
「やった!」
少し機嫌の直った朱里に苦笑いをしながらハガネがパン生地に栗を細かく切って練り込んでいき、朱里がそれを手でくるくると丸くしていく。
「アカリ、サラダはどうする?」
「前に作ってもらったトゥートとアボナンのやつがいいな」
「ああ、前に朱里が「トマトとアボカド」って言って騒いだやつか」
「それです。それ」
ハガネがキッチンの棚で育てているバジルの葉とオリーブを摘み魔法でバジルソースを作りながら中にチーズをコマ切れにして入れてボウルに作り置きしていく。
「あとは、魚と肉どっちを食いたい?」
「んーっ、魚かな?でもルーファスはお肉の方が好きかも?」
「そうだなぁ・・・魚をムニエルにして今日出して、ローストビーフも作って少しだけ出して。明日の朝食にローストビーフサンドでも出すか?昼でもいいけどよ」
「ハガネは天才!!」
「おう!褒めろ褒めろ」
カラカラとハガネが笑い朱里が最後のパン生地をこね終わると、ハガネが卵白をパン生地に塗り温めておいたオーブンに入れ込む。
お湯玉を出して朱里と一緒に手を洗うと、キッチンの棚から買い置きの茶菓子を出して新しいお湯玉でお茶を淹れて朱里と自分の分を用意する。
「若旦那達が帰ってくるまでパンが焼けるの待ってるかな」
「そうだねー。雨に濡れないといいんだけど」
「まぁ濡れても【乾燥】で直ぐに乾かせるだろ。アカリみたいに失敗しなきゃ」
「ぐぅ・・・まだ引きずりますか・・・」
「まぁな。魔法は少しずつ初歩から覚えていけよ。でないと昨日みたいに怪我するし、下手したら今頃手首から先が無くなってたかもしれねぇんだぞ」
「はーい。気を付けるよー」
「本当に気を付けてくれよ?」
「ハガネは心配症すぎるよ」
「逆にアカリは俺に心配かけさせるなよ」
ハガネが朱里の頭にポンポンと手を置きながら「俺の主君は無茶なのしか居ない」と苦笑いする。
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