106 / 960
5章
家出の理由
しおりを挟む
「家出って私はした事ないんですけど、大冒険ですね?」
朱里がありすに製薬部隊からの差し入れのハーブクッキーを出しながら、自分も一つ口に入れて笑う。
「うちこの世界に来る前も結構、家出してたし普通みたいな?まぁ友達の家とかに泊まり歩いてただけなんだけどね?」
「お家の方と何かあったんですか?」
ありすがハーブクッキーを摘まんで口に放り込むと少しだけ天井を見上げる。
「アカリっちには申し訳ない話なんだけどね、うちは親が居なくなればいいってずっと思ってたっしょ・・・両親は共働きで家に帰っても誰も居ないし、1ヵ月に1回10分くらい家族が揃うだけみたいな?夫婦仲は悪くてお互いにうちの事を要らない子扱いだったし」
「まるでテレビドラマみたいですね・・・」
朱里がハーブティを飲みながら少しありすの家族を想像して、自分の家族とは違う家庭環境に1つ上のありすの心情を推し量る。
「あはは。確かにそーかも!うん。だからこの世界に来てうちは良かったなぁって思ってるところもあるし、アカリっちはどう?」
気持ちを切り替える様にありすが明るい声を出す。
「私も元の世界は一人ぼっちでバイトと空っぽの部屋だけの往復で疲れてたからこの世界に来て幸せですよ?」
ありすが「だよねー」と、笑ってから寂しそうに「はぁー・・・」と、ため息を吐く。
「ありすさん、家出後悔してるんですね?」
「ち、違うし!うちは後悔してないし!」
プイッと顔を赤くしてありすがそっぽを向くと朱里が困った顔で笑う。
妹や弟が悪さをした時もこんな風に顔をプイッと向けていたと思い出しては懐かしい欠片を垣間見た気がして優しい気持ちになる。
タンタン・・・と小さな音が窓にし、朱里とありすが窓を見れば、大粒の雨が降り出していた。
「雨・・・やっぱり降ってきちゃいましたね」
「あー、うち雨嫌い!髪が変な風になるし!」
そう言ってありすが自分のツインテールからシュシュを取るとモサッとなった髪に溜め息を吐く。
朱里が自分の化粧品箱から瓶と櫛を取り出してありすに手渡す。
「ありすさん、お風呂上りにこの香油つけて髪を梳かすと髪にまとまりが出ますよ」
「マジで?なんかこれ甘い様なふわふわした香りすんね?」
「杏子の油です」
「あんず?あんずってなんだっけ?」
「えーと、アプリコットジャムとかに使われてる実です」
「あー、それならわかるっしょっ!あのオレンジのやつ」
朱里がコクリと頷いてありすが瓶の蓋を締めながら、部屋をぐるっと見回す。
ベッドにソファにテーブル、化粧台、衣装箪笥、机、壁にはお茶の瓶に小さなサイドテーブルに茶器の入ったガラスケース、全体的に白で統一された一室。
その一室に小さな扉が4つほどある。
「アカリっち、あの扉ってお風呂とかもある?」
「ありますよ。温泉大陸らしく温泉です。入りますか?」
「入る!入る!お風呂入って髪につけたい!」
嬉しそうにありすがはしゃいでお風呂場を見に行く。
そこそこ大きな白いバスタブに金色の猫足がついている可愛らしいもので、浴室は冷えない様に温泉水がお風呂場の壁の中に埋め込まれた配水管を巡っている。
「マジ可愛っ!清里のロッジにありそうでイイ感じ!」
「あっ、私【乾燥】魔法使えないのでバスタオル持ってきますね?」
「うちそれなら使えるから大丈夫っしょっ!」
「そうなんですか?羨ましいです」
朱里が製薬部隊に貰ったハーブを練り込んだ石鹸と使い切りタイプのシャンプーとリンスボトルをありすに手渡すと、すでにありすは服を脱ぎ始めていた。
「ありすさん!着替えの用意しないとですよ!」
「テキトーで大丈夫だし?てか、アカリっちも一緒に入るし!」
「ふぇ?えええ!!」
ありすに手をワキワキと動かされ、朱里が悲鳴を上げるのと同時に雷の音が響き、朱里が耳を押さえてしゃがみ込み、ありすも耳を押さえてしゃがみ込んでいた。
「アカリっちも雷苦手系?」
「はい。得意じゃないです・・・」
ありすがギュッと朱里の腰に抱き着き涙目で訴える。
「一緒にお風呂入るし!」
「・・・はい。わかりました」
ここでありすを見放す訳にもいかず、そのまま2人でお風呂のお湯が溜まるまでに着替えを用意しながら雷の音の度に抱き合ってキャーキャー声を上げていた。
「はぁ・・・やっぱ、良い物だし~」
「そうですねー・・・はぁー・・・」
浴槽に乾燥ハーブと花びらを入れて2人が少し頬を桜色に染めながら「ホゥッ」と、息をついてリラックスして横並びに浸かり込む。
「ありすさん、リロノスさんと何があったんですか?」
「・・・リロっちがさ、うち以外の子に子供産ませるって・・・」
ありすの言葉に朱里が一瞬固まる。
「・・・ハァ?!なんですかソレ!!」
「アカリっちも酷いと思うよね?!」
「そんなの酷いどころじゃありません!リロノスさん最低じゃないですか!」
「うちの気持ちアカリっちなら分かってくれると思ってたしー!」
ポロっと涙をこぼしてありすが朱里に抱きついて泣き出し、朱里はリロノスに怒りを覚えながらありすの背中を撫でる。
あんなにありすを大事にしているリロノスがそんな事を言うなんてどういう事なのか?訳が分からない。でも、許せない!と、朱里は怒りをメラッと燃え上がらせる。
雷がまた大きな音を立てて落ちると、朱里とありすがまた悲鳴を上げると、浴室の外からガタガタと音がし、浴室のドアが開くと、見知った青年が入ってくる。
金色の長い髪にアメジスト色の瞳、白い角、背の高い美丈夫の青年。
【魔王】リロノス・ディア・ロードミリオン。
朱里が今まさに怒りを覚えている青年だ。
「シノノ・・・っ!」
東雲と言い終わる前に朱里が投げつけた石鹸がリロノスの顔に当たり、朱里が追加とばかりに自分専用の大きなボトルのシャンプーを投げつける。
「このっ、最低男!!!!」
朱里の怒りの声が浴室に響き渡る。
朱里がありすに製薬部隊からの差し入れのハーブクッキーを出しながら、自分も一つ口に入れて笑う。
「うちこの世界に来る前も結構、家出してたし普通みたいな?まぁ友達の家とかに泊まり歩いてただけなんだけどね?」
「お家の方と何かあったんですか?」
ありすがハーブクッキーを摘まんで口に放り込むと少しだけ天井を見上げる。
「アカリっちには申し訳ない話なんだけどね、うちは親が居なくなればいいってずっと思ってたっしょ・・・両親は共働きで家に帰っても誰も居ないし、1ヵ月に1回10分くらい家族が揃うだけみたいな?夫婦仲は悪くてお互いにうちの事を要らない子扱いだったし」
「まるでテレビドラマみたいですね・・・」
朱里がハーブティを飲みながら少しありすの家族を想像して、自分の家族とは違う家庭環境に1つ上のありすの心情を推し量る。
「あはは。確かにそーかも!うん。だからこの世界に来てうちは良かったなぁって思ってるところもあるし、アカリっちはどう?」
気持ちを切り替える様にありすが明るい声を出す。
「私も元の世界は一人ぼっちでバイトと空っぽの部屋だけの往復で疲れてたからこの世界に来て幸せですよ?」
ありすが「だよねー」と、笑ってから寂しそうに「はぁー・・・」と、ため息を吐く。
「ありすさん、家出後悔してるんですね?」
「ち、違うし!うちは後悔してないし!」
プイッと顔を赤くしてありすがそっぽを向くと朱里が困った顔で笑う。
妹や弟が悪さをした時もこんな風に顔をプイッと向けていたと思い出しては懐かしい欠片を垣間見た気がして優しい気持ちになる。
タンタン・・・と小さな音が窓にし、朱里とありすが窓を見れば、大粒の雨が降り出していた。
「雨・・・やっぱり降ってきちゃいましたね」
「あー、うち雨嫌い!髪が変な風になるし!」
そう言ってありすが自分のツインテールからシュシュを取るとモサッとなった髪に溜め息を吐く。
朱里が自分の化粧品箱から瓶と櫛を取り出してありすに手渡す。
「ありすさん、お風呂上りにこの香油つけて髪を梳かすと髪にまとまりが出ますよ」
「マジで?なんかこれ甘い様なふわふわした香りすんね?」
「杏子の油です」
「あんず?あんずってなんだっけ?」
「えーと、アプリコットジャムとかに使われてる実です」
「あー、それならわかるっしょっ!あのオレンジのやつ」
朱里がコクリと頷いてありすが瓶の蓋を締めながら、部屋をぐるっと見回す。
ベッドにソファにテーブル、化粧台、衣装箪笥、机、壁にはお茶の瓶に小さなサイドテーブルに茶器の入ったガラスケース、全体的に白で統一された一室。
その一室に小さな扉が4つほどある。
「アカリっち、あの扉ってお風呂とかもある?」
「ありますよ。温泉大陸らしく温泉です。入りますか?」
「入る!入る!お風呂入って髪につけたい!」
嬉しそうにありすがはしゃいでお風呂場を見に行く。
そこそこ大きな白いバスタブに金色の猫足がついている可愛らしいもので、浴室は冷えない様に温泉水がお風呂場の壁の中に埋め込まれた配水管を巡っている。
「マジ可愛っ!清里のロッジにありそうでイイ感じ!」
「あっ、私【乾燥】魔法使えないのでバスタオル持ってきますね?」
「うちそれなら使えるから大丈夫っしょっ!」
「そうなんですか?羨ましいです」
朱里が製薬部隊に貰ったハーブを練り込んだ石鹸と使い切りタイプのシャンプーとリンスボトルをありすに手渡すと、すでにありすは服を脱ぎ始めていた。
「ありすさん!着替えの用意しないとですよ!」
「テキトーで大丈夫だし?てか、アカリっちも一緒に入るし!」
「ふぇ?えええ!!」
ありすに手をワキワキと動かされ、朱里が悲鳴を上げるのと同時に雷の音が響き、朱里が耳を押さえてしゃがみ込み、ありすも耳を押さえてしゃがみ込んでいた。
「アカリっちも雷苦手系?」
「はい。得意じゃないです・・・」
ありすがギュッと朱里の腰に抱き着き涙目で訴える。
「一緒にお風呂入るし!」
「・・・はい。わかりました」
ここでありすを見放す訳にもいかず、そのまま2人でお風呂のお湯が溜まるまでに着替えを用意しながら雷の音の度に抱き合ってキャーキャー声を上げていた。
「はぁ・・・やっぱ、良い物だし~」
「そうですねー・・・はぁー・・・」
浴槽に乾燥ハーブと花びらを入れて2人が少し頬を桜色に染めながら「ホゥッ」と、息をついてリラックスして横並びに浸かり込む。
「ありすさん、リロノスさんと何があったんですか?」
「・・・リロっちがさ、うち以外の子に子供産ませるって・・・」
ありすの言葉に朱里が一瞬固まる。
「・・・ハァ?!なんですかソレ!!」
「アカリっちも酷いと思うよね?!」
「そんなの酷いどころじゃありません!リロノスさん最低じゃないですか!」
「うちの気持ちアカリっちなら分かってくれると思ってたしー!」
ポロっと涙をこぼしてありすが朱里に抱きついて泣き出し、朱里はリロノスに怒りを覚えながらありすの背中を撫でる。
あんなにありすを大事にしているリロノスがそんな事を言うなんてどういう事なのか?訳が分からない。でも、許せない!と、朱里は怒りをメラッと燃え上がらせる。
雷がまた大きな音を立てて落ちると、朱里とありすがまた悲鳴を上げると、浴室の外からガタガタと音がし、浴室のドアが開くと、見知った青年が入ってくる。
金色の長い髪にアメジスト色の瞳、白い角、背の高い美丈夫の青年。
【魔王】リロノス・ディア・ロードミリオン。
朱里が今まさに怒りを覚えている青年だ。
「シノノ・・・っ!」
東雲と言い終わる前に朱里が投げつけた石鹸がリロノスの顔に当たり、朱里が追加とばかりに自分専用の大きなボトルのシャンプーを投げつける。
「このっ、最低男!!!!」
朱里の怒りの声が浴室に響き渡る。
50
お気に入りに追加
4,628
あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する
アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。
しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。
理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で
政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。
そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた
黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」
幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。