黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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5章

家出の理由

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 「家出って私はした事ないんですけど、大冒険ですね?」
朱里がありすに製薬部隊からの差し入れのハーブクッキーを出しながら、自分も一つ口に入れて笑う。

 「うちこの世界に来る前も結構、家出してたし普通みたいな?まぁ友達の家とかに泊まり歩いてただけなんだけどね?」
「お家の方と何かあったんですか?」

ありすがハーブクッキーを摘まんで口に放り込むと少しだけ天井を見上げる。

 「アカリっちには申し訳ない話なんだけどね、うちは親が居なくなればいいってずっと思ってたっしょ・・・両親は共働きで家に帰っても誰も居ないし、1ヵ月に1回10分くらい家族が揃うだけみたいな?夫婦仲は悪くてお互いにうちの事を要らない子扱いだったし」

「まるでテレビドラマみたいですね・・・」

朱里がハーブティを飲みながら少しありすの家族を想像して、自分の家族とは違う家庭環境に1つ上のありすの心情を推し量る。

「あはは。確かにそーかも!うん。だからこの世界に来てうちは良かったなぁって思ってるところもあるし、アカリっちはどう?」

気持ちを切り替える様にありすが明るい声を出す。

「私も元の世界は一人ぼっちでバイトと空っぽの部屋だけの往復で疲れてたからこの世界に来て幸せですよ?」

ありすが「だよねー」と、笑ってから寂しそうに「はぁー・・・」と、ため息を吐く。

「ありすさん、家出後悔してるんですね?」
「ち、違うし!うちは後悔してないし!」

 プイッと顔を赤くしてありすがそっぽを向くと朱里が困った顔で笑う。
妹や弟が悪さをした時もこんな風に顔をプイッと向けていたと思い出しては懐かしい欠片を垣間見た気がして優しい気持ちになる。

 タンタン・・・と小さな音が窓にし、朱里とありすが窓を見れば、大粒の雨が降り出していた。

「雨・・・やっぱり降ってきちゃいましたね」
「あー、うち雨嫌い!髪が変な風になるし!」

そう言ってありすが自分のツインテールからシュシュを取るとモサッとなった髪に溜め息を吐く。
朱里が自分の化粧品箱から瓶と櫛を取り出してありすに手渡す。

「ありすさん、お風呂上りにこの香油つけて髪を梳かすと髪にまとまりが出ますよ」
「マジで?なんかこれ甘い様なふわふわした香りすんね?」

「杏子の油です」
「あんず?あんずってなんだっけ?」

「えーと、アプリコットジャムとかに使われてる実です」
「あー、それならわかるっしょっ!あのオレンジのやつ」

朱里がコクリと頷いてありすが瓶の蓋を締めながら、部屋をぐるっと見回す。
ベッドにソファにテーブル、化粧台、衣装箪笥、机、壁にはお茶の瓶に小さなサイドテーブルに茶器の入ったガラスケース、全体的に白で統一された一室。
その一室に小さな扉が4つほどある。

「アカリっち、あの扉ってお風呂とかもある?」
「ありますよ。温泉大陸らしく温泉です。入りますか?」
「入る!入る!お風呂入って髪につけたい!」

嬉しそうにありすがはしゃいでお風呂場を見に行く。
そこそこ大きな白いバスタブに金色の猫足がついている可愛らしいもので、浴室は冷えない様に温泉水がお風呂場の壁の中に埋め込まれた配水管を巡っている。

「マジ可愛っ!清里のロッジにありそうでイイ感じ!」
「あっ、私【乾燥】魔法使えないのでバスタオル持ってきますね?」
「うちそれなら使えるから大丈夫っしょっ!」
「そうなんですか?羨ましいです」

朱里が製薬部隊に貰ったハーブを練り込んだ石鹸と使い切りタイプのシャンプーとリンスボトルをありすに手渡すと、すでにありすは服を脱ぎ始めていた。

「ありすさん!着替えの用意しないとですよ!」
「テキトーで大丈夫だし?てか、アカリっちも一緒に入るし!」
「ふぇ?えええ!!」

ありすに手をワキワキと動かされ、朱里が悲鳴を上げるのと同時に雷の音が響き、朱里が耳を押さえてしゃがみ込み、ありすも耳を押さえてしゃがみ込んでいた。

「アカリっちも雷苦手系?」
「はい。得意じゃないです・・・」

ありすがギュッと朱里の腰に抱き着き涙目で訴える。

「一緒にお風呂入るし!」

「・・・はい。わかりました」

ここでありすを見放す訳にもいかず、そのまま2人でお風呂のお湯が溜まるまでに着替えを用意しながら雷の音の度に抱き合ってキャーキャー声を上げていた。


「はぁ・・・やっぱ、良い物だし~」
「そうですねー・・・はぁー・・・」

浴槽に乾燥ハーブと花びらを入れて2人が少し頬を桜色に染めながら「ホゥッ」と、息をついてリラックスして横並びに浸かり込む。

「ありすさん、リロノスさんと何があったんですか?」
「・・・リロっちがさ、うち以外の子に子供産ませるって・・・」

ありすの言葉に朱里が一瞬固まる。

「・・・ハァ?!なんですかソレ!!」
「アカリっちも酷いと思うよね?!」

「そんなの酷いどころじゃありません!リロノスさん最低じゃないですか!」
「うちの気持ちアカリっちなら分かってくれると思ってたしー!」

ポロっと涙をこぼしてありすが朱里に抱きついて泣き出し、朱里はリロノスに怒りを覚えながらありすの背中を撫でる。
あんなにありすを大事にしているリロノスがそんな事を言うなんてどういう事なのか?訳が分からない。でも、許せない!と、朱里は怒りをメラッと燃え上がらせる。

雷がまた大きな音を立てて落ちると、朱里とありすがまた悲鳴を上げると、浴室の外からガタガタと音がし、浴室のドアが開くと、見知った青年が入ってくる。

金色の長い髪にアメジスト色の瞳、白い角、背の高い美丈夫の青年。
【魔王】リロノス・ディア・ロードミリオン。

朱里が今まさに怒りを覚えている青年だ。

「シノノ・・・っ!」

東雲と言い終わる前に朱里が投げつけた石鹸がリロノスの顔に当たり、朱里が追加とばかりに自分専用の大きなボトルのシャンプーを投げつける。

「このっ、最低男!!!!」

朱里の怒りの声が浴室に響き渡る。
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