黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

文字の大きさ
上 下
100 / 960
5章

一歩

しおりを挟む
 
 製薬部隊の副責任者のテッチとアルビーが魔国エグザドルへ行き、10日目。
2人が帰ってくるまであと5日は掛かる。

 「今頃、魔国からこっちに帰ってくる船の上かな?」
「そうだな。アルビーが駄々をこねていなければ今頃、船の上だな」

 桐で出来た箪笥に着物を入れ替えながらルーファスが箪笥の小物入れを開けて帯飾りを幾つか取り出すと朱里の頭に似合うかどうかを1個ずつ見ながら指に持っては閉まっていく。

「やはり、ここは狼のモチーフの物を髪飾りにするか」

少し長細く丸い黒い珠に金枠の狼がかたどってある帯飾りを朱里に渡し、ルーファスが他の小物を仕舞い込む。

「ハガネの飾り紐はササマキちゃん専用になっちゃったもんね・・・」
「あのヒナはなかなかに手強かったな」
「うん・・・。まさか全部飾り紐取られるとは思わなかった・・・」

クククッとルーファスが思い出し笑いをし、朱里がルーファスの腕にスリスリと頭をくっつける。

 温泉鳥のササマキは何故かハガネの飾り紐に固執し、ハガネが作った朱里の飾り紐を全て自分の物だと咥えては持っていく困った収集家で、ハガネの主君の大事な紫の飾り紐以外は全てササマキに朱里もあげてしまった。

 ハガネは困った奴だなと、言いながらもササマキが可愛いらしく、ササマキに小さな飾り紐を入れられる小屋を作り、ササマキがそこを寝床としている。

 ハガネの飾り紐をやめた時からササマキから攻撃を受けなくなったので朱里もササマキに触れるようになった。
そこは嬉しいが、髪紐をハガネに任せていたのでルーファスがこうして朱里の髪を飾れる物を探して自分の箪笥を漁っている訳である。

 新しい髪飾りを買ってもいいのだが、ルーファスとしては約束していた狼モチーフの物を朱里に贈りたいと思っていたのと、自分が使っていた物を朱里に持たせておけば少なからず護符効果がある事に安心できるからだ。
ルーファスの持つ帯飾りには大なり小なりルーファスを守る為の護符や加護が付いている。

「アカリ、首元に触るが良いか?」
「うん。大丈夫」

 飾り球から帯紐を抜き、細い紐を通すと朱里の首元から髪へ紐を回しながら、朱里の髪と紐を結び合わせて最後に飾り球に紐を通して髪留めの様に飾り付ける。

「うん。可愛いな」
「ありがとう」

 ルーファスの目と朱里の目が合うと自然と唇が重なっていた。
口の中に広がる甘さは番同士だけの味わいで、唇を離したくなくて朱里がルーファスのシャツを両手で掴んで軽く引き寄せると、ルーファスが朱里の頬を両手で包み込みながら、舌を絡ませるキスをしてくる。

「んっ、ぁ・・・んっ」

 朱里の胸がドキッと跳ね上がると頬が熱くなるのが分かる。
もう少し、もう少しだけ・・・。
味わう様にゆっくりと朱里がルーファスにされた様に舌を絡ませ、小さく喉が鳴る。

「ふぁ・・・っ」

 ふわふわとした高揚感とキスの味にぽぅっと目を潤ませてルーファスを見つめると、ルーファスの顔が名残惜しそうに離れる。

 つぅーっと、お互いの唇から透明な唾液が細い糸の様に流れる。

「ハァ・・・ふぅ・・・、ルー、ファス」

朱里がルーファスのシャツをまた引き寄せると、ルーファスが困った顔をする。

「駄目だ。これ以上は・・・オレはアカリを傷付けたくはない。流されるなアカリ」

 朱里の口元をシャツの袖口で拭きルーファスが自分の口元も拭って、朱里を軽く抱きしめながら自分にも流されるなと言い聞かせる。

 「ルーファス、胸がすごくドキドキして、痛い」
「んっ。オレもアカリとキスする度に胸が痛くなる」
「同じだね」
「ああ、そうだな」

 ホゥッと朱里が息を吐きながら、息を整えてルーファスに「大好き」と言ってギュッと抱き返し、ルーファスが朱里を抱き上げて、朱里の頬に軽くキスをしながら「オレの方が大好きだぞ」と、耳元に囁く。

ルーファスの首元に自分の顔をスリ寄せて朱里がお返しとばかり囁く。

「私の方がルーファスの事、好きだよ」

 朱里が口元に手を当てて笑うと、ルーファスが少し驚いた表情の後に破顔する。
 一瞬、また朱里が手を噛んで自傷行為をするのかと止めそうになったが、そうではない事に、ほんの少し、朱里の心が一歩前へ進んだことを実感する。

 小さな一歩で良いから朱里が笑ってくれればそれでいい。
スリスリと猫の子の様にスリ寄る朱里に愛しさだけが溢れてしまう。
あまり刺激をしないで欲しいとも思うが、甘えてくる朱里の可愛さに今はこれで我慢だと思う。

「アカリが可愛すぎてオレが狼になりかねないな」

朱里の耳元で囁けば、朱里が少し困ったような笑顔で恥ずかしそうに吠える。

「がぉーっ」

「・・・オレの番が可愛すぎる」
しおりを挟む
感想 1,004

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。