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5章
一歩
しおりを挟む製薬部隊の副責任者のテッチとアルビーが魔国エグザドルへ行き、10日目。
2人が帰ってくるまであと5日は掛かる。
「今頃、魔国からこっちに帰ってくる船の上かな?」
「そうだな。アルビーが駄々をこねていなければ今頃、船の上だな」
桐で出来た箪笥に着物を入れ替えながらルーファスが箪笥の小物入れを開けて帯飾りを幾つか取り出すと朱里の頭に似合うかどうかを1個ずつ見ながら指に持っては閉まっていく。
「やはり、ここは狼のモチーフの物を髪飾りにするか」
少し長細く丸い黒い珠に金枠の狼が象ってある帯飾りを朱里に渡し、ルーファスが他の小物を仕舞い込む。
「ハガネの飾り紐はササマキちゃん専用になっちゃったもんね・・・」
「あのヒナはなかなかに手強かったな」
「うん・・・。まさか全部飾り紐取られるとは思わなかった・・・」
クククッとルーファスが思い出し笑いをし、朱里がルーファスの腕にスリスリと頭をくっつける。
温泉鳥のササマキは何故かハガネの飾り紐に固執し、ハガネが作った朱里の飾り紐を全て自分の物だと咥えては持っていく困った収集家で、ハガネの主君の大事な紫の飾り紐以外は全てササマキに朱里もあげてしまった。
ハガネは困った奴だなと、言いながらもササマキが可愛いらしく、ササマキに小さな飾り紐を入れられる小屋を作り、ササマキがそこを寝床としている。
ハガネの飾り紐をやめた時からササマキから攻撃を受けなくなったので朱里もササマキに触れるようになった。
そこは嬉しいが、髪紐をハガネに任せていたのでルーファスがこうして朱里の髪を飾れる物を探して自分の箪笥を漁っている訳である。
新しい髪飾りを買ってもいいのだが、ルーファスとしては約束していた狼モチーフの物を朱里に贈りたいと思っていたのと、自分が使っていた物を朱里に持たせておけば少なからず護符効果がある事に安心できるからだ。
ルーファスの持つ帯飾りには大なり小なりルーファスを守る為の護符や加護が付いている。
「アカリ、首元に触るが良いか?」
「うん。大丈夫」
飾り球から帯紐を抜き、細い紐を通すと朱里の首元から髪へ紐を回しながら、朱里の髪と紐を結び合わせて最後に飾り球に紐を通して髪留めの様に飾り付ける。
「うん。可愛いな」
「ありがとう」
ルーファスの目と朱里の目が合うと自然と唇が重なっていた。
口の中に広がる甘さは番同士だけの味わいで、唇を離したくなくて朱里がルーファスのシャツを両手で掴んで軽く引き寄せると、ルーファスが朱里の頬を両手で包み込みながら、舌を絡ませるキスをしてくる。
「んっ、ぁ・・・んっ」
朱里の胸がドキッと跳ね上がると頬が熱くなるのが分かる。
もう少し、もう少しだけ・・・。
味わう様にゆっくりと朱里がルーファスにされた様に舌を絡ませ、小さく喉が鳴る。
「ふぁ・・・っ」
ふわふわとした高揚感とキスの味にぽぅっと目を潤ませてルーファスを見つめると、ルーファスの顔が名残惜しそうに離れる。
つぅーっと、お互いの唇から透明な唾液が細い糸の様に流れる。
「ハァ・・・ふぅ・・・、ルー、ファス」
朱里がルーファスのシャツをまた引き寄せると、ルーファスが困った顔をする。
「駄目だ。これ以上は・・・オレはアカリを傷付けたくはない。流されるなアカリ」
朱里の口元をシャツの袖口で拭きルーファスが自分の口元も拭って、朱里を軽く抱きしめながら自分にも流されるなと言い聞かせる。
「ルーファス、胸がすごくドキドキして、痛い」
「んっ。オレもアカリとキスする度に胸が痛くなる」
「同じだね」
「ああ、そうだな」
ホゥッと朱里が息を吐きながら、息を整えてルーファスに「大好き」と言ってギュッと抱き返し、ルーファスが朱里を抱き上げて、朱里の頬に軽くキスをしながら「オレの方が大好きだぞ」と、耳元に囁く。
ルーファスの首元に自分の顔をスリ寄せて朱里がお返しとばかり囁く。
「私の方がルーファスの事、好きだよ」
朱里が口元に手を当てて笑うと、ルーファスが少し驚いた表情の後に破顔する。
一瞬、また朱里が手を噛んで自傷行為をするのかと止めそうになったが、そうではない事に、ほんの少し、朱里の心が一歩前へ進んだことを実感する。
小さな一歩で良いから朱里が笑ってくれればそれでいい。
スリスリと猫の子の様にスリ寄る朱里に愛しさだけが溢れてしまう。
あまり刺激をしないで欲しいとも思うが、甘えてくる朱里の可愛さに今はこれで我慢だと思う。
「アカリが可愛すぎてオレが狼になりかねないな」
朱里の耳元で囁けば、朱里が少し困ったような笑顔で恥ずかしそうに吠える。
「がぉーっ」
「・・・オレの番が可愛すぎる」
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