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5章
温泉鳥
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朱里が部屋を出ていき、ルーファスが結界を【刻狼亭】全体に張り巡らせる。
客も入ってこれないが、朱里を1人で【刻狼亭】内とはいえ、1人うろつかせているので致し方がない。
「で、大橋の件はどうなっている?」
ルーファスが足を組みなおしてシュテンと警備部の人間に目をやる。
シュテンは銀色の髪を少し掻き上げてから腕を組み警備部の人間に目をやり、警備部の人間が口を開く。
「若女将を襲った貴族の子供がらみなんです」
「どういうことだ?彼らは賠償金を受け取り国元に返したはずだが?」
ルーファスが鋭い目つきで警備部の人間を睨み付けると、シュテンが小さく溜め息を吐く。
「若、落ち着いてください。彼らは絡んでいると言ってもきっかけ程度です。彼らは全員、修道士として去勢を受けて修道院から出れなくなりましたから、実質もうこの世に居ないも同じです」
この世界の修道士は修道会という組織に厳しく律され、修道士に入るという事は俗世から離れて煩悩を捨て去らなければいけないので、去勢手術を受けさせられる。
血を残せない時点で貴族的にも彼らは終わっている。
「きっかけになる様な物があると言うのか?」
「ええ。温泉鳥ですよ」
ルーファスが怪訝な顔をして、思い浮かべるのは灰色の丸々とした少し愛嬌のある鳥達だ。
特に温泉街では珍しくもない特に気にするものでもない鳥達。
「あの鳥達が何だと言うんだ?」
「今回の彼らの慰謝料に『温泉街の保護鳥である”温泉鳥”への虐待』も入っていたのですが、1羽に付き150金貨、卵は20金貨、黒い卵は250金貨を請求しましたからね。どうやら、温泉鳥は高級な鳥だと思われた様です」
「つまり、温泉鳥の乱獲を目的としての侵入者か」
「ええ。愚かしい事ですが、その様です」
確かに温泉鳥は温泉大陸にしか生息しない珍しい魔獣の鳥ではあるが、あの鳥達は温泉街以外では生きていけない不便な鳥でもある。
卵すら温泉の間欠泉の溜まり湯でお尻を温めながらでないと産めない上に、この温泉大陸の魔力回復に効果がある温泉水でなければ直ぐに弱ってしまう。
見た目もずんぐりむっくりな姿で観賞用としても些か華がない。
「犯人は捕らえたのか?」
「ええ。全て捕らえました。今、温泉鳥の治療を製薬部隊が行っています」
「温泉鳥に被害が出ているのか?」
「多少、傷ついた鳥がいるようですが、ほぼ自分達で慌てすぎて木から落ちた鳥がほとんどです」
温泉鳥はすごくどんくさい鳥な事をルーファスは思いだす。
木の上に登らなければ良いのに、何が彼らを木に登らせるのか・・・どんくさいクセに木に登りたがりよく落ちては怪我をする困った鳥達。
「仕方がない。しばらく間欠泉の森にも少し見張りを立てるか」
「それがいいかもしれません」
「捕らえた者が貴族の所の雇われ人ならばまた搾取しろ」
「それはもう、たっぷり搾り取りますよ」
シュテンが唇に弧を描いて目を怪しく光らせる。
「大橋の方の煙では誰も怪我人は出なかったか?」
「ええ。煙だけでしたから、今のところはそういった報告は上がっていません」
ルーファスが「ならいい」と、一言いうとシュテンと警備部の人間は報告を終えて部屋から出ていく。
朱里を1人にしておくのも不味い為、ルーファスも部屋を出て朱里を迎えに行く。
長い廊下を出て料亭内の調理場に顔を出すとハガネが朱里を抱きしめている所を目にする。
何事かと近づけば、小さな黒い物から朱里を庇ってハガネが騒いでいる。
「アパーッ!!!!アパパパ!!!!」
小さな温泉鳥のヒナが朱里に体当たりをしようとするのをハガネがやめさせようとしている。
「やめろ!ササマキ!いい加減にしろって!」
「アパーッ!!」
ルーファスが黒いフワフワなヒナを捕まえると、ハガネが慌ててルーファスに手を差し出す。
「悪い!若旦那!そいつ悪気はないんだ!」
「アパパーッ!」
「このヒナはどうしたんだ?」
「ササマキはこないだ助けたヒナなんだが、温泉鳥が襲われて一時的に俺が持ち帰ってきたら、何でかアカリを攻撃するんだよ・・・」
ハガネの手にササマキを手渡して、ハガネがホッとすると朱里がルーファスの後ろに困り顔で隠れる。
朱里の髪がぐしゃっと乱され、ササマキにやられた事が伺える。
「ううっ・・・可愛いのに凶暴だよ~」
「アパーッ!」
ビクッと朱里が小さなヒナに脅えるとルーファスが集中的に攻撃されている朱里の頭の飾り紐を解いて髪を撫でながら整えると、ササマキがハガネの手から飛び出し、ルーファスの手を攻撃する。
「・・・もしかして、この飾り紐か?」
ルーファスが飾り紐をササマキの前に置くと、ササマキは上機嫌で飾り紐を咥えて体にぐるぐると巻き付けていく。
「アパー!」
満足そうにテーブルの上に座り込むササマキにハガネがガクリと頭を下げる。
ハガネがササマキを飾り紐ごと回収して手の中に収めると魔獣のクロが調理場の隅から顔を出す。
「ナーンナーン」
「アーパーッ!!」
クロの声にササマキが威嚇するとクロはピューッと調理場を出て行ってしまう。
「猫なのに鳥に負けてる・・・」
朱里が複雑な顔で逃げ去ったクロを見つめると、ルーファスが苦笑いして朱里の頭を撫でる。
「クロは肉食ではないからな。このヒナも肉には見えないんだろう」
「でもこのヒナは逆に襲い掛かりそうだよ?」
「アパ?」
ササマキが首をかしげてみせると、朱里が「可愛いっ」と声を上げて手を伸ばそうとして、ルーファスに「突かれるぞ」と注意されハガネを羨ましそうに朱里が見つめると、ハガネが申し訳なさそうに目を逸らした。
客も入ってこれないが、朱里を1人で【刻狼亭】内とはいえ、1人うろつかせているので致し方がない。
「で、大橋の件はどうなっている?」
ルーファスが足を組みなおしてシュテンと警備部の人間に目をやる。
シュテンは銀色の髪を少し掻き上げてから腕を組み警備部の人間に目をやり、警備部の人間が口を開く。
「若女将を襲った貴族の子供がらみなんです」
「どういうことだ?彼らは賠償金を受け取り国元に返したはずだが?」
ルーファスが鋭い目つきで警備部の人間を睨み付けると、シュテンが小さく溜め息を吐く。
「若、落ち着いてください。彼らは絡んでいると言ってもきっかけ程度です。彼らは全員、修道士として去勢を受けて修道院から出れなくなりましたから、実質もうこの世に居ないも同じです」
この世界の修道士は修道会という組織に厳しく律され、修道士に入るという事は俗世から離れて煩悩を捨て去らなければいけないので、去勢手術を受けさせられる。
血を残せない時点で貴族的にも彼らは終わっている。
「きっかけになる様な物があると言うのか?」
「ええ。温泉鳥ですよ」
ルーファスが怪訝な顔をして、思い浮かべるのは灰色の丸々とした少し愛嬌のある鳥達だ。
特に温泉街では珍しくもない特に気にするものでもない鳥達。
「あの鳥達が何だと言うんだ?」
「今回の彼らの慰謝料に『温泉街の保護鳥である”温泉鳥”への虐待』も入っていたのですが、1羽に付き150金貨、卵は20金貨、黒い卵は250金貨を請求しましたからね。どうやら、温泉鳥は高級な鳥だと思われた様です」
「つまり、温泉鳥の乱獲を目的としての侵入者か」
「ええ。愚かしい事ですが、その様です」
確かに温泉鳥は温泉大陸にしか生息しない珍しい魔獣の鳥ではあるが、あの鳥達は温泉街以外では生きていけない不便な鳥でもある。
卵すら温泉の間欠泉の溜まり湯でお尻を温めながらでないと産めない上に、この温泉大陸の魔力回復に効果がある温泉水でなければ直ぐに弱ってしまう。
見た目もずんぐりむっくりな姿で観賞用としても些か華がない。
「犯人は捕らえたのか?」
「ええ。全て捕らえました。今、温泉鳥の治療を製薬部隊が行っています」
「温泉鳥に被害が出ているのか?」
「多少、傷ついた鳥がいるようですが、ほぼ自分達で慌てすぎて木から落ちた鳥がほとんどです」
温泉鳥はすごくどんくさい鳥な事をルーファスは思いだす。
木の上に登らなければ良いのに、何が彼らを木に登らせるのか・・・どんくさいクセに木に登りたがりよく落ちては怪我をする困った鳥達。
「仕方がない。しばらく間欠泉の森にも少し見張りを立てるか」
「それがいいかもしれません」
「捕らえた者が貴族の所の雇われ人ならばまた搾取しろ」
「それはもう、たっぷり搾り取りますよ」
シュテンが唇に弧を描いて目を怪しく光らせる。
「大橋の方の煙では誰も怪我人は出なかったか?」
「ええ。煙だけでしたから、今のところはそういった報告は上がっていません」
ルーファスが「ならいい」と、一言いうとシュテンと警備部の人間は報告を終えて部屋から出ていく。
朱里を1人にしておくのも不味い為、ルーファスも部屋を出て朱里を迎えに行く。
長い廊下を出て料亭内の調理場に顔を出すとハガネが朱里を抱きしめている所を目にする。
何事かと近づけば、小さな黒い物から朱里を庇ってハガネが騒いでいる。
「アパーッ!!!!アパパパ!!!!」
小さな温泉鳥のヒナが朱里に体当たりをしようとするのをハガネがやめさせようとしている。
「やめろ!ササマキ!いい加減にしろって!」
「アパーッ!!」
ルーファスが黒いフワフワなヒナを捕まえると、ハガネが慌ててルーファスに手を差し出す。
「悪い!若旦那!そいつ悪気はないんだ!」
「アパパーッ!」
「このヒナはどうしたんだ?」
「ササマキはこないだ助けたヒナなんだが、温泉鳥が襲われて一時的に俺が持ち帰ってきたら、何でかアカリを攻撃するんだよ・・・」
ハガネの手にササマキを手渡して、ハガネがホッとすると朱里がルーファスの後ろに困り顔で隠れる。
朱里の髪がぐしゃっと乱され、ササマキにやられた事が伺える。
「ううっ・・・可愛いのに凶暴だよ~」
「アパーッ!」
ビクッと朱里が小さなヒナに脅えるとルーファスが集中的に攻撃されている朱里の頭の飾り紐を解いて髪を撫でながら整えると、ササマキがハガネの手から飛び出し、ルーファスの手を攻撃する。
「・・・もしかして、この飾り紐か?」
ルーファスが飾り紐をササマキの前に置くと、ササマキは上機嫌で飾り紐を咥えて体にぐるぐると巻き付けていく。
「アパー!」
満足そうにテーブルの上に座り込むササマキにハガネがガクリと頭を下げる。
ハガネがササマキを飾り紐ごと回収して手の中に収めると魔獣のクロが調理場の隅から顔を出す。
「ナーンナーン」
「アーパーッ!!」
クロの声にササマキが威嚇するとクロはピューッと調理場を出て行ってしまう。
「猫なのに鳥に負けてる・・・」
朱里が複雑な顔で逃げ去ったクロを見つめると、ルーファスが苦笑いして朱里の頭を撫でる。
「クロは肉食ではないからな。このヒナも肉には見えないんだろう」
「でもこのヒナは逆に襲い掛かりそうだよ?」
「アパ?」
ササマキが首をかしげてみせると、朱里が「可愛いっ」と声を上げて手を伸ばそうとして、ルーファスに「突かれるぞ」と注意されハガネを羨ましそうに朱里が見つめると、ハガネが申し訳なさそうに目を逸らした。
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