黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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5章

聖女

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 夏も終わりに近づき、朱里の天敵である牛蝉がなりを潜めた頃、魔族の国エグザドルから魔法通信が入った。
通信相手は【魔王】リロノス・ディア・ロードミリオンとその番【聖女】東雲ありすだった。

 『ルーっちに、アカリっちに、トカゲちゃん!お久しぶりだし!』

 元気に手を振りながら、脱色した金髪をツインテールにした東雲ありすが魔法通信の映像に映る。
横のリロノスは長い金髪を三つ編みにし、困り果てた顔でありすを引き戻す。

『すまない。シノノメ、頼むから挨拶を先にしてくれ』
『え?これが挨拶だし?!』

 相変わらずのありすにルーファスも朱里もアルビーも苦笑いを浮かべる。

「元気そうで何よりだが、そちらに南国の神官が行ったと思うがどうだ?」

『それ!うちが言いたかったのはそれっしょ!』

 ありすがズイッと前に出て、黒く染まった護符を映像に押し付ける。

「シノノメ、画面に押し付け過ぎだ。見えん。その護符がどうかしたのか?」

 ありすが護符を少し離すと、黒い金属の板の様な護符に金の文字が書かれている。

『この護符は白い板だったんだけど、あの神官の呪詛を吸い出したら黒くなったっしょ!この護符に入れたから、もうあの神官さんは呪詛なくなったし!だから、アカリっち達も安心してほしーし!』

 笑顔でありすがブイサインをして笑うと朱里もホッと胸をなでおろす。
朱里もありすにテルトワイト神官を丸投げしていた事に申し訳なく思っていたし、気にしていた事だったから。

「ありがとうございます。ありすさんには助けてもらってばかりで・・・」

『アカリっちは真面目過ぎっしょ!うちは気にしてないし、役に立ったなら、うちも嬉しーし!』

ありすが手を腰に当てて胸を張り「うちこれでも【聖女】だし!」と笑って見せる。
朱里もありすに笑い返すと、ありすが少しおどけた笑いから優しい眼差しで朱里に笑いかける。

『アカリっち、あんまし詳しく聞いてないけど暴力振るわれたって聞いたし、うち心配してたんだ。アカリっち不幸過ぎんだから、こういう大変な時くらいうちに頼って良いんだし!うちもアカリっちも同じ世界から来たんだし、友達は助け合いっしょ?』

ありすの言葉に朱里が少し泣きそうな顔で目を潤ませると、ルーファスが朱里の肩を引き寄せて寄り添って朱里が両手を胸の前で組んで嬉しそうに笑う。

「はい。ありすさん。ありがとうございます」

うんうん。と、ありすが頷いてリロノスがありすの腰を引いて自分の方へ寄せると、ありすに「私の順番だから変わって」と、ありすを下がらせる。

『神官の方は無事に南国へ帰る事になったのでそこは安心してください。それで要件なのですが、そろそろ秋も迫ってきていますし、冬になると風邪などの症状が蔓延すると思うんです。この時期だけ、特殊ポーションを多めにした方が良いかと思いまして話をしたかったのです』

リロノスがルーファスの方を見ると、ルーファスも軽く頷き、リロノスはホッとした様な顔をする。
お互いに番が病気の感染で弱りやすい体質な事は知っているので、ルーファスにとっても願ったりかなったりの提案である。

「魔国への定期船も出始めたからな、近いうちにそちらに使者を行かせよう」

『ありがとうございます!シノノメがこの通りの恰好ばかりするので心配していて・・・』

そう言ってリロノスがありすを見ると、ありすはドレスのスカート部分をミニにして太股を出したスタイルで「可愛いっしょ?」と言っている。

様子を見ていたアルビーがルーファスにチラチラと目線を向けている。
アルビーの視線の意図を組み、ルーファスが頷く。

「うちの使者の1人はアルビーを行かせるので、アルビーと一緒にポーションを作ってもらえるか?」

『トカゲちゃんおいでおいでー!うちは歓迎するし!』

「私はトカゲじゃなくてドラゴン!いい加減覚えてよね!」

アルビーは少し怒りながらも尻尾がパタパタと嬉しそうに動いている。
何だかんだ言いながらもアルビーもありすを好ましく思っているのは一目瞭然で【聖】属性に魅かれやすい光竜らしいともいえる。

魔法通信でのやり取りを終えると、アルビーと朱里が両手を合わせて「良かったねー」と、言い合って喜んでいる。
アルビーと誰を一緒に使者として送るべきかでルーファスは考えつつも、自分の叔父のギルが「私の愛息子を他国の使者にするなんて!」と、騒ぎ出しそうだと今から少し頭痛がする。


「アカリ、1日2本、血を使ってポーションを作って10本程頑張れるか?」
「10本一気に作っても大丈夫だよ?」

「駄目だ。1日で10本分も血を流したら確実に貧血を起こす」
「【病魔】の時はもっと作れたし大丈夫だよ?」

ピシッと朱里のオデコにデコピンをするとルーファスが眉間にしわを寄せる。

「ひゃぅっ!痛い~っ」

オデコを赤くしながら朱里がふるふるとルーファスを睨むと逆に睨み返される。

「それをして、何日も、貧血を起こして、倒れていたのは、誰だったか、忘れたのか?」
区切りながら朱里のオデコを突くルーファスに朱里が「うーっ」と唸るも、ルーファスに睨まれれば大人しくせざるを得ない。

「アカリが無茶をしない様にポーション作りの時はオレも見張るからな」
「ううっ・・・大丈夫です」

「駄目だ。それに朱里が作った日数分アルビーにはあちらに居てもらうつもりだ」
「アルビーに魔国で楽しんで貰う為にもゆっくり、やります・・・」

アルビーの嬉しそうな顔に朱里もあきらめざるを得なかった。
朱里的にはすぐさま作っておきたかったのだけれど、心配性の旦那様は許可を出す気は無いらしい。


「アカリにお土産いっぱい買ってくるね!」

アルビーが朱里に少し小躍りする様に足でステップを踏みながら嬉しそうに笑う。
朱里もアルビーがありすに会いたがっていたのは何となく察していたので大人しくゆっくり作ろうと決める。
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