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5章
呪詛
しおりを挟む「さっきイルマールに渡したのは【聖女】アリス・シノノメが以前、こちらに来た時に同じ効能のポーションが作れるか実験した時に作ったアルビーとの合作ポーションだ」
ルーファスにテンが「契約では製作者は『秘匿』となっていたのでは?」と言うと、ルーファスが頬杖をつきながら朱里の方を見る。
「それに関しては、イルマールが【神眼】の能力持ちだから、こちらが何も話さなくても勝手に自分達で解析してアリス・シノノメまでたどり着くだろう。まぁ、一応アリス・シノノメと【魔王】には先程、彼らの事は頼んでおいた。あちら側も南国ミシリマーフとの交流が欲しかったようだしな」
「ルーファスはそれで遅れて来たのね?」
「ああ、少し待たせて悪かったな」
朱里の手をテーブルの上で握りながらルーファスが朱里の顔を見ると、朱里が小さく笑って返す。
「まぁアカリもシノノメも能力的には一緒だろうけど、丸投げ状態にして良かったのか?」
ハガネが破天荒を地でいくシノノメを思い出し、眉間にしわを寄せる。
「んっ、アカリが今にも『自分を助けてくれたからテルトワイトに特殊ポーションを作る』と、言い出しそうだったからな。今のアカリに魔法は無理だ。ただでさえ、【聖女】へ特殊ポーションを渡すのに血を流す事になるアカリがこれ以上流すのは駄目だ。【聖女】に少し話をしたら快く快諾してくれたからな。今度こちらに来た時にでも礼をするさ」
朱里が申し訳なさそうな顔をした後に席を立ちあがる。
「私、今から作る!ありすさん達に迷惑かけられない!」
「駄目だ。テルトワイト神官の状態は1回や2回の特殊ポーションでは治らない」
立ち上がった朱里の手をテーブルで握ったまま離さず、ルーファスが朱里に座る様にもう片方の手で腰を引き椅子に座り直させる。
「テルトワイトさんはそこまで悪いの?」
「アレは【病魔】で進行が広がった【呪詛】だ。アカリよりも【聖女】シノノメの近くで毎日浄化魔法を受けた方が早く治る。浄化の力はシノノメも駄々洩れにしているのだから気にはしないから好きに浄化されればいいと言っている」
ルーファスの言葉に朱里がテーブルを見つめたまましょんぼりと顔を伏せると、ハガネが【もんふぇ】の店主リグリスに「早く新作デザート試食させてくれ」と声を掛ける。
「アカリさん、適材適所ですよー?今は自分の方をケアして元気になったらお返しして行けばいいんでしょー」
「そうです!テンさんもたまにはいい事を言いますね!」
小鬼のドヤ顔にテンが小鬼の羽を左右に引っ張りながら「小鬼は一言多いですねー」とにっこり笑う。
「はい。なら、今は甘えさせて貰います・・・」
小さな声で朱里が言うと4人は少しだけ困った顔で笑って朱里の頭に一人ずつ触っていく。
小鬼は届かなかったのでテンが抱き上げて触らせてもらったが、朱里はやはり「何のご利益?」と少し首をひねる。
「はい。皆さんご試食お願いします。ご意見お願いしますね」
そう言って【もんふぇ】の新作デザートがテーブルに所狭しと並べられる。
和風のデザートを前に朱里が「ふわぁ」と声をだして表情がパッと明るくなるとルーファスとハガネが朱里に「どれから行くか?」と聞いて競う様にスプーンで朱里の口にデザートを入れ込もうとする。
朱里がハガネと秋の味覚は栗だ!と、はしゃいだ声を上げて栗中心にデザートを攻めていく中、【もんふぇ】の店主にルーファスが小さく頭を下げる。
【刻狼亭】の料理長アーネスも朱里を心配している1人で、息子のリグリスを使って朱里を喜ばせようと画策して今回の新作デザートに呼んだ様だ。
どう見てもルーファスの子供の頃からの馴染みのある飾り切りのデザートは【刻狼亭】の料理長アーネスの手の物だった。
アーネスも新作と称して朱里に色々作ってくれている様だ。
「神官が呪詛に掛けられるなんて、普通なら不味いスキャンダルですよねぇー」
デザートに満足した小鬼のお腹を指で突きながらテンがルーファスに言うと、ルーファスもデザートでお腹をいっぱいにした朱里の頭を撫でながら小さく頷く。
「だからこそ、彼らはお忍びでここの地に療養に来たみたいだ。神官が呪詛を受けて自分では呪詛が解けないなど、沽券に関わるからな。南国で何か問題があったのか、それとも彼ら自体の問題かは知らんがな。オレも今回は【聖女】に丸投げにするから詳しくは聞かなかった」
「そうですかー。まぁ、今はアカリさんが一番でしょうから、それで良いと思いますよー」
テンがルーファスと朱里を見ながら穏やかな笑みをこぼす。
朱里が「お昼ご飯は食べられません・・・夕飯も無理かも・・・」と、呟いて幸せそうな顔で頬を緩ませ幸せと言ってリグリスにお土産を持たされ「従業員の皆にあげなきゃ」と顔を明るくした。
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