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5章
ササマキ ※拷問・残酷表現アリ
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「『神眼』・・・んーっ、【鑑定】魔法の上級版だと思えばいいよ」
月明かりだけが差し込む灯台の部屋の中で布団の中から顔を出したアルビーが眠そうな顔でルーファスに答える。
相変わらず狼姿のルーファスに、小さな体に変化したアルビーとアナグマ姿のハガネ、そして真ん中に朱里が寝ている。
「鑑定魔法の上級というと?」
「【鑑定】はアイテムの名前と効能ぐらいでしょ?『神眼』はアイテムの名前に製作者に使われた素材の原産地とか摘み取った人まで全てを暴いちゃうって感じかな?」
ふぁぁーっと欠伸をしてアルビーがウトウトとし始めると力尽きたように寝息を立て始める。
ルーファスもこれ以上は起こして聞いても仕方がないと諦めて目を瞑る。
目を閉じると「んー・・・うー・・・」と小さな声がしてルーファスが目を開けると朱里が小さくうなされて眉間にしわを寄せている。
嫌な夢でも見たのかと鼻で朱里のオデコをツンッと突くと「うー・・・重い・・・」とごにょごにょ言っている。
重い・・・?
朱里の脇腹にハガネが両足を乗せて寝ている。
獣化して小さいとはいえ、さすがに朱里の体にはハガネの両足は重いらしい。
あまり身動きをすると朱里を完全に起こしてしまうので尻尾でハガネの顔をパシパシと叩いて起こす。
「ビヘッキシン!!!・・・んあっ?」
「ハガネ、アカリが重いそうだから足をどけてやれ」
ルーファスの声にハガネが眠たそうな顔で頷いてベッドの端で丸まって寝始める。
朱里の寝息もすーっと音を立て始め、海岸から聞こえる波音を子守歌にようやくルーファスも眠りにつく。
ザー・・・ザン・・・
ザーザザ・・・ザー・・・
波の引き潮の音で目を覚まし、ハガネはよっこいせっと掛け声をかけてベッドから起きる。
しっとりとした海岸からの湿度にべたつきながら起きると、【清浄】と【乾燥】の魔法で全員の体をスッキリとさせてアナグマの姿から人型に戻ると灯台を出ていく。
サクサクと浜辺の砂が巻き上げられた道を歩き、間欠泉の森に足を踏み入れると「アゴ」という変な鳴き声がハガネを出迎える。
くちばしは太く分厚い黒色。
眼は丸くクリクリとして愛嬌がある。
体は全体的に灰色で羽根先がオレンジ色。
少し太目な体をした温泉鳥達。
「アゴゴー」
「アゴ、アゴ、ガー」
ハガネの周りをぐるりと温泉鳥が囲み、その温泉鳥達の中から小さな黒い丸い物が元気に飛び出す。
「アッパー、パー」
手の平よりもまだ小さな黒いふわふわのヒナがハガネに突進するとハガネの足に飛び乗り足で地団駄を踏む。
ハガネが足元から拾い上げると黒いヒナがハガネの顔に飛びつく。
「ササマキ、元気にしてるみてぇだな」
「アッパー!」
ササマキ、ハガネが朱里が襲われた時に助けた小さなヒナは2週間程で元気になり、親鳥達の元へ戻したのだが、ハガネに懐いた少し変わったヒナだ。
製薬室で助けてもらったのだが、製薬の人間よりハガネに懐いたのが不思議なところ。
製薬室で薬の材料の中に紛れていた笹の葉を体に巻きつけて遊んでいたので『ササマキ』と名前がついた。
「アッパーアー」
口を大きく開けてハガネの頭によじ登るとご機嫌で座り込む。
ササマキを頭に乗せて、温泉鳥達を引き連れながら間欠泉の奥に新たに作られた立ち入り禁止の門の扉を開ける。
ここの門に関しては【刻狼亭】の従業員の何人かが鍵を持っているだけで、他の温泉街の人間も入る事は禁止されている。
門の隙間から温泉鳥達もワラワラと入っていく。
ハガネが奥に入っていくと、ムアッと熱気と蒸気が上がり、硫黄の匂いが濃くなる。
すすり泣きと叫び声が奥からすると温泉鳥達が騒ぎ出す。
壁から溢れ出す温泉の源泉を受け止める1メートル程の長方形の桶。
桶の中には間欠泉の小さな穴が開いていて、薬草が敷き詰められている。
鎖に繋がれた小さな肉塊が4つ、桶の中に並んで泣き叫んでは足をバタつかせている。
壁から流れ出る源泉で肌が赤くなり、水ぶくれがいくつも出来ていて顔の判別はつかない。
下から不定期に噴き出す間欠泉は足を火傷でただれさせては、下の桶にある薬草が傷を治し何度も繰り返し痛みを与えている。
「製薬の奴等またゴミになった薬草投げ入れやがったな」
少し鼻にピリッとくる臭いにハガネが顔を歪めると、ササマキも「アッパーッ!」と叫んでハガネの着物の中に潜り込んでくる。
「と、ササマキにもこのニオイはきついか」
懐のササマキをキチンと着物の中に入れ直し、ハガネは判別のつかなくなった貴族の子供を見る。
朱里を襲った子供達だ。
最初に怒ったのは誰だったか・・・【刻狼亭】の従業員が彼らの泊っていた宿から子供を引きずり出してここへ連れて来た時には既に判別のつかない顔はしていた。
製薬部隊のマグノリア達が苦い顔をしながら、味は二の次ポーションの『これは天国味』と名付けた地獄の味がするポーションで彼らの治療をして、朱里に起きた事をテンが【恐怖】を使って聞き出した。
女性従業員は「女の敵だ!」と、騒いでは彼らを自分の得意な戦術で殺さない程度に痛めつけていく。
同情を少しでも持てば「家族が酷い目に遭わされたのに何生ぬるい事言ってるんだ!」と騒がれる。
【刻狼亭】に身を寄せている連中のほとんが過去に何かしらの抱えきれないモノを持っている者が多い。
だからこその団結力で『家族』というモノを守ろうとして過剰になってしまう。
朱里が顔と心以外は無事だったからこそ従業員は朱里に起きた事を知っているが、それ以上の事があれば、きっと従業員は知らないままでいた事だろう。
心という見えない物が傷付けられた事は十分に酷い事件ではあるが、そこは『家族』として従業員皆で癒していく様に努めようと言いあっている。
最初は「男は近寄るな!」と女性従業員が騒いでいたが、ルーファスが朱里から離れなかったり、ハガネも離れなかったおかげで、朱里の着替えや風呂等に女性従業員が手を貸すだけで今日までなんとかやってきた。
「アゴー!」
「うわぁぁぁああ!!」
「くそっ!この狂った奴らめ!」
「痛い!痛いよ!!」
「殺してやる!ぎゃあ!」
「アゴ!アゴー!!」
温泉鳥が飛び跳ねては少年達の皮膚の水ぶくれを足の爪で握りつぶしていく。
製薬部隊が「これは敵だ!」と、前に助けた温泉鳥達に教えたところ、他の温泉鳥達も攻撃をするのが日課になってしまい、ハガネが来るたびに一緒に来ては攻撃を繰り返している。
「仕方ねぇな。ほらよ。傷にはポーションだろ?」
壁にかけられた木のコップで足元の薬草と源泉が混じった熱湯を彼らに投げかける。
しっかりたっぷり、傷口を癒しておかなければいけないので念入りに。
「うぁぁぁぁぁ!痛い!しみる!やめろ!」
「オレを誰だと思ってるんだ!」
「痛い!やめてくれ!金なら出すからぁ!」
「父上に言ってやるからな!絶対許さないからな!」
少しだけ彼らの顔の判別がつくぐらいに戻るが、直ぐに壁からにじみ出る源泉に皮膚が赤くなっていく。
全身にかけて治しておけば何度でも元気になるのは流石、製薬部隊の薬草といったところか。
「お前等が何者でもココでは関係ない。でも、まぁお前等を逃がしてやるよ」
ニッコリ白い歯を見せてハガネが笑うと少年達が顔を上げる。
少年達の鎖が外れ、ハガネが「早く逃げないと他の奴等が来るぞ」と声を掛けると彼らは必死の形相で出口を目指して走り出す。
「早く屋敷に帰りたいよぉ」
「この事を父上に言ってあいつ等全員処刑してやる!」
「見てよ!出口だ!助かったんだ!」
「こんな島直ぐに出て国に戻ってからやっつけてやる!」
彼らが出口を1歩出ると、パチンと、小さな指を鳴らす音がして、彼らは元の鎖に繋がれた状態で目を見開く。
ハガネが糸目の目を開き「残念」と、指を下ろす。
「『出口が見えて安心したところで絶望に落とす』のが、お前等の遊びの楽しい所だったか?楽しいか?こんな遊び・・・胸糞わりぃ奴等だな」
少年達の顔が少しの希望から絶望に変わる様を見ながらハガネは目を閉じる。
朱里がされた事をそのまま【幻惑】で仕返しをするが、やはり気持ちの良い物ではない。
こんな事をされた朱里の気持ちを思うとハガネは自分の中にどす黒い何かが渦巻きそうになる。
「アパー」
もぞもぞと動く小さなササマキの声にハガネが少し笑う。
「お前等の父上とやらが、慰謝料を支払い終わるまでお前等と毎日遊んでくれる奴等が居るから良かったな。今日は俺はこの辺で帰るが、他の奴等はお前等が寂しくない様に来てくれると思うぜ?じゃあな」
ハガネはヒラヒラと片手を上げながら歩き出すと、温泉鳥達が少年達に挨拶代わりにくちばしで突いてからハガネを追い駆ける。
出入り口付近で懐からササマキが顔を出すとハガネが頭の上に乗せて出ていく。
帰りがけにテンが怪しげな箱を持って、いつも通りの穏やかな笑顔でハガネに笑いかける。
「ハガネは今日も温泉鳥に囲まれてるねぇー」
「まぁな。テンはあいつ等のとこ行くのか?」
「一応、心のケアをして壊れない様にしないとねぇー。玩具は壊れたら遊べないしね。それに彼等まだ生意気だからねぇ、たっぷり教え込まなきゃなんだよねぇー」
「テンが一番『壊し屋』だと思うけどな。あ、そうそう製薬の奴等が薬草に刺激臭のあるの入れてたから目に気を付けろよ」
「了解。じゃあまたねー」
のんびりとした口調でテンが手を上げながら、入り口に消えていく。
「アパパー、アパー!」
ササマキがハガネの頭で機嫌よく鳴く声を聞きながらハガネは温泉鳥を連れて間欠泉の森に戻っていった。
月明かりだけが差し込む灯台の部屋の中で布団の中から顔を出したアルビーが眠そうな顔でルーファスに答える。
相変わらず狼姿のルーファスに、小さな体に変化したアルビーとアナグマ姿のハガネ、そして真ん中に朱里が寝ている。
「鑑定魔法の上級というと?」
「【鑑定】はアイテムの名前と効能ぐらいでしょ?『神眼』はアイテムの名前に製作者に使われた素材の原産地とか摘み取った人まで全てを暴いちゃうって感じかな?」
ふぁぁーっと欠伸をしてアルビーがウトウトとし始めると力尽きたように寝息を立て始める。
ルーファスもこれ以上は起こして聞いても仕方がないと諦めて目を瞑る。
目を閉じると「んー・・・うー・・・」と小さな声がしてルーファスが目を開けると朱里が小さくうなされて眉間にしわを寄せている。
嫌な夢でも見たのかと鼻で朱里のオデコをツンッと突くと「うー・・・重い・・・」とごにょごにょ言っている。
重い・・・?
朱里の脇腹にハガネが両足を乗せて寝ている。
獣化して小さいとはいえ、さすがに朱里の体にはハガネの両足は重いらしい。
あまり身動きをすると朱里を完全に起こしてしまうので尻尾でハガネの顔をパシパシと叩いて起こす。
「ビヘッキシン!!!・・・んあっ?」
「ハガネ、アカリが重いそうだから足をどけてやれ」
ルーファスの声にハガネが眠たそうな顔で頷いてベッドの端で丸まって寝始める。
朱里の寝息もすーっと音を立て始め、海岸から聞こえる波音を子守歌にようやくルーファスも眠りにつく。
ザー・・・ザン・・・
ザーザザ・・・ザー・・・
波の引き潮の音で目を覚まし、ハガネはよっこいせっと掛け声をかけてベッドから起きる。
しっとりとした海岸からの湿度にべたつきながら起きると、【清浄】と【乾燥】の魔法で全員の体をスッキリとさせてアナグマの姿から人型に戻ると灯台を出ていく。
サクサクと浜辺の砂が巻き上げられた道を歩き、間欠泉の森に足を踏み入れると「アゴ」という変な鳴き声がハガネを出迎える。
くちばしは太く分厚い黒色。
眼は丸くクリクリとして愛嬌がある。
体は全体的に灰色で羽根先がオレンジ色。
少し太目な体をした温泉鳥達。
「アゴゴー」
「アゴ、アゴ、ガー」
ハガネの周りをぐるりと温泉鳥が囲み、その温泉鳥達の中から小さな黒い丸い物が元気に飛び出す。
「アッパー、パー」
手の平よりもまだ小さな黒いふわふわのヒナがハガネに突進するとハガネの足に飛び乗り足で地団駄を踏む。
ハガネが足元から拾い上げると黒いヒナがハガネの顔に飛びつく。
「ササマキ、元気にしてるみてぇだな」
「アッパー!」
ササマキ、ハガネが朱里が襲われた時に助けた小さなヒナは2週間程で元気になり、親鳥達の元へ戻したのだが、ハガネに懐いた少し変わったヒナだ。
製薬室で助けてもらったのだが、製薬の人間よりハガネに懐いたのが不思議なところ。
製薬室で薬の材料の中に紛れていた笹の葉を体に巻きつけて遊んでいたので『ササマキ』と名前がついた。
「アッパーアー」
口を大きく開けてハガネの頭によじ登るとご機嫌で座り込む。
ササマキを頭に乗せて、温泉鳥達を引き連れながら間欠泉の奥に新たに作られた立ち入り禁止の門の扉を開ける。
ここの門に関しては【刻狼亭】の従業員の何人かが鍵を持っているだけで、他の温泉街の人間も入る事は禁止されている。
門の隙間から温泉鳥達もワラワラと入っていく。
ハガネが奥に入っていくと、ムアッと熱気と蒸気が上がり、硫黄の匂いが濃くなる。
すすり泣きと叫び声が奥からすると温泉鳥達が騒ぎ出す。
壁から溢れ出す温泉の源泉を受け止める1メートル程の長方形の桶。
桶の中には間欠泉の小さな穴が開いていて、薬草が敷き詰められている。
鎖に繋がれた小さな肉塊が4つ、桶の中に並んで泣き叫んでは足をバタつかせている。
壁から流れ出る源泉で肌が赤くなり、水ぶくれがいくつも出来ていて顔の判別はつかない。
下から不定期に噴き出す間欠泉は足を火傷でただれさせては、下の桶にある薬草が傷を治し何度も繰り返し痛みを与えている。
「製薬の奴等またゴミになった薬草投げ入れやがったな」
少し鼻にピリッとくる臭いにハガネが顔を歪めると、ササマキも「アッパーッ!」と叫んでハガネの着物の中に潜り込んでくる。
「と、ササマキにもこのニオイはきついか」
懐のササマキをキチンと着物の中に入れ直し、ハガネは判別のつかなくなった貴族の子供を見る。
朱里を襲った子供達だ。
最初に怒ったのは誰だったか・・・【刻狼亭】の従業員が彼らの泊っていた宿から子供を引きずり出してここへ連れて来た時には既に判別のつかない顔はしていた。
製薬部隊のマグノリア達が苦い顔をしながら、味は二の次ポーションの『これは天国味』と名付けた地獄の味がするポーションで彼らの治療をして、朱里に起きた事をテンが【恐怖】を使って聞き出した。
女性従業員は「女の敵だ!」と、騒いでは彼らを自分の得意な戦術で殺さない程度に痛めつけていく。
同情を少しでも持てば「家族が酷い目に遭わされたのに何生ぬるい事言ってるんだ!」と騒がれる。
【刻狼亭】に身を寄せている連中のほとんが過去に何かしらの抱えきれないモノを持っている者が多い。
だからこその団結力で『家族』というモノを守ろうとして過剰になってしまう。
朱里が顔と心以外は無事だったからこそ従業員は朱里に起きた事を知っているが、それ以上の事があれば、きっと従業員は知らないままでいた事だろう。
心という見えない物が傷付けられた事は十分に酷い事件ではあるが、そこは『家族』として従業員皆で癒していく様に努めようと言いあっている。
最初は「男は近寄るな!」と女性従業員が騒いでいたが、ルーファスが朱里から離れなかったり、ハガネも離れなかったおかげで、朱里の着替えや風呂等に女性従業員が手を貸すだけで今日までなんとかやってきた。
「アゴー!」
「うわぁぁぁああ!!」
「くそっ!この狂った奴らめ!」
「痛い!痛いよ!!」
「殺してやる!ぎゃあ!」
「アゴ!アゴー!!」
温泉鳥が飛び跳ねては少年達の皮膚の水ぶくれを足の爪で握りつぶしていく。
製薬部隊が「これは敵だ!」と、前に助けた温泉鳥達に教えたところ、他の温泉鳥達も攻撃をするのが日課になってしまい、ハガネが来るたびに一緒に来ては攻撃を繰り返している。
「仕方ねぇな。ほらよ。傷にはポーションだろ?」
壁にかけられた木のコップで足元の薬草と源泉が混じった熱湯を彼らに投げかける。
しっかりたっぷり、傷口を癒しておかなければいけないので念入りに。
「うぁぁぁぁぁ!痛い!しみる!やめろ!」
「オレを誰だと思ってるんだ!」
「痛い!やめてくれ!金なら出すからぁ!」
「父上に言ってやるからな!絶対許さないからな!」
少しだけ彼らの顔の判別がつくぐらいに戻るが、直ぐに壁からにじみ出る源泉に皮膚が赤くなっていく。
全身にかけて治しておけば何度でも元気になるのは流石、製薬部隊の薬草といったところか。
「お前等が何者でもココでは関係ない。でも、まぁお前等を逃がしてやるよ」
ニッコリ白い歯を見せてハガネが笑うと少年達が顔を上げる。
少年達の鎖が外れ、ハガネが「早く逃げないと他の奴等が来るぞ」と声を掛けると彼らは必死の形相で出口を目指して走り出す。
「早く屋敷に帰りたいよぉ」
「この事を父上に言ってあいつ等全員処刑してやる!」
「見てよ!出口だ!助かったんだ!」
「こんな島直ぐに出て国に戻ってからやっつけてやる!」
彼らが出口を1歩出ると、パチンと、小さな指を鳴らす音がして、彼らは元の鎖に繋がれた状態で目を見開く。
ハガネが糸目の目を開き「残念」と、指を下ろす。
「『出口が見えて安心したところで絶望に落とす』のが、お前等の遊びの楽しい所だったか?楽しいか?こんな遊び・・・胸糞わりぃ奴等だな」
少年達の顔が少しの希望から絶望に変わる様を見ながらハガネは目を閉じる。
朱里がされた事をそのまま【幻惑】で仕返しをするが、やはり気持ちの良い物ではない。
こんな事をされた朱里の気持ちを思うとハガネは自分の中にどす黒い何かが渦巻きそうになる。
「アパー」
もぞもぞと動く小さなササマキの声にハガネが少し笑う。
「お前等の父上とやらが、慰謝料を支払い終わるまでお前等と毎日遊んでくれる奴等が居るから良かったな。今日は俺はこの辺で帰るが、他の奴等はお前等が寂しくない様に来てくれると思うぜ?じゃあな」
ハガネはヒラヒラと片手を上げながら歩き出すと、温泉鳥達が少年達に挨拶代わりにくちばしで突いてからハガネを追い駆ける。
出入り口付近で懐からササマキが顔を出すとハガネが頭の上に乗せて出ていく。
帰りがけにテンが怪しげな箱を持って、いつも通りの穏やかな笑顔でハガネに笑いかける。
「ハガネは今日も温泉鳥に囲まれてるねぇー」
「まぁな。テンはあいつ等のとこ行くのか?」
「一応、心のケアをして壊れない様にしないとねぇー。玩具は壊れたら遊べないしね。それに彼等まだ生意気だからねぇ、たっぷり教え込まなきゃなんだよねぇー」
「テンが一番『壊し屋』だと思うけどな。あ、そうそう製薬の奴等が薬草に刺激臭のあるの入れてたから目に気を付けろよ」
「了解。じゃあまたねー」
のんびりとした口調でテンが手を上げながら、入り口に消えていく。
「アパパー、アパー!」
ササマキがハガネの頭で機嫌よく鳴く声を聞きながらハガネは温泉鳥を連れて間欠泉の森に戻っていった。
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